【睇戲】『どこか霧の向こう』(港題=藍天白雲) <日本プレミア上映>

第13回大阪アジアン映画祭
特集企画《Special Focus on Hong Kong 2018》

『どこか霧の向こう』<日本プレミア上映>
(港題=藍天白雲)

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大阪アジアン映画祭、小生にとっては最初の香港作品。今年も香港映画は6本が上映されるが、残念ながら、『恋の紫煙3』は、行ける上映日時は「即完売」。もう1回の日時も超話題作にして、ある一派にとっては好ましからざる問題作『中英街一号』とバッティング。泣く泣く見送った次第。まあねえ、即完の日時も当日券に一縷の望みを、という手もないことはないが、その時間を別のことに有効に使いましょうよ、というわけで…。低迷する香港映画界で一人奮闘する鄧麗欣(ステフィー・タン)主演作を観てみよう。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題 『藍天白雲』
英題 『SOMEWHERE BEYOND THE MIST
邦題 『どこか霧の向こう』
製作年 2017年
製作地 香港
言語 広東語

評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演、編劇及剪接(監督、脚本および編集):張經緯(チョン・ギンワイ)
監製(プロデューサー):爾冬陞(イー・トンシン)
藝術顧問(芸術顧問):許鞍華(アン・ホイ)
音樂(音楽):五條秀美

破格演出(破格の出演):鄧麗欣(ステフィー・タン)
新星躍現(ニュースター出現):梁雍婷(レイチェル・リョン)
領銜主演(主演):顧定軒(ジーノ・グー)、陳哲民(レスター・チャン)、李任燊(カイル・リー)
主演(出演):黄樹棠(ウォン・シートン)、寶珮如(ベイビー・ボー)、嚴乙恩(イアン・イム)
特別演出(特別出演):鄺芷凡(オミ・コン)

「破格」だの「新星」だの色々名称があるが、実際には鄧麗欣(ステフィー・タン)と梁雍婷(レイチェル・リョン)が主演である。しかし、鄧麗欣はこの数年間、歌手活動、映画、ドラマ出演と、どれだけ頑張ってきたことか。「いっぺん、ゆっくり休みやー」って言ってあげたいくらい奮闘してきた。日本ではもっぱら映画でしか彼女の活躍を見ることができないが、見るたびに芸の厚みを増して行っているのが、素人目にもよくわかる。この作品では、両親を殺害した少女に対する女刑事を演じる。

その両親殺害の少女を演じるのが、まさに「新星躍現」という言葉がぴったりあてはまる梁雍婷(レイチェル・リョン)。これが映画初出演とは思えぬ、迫真の演技。とんでもない新人が現れたもんだ。これまでも「とんでもない新人」として将来を期待した俳優は何人も見てきたが、いつの間にか消えていたりさっさと引退したりで、そこは生き残りの厳しい世界。この子には、生き抜いていってほしいな…。

さてこの映画、昨年の大阪アジアン映画祭でグランプリに輝いた『一念無明』や、今年の「HONG KONG NIGHT」で上映される『青春の名のもとに』など、若手監督ら新生代の担い手による香港映画を世に送り出してきている「首部劇情電影計劃=First Feature Film Initiative(FFFI)」という企画コンペから生まれた作品である。張經緯(チョン・ギンワイ)監督にとっては、初の長編作品でもある。

小生としたことが、開演時間を15分誤っており、それに気づいたのが入場時というアホ具合をさらけ出す始末。結局、冒頭の約10分は観ることが叶わなかったのだが、それでも時間の経過とともにグイグイ引き込まれてゆく。まず第一に、両親を殺害した女子中学生を演じる梁雍婷がそうさせたのは言うまでもない。さらに心臓に難病を抱える彼女が殺害に至った経緯。これは『一念無明』とはまた違う、現代香港の病巣を描いていた。学校内のいじめ、ムスリムの生徒への嫌がらせ、援助交際、家庭内暴力、貧困、無関心…。こうした問題が絡み合い、結果、彼女は両親を殺害するに至るのである。その殺害を幇助した、男朋友役の顧定軒(ジーノ・グー)も、いじめられっ子を好演していた。

一方、鄧麗欣が演じた女刑事は、痴呆症が進行する一方の父の対応に悩む。これもまた、高齢化が急速に進む世界一の長寿都市・香港が避けて通れない問題である。100点満点の答えはないが、親にとっても子にとってもどうするのが、お互いが無理をせずに生活することができるのか…。わが身に置き換えて考えてみるに、実に悩ましい問題である。

そういう見方をしてゆくと、『藍天白雲』という中文タイトルより『SOMEWHERE BEYOND THE MIST』という英語タイトルの方が、しっくりくると思った次第。

それにしても、殺された両親。ま、殺したくなるよな…。と、客に思わせてしまうのは、どうにもこうにも扱えない父親役の陳哲民(レスター・チャン)と、陰気な母親役の寶珮如(ベイビー・ボー)、両ベテランの大勝利である。

《藍天白雲》預告

(平成30年3月13日 シネ・リーブル梅田)



 


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