【睇戲】毒舌大狀


久々の香港映画、って言うより、久々の映画である。実に、大阪アジアン映画祭以来の映画は毒舌大狀(邦:毒舌弁護人~正義への戦い~』。黃子華(ウォン・ジーワー)主演である。棟篤笑演員(スタンダップ・コメディアン)として、90年代からの人気者。小生、彼に似ていると言われていた時代もあったんだが…。芸能人と一般人では年の取り方が違いすぎる(笑)。

そんな黃子華、どんな大狀(弁護人)を演じるのか。日本での作品公開数が少ないだけに、ここでバッチリ存在感を示しておきたいところだ。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

毒舌大狀 邦題:毒舌弁護人~正義への戦い~

港題『毒舌大狀』 中題『毒舌律師』
英題『A Guilty Conscience』
邦題『毒舌弁護人~正義への戦い~』
公開年 2023年 製作地 香港
言語:広東語
評価:★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):吳煒倫(ジャック・ン)
編劇(脚本):吳煒倫、林偉文(テリー・ラム)
監製(プロデューサー):江志強(ビル・コン)、何韻明(アイビー・ホー)
摄影(撮影監督):潘耀明(アンソニー・プン)

領銜主演(主演):黃子華(ウォン・ジーワー)、謝君豪(ツェー・クワンホウ)、王丹妮(ルイーズ・ウォン)、廖子妤(フィッシュ・リウ)、王敏德(マイケル・ウォン)
主演(出演):何啟華(ディー・ホー)、楊偲泳(レンシ・ヨン)、栢天男(アダム・パク)
特別演出(特別出演):林保怡(ボウイ・ラム)、谷德昭(ヴィンセント・コク)

今年の農暦新年映画。これは仕方ない話ではあるが、どうしても巨大な大陸マーケットを向いた作品が大勢を占めてしまう、ここ数年の香港映画。しかし、徐々にではあるが、「香港人監督による、香港人俳優を使った、香港で作った、広東語による、香港人のために作った」作品が増えてきている。よい傾向だ。本作もまさにそれで、その結果、香港映画史上初の1億香港ドル(約17億円)を突破し、最終的に1.21億香港ドル(約22億円)を記録した。香港人大好き「法廷もの」というのも、ヒットの要因であるかもしれないな(笑)。

主役に人気の黃子華(ウォン・ジーワー)を起用し、主演女優には『梅艷芳』で梅艷芳(アニタ・ムイ)を好演した王丹妮(ルイーズ・ウォン)。脇をベテランの謝君豪(ツェー・クワンホウ)、王敏德(マイケル・ウォン)、林保怡(ボウイ・ラム)、谷德昭(ヴィンセント・コク)らが固め、MIRRORになり損ねたユニット「ERROR」のメンバー、何啟華(ディー・ホー)を黃子華演じる弁護人の助手に据えるなど、配役の妙も光る。監督は林超賢(ダンテ・ラム)監督作品や『梅艷芳』などで脚本家として参画してきた吳煒倫(ジャック・ン)。満を持しての監督デビュー作である。

《作品概要》

50代の治安判事、林涼水(ラム・リョンソイ 演:黃子華)は、新しい上司の気分を害したことで、職を失ってしまった。友人の勧めもあり、法廷弁護士として復活したラムがはじめて手掛けた事件は、複雑には見えない児童虐待事件であったが、事件は予想外の展開を見せ…。林涼水とパートナーの若い女性法廷弁護士の方家軍(フォン・カークワン 演:楊偲泳)は、大きな権力闘争に巻き込まれていくーーー。<引用:『毒舌弁護人~正義への戦い~』公式HP

原題にある「大状」だが、英訳するとbarrister、和訳すると法廷弁護士大律師という表現の方がよく目にする。ちなみに事務弁護士(solicitor)を律師と呼ぶ。大律師は法廷での弁論、証拠調べ等についての職務を独占する弁護士である。そして邦題の「弁護人」だが、なぜ弁護士でなく弁護人かと言うと、刑事事件では弁護人、それ以外では弁護士となるからで、その理由は映画を観ていくうちにわかる。「なんだ、お前、そんなことも知らなかったのか!」と笑われそうだが、まあ、そう笑わずに…(笑)。

小生の裁判にはこんな裁判官は来なかったww

映画の冒頭シーン。法廷に呼び出された人たちが裁判官の到着を待つ。もう1時間以上待たされていると言う。

この光景、思い出すなぁ…。煙草ポイ捨てを巡回中の食物環境衞生署(食環署)の奴らに運悪く見つかってしまい、即刻反則切符を切られて「後日、罰金の言い渡しがあるから東區裁判法院に出廷するように!」と申し渡されて、出廷した日を(笑)。約50人くらいいたろうか。煙草ポイ捨てはもちろん、不法屋台など食環署の取り締まり分野の「罪人」が集まっていた。テレビドラマみたいに昔の作曲家みたいなヘアスタイルのかつらを被った裁判官が来るかと思いきや、普通のスーツ着ていたのでがっかりしたもんだ(笑)。

1時間遅れで現れた裁判官・林涼水(演:黃子華)。こういう態度が上司の不興を買い、閑職へ異動させられてしまう。友人の TK何(演:谷德昭)が開いている弁護士事務所で、大律師、すなわち法廷弁護士として再スタートとなった。そして最初の事件が《作品概要》にある児童虐待殺人事件だった。裁判官当時の軽いノリで事案にあたろうとする林の態度に、パートナーの若い弁護士、方家軍(エブリン 演:楊偲泳/レンシ・ヨン)は苛立つ。林のええ加減さが被告人の曾潔兒(演:王丹妮)を懲役17年に追いやってしまう。冤罪を確信しながらも、立証できなかった林は失意のどん底に…。

林に振り回される若手弁護士を好演した楊偲泳
王丹妮は娘の死を児童虐待とみなされてしまった母親を熱演!

楊偲泳は昨年の大阪アジアン映画祭で上映された『喜歡妳是妳(邦:はじめて好きになった人)』で談善言(ヘドウィグ・タム)と二人で主人公を演じた。随分と大人になったなぁ…。王丹妮は獄中にあって、どんどんとやさぐれてゆく演じ方に、彼女の実力を感じることができた。娘を失った母親が冤罪による獄中生活でこうなってゆくのか…と、やるせなさを感じる。林の助手、 太子を演じた何啟華も最近はコンスタントに映画出演が続く。認められている証だろう。なぜ彼が林のことを「水哥(水兄貴、字幕ではアニキ)」と呼ぶのかは、中盤に明らかになる。彼が「太子(≒御曹司)」と呼ばれていることにも関連する。

案外、銀縁メガネが似合っていた何啟華。一見、コミカルな役どころではあったが、助手として、いい働きを見せていた

極度の罪悪感から、酒浸りの日々を送る林涼水。そんな彼を励ますのが古い友人で汚職捜査機関の廉政公署(ICAC)の陸鼎恒(演:林保怡)である。出直しを誓う林涼水は、TK何の弁護士事務所から旺角(Mong Kok)の古い雑居ビルの一室に事務所を移転する。

ICACなんて林保怡にピッタリの役。そして法廷もの、警察ものには欠かせない顔

2年後、林は曾潔兒事件の新たな証拠を発見し、御曹司君を呼び戻し、かつてパートナーだった若い弁護士、方家軍も加わって、冤罪立証のために動き始める。しかし、林たちは曾潔兒の恋敵であり、不倫相手の正妻である鍾念華(ビクトリア 演:廖子妤/フィッシュ・リウ)、そして彼女の背後にいる富裕層と権力者たちが大きな壁となって立ちはだかる。

夫と共謀し、愛人を殺人犯に仕立てようとする正妻の役を廖子妤が好演。しかし、この目つきよ!『梅艷芳』では王丹妮と仲の良い姉妹を演じていたが今作では敵対関係
最初はイラっとする存在だったが「な~んや、エエ奴やんか!」と見直した謝君豪演じる検察側弁護士

検察側の弁護士、金遠山(ミスター・カム 演:謝君豪/ツェー・クワンホウ)がなかなか良かった。なんか遠山の金さんみたいな名前だけど(笑)。最初の法廷では林をコテンパンに完膚なきまでに叩きのめしたが、何だかんだ言っても法曹界に生きる人間。「矜持」を示した姿には思わず「おおお!」って感じ。まあ、ストーリー的にはこうなるわな(笑)。

冤罪が立証される法廷のシーン。ここに至るまで、まあまあ色々あったが、ようやく漕ぎ着けたというところ。主役の弁護士を黄子華が何故演じたか、よくわかるシーンが展開される。終盤の立弁は彼だからこその芸当。何回「チ〇ポ」って発言したか(笑)。それはさておき、圧倒的な熱量のあの立弁は棟篤笑演員(スタンダップ・コメディアン)の本領発揮。その内容も観る者をスカッとさせてくれる。「Everything is wrong !=何もかもがおかしい!」ってのは、そりゃアナタ、名セリフですよ。これこそが「香港人監督による、香港人俳優を使った、香港で作った、広東語による、香港人のために作った」映画ってもんだ。そりゃ、史上最高の興行成績上げるわな。

「チ〇ポ」を連呼してw、再審法廷で一気呵成にまくしたてる熱量のすさまじさ!

「法廷もの」の固さはそれほどなく、終始、イイ感じでの軽さが感じられる作品。筋書も「先の先まで読める」展開で、途中には謎解きもあって眉間にしわを寄せることなく観られる。役者が良いのだろう。劉德華(アンディ・ラウ)がこの弁護士の役をやったら、たちまち『無間道』になってしまい、「う~ん」と唸りながら観てしまうんじゃないだろうか、アンディには悪いけど(笑)。まあそこはもう、やっぱり黃子華に尽きるというもので、黃子華のための映画と言ってもいいくらいだった。吳煒倫(ジャック・ン)、堂々たる監督デビュー作となった。

ところで。黃子華はずっと「ウォン・ジーワー」だと思ってたし、香港でも一般的にはそう呼ばれているが、今作で英文名が「ダヨ・ウォン」ってなっててびっくらこいた。「ダヨ」って(笑)。中学のときは「スティーブン」だったがクラスに6人もいたそうで、友達が自分の兄貴が「デヨ」だからお前は「ダヨ」で、ってことになったと。確かに小生の周りにも「スティーブン」は沢山おるね(笑)。

昔「似てますね」って言われたからというわけじゃないけど、友達になりたいと思っている黃子華が主演ということで観たわけだが、楽しい時間を過ごせた。「香港の言論が~!」だの「香港を取り巻く絶望感がヒットの要因」だのと言う解説が多いが、そういうわけでもないってのは、観ればわかるね。要は純然たる「香港映画」の王道を行く娯楽作品なんですわな。

《各賞》

■第36屆中國電影金雞獎
・最優秀作品賞など4部門ノミネート

(令和5年11月1日 シネマート心斎橋)


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2019年、過激な香港デモに参加していた15歳の少年・ハオロン。母親とは不仲で、学校も休みがちだった少年は、デモを経た激動の香港社会で今後、どのように生きていくのか。
足掛け3年、少年の日常を通して見えてきた「香港と少年の未来」。


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