【毒書の時間】『怪物』 東山 彰良


東山彰良を「こりゃおもろい!」と思って、読み始めたきっかけが、第153回直木賞受賞作『』だった。とにかく熱量が半端なく、文章がスイングしている上に、香港在住時は、ほぼ月イチで通ってた台湾の風が行間から吹いてくるような作品に、してやられたという感じで、読書の楽しさを十二分に満喫できたのだ。

そして本作『怪物』。カバー裏表紙の作品紹介文には、《直木賞受賞作『流』はこの作品に結実した。》とある。「え? ってことは『流』の完結編? はたまたスピンオフ? とにかく読まねば!」と手に取ったのだが…。

『怪物』 東山 彰良

新潮文庫 ¥1,045
令和7年5月1日発行
カバー装画/益村千鶴
解説/大矢博子
令和8年7月8日読了
※価格は令和8年7月10日時点税込

いや~、新潮さん、そりゃないわ~。結実もへったくれもない。ええ加減な誘い文句書くなよな!という怒りすら感じた。決して作者への怒りではなく、あくまで新潮社への怒りである。『流』とは何も関係ない。「で、『流』は何処へ?」ってところで、「ほんま、大概にせえよな!」と怒りに震えてしまうのだ。でも、私は読むわよ(笑)。

なかなか難しい作品だった。あかんかった人も多かったんじゃないかと思う。その「あかんかった人」になりかけたけど、一旦読み始めたら最後まで読み切るのが、本への敬意だとええかっこ言ってるので、ちょいちょい苦痛を感じながらも、読み切ったという塩梅ですわな、これが…。

本書のタイトルは『怪物』なんだが、実は主人公の作家、柏山康平の代表作が『怪物』で、読んでいるうちに、こっちの『怪物』の世界に引き込まれていることに気づく。

柏山康平は台湾出身、日本育ちの作家。彼のニ叔父さんー本書では「におじさん」との振り仮名ー王康平をモデルにして書いたのが『怪物』。「大躍進政策」真っただ中の大陸を偵察する「黒蝙蝠中隊」に属し、偵察飛行していたところを、広東省上空で撃墜され、1959年から62年までの三年間、囚われていた。ニ叔<èr shū>が「怪物」と呼ばれた「蘇大方」なる人物を撃って、台湾へ逃げ帰ってきたというニ叔の昔話と言うか、手柄話を、ニ叔の息子である従兄の王誠毅と聞くのが、柏山康平の幼いころの思い出だった。それを小説化したのが、柏山康平の代表作『怪物』である。

なるほどね、だからこの本のタイトルは『怪物』なんや、この先はニ叔の昔話、手柄話が展開していくんやな、と思ったら、これが大間違いで(笑)。

そう言えば、本作の物語が始まる前に、作者の東山彰良なのか、はたまた、作中の作家、柏山康平なのか、「この物語は私の夢である」とお断りしている。その夢にこの先付き合うも、付き合わないも読者であるあなた次第ということだ。そう言われると意地からでも読み切ってやる!と闘志を燃やすんだが…。そこでやめればよかった(笑)。

ニ叔が大陸で体験したことをベースにした作中作『怪物』が展開しているかと思えば、主人公の柏山康平と女性編集者の不倫物語になって、痛い目に遭う柏山康平を「ざまあみろ」と思っていたら、従兄の誠毅との「小説論?」みたいなやり取りがあって、またまた作中作『怪物』が始まって…。と話があっちこっち行きまくって、お賢い読者にはウケるんだろうけど、小生は何分、アホに分類される方の人間なんで、全く整理がつかなくなってしまう…。

多くの煽り文が羅列される帯も困りもんだ。《彼は飢餓の大陸で〝怪物〟と対決する。》とあるが、彼って誰やねん? という疑問も心のどこかに抱きつつ読み進めると、当初は大陸で囚われの身となった二叔のことだと思っていたが、第三章を読んでいるうちに、「飢餓の大陸で〝怪物〟と対決」したのは、作者の柏山康平自身ではなかったのか? なんて思ってしまう。いや、恐らくそうなんだ。

で、わかったよ。この第三章、丸々作中作『怪物』なんだけど、と言うか柏山康平によるほとんど「幻想小説」みたいなことになってるんだけど、最初の「お断り文」みたいなところで「この物語は私の夢である」と宣言している通りのものだったなぁ…、ってことに感づいたよ。そういうことね…。

まあ、こんな具合にウダウダとしかまとめられない自分のアホさ加減に、げんなりしてしまうばかりで、あたかも「あんたはアホですよ」と作者、この場合は東山彰良ご本人に宣告された気分になってしまうのである(笑)。「こいつ一体、何の話してんねん?」と思うでしょ、すみませんねぇ…。でも、ちょっと言い訳すれば「人を選ぶ作品だなあ」とでも言う所かな(笑)。

と、言いつつ、東山作品の例に漏れず、中国語の言い回しが散りばめられていて、そこは楽しい。何がいいって、この中国語に振り仮名代わりに日本語訳が振られているのがなんとも親切設計。これは東山作品の楽しみの一つではあるね。

殊勝にも「東山彰良読んでみよう」と思われたなら、こちらをお薦め。てか、この一冊で十分かと(笑)。

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