【睇戲】莎莉 <日本プレミア上映>

大阪アジアン映画祭も最終盤の週末となった。例年なら、この土日は「腰が痛い!」など文句言いながらも、7~8本は観るんだが、今年は4本にとどまる。特にこの土曜日は1本だけとは寂しい限り。この日も台湾映画を観る。『盜月者』がチケット瞬殺により観ることが叶わなかったのが大きいとは言え、ちょっと香港作品低調気味だった今年。まあ、こんな年もあるよな…。

養鶏農家が舞台なので当然ながら「鶏まみれ」の映画。「鳥類恐怖症」の小生は、果たして最後まで観ることができるのか…。しかし鶏だらけの中で、みんななんでそんな楽しそうなんや(笑) ©『莎莉』Facebook

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

コンペティション部門
莎莉 邦題:サリー <日本プレミア上映> 

台題『莎莉』 英題『Salli』 邦題『サリー』
公開年 2024年 製作地 台湾
言語:標準中国語、台湾語、フランス語、英語
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):練建宏(リエン・ジエンホン)
監制(製作):李烈(リー・リエ)、吳明憲(デニス・ウー)
編劇(脚本):練建宏、劉梓潔(エッセイ・リウ)
配樂(音楽):李英宏(リー・インホン)
攝影(撮影):廖敬堯(リャオ・チンヤオ)
剪接(編集):練建宏

主演(主演):劉品言(エスター・リウ)、林柏宏(リン・ボーホン)、李英宏(リー・インホン)、楊麗音(ヤン・リーイン)、湯詠絮(タン・ヨンシュイ)

《作品概要》

養鶏で泥まみれの毎日を過ごすうち中年にさしかかっていた女性が、出会い系アプリでフランス人と恋に落ちる。ロマンス詐欺だと周囲に言われるなか、彼女は愛を確かめにパリへ行き…。自分を愛する大切さを描くヒューマンドラマ。<引用:第19回大阪アジアン映画祭公式サイト

釜山国際映画祭上映作。釜山での上映は昨年10月のことだが、台湾での劇場公開は今年の4月3日からということで、一足先に大阪で観ることができたという幸運。

主人公の林惠君を演じた劉品言(エスター・リウ)は、台湾版Twinsと言えるかもしれないSweetyの一人だったが、このデュオはすぐに解散してしまったよな。小生はそれでなんとなく名前を思い出したのだが、多分、映画で日本にお目見えするのは、今作が初めてかと。

弟役は林柏宏(リン・ボーホン)。大阪アジアン映画祭上映作品では『缼角一族(邦:欠けてる一族)』が懐かしいが、印象深いのは『怪胎(邦:恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~)』での超潔癖症な主人公。『缼角一族』当時は“オースティン・リン”って言われてたと思うが…。ま、どっちでもいい(笑)。

近所の農家の兄ちゃんに、本作の音楽担当でもあるミュージシャンの李英宏(リー・インホン)、サリーに結婚しろと口うるさい叔母には『冬冬的假期(邦:トントンの夏休み)』での寒子の役など台湾新電影(台湾ニューシネマ)の作品群でおなじみの楊麗音(ヤン・リーイン)。脚本に小説『親愛的小孩(=愛しいあなた)」が日本でもヒットした劉梓潔(エッセイ・リウ)と、いいメンバーで固められている。

©『莎莉』Facebook

再び言うが、とにかくこんな感じで鶏まみれな映画なのである(笑)。そんな中、この赤犬だけが救いだったわ(笑)。よくしつけられた犬で、演者顔負けの「演技」も見せてくれる。

台中の山間部でトウモロコシを栽培し、それを餌にした養鶏も営む林惠君(演:劉品言/エスター・リウ)。結婚適齢期の彼女に「もう結婚できないのでは」と心配し、やきもきする叔母。見合い写真攻め、神信心と何かと気をもむ様子が面白い。そりゃまあ気にするよな、「あんた!いつまで鶏に囲まれた生活続けるつもりなん??」ってところだろう。叔母の心配はありがたいが、叔母の持ってくる話には一向に気乗りしない林惠君。

叔母を演じた楊麗音(ヤン・リーイン)。時は流れ、すっかり台湾の欧巴桑(おばさん)が板につくようになっていた… ©『莎莉』Facebook

両親を早くに亡くしたので、弟の林偉宏(演:林柏宏/リン・ボーホン)は彼女が育て上げる。その弟もフィアンセとの結婚も決まり、一日中イチャイチャしていて惠君はちょいと居心地が悪い。とは言え、この弟、なかなかねーちゃん思いのいい奴。姉の仕事もよく手伝うし、自分は町の市場で養鶏場で育てた鶏肉を売る。『怪胎』、『關於我和鬼變成家人的那件事(邦:僕と幽霊が家族になった件)』で肉体美を披露していたが、本作でも控えめながらも、タンクトップからはよく鍛えられた上腕部が伸びる。肉体派イケメン俳優を目指しているのか?

市場の屋台では、気のいい鶏肉屋のあんちゃん ©伯樂影業股份有限公司

上海にいる兄の娘、すなわち姪っ子(演:湯詠絮/タン・ヨンシュイ)も一緒に暮らすことになるのだがが、この子が反抗期で扱いにくい。難しい年ごろである。もう鶏の世話と家族のことで自分のことを考えるヒマもなし、という日々で、将来のことすなわち自分自身の幸せのことに思いを馳せる余裕がない。

茶色のメスの地鶏の中で、唯一の白い雄鶏が、しいて言えば「彼氏」 ©『莎莉』Facebook

そんな時、姪っ子が「出会い系アプリ」を紹介する。

「とりあえず登録してみたら?」と軽~い気持ちで言った姪っ子だったが… ©『莎莉』Facebook

半信半疑で「サリー」というハンドルネームで登録したところ、次々と現れるイケメンやマッチョに「お!おおっ!マジかよ!」と驚きながらも、アプリの虜になってゆく惠君。ありがちですな、こういうアプリって、なぜか最初の頃は「ほーっ!」てな感じのプロフ画像が次々出てくる(笑)。そんなん、最初だけよ、ほんとに(笑)。って、俺は知りませんよ(笑)。畑仕事の最中も、鶏の世話の最中もアプリが気に合って仕方ないご様子は微笑ましいやら、危なっかしいやら…。

上映後、舞台挨拶&トークイベントに登場した監督の練建宏(リエン・ジエンホン)は「最近台湾でもロマンス詐欺が問題になっており、そこににヒントを得た」と言う。それでも結婚しちゃう人もいるから延々と続いているんだろう。よく知らない世界のハナシだが、離婚率めっちゃ高そう。「新婚さんいらっしゃい」とかに出てきて放映日には離婚してるって感じ(笑)。←個人の印象ですw。

そして、ねーちゃん思いの弟君が正式に結婚。披露宴のあいさつでねーちゃんのことを話そうとして号泣してしまう。ホントに心底、ねーちゃん思いの弟。ちょっとウルっとしてしまう俺(笑)。だからこそ、アプリのヴァーチャル空間でなく、リアルに結婚のことを考えてほしいと願う。李英宏(リー・インホン)演じる近所の農家のあんちゃんはじめ、親類村人、皆がそう願う。だが、すでにアプリの中での「サリー」に活路を見出したのか、彼女は頻繁にやりとりを始めたフランス人男性に、次第に心ひかれてゆく…。

この表情がもう、アプリの彼氏にぞっこんという感じで可愛らしいんだけど、さてさて… ©台灣電影網

周囲からは「そんなん、絶対結婚詐欺に決まってるやん!何考えてんねん!」と反対されながらも、一念発起して「彼が待つ」パリへと向かう。もうこうなると止められへんね…。監督の着ていたTシャツには「滑到一個命定」ってバックプリントがあったけど、そういう行動かな。

とても鶏に囲まれて生活していたとは思えないね

まあ、こっから先は想定通りの展開で、「滑到一個命定」とはならなかったわけで…。肉体まで許しちゃったのにねぇ…。まあ、詐欺に遭わなかったのはよかったけど。あのあたりの展開は、小生としては痛々しかったなあ。それはあくまで「映画的」には先が読めていたからなんだろうけど…。

考えてみたら衣装持ちだね、彼女。フランス行きのために、買い込んだのかな? ©台灣電影網

パリでの出来事は彼女に何をもたらしたのか。映画はそこまでは語らないし、語る必要もないだろう。ひとつ言えるのは、もう彼女はサリーから林惠君に戻ったということだ。そもそも、スマホの中ではなく、パリではなく、目の前に将来を託せる人がいるだろう、違うか? でないと、李英宏(リー・インホン)を起用した意味がないわな(笑)。

©『莎莉』Facebook

近隣農家の気のいいあんちゃんを演じた李英宏は、なかなか味のある演技を見せていた。彼の起用について練監督は「最初は小さな役どころの予定だったが、役者としての潜在能力を感じたので、逆に重要な役にした」と語っていた。ええとこに目付けましたなあ。しかしまあ、小生は『誰先愛上他的(邦:先に愛した人)』で流れたおしゃれで不思議な劇中歌『峇里島(=バリ島)』の出だしのフレーズ “♪バ~リ島~” が頭を駆け巡るのである(笑)。

短い時間ながらも色々語ってくれた

作家の劉梓潔(エッセイ・リウ)との共同脚本ということになった経緯については、自分一人だとどうしても男性視点に偏り過ぎてしまうので、女性視点が必要ということで参画してもらったとのことだが、それもなお、「やっぱ、これは男の視点だな」とは思った。まあ、そこがこの作品の面白さなのかもしれないけどな。

《莎莉 》Salli 正式預告

《受賞など》==================================

■第19回大阪アジアン映画祭
・来るべき才能賞:練建宏(リエン・ジエンホン)
・ABCテレビ賞:莎莉(サリー) ※来年3月ごろにABCテレビで放映!

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(令和6年3月9日 ABCホール)

映画『父の初七日』の監督・脚本のエッセイ・リウ。映画の原作エッセイがベストセラーとなった作家の最初の短編小説集。今回『莎莉』で脚本を担当。

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