【睇戲】大阪アジアン映画祭(短編5編)

引き続き、中之島美術館で短編作品を5本観る。

一応、1時間半程度に収まるように、まとめて上映されるので、各パッケージによって上映本数も変動する。今上映回は5本となる。「全部中身覚えてられるかな?」と不安になるが、短編は短編で、短い時間に濃い内容で仕上げているので、案外、どの作品もインパクトを残してくれる。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特別注視部門
Hurdang 題:騒動 <海外プレミア上映> 

英題『Hurdang』
邦題『騒動』

公開年:2022年
製作地:インド

言語:ヒンディー語
評価:★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:アロック・クマール・ドゥヴィヴェーディー

出演:ラジェシュ・タイラング、ソーナル・ジャー、ウディット・アローラ、アハサース・チャンナー、アシュトーシュ・ソーハン

《作品概要》

本作は2015年にウッタルプラデシュ州で起きたダドリ事件を彷彿とさせる。ヒンズー教徒にとって牛は神聖な生き物だが、あるムスリム一家が牛肉を食べているという噂が流れ、それを聞いてヒンズー教徒の一団が暴徒化し、その一家を襲ったのだ。……<引用:大阪アジアン映画祭2023作品紹介ページ

インド映画と言うと、ボリウッド。何やら歌って踊って、みたいな印象があるが、この作品は終始緊迫感に満ち溢れており、その展開に心が締め付けられるような23分間。短編でよかったよ、心臓もたん(笑)。

我々日本人がよく知らないインドの複雑な宗教事情の一端を観た、というところ。但し、普段からヒンズー教徒とムスリムが敵対心をあらわに対立しているわけでなく、互いを尊重し友好的に交流しているとのことだが、何か火種が投下されると…。こういう作品を見せてくれるのが、本映画祭のいいところ。

特別注視部門
燕南飛 題:燕は南に飛ぶ <日本プレミア上映> 

中題『燕南飛』
英題『Swallow Flying to the South』
邦題『燕は南に飛ぶ』
公開年:2022年
製作地:米国、カナダ、中国
言語:標準中国語
評価:★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):林墨池(リン・モーチ)

現在はカナダ・モントリオールを拠点に活動している林墨池(リン・モーチ)監督のストップモーションアニメ。母親の実体験を元に、林墨池監督一人で制作のほぼすべてを行った。非常に印象に残る画のタッチで、文化大革命末期~毛沢東死去という物語の時代背景などをよく表した色遣いも秀逸。

《作品概要》

文化大革命が終わろうとしていた1976年。農村から北京に戻ってきた5歳のシャオイエンは全寮制の幼稚園に入れられていた。先生の笛が鳴ると、整列、トイレ、就寝、遊び……一斉に同じ行動をする子供たち。シャオイエンも必死に皆について同じ行動をしていたが、彼女の表情は常に暗くて辛そうだ。友達もおらず、ひたすら孤独な日々を送るシャオイエン。そして1976年9月9日、当時の最高指導者だった毛沢東が死去。弔問式で大人たちは泣いていたが、シャオイエンは……。<引用:大阪アジアン映画祭2023作品紹介ページ

主人公の少女、シャオイエン。漢字で書くと「小燕」。燕ちゃん、というところかな。いつも泣いている子。表情がほんとに寂し気。規律正しく行動する周囲の子たちについて行けない…。そんな中で訪れた毛沢東の死。紫禁城の北側にある景山公園と思しき場所で明るい陽光を浴びるシャオイエン。文革の終焉と新しい時代の到来に、飛び立とうとするかのような表情が印象深い。

インディ・フォーラム部門
海的彼端:其後 題:海の彼方 それから <ワールドプレミア上映> 

台題『海的彼端:其後』 英題『After Winter, the Tamaki Family…』
邦題『海の彼方 それから』
公開年:2023年 製作地:日本、台湾 言語:日本語
評価:★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):黃胤毓(黄インイク)

出演:玉木玉代、玉木慎吾、玉木茂治、登野城美奈子、玉木美枝子

2017年の第12回大阪アジアン映画祭で上映された『海的彼端(邦:海の彼方)』が、とても素晴らしく、感度の嵐だったのを思い出す。

黃胤毓(黄インイク)監督が、日領時代の台湾から八重山諸島に移住した台湾人たちと、その現在を描いた「狂山之海」シリーズは、これまでに、石垣島の台湾移民一家三代を描いた『海的彼端』、西表島の炭鉱に囚われた台湾人女性の半生を描く『綠色牢籠(邦:緑の牢獄)』が製作され、いずれも大阪アジアン映画祭で上映された。

どちらも黄監督の地道な調査や取材をもとに描かれており、すぐれた歴史ドキュメントとなっている。特に、『海的彼端』は移民の一人、玉木玉代さん(撮影時88歳)とその一族にスポットを当て、ドキュメントであると同時に家族の物語としても、すぐれた作品であった。その「玉木おばあ」が2022年春に亡くなられた。本作は、玉木家一族やゆかりの人々が集った葬儀の様子や、おばあの臨終の時などを記録している。元気だったころの、おばあの姿も挿入されており、『海的彼端』に痛く感動した小生も、こみ上げるものがあった。

インディ・フォーラム部門《焦点監督:田中晴菜》
Shall We Love You?

邦題/英題『Shall We Love You?』
公開年:2022年
製作地:日本
言語:日本語
評価:★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:田中晴菜

出演:森川錦、今城沙耶、西田奈未

第17回札幌国際短編映画祭2022ジャパン・パノラマ部門選出作品。監督の田中晴菜は、過去作も国内外数々の映画祭で入選を果たしている新進気鋭の監督である。今回の大阪アジアン映画祭では、本作と最新作『甘露』を上映。

《作品概要》

放課後、⾼校の体育館の隅に集まる演劇部の真琴、悠、芽依の 3⼈は、オスカー・ワイルド作の童話「The Happy Prince(幸福な王⼦)」を翻訳、舞台化しようとしている。彼⼥達は各々が翻訳してきた台本の読み合わせをしながら、幸せとは何か考える。バスケ部から⾶んで来たボールを明後⽇の⽅向に投げ返す真琴の姿を⾒ながら、悠と芽依はその答えを⾒つける。<引用:大阪アジアン映画祭2023作品紹介ページ

7分の超短編作品。放課後のJK3人のおしゃべりを長回し、「ワンシーンワンカット構成」で撮影したという、なんか実験的な作品。3人の会話から、何かメッセージ的なものを感じ取ることができるか、と言うと…。おっさんには、それは難しかった(笑)。

インディ・フォーラム部門《焦点監督:田中晴菜》
甘露 <ワールドプレミア上映>

邦題『甘露』
英題『Kanro』
公開年:2023年
製作地:日本
言語:日本語
評価:★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

監督:田中晴菜

出演:岡慶悟、田中一平

こちらも『Shall We Love You?』同様に「ワンシーンワンカット構成」。父が死んだことで、主を失った駄菓子屋の店先で、12分間、兄弟がおしゃべりしているだけの長回し。

《作品概要》

亡くなった祖⽗が営んでいた駄菓⼦屋兼住居を取り壊すことになり、遺品整理をしている⼤吾のもとに、滅多に実家にも帰って来ない弟の蒼⾺が帰ってくる。緊急事態宣⾔期間中に⾏われた祖⽗の葬儀にも蒼⾺は参列せず、それ以来⼆⼈の関係には隔たりが出来ていた。蒼⾺が幼い頃、店の売り物のカンロを勝⼿に⾷べた際、代⾦が払えない代わりに祖⽗に渡した「何か」を探している最中、姿を消してしまい……。<引用:大阪アジアン映画祭2023作品紹介ページ

ええーっと、これ、どういう風に感想を述べたらいいんですかね…。そう考えてるうちに、終わってしまったんだが、上記概要にある「~姿を消してしまい…」から先がさらに混迷を深める…。思うに、弟の蒼⾺もすでにこの世の人ではなくなっていたのかも…。いやいや、そんな怖がらせるような映画じゃないでしょ…。わからんわ。

この日は、集中的に短編を合計7本観たわけだが、案外と難しいね、短編って。短い時間にそのテーマを見つけ出さないと「で、何なん?」となってしまう。ある意味、観る者の「敏感さ」が試されてるのかもね。で、あるなら、小生はまったくダメですな(笑)。

(令和5年3月11日 大阪中之島美術館)


海の彼方』 [DVD] 

台湾人とも日本人とも認められなかった石垣島への台湾移民。
玉木家の3世代にわたる波瀾万丈を描いた珠玉のドキュメンタリー!

 

 

緑の牢獄』 [DVD] 

“秘境”に眠る炭鉱の知られざる歴史と年老いた“越境者”の80余年の記憶――。『海の彼方』の黄インイク監督が7年の歳月をかけて完成させた渾身のドキュメンタリー!

 

緑の牢獄 沖縄西表炭坑に眠る台湾の記憶』五月書房新社 

かつて 10 歳で台湾から炭鉱のある沖縄・西表島へ渡り、以後 80 年以上島に住み続けた一人の老女。彼女の人生の最期を追いかけて浮かび上がる、家族の記憶と忘れ去られた炭鉱の知られざる歴史。現代日本人が最も注目する二つの場。それは台湾と沖縄。日本人が思い出さなければいけない歴史の原点がここにある。


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