【睇戲】白日青春 <日本プレミア上映>

短編に一区切りつけて、この日からは香港映画を中心に長編をいくつか観ることにする。せっかくの機会なんで、たくさん観ておきたいところだが、いくら暇人と言えども、それなりにやることもあるので、結果的に華語片に絞って、ということになる。ま、仕方ないな。

ということで、まず最初は黄秋生(アンソニー・ウォン)主演の『白日青春』から。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画《Special Focus on Hong Kong 2023》|コンペティション部門
白日青春 題:白日青春 <日本プレミア上映>

港題『白日青春』
英題『The Sunny Side of the Street』

邦題『白日青春』
公開年 2022年 製作地 香港、シンガポール
言語:広東語、ウルドゥー語

評価:★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):劉國瑞(ラウ・コックルイ)
編劇(脚本):劉國瑞
監製(プロデューサー):Vinod Sekhar、曾麗芬(ウイニー・ツァン)、鄭保瑞(ソイ・チェン)、任硯聰(ピーター・ヤム)
摄影(撮影監督):梁銘佳(レオン・ミンカイ)

領銜主演(主演):黃秋生(アンソニー・ウォン)、林諾(サハル・ザマン)
主演(出演):周國賢(エンディ・チョウ)、潘文星(インダージート・シン) 、喬加雲 (キランジート・ギル)

《作品概要》

タクシー・ドライバーのチャン・バクヤッ(アンソニー・ウォン)があらゆる局面でハッサン(サハル・ザマン)を守ろうとするのには理由がある。思いがけない事故とはいえ自分がハッサンの父を死に至らしめてしまったからだ。ハッサンと出会うまでは中東からの移民を見下していたチャンだったが、自分だって元はといえば海を泳いで渡って来た不法入境者だろうと息子に指摘され返す言葉がない。ハッサンへの罪滅ぼしから始まった行動で、これまでの自分の身勝手さに気付き、息子との捻じれた関係をなんとか修復したいと思いつつも上手く伝えることができず……<引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ

昨年11月、台湾の「金馬獎」に合わせて<金馬影展>で上映。一般公開は、香港では間もなく3月30日から始まる。香港市民よりも一足先に鑑賞という次第。

タイトルだけ見たら「青春の物語かな」と一瞬思うが、ポスターやスチールを見ると、青春の爽やかさからは程遠く、重たいものが伝わる。何より、黃秋生(アンソニー・ウォン)が主演なんだから、爽やかにはならんよな(笑)。そして、事実、非常に重たい物語であった。

白日不到處,青春恰自來。(白日到らざる処、青春恰も自ら来たる)
苔花如米小,也學牡丹開。(苔花は米の如く小なるも、また牡丹を学んで開く)

という詩がある。清の時代の詩人、袁枚の作である。劇中でも、この一節を教師が読むシーンがある。「日が届かないところでも、春の季節は巡って来る。苔の花は米粒みたいに小さいが、牡丹の花を見習ってちゃんと花咲くものだ。」という意味。特に前半部の「白日不到處,青春恰自來。」は、本作のタイトルの元であると同時に、二人の主人公、白日(演:黃秋生)と青春、本名ハッサン(演:林諾/サハル・ザマン)とのダブルミーニングとなっている。有名な詩なので、多分、多くの香港人はタイトル見て「あの詩やな」と思うだろうが、漢詩に疎い日本人は小生のようにすっとこどっこいな解釈をしてしまう(笑)。お賢い方々はご存じなんだろうけど(笑)。

ビールばっかり飲んで、肝臓を壊している白日。だらけた生活を送るタクシー運転手だが、息子はエリート警官、というよくある香港映画パターン

でも、この映画観ていると、なかなか簡単には「日が届かないところでも、春の季節は巡って来る」とはいかない…。終始、そこに苦しさを感じるのである。

香港における難民の現在を描くと同時に、二つの父と息子の関係を描く。登場人物の誰にも肩入れできずにエンドロールを迎えたが、あえて「まあ、そりゃあんたの言う通りやな」と思えたのは、白日の息子で警察官の陳康(演:周國賢/エンディ・チョウ)かな…。しかし周國賢、この前観た『一秒拳王』とはえらい違う(笑)。こっちが本来の彼に近いかな…。まあ、この息子とて、もう少し父親に歩み寄ることはできないのかとも思うが…。もう幕開け早々の息子の結婚式のシーンから深い溝が、これでもかと迫って来るのだ。

ハッサンの父親(演:潘文星/インダージート・シン)は、元は母国パキスタンで弁護士だったが、政治的迫害で妻(演:喬加雲 /キランジート・ギル)と香港に逃れて来た。弁護士というプライドから、何かと融通の利かないところがあり、その分、家族を養うのに苦労している。ハッサンは夫婦が香港に来てから生まれた。香港は「出生地主義」なので、ハッサンは難民ではなく、香港公民の身分である。しかし、両親は何度も、何年もかけて「難民認定」の申請をするも、なかなか承認されないでいた。

ちなみに、出生地主義であるがゆえに、大陸の妊婦が大挙香港に押し寄せ、香港で出産し、子供を香港公民とする事例が増加したことがある。これにより、一時、香港の産院が大陸人妊婦に占拠される事態に陥ったことがある。

香港は国際難民の通過点であり、毎年、何千人もの難民が香港特区政府による難民認定を待っている。認定までのプロセスは長く、ざらに10年以上かかる場合も少なくないと言う。まさに、ハッサンの両親がそのケースである。難民認定を受けてカナダへ移住という夢を抱いていたのだが…。

父親は自動車事故で突然亡くなる。事故の相手は、白日だった…。この因縁…。ハッサンは不法滞在者の窃盗集団と交わりを持つようになり、張り込んでいた警察に集団は包囲される。警官の落とした銃を手に、運よく逃れたものの、行き先がなく途方に暮れているところを白日にの助けられる。ハッサンを追跡していた警官は、白日の息子、康という、出来すぎともいえる展開。

オーディションから選ばれたハッサン役の林諾(サハル・ザマン)。表情が豊かで、感情表現に優れた「新人」俳優だった

息子を大陸に置いたまま香港へ密航した白日。そんな息子への罪滅ぼしか、はたまた、ハッサンの父親を、事故とは言え、死に至らしめてしまったことへの罪滅ぼしか。さらには、パキスタン難民のハッサンに、かつて大陸から密航してきた自分の姿を見たのか…。ハッサンをカナダへ密航させることに。う~ん、それでハッサンは幸せをつかめるのか…。「俺は良い人になりたいだけなんだ」。白日はそれで満足なのか…。色々と合点の行かぬ白日の言動が、心にしこりを残すストーリーだった。

一人で密航船に乗り込むハッサン。この子の未来はどうなるのか…。白日よ、それでいいのか…

監督の劉國瑞(ラウ・コックルイ)は、香港在住のマレーシア人。本作が初の長編映画。10 代でマレーシアを離れ、父親とほとんど連絡が取れなくなったと言う。移民として香港で暮らしてきた自分の成長体験を元に、父親の愛を切望する息子と、息子を理解するのに苦労している父親の物語を描いた。監督は「この2人の登場人物は、私の移民生活を描いたもので、この作品は私と父との対話だと思っています」と、香港メディアで語っている。

二人の主役、黃秋生(アンソニー・ウォン)、林諾(サハル・ザマン)の熱演も光るが、脇役陣もよかった。白日の唯一といえる理解者である整備工に劉錫賢(ローレンス・ラウ)。康の部下であり友人でもある警官を映画監督の火火(ファイアー・リー)。ハッサンの密航をアレンジする船主を太保(タイポー)と、随所に「お!」という配役。

香港の難民、不法滞在者の実態を真正面から描いた作品としては見るべき点が多かったが、「父と子の関係」を描くという点では、少し甘さが目立ったと思う。そこ、残念…。

正式預告片

《受賞など》2023年3月12日時点

<2022年>
■香港亞洲電影投資會
・「電影培訓先導計劃」劇本服務獎 :『白日青春』
■第59屆金馬獎
・最優秀新人監督賞:劉國瑞(ラウ・コックルイ)
・最優秀オリジナル脚本賞:劉國瑞
・最優秀主演男優賞:黃秋生(アンソニー・ウォン)
・他3部門ノミネート

<2023年>
■第29屆香港電影評論學會大獎
・推薦作品:『白日青春』

・他1部門ノミネート
■2022年度香港電影導演會年度大奬 
・最優秀新人俳優賞:林諾(サハル・ザマン)
■第41屆香港電影金像獎
・4部門ノミネート

(令和5年3月12日 シネ・リーブル梅田)





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