【睇戲】『私のプリンス・エドワード』(港題=金都)<日本プレミア上映>

第15回大阪アジアン映画祭

日曜日に、夜の9時から映画を観るなんて、普段なら絶対にしないこと。でもこの期間中だけは違う。この上映回を見逃すと、もしかしたらもう一生チャンスは巡ってこないかもしれない…。運よく「時差出勤」で、翌日は午前11時の始業。少々、帰りが遅くなっても翌日に影響することもない。

ってわけで、大阪アジアン映画祭、3本目はかねてより気になっていた『私のプリンス・エドワード』。働き者の鄧麗欣(ステフィー・タン)主演。彼女もすっかりこの映画祭の「常連」さん。作品ごとに色んな顔を見せてくれるので、楽しみにしている。さて、今回は…?

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画《Special Focus on Hong Kong 2020》/コンペティション部門
私のプリンス・エドワード
港題=金都 <日本プレミア上映>

港題『金都』
英題『My Prince Edward』

邦題『私のプリンス・エドワード』
公開年:2019年
製作地:香港
言語:広東語
評価:★★★★
導演(監督):黃綺琳(ノリス・ウォン)
領銜主演(主演):鄧麗欣(ステフィー・タン)、朱栢康(ジュー・パクホン)
聯合演出(共演):鮑起靜(バウ・ヘイジェン)、金楷杰(ジン・カイジエ)、林二汶(イーマン・ラム)、許素瑩(ソー・イン・ホイ)、岑珈其(カキ・シャム)

前夜観た『散った後(港=散後)』同様、「首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative)=オリジナル処女作支援プログラム」入選作。これが単独監督長編作となる監督の黃綺琳(ノリス・ウォン)は、これまでは脚本家兼作詞家として活躍してきた人。そんなわけで、作品の質は高く、観ていて退屈する場面はなかった。キャスティングもよく、初の長編とは思えないストーリー展開に「脚本家」としての顔を見たような出来栄えだだった。

【あらすじ】

「金都商場」のウェディングショップで働くフォン(演:鄧麗欣-ステフィー・タン)は、同じビルでウェディングビデオのカメラマンとして働くエドワード(演:朱栢康/ジュー・パクホン)と同棲中。10年前にお金欲しさから中国大陸の男性と偽装結婚したのだが、その婚姻がまだ継続中であることが発覚したところへエドワードからプロポーズされてしまう。偽装婚姻の離婚手続きと結婚式の準備を同時に進める過程でのエドワードとの諍いや義母との軋轢を経て……。<引用:第15回大阪アジアン映画祭「私のプリンス・エドワード」作品解説

まずは舞台となった、そして原題タイトルにもなった「金都」は、九龍に実在する。「死んでもない人」の祭壇を設け、月命日ごとに法要が行われているという、奇妙奇天烈摩訶不思議な、「警察ガーー!」信仰の大本山となっているMTR「太子(Prince Edward)」駅のある、あの太子にあって、「婚礼衣装の総合ビル」と言える存在、それが「金都商場(Golden Plaza)」である。小生なんぞのように、あっち住みの長かった人間にしたら、「英語タイトル、直球やんけ!」と笑ってしまうし、さらには男主人公の英文名もエドワードときたんもんだ。ここらへんが、脚本家、作詞家としての黃綺琳の監督作品ってところだろうか。

おもしろいなーと思ったのは、結婚前から繰り広げられる「嫁姑戦争」。何かと息子の結婚やその先に待つ新婚生活に口を挟んでくる姑(演:鮑起靜/バウ・ヘイジェン)と、そこらへんは「マミーにお任せ」の香港男子の典型、エドワードに結婚前からマジ切れ寸前のフォン。この三者のやりとりが、香港らしくて楽しい。三人とも、ホンマ芸達者。とくに鮑起靜(バウ・ヘイジェン)は、こういう役、非常に上手い!

男主人公の朱栢康(ジュー・パクホン)ってのは、小生、初めて観る顔。これまでは舞台活動が中心だったという。これを機に、映画出演も増えるんじゃないだろうか?舞台俳優らしく、会話のキャッチボールの「間(ま)」が絶妙。

偽装結婚相手の大陸男を演じた金楷杰(ジン・カイジエ)も初めて見る顔。そのうえ、広東語もあまり上手くない、ってか、会話の9割は普通話だったし…。大陸で売り出し中の実はイケメン俳優らしい。よく探してきたなぁ(笑)。この俳優も会話の「間」が上手いんだろうけど、広東語の会話にポンと大陸言葉が入り込んできて、広東語の「世界」に「亀裂」を生じさせるのが、なんとも生々しいというか、心憎いというか…。

ということで、この作品の面白さを盛り上げていた最大の要因は、それぞれ芸達者な役者たちの「会話の間、タイミング」の上手さにあったんじゃないかと思う。作品によっては、これが逆に裏目に出て、白々しさを感じさせることになるのだけど、この作品の場合は、ピタッとはまったということだろう。

そして!またもや小生推しまくりの岑珈其(カキ・シャム)である。ウェディングビデオのカメラマンのエドワードの助手役で出演。こういう役どころならいまや、彼が一番の適役だろう。

しかし、大陸男との「偽装結婚」っていまだにあるんだな…。大陸人はそこまでして香港身分証が欲しいのか?劇中、大陸男はその理由に「香港には自由がある」と言う。昨年来繰り広げられる暴力示威行為の理由が「香港に自由をもたらす」という名目なんだが…。しかし、偽装相手の大陸男の住む福州(福建省)というのが、とてつもない田舎町で、「そりゃ、香港に住みたいよなぁ」と思わせる。この極端な差の描き方もうまいなぁと感じた。

さてこの『金都』。昨年~今年の賞獲りレースはすさまじいことになっている。

2019年
■第56屆金馬獎
「最優秀主演男優賞」朱栢康(ノミネート)
「最優秀主題歌賞」(ノミネート)
『金都』作詞:黃綺琳、作曲:林二汶(イーマン・ラム)、歌:鄧麗欣
「最優秀新人監督賞」黃綺琳(ノミネート)
2020年
第26屆香港電影評論學會大獎
「最優秀作品賞」受賞
「推薦作品賞」受賞
「最優秀監督賞」「最優秀主演男優賞」「最優秀主演女優賞」(ノミネート)
第3屆最港電影大獎 +結果待ち
「最優秀脚本賞」「最人気作品賞」「最優秀主演男優賞」「最優秀主演女優賞」
「香港最優秀監督賞」全5部門ノミネート
第39屆香港電影金像獎 +結果待ち
「最優秀脚本賞」「新人監督賞」「最優秀主演女優賞」「最優秀助演女優賞:鮑起靜」「最優秀映像編集賞:張叔平、鍾家駿」「最優秀オリジナルサウンドトラック賞:林二汶」「最優秀主題歌賞」「最優秀主演男優賞」 全8部門ノミネート
香港電影編劇家協會大奬2020 +結果待ち
「2020年度最優秀キャスト賞:朱栢康」「2020年度推薦シナリオ賞」 全2部門ノミネート

My Prince Edward 預告片 Trailer

(令和2年3月8日 シネ・リーブル梅田)



 


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