【睇戲】『散った後』(港題=散後)<海外プレミア上映>

第15回大阪アジアン映画祭

土曜日とは言え、21時上映というのは、なかなか厳しい時間帯。最近は、飲食店も20時閉店のところが多く、平日の仕事帰に晩飯を食うのも一苦労という状況。開いているのは、それなりのお値段のお店が多く、「コンビニのおにぎりでええか」と思うも、それでは夜中に空腹で目が覚める。ましてや、こういう時期だからこそ一層の栄養補給をしておきたいから、ちょっと張り込んでしまう。財布に厳しい昨今であるが、繰り返すが、粛々と過ごすしかない。

この日観たのは、香港映画。できたての作品で、海外初上映となる。「雨傘」にピピっと反応した人が多いのか、このご時世、この時間帯にもかかわらず、早々に「Sold Out」となった。昨年5月から延々と続く、「民主活動」のふりした「暴力示威行動」の連続を「加油」する日本人も多いらしいので、期待値は高いだろうなとは思っていたが、みんさん、お好きです(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

コンペティション部門/Special Focus on Hong Kong 2020
散った後 港題=散後 <海外プレミア上映>

港題『散後』
英題『Apart』
邦題『散った後』
公開年:2020年
製作地:香港
言語:広東語
評価:★★★★
編劇(脚本):陳哲民(チャン・チッマン)
監製(プロデューサー):邱禮濤(ハーマン・ヤウ)
導演(監督):陳哲民
演員(出演):柯煒林(ウィル・オー)、吳海昕(ソフィー・ン)、馮海銳(ヨーヨー・フォン)、蔡頌思(ジョスリン・チョイ)、陳烈文(チャン・リッマン)、陳哲民

監督の陳哲民(チャン・チッマン、レスター・チャン)は、映画や香港のTVドラマでちょいちょい見かける顔。過去の大阪アジアン映画祭では『どこか霧の向こう(港=藍天白雲)』で、煮ても焼いても食えない父親役を怪演していた。今作は、初監督作品。邱禮濤(ハーマン・ヤウ)の絶大なバックアップのもと、自身も男主人公の父親役で出演するなど、意欲的に取り組んだようだ。

【あらすじ】

雨傘運動が盛り上がる中、出会った5人の若者たち。マリアンヌ、イン、シー、ジェシカ、トー。恋と友情、そして対立…熱くぶつかり合ったあの青春の日々から5年。反送中デモに端を発した民主化運動が続く香港で再会した5人は、……。<引用:第15回大阪アジアン映画祭「散った後」作品解説

2014年の「雨傘行動」から5年後に起きたのが「反送中」活動。今ではすっかり様相が変わって「民主活動」のふりした「暴力示威行動」となっているが、どちらのデモ風景も随所に「実写」が取り込まれていて、催涙弾の発射音に「こんなすごいんか!」とびっくりした人もいたかもしれないけど、あんなバズーカ砲みたいな凄まじい音はしませんよ、心配しなくても(笑)。昔、香港で催涙弾の巻き添え食った小生が証言します(笑)。

「雨傘」に参加していた大学生たちも、5年が経過し、社会に出ている。5年の歳月が、彼らをどう変わらせたか、あるいはさらに信念を強いものとしたのか、というのがこの作品の描く世界。なんだけど、小生的にはやっぱり「優柔不断な港男」と「芯の強い港女」の出会い、恋愛、別れ、再会を描いてみようとしたら、たまたま、「雨傘」と「反送中」に重なったという風に見えた。時代背景を表すには、これほど象徴的な出来事もないからね。

元々は『戀@廣場』なる題名だった本作。新人監督の登竜門とでも言うべき「首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative)=オリジナル処女作支援プログラム」において、2016年の第2回プログラムに入選していたが、反送中デモで方向転換したもの。ちなみに、同プログラムから大阪アジアン映画祭には、『誰がための日々(港=一念無明)』、『どこか霧の向こう(港=藍天白雲)』、『青春の名のもとに(港=以青春的名義)』、『淪落の人(港=淪落人)』、『G殺』、そして今年の本作と『私のプリンス・エドワード(港=金都)』と多数の作品が出品されている。好きなんやろな(笑)。

その本来の『戀@廣場』というのも観てみたいんやけど…。無理か?

雨傘当時、大学生だった5人の男女の物語。中心となるのは、トップに写真を載せた男主役・イン(演:柯煒林/ウィル・オー)と女主役・マリアンヌ(演:吳海昕/ソフィー・ン)の「元・カップル」。雨傘当時はカップルだった二人だが、すでにその信条は対立しており、結局、別れてしまう…。吳海昕が「一本芯の通った強い港女」を好演していた。

5年後の現在。インは資本を獲得して、大陸でビジネスを展開する。一方でマリアンヌは、学生当時の信条を曲げずに、民主派議員として「反送中」で奮闘する。まさに、それぞれの5年後。二人の周囲の3人にも、それぞれの5年後があり、きっとあのとき、何十日も道路を占拠していた若者たちにも、それぞれの5年後とそこに至る物語が、当然ある。拙ブログで雨傘当時に記したネタ『【過激な未来予想図】『雨傘を閉じたとき』香港デモ、10年後の彼ら』を映画化してくれたんじゃないかとさえ思えるほどの内容だった。

「雨傘」のインパクトの強さという点では、到底『乱世備忘―僕らの雨傘運動(港=亂世備忘)』には及ばないし、そういうのを期待していた人にとっては、とんだ肩透かしという作品だったけど、小生は、なぜかこっちに好感を持つ。『乱世備忘』も「イデオロギーを語らない」という点では、優れた作品だと思うが、結局、観終わったら「民主派的観点やったなぁ…」とも感じた。今作は、男主役・インが雨傘から5年後、中国での事業を拡大しているなど、フィクションの割には、現実性を感じた。そう、色んな奴がいるのだ。香港の若者すべてが「反中国」ではないということだ。雨傘にしろ反送中にしろ、日本のメディアはこぞって「香港の若者たち云々」と一括りにして語るが、現実は違う。そこを描いているこの作品に、小生は『乱世備忘』とはまた違う現実性を感じたのだ。

別件の取材で訪れた香港は、金鐘(Admiralty)の不法占拠が強制撤去される2日前だった(筆者撮影)

5人の若い俳優は、まだまだこれからの人材。ゆえに、演技的には「へ?」と思わないでもなかったが、映画出演2、3作目なら上出来というところだろう。今後に期待したいし、この作品をきっかけに、これからも注目していきたいと思う。

なんのきっかけだったか、すっかり失念したが、たまたま小生、SNSで柯煒林(ウィル・オー)をフォローしており、鑑賞後に「観たよ!」のメッセージを会場ロビーに掲出されていたポスターの写真と送ってやった。ほどなく「hahaha」と返信あり(笑)。この「hahaha」は、何を意味してるんでしょうな(笑)。

そういえば、「数碼港(Cyberport)」で撮影されているシーンがあった。香港のシリコンバレーとして、鳴り物入りでオープンした町だったが、運悪く、リーマンショック直後で思うようにはいかなかった。今はどうか知らんけど。小生、とある観光雑誌で、この不憫なる数碼港を「海辺で、芝生公園もあって、お子さんのいるご家庭には絶好の環境」と取り上げたところ、知人がさっそく引っ越して「ええ記事をありがとう!」と喜ばれたのを、思い出した…。

《散後》Apart


(令和2年3月7日 シネ・リーブル梅田)



 


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