【上方芸能な日々 文楽】第413回 公演記録鑑賞会

人形浄瑠璃文楽
第413回 公演記録鑑賞会

久々に記録片の鑑賞会に行ってきた。開催日が平日になることが多く、毎回は来れない。頼むから休日開催にしてくれ。

開場の約1時間半前に文楽劇場に到着したが、すでに並んでいる人あり。まあ、大行列と言うほどでもなかったので、近場で昼飯食って、開場40分前くらいに再び現地へ。入場整理番号は「19」。いかにも南海ファンらしい番号(笑)。前回は開場10分前に来て、100番台だったから、学習効果があったということだ。なにせ159席。乗り遅れると、ロビーでモニター鑑賞になってしまう。もっとも席にありつけたところで、過去映像を見るわけだから、大した差はない。とは言え、ちゃんと座りたいですわな、そこは。

『壺坂観音霊験記』

平成元年1月公演。公演期間早々に、先帝がお隠れになる。確か文楽も数日間は公演を自粛していたと記憶する。そんな中での舞台。まさに平成がスタートして数日後の舞台だろう。その平成も、今上陛下の譲位により、もうすぐ終わろうとしている。メンバーを見ても、30年の月日を感じずにはおれない。

「土佐町松原の段」
三輪、弥三郎
若々しい三輪はんと、懐かしい弥三郎はん。この時期の三輪、弥三郎のポジション、今なら誰に当たるかなぁ、などと思いめぐらせながら観ていた。この後、すっかり並びもの専属みたいになった三輪はんだが、思い起こせば、この頃は、端場とは言え、ソロで勤める場も結構多かったよなぁ…。

人形は顔出しではないが、お里は蓑助師匠。茶店の嬶(かか)が、現在の文昇、当時の清三郎。

「沢市内より山の段」
切:越路、清治 ツレ 八介
絶品の越路師匠。この年の秋に引退してしまうのだが、もっともっと聴いていたかった、と今さらながらに惜しむ。最近は脂が乗ってきた呂勢をけん引する演奏を聴かせる清治師匠だが、この頃は、越路師匠と真っ向からぶつけ合っていた。いいコンビだった。

人形はこれまた絶品の蓑助師匠のお里。縫物をするお里の指先はもちろん、針の孔にまで神経が行き届いた遣いように陶酔する。蓑助師匠が一番動けていた時代だろう。とにかく所作の一つ一つに無駄がなく、お里の気持ちがグイグイと迫ってくるのだから、神業だ。沢市の玉男師匠は対照的に、ぐっと抑えた沢市で、このコントラストこそが、この当時の「黄金コンビ」たる所以だろう。

越路、蓑助、玉男という三人の人間国宝が織りなす至芸に、目も耳も釘付けになった。ああ、30年前にこんな素晴らしい舞台を観ていたんだという感慨。あまりにも素晴らしすぎるのだ。やっぱり、最近、文楽に身が入らないのは、若いころにこういう素晴らしい舞台を、毎公演、普通に観ることができたからなんだろうと思う。当代の技芸員各位には、何の罪もないのだが…。

それと感じたのは、観客の劣化。他人さんのこと言えるような達者な見物人じゃないけど、30年前の映像から伝わるのは、浄瑠璃の「ここ!」という場面で、ちゃんと拍手が起きていたということ。今、拍手が起きるのは、人形がトリッキーな動きしたときくらい。演じる方も大変だ、これでは…。

『釣女』

こちらは平成2年8月の文楽劇場でのもの。大阪は花博に沸き返っていた時期。そして日本はバブル絶頂期。小生はまだ20歳代。これまでにも何度か記したが、外回り営業中に、ふらっと文楽劇場に来て、ちょこっと観て、会社に戻って、さも「今日も一日頑張りました!」ってな顔してた、悪い丁稚2年生だった(笑)。そんなことしてても、数字は上がってゆく一方だったという、やっぱりかなり狂ってた時代…。

太郎冠者:咲
大名:松香
美女:三輪
醜女:伊達
喜左衛門、燕二郎(現・六代燕三)、団治(現・宗助)、喜一朗(現・勝平)

いやいや、もう皆さん若い! 喜左衛門師匠も元気そのものだし、愛弟子の勝平は髪の毛フサフサだし(笑)! 何と言っても、喜左衛門師匠のワキを固める若手3人は、今や、中堅からベテランに域に入ろうという人達。当時は、フレッシュな面子だったのだから、30年かけて積み上げてきたものは、ウソをつかないということだろう。

伊達はんも「ここは、絶対に伊達太夫やないとあかんでしょ!」ってところ、ある意味、おいしいところに登場して、客席を笑わせてくれる。こういう役割の太夫、今はおらんねぇ…。松香はんとのイキも合って、やりとりが楽しかった咲さんは、「入れ事」でちゃんと「花博」入れてくる(笑)。

人形も元気な文吾はん、玉松はんのイキも良く合い、舞台全体がうなっているよう。醜女の紋壽はんも、これまたおいしい役どころを、目一杯見せてくれるサービス精神というか、さすがに「心得てはる!」というか…。

今回の二本はどちらも、奇しくも平成が始まったころの舞台だった。繰り返すが、30年の歳月は、残酷であり、一方でコツコツと積み上げた者には、きちんとご褒美もくれる。そんなことを思い知らされた二本の舞台記録片だった。

で、お前のこの30年はどうやったかって? つまんないこと聞きなさんな!(笑)

(平成30年12月1日 日本橋国立文楽劇場小ホール)



  


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