【毒書の時間】『万両ノ雪 ─ 居眠り磐音江戸双紙 23』 佐伯泰英

平成~令和で最も売れている時代小説『居眠り磐音江戸双紙』は、50巻を超える壮大なる時代小説のシリーズで、文庫書下ろし作品としては、異例のロングランシリーズである。もっとも、作者の佐伯泰英は、これ以外にも『酔いどれ小籐次留書』『吉原裏同心』など「磐音シリーズ」同様に、ロングランの文庫書下ろしシリーズがあり、いずれもNHKでドラマ化されている。

で、「磐音の第1巻を読んだのがいつやったかな」と、「読書メーター」を遡れば、なんと2015年11月。その間に初版の双葉文庫版は完結し、息子の空也のシリーズが始まり、「これも読まなあかんわな~」とのんきに構えていたら、文春文庫から「磐音」シリーズの「決定版」として新装なった版が発行され、これももうとっくに全巻完了という塩梅で、まったく追いつけていないという事実(笑)。

とにかくストーリー展開が面白く、時代小説であるということを忘れるくらい、劇画的な内容。なにより、江戸の町のことや、この時代の背景、風俗など「プチ知識」が満載で、ページをめくる手が止まらない。文春文庫版の「決定版」で読むのもいいが、BOOKOFFなどの古書店では双葉文庫版が、110円で買えるので、小生はもっぱらこっちで揃えている。ぜひ、お手に取っていただきたいシリーズである。

『万両ノ雪 ─ 居眠り磐音江戸双紙 23』 佐伯泰英

双葉文庫
*版元品切れ重版未定(文春文庫にて「決定版」発行中)

そもそも、このシリーズを読もうと思ったきっかけは、香港在住中にさかのぼる。土曜の夜、何気にNHKワールドプレミアムの土曜時代劇『陽炎の辻〜居眠り磐音 江戸双紙〜』を観ていたら、いっぺんにハマってしまう。主人公の坂崎磐音がなんとも魅力的な人物なのである。架空の藩、豊後関前藩をわけあって脱藩し、江戸で浪人暮らしの日々を送るが、本人が魅力的なら周囲の人も魅力的。剣呑な事件が起きるが、直心影流の達人である磐音が「居眠り剣法」で解決してゆく。

そして8年後の2015年、ようやく原作を読み始めたら、これがまたドラマに劣らず面白い。磐音をドラマで演じた山本耕史に置き換えてしまうのは、小生的にはよろしくないが…。余談ながら、現代劇はいざ知らず、時代劇のキャスティングについては、NHKは原作をよく解釈していて、いいキャスティングをすると思う。ただし、大河はダメダメだけど(笑)。

そして今回。50数巻に及ぶシリーズの前半戦終了と言うべき23巻『万両ノ雪』を読了。このシリーズの特徴として、各巻タイトルは必ず「●●ノ■」となっている。また、表紙カバーのイラストがその巻の代表的なシーンを描いているのも特徴。しかし、8年かけてやっと半分。この先、どれほどかかるやら…。生きているうちに完結まで読めるのか(笑)。

念のため、1巻の『陽炎ノ辻』のあらすじをざっくりと。そこを知れば、間の出来事を飛ばしても大丈夫(笑)。

豊後関前藩(架空)の坂崎磐音と幼馴染みの河出慎之輔、小林琴平が、江戸在勤を終え国元へ戻った直後、藩騒動に巻き込まれ、琴平が慎之輔を、琴平を磐音が斬り殺してしまうところから長い話が始まる。磐音は事件がきっかけで脱藩。江戸で浪人として長屋で暮らし、剣術の腕を買われ両替商「今津屋」の用心棒と鰻屋での鰻割きの職を得る。穏やかな人柄により周囲から信頼を持たれる磐音だが、田沼政策・南鐐二朱銀を巡る騒動に巻き込まれ……。

坂崎磐音は、師の佐々木玲圓の養子となり、佐々木道場の跡を継ぎ、今津屋吉右衛門と後妻のお佐紀さまの間にも跡継ぎが誕生。これにてひとまず、前半戦終了。

豊後関前から江戸への帰途、磐音とおこん夫婦は一芝居打って、南町の年番方与力、笹塚孫一が長年喉につかえていた事件を解決へと導くのだが、「拙者は南町奉行所の者ではござらぬ…」と困惑気味に言いながらも、結局は南町の役に立っているのだから、磐音さんもお好きですな(笑)。

この巻でシリーズ完結でも何ら問題ないけど、「城中のさるお方=田沼意次とその一派」の暗躍という伏線を、ここまで散々仕掛けているので、今後はこちらの回収が中心となっていくのだろうなと予想。

巻末には、長いあとがきとして、筆者が若き日に闘牛士を追って、妻子共々スペインを流浪していた時代の逸話が書かれている。これと磐音シリーズがどうつながるのかは、いまひとつ説得力に欠けていたが、そこを抜きにして、ひとつの読み物として接するなら、なかなか面白いものであった。今や時代小説の大家である筆者の、若き日の意外な一面を見ることができた。

次は、スピンアウト&まとめ集の『読本』を経て、後半へ突入しようと思う。さてさて、全巻読み終わるのはいつになることやら(笑)。

(令和5年4月1日読了)

坂崎磐音の嫡子・空也。
名を捨て、厳しい武者修行の旅に出た若者の前に待ち受けるものはーー。
長編時代小説の金字塔「居眠り磐音」に続く「空也十番勝負」シリーズ、〈決定版〉として刊行開始!

 


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