【毒書の時間】『小さな場所』 東山彰良

<青天白日のもとに。久々に台湾へ行きたくて、行きたくて…(2008年4月、中正紀念堂 筆者撮影)>


今月は、どういうわけかペースが上がって、4冊目である。で、その4冊目は大好きな街、台北が舞台。台湾を舞台にした、主人公が子供の作品と来れば、東山彰良ってくらい、ほんと、読ませる一冊に仕上がっている。香港にいた頃は、毎月のように台北へ行っていた。仕事はもちろん、故宮に入り浸りとか、目的もなく街をうろつくとか、おねーちゃんwwとか。飲屋のおねーちゃんも必死だわな、そりゃ(笑)。ボトルキープしてる酒、どんどん飲んでもらって、次々とキープしてもらわなあかんねんし(笑)。週末には「今度いつ来るか?」って電話かかって来るんやから(笑)。と言われても、こっちも深圳だ、マカオだ、広州だ、恵州だ、上海だとあちこちと行かなあかん所があるんで、週末は忙しいのだよ(笑)。思えば、若かったねぇー、俺も(笑)。

『小さな場所』 東山彰良

文春文庫 ¥803

台北滞在中は、メシは大体、本作の主人公・小武(シャオウ)の両親がやってるような一膳飯屋で食っていた。大体、通りの端っこにある店が多かったかな。理由はわからないけど、多分「大通りに一番近いから流行っている店やろ」くらいの感覚。あとはまあ、できるだけ清潔そうな店(笑)。そんな店をよく利用してたから、小武の両親の店の雰囲気が想像できる。壁に貼られたメニューまで頭に浮かんでくるので、読みながら「この店でメシ食いたーい!」って思ってしまう。

舞台となっている台北は西門町にほど近い紋身街の醸し出す空気も、よくわかるので、作品に一層没頭できた。大体、ああいう街の一膳飯屋には、小武の父親が「あんな風になっちゃいけない」と小武に言う、珍珠奶茶屋(タピオカミルクティーカフェ)の阿華(アファ)や小猪弟(ピッグボーイ)のような輩がいて、けたたましい音量でワーワーと言い合っているし、探偵の孤独さんのように、どこかおどおどした、それでいて街にどっぷり溶け込んでいる中年男性もいる。そして全てを見通したような寧姐(ニンねーさん)のような、どんと構えたおねーさんがいる。そんなクセのある「あんな風になっちゃいけない」大人たちの中で育った小武は、小学生にもかかわらず、大人みたいなことを口を叩き、大人に拳骨食らわされている毎日だ(笑)。

紋身街で起きるいくつかの出来事を綴った短編連作で、その出来事を小学生の小武の目を通して語るというスタイル。これは作者の「台北もの」にほぼ共通しているのではないかな。そこはさすが、台北育ちの作者、すべてが生き生きとしていて、匂い、重たい空気、粘り気のある風、台湾語交じりの普通話、台湾演歌…。行間から台北が溢れかえっている。

解説で澤田瞳子が書いているように、台北に限らず、どこでもあるような出来事が綴られているにもかかわらず、小武が言い放ったように「それが台北さ」と思ってしまう出来事の数々ではあったが、しかし、運とかツキから見放されたような最期を遂げた、紋身街で燗貨(あばずれ)呼ばわりされていた游小波は、気の毒でならないし、自分を馬鹿にした上、事故の原因を作った(と思しき)教え子に復讐するラッパーの原住民部族教師の話が印象的。まさに「それが台北さ」というエピソードだった。

久々に東山作品を読んだが、この「台湾的リズム」はこの人ならではのもので、小生にとっては非常に心地よく、これからも読んでいきたい作家の一人である。

(令和5年3月28日読了)
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台湾を舞台に贈る青春ミステリの金字塔。
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