【上方芸能な日々 文楽】令和3年夏休み文楽特別公演 第二部

人形浄瑠璃文楽
令和3年夏休み文楽特別公演 第二部

夏休み公演の第二部は楽しみにしていた『生写朝顔話』の“半通し”。「半」のどこを通しでやってくれるかで、期待度が大きく変わって来るし、舞台全体の印象や、誰に主眼を置いた展開にしたいのかなんぞも変わる。「どっからでも楽しめや、おい!」とおりを受けようなもんだが、好きな場面ってのは、人それぞれなんで、そないに怒らんといてちょうだいってハナシだ(笑)。

で、今回はこの物語で大好きなキャラ、萩の祐仙が登場!とくれば、「嶋田宿笑い薬」が上演される。勤めるは咲さん。これは期待度が大いに高まる。

前回、第一部をあれこれ記した際にも触れたが、今公演から番付が大刷新。カラー見開きで『生写朝顔話』のストーリーが舞台写真を交えて紹介されている。なんとサービス精神にあふれているのでございましょうか!これなら、初心者でも舞台に入りやすいってもんだ。ベテランでも観劇手引きとして非常に重宝だ。

生写朝顔話

「明石浦船別れの段」

呂勢 清治 琴:清公

いきなり「別れの段」で、番付が不十分だったころは「なんでやねん!」と思う客も多かったと思うが、見開きのストーリー紹介で救われる…かな? とにかく出会ったり、別れたり、再開したり、すれ違ったりと忙しい展開である、この物語は。深雪がグイグイ押しの一手に対し、阿曾次郎が深雪を好きではあるものの「ちょちょ、そう一気呵成に来られても」と、やや引き気味なのが、おもしろし。ただ、それはこの後の悲恋のストーリーの始まり。呂勢が語り、清治師匠がピーンと決めてくれる。琴の清公のサポートもよし。

人形では、ツートップはさておき、船頭の簑悠がよかったなあ。若いのに味わいのある遣い方をするね。

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「薬売りの段」

希 勝平

この段があるから、後の「笑い薬」が生きてくるのは言うまでもないんだが、希とチャリ場って合うのかな~?と、やや気になっていたが、始まってみればどうってことない、リズム感よく、ちゃんとやってはった(笑)。そこは勝平のリードも上手だったわけだけど。気になったと言うか、「ほかにネタないんか?」と思ったのが、人形で「密です」のプラカード出して、野次馬をさばくところ。言うても人形浄瑠璃。「密」なほどもツメ人形は出ていない。客席の反応もよくなかった…。

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「浜松小屋の段」

呂 清介

それにしても、深雪改め朝顔が住まいとするかまぼこ型の掘っ立て小屋の裏ぶれ具合は、どうよ(笑)。哀れである。しかし文楽の舞台、あのタイプのボロ家の頻度が高いね(笑)。そして、「放送コード」完全NGな差別用語連発や障碍者への侮辱行為の数々…。痛ましいなあ、深雪さん。乳母の浅香との再会(これがなんとも深雪の心情がつらい…)もつかの間、またも深雪に試練が…。ここも終盤に後段への伏線ありで、ぼーっと昼寝してる場合じゃなんいだが、どうしても時間的に…。また、呂太夫のトーンが心地よいのよね。

人形では悪者の輪抜吉兵衛を遣った簑志郎が光った。

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「嶋田宿笑い薬の段」

さあ、お待ちかねの笑い薬。目覚めなければ(笑)。今回は、この場はこの人しかない!という咲さんで。前回、観た時は藤太夫(当時はまだ文字久)、祐仙を勘十郎さんが遣い、客席も大きくうねったんだが、今回はどうなるかな。

中 南都 清馗

祐仙のキャラを客にインプットする意味で、南都さんの語りはめっちゃよかった。清馗もそれをよく助ける演奏。後に控える師匠へよいバトンタッチができたのではないかな。一門のチームワーク良し!(織さんの弟の清馗も咲一門みたいなもんですよw)

奥 咲 燕三

比べても意味なんだが、前回の文字久太夫がやってる本人が一番面白がってるんじゃないかってくらい、客席に笑い薬を散布しているかのような感じだったが、今回の咲さんは「笑い」とは違い、普通にいつも通りに浄瑠璃を語ってます、って感じだった。だから客席は爆笑ではなく、腹の片隅で「グフフフwww」って感じの笑い。どっちがいいかは好みの問題だし、どちらも浄瑠璃。

人形は前回が勘十郎さん。変幻自在と言うか波状攻撃かけてきて、浄瑠璃の笑いと見事に融合していた。今回は簑二郎さんで。この人も百戦錬磨の域に達しており、舞台狭しと動き回って咲さんの「グフフフwww」な笑いとかみ合っていた。それにしても、この足遣いの身体能力のすごさよ!

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「宿屋の段」

千歳 富助

実質上の切場。千歳太夫は「そないに気張らんでも…」という傾向がここかしこにあるものの、たっぷりと聴かせてくれた。富助さんの三味線がさらに語りを引き立たせる妙が実に味わい深い。ここで、深雪と阿曾次郎(この段では駒沢次郎左衛門)の再開と相成るわけだが、駒沢としては追われる身ゆえに「俺だよ、俺!」とすっきりさせるわけにもいかず…。去り際に言う「テ残念至極」の一言に思いがこもる。

さて出たよ。文楽(歌舞伎も)あるあるのひとつ、「〇〇生まれの男子(女子)の生血(肝臓とかも)を飲めば、病はたちどころに癒える!」ってパターン。こういう無理っぽい設定、強引さも文楽の面白い所。また、こうしないといつまでたっても話が終わらなかったりする(笑)。ここでは「明国渡来の薬を甲子の男の生血で飲めばどんな眼病でも治る」。託された徳右衛門はいかに処方するか…。お次の段をお楽しみにってことに(笑)。

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「大井川の段」

靖 錦糸

奴関助ってのが駆けつけるが、こやつは今の今まで、何をしてたんだろうな…。と色々突っ込んだりいちゃもんつけてては、芝居は楽しめませんわな(笑)。関助はさておき、ここは引退された簑助師匠の深雪を勘十郎さんの深雪に重ねながら、舞台に酔うというのがよいかと。実際、深雪は素晴らしく、命をなげうった「甲子の男」戎屋徳右衛門に親子の「情」と武士の「忠」を感じる。勘壽さんの好演だった。一気に物語がハッピーエンドに向かい始める、最後はどうなる?ってところで寸止めするのが、この大井川(笑)。

ということで、『生写朝顔話』の「半通し」を観た。もう1回観ておきたかったが、このご時世、なかなか足が向きにくいと言うのが正直なところ。好きな人間でもこうなんだから、一見さんを呼び込むのは益々難しい時代ですわな…。

ちなみに、昔々のその昔、「生写」を「いきうつし」と読んでいたのは内緒(笑)。そういう人多いでしょ(笑)。

(令和3年7月19日 日本橋国立文楽劇場)


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【出演】
「宇治川蛍狩の段」:豊竹小松大夫、鶴澤道八、吉田栄三、桐竹亀松、吉田簑助 ほか
「宿屋の段・大井川の段」:竹本越路大夫、野澤喜左衛門(2代)、豊竹呂大夫・野澤勝平(=野澤喜左衛門(3代)、桐竹紋十郎(「大井川の段」は豊松清十郎(4代))、吉田栄三 ほか

[昭和45(1970)年6月朝日座で収録]


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