【反送中】8月のあれやこれや(3)「燒街衣」「反暴力、救香港」「光復紅土」

アイキャッチ:MTR中環(Central)駅の出口に放火する勇武派。今はまだ市民は理解を示しているけど、こんなこと続けていたら、早晩、支持を失うよ(端傳媒)>

逃亡犯条例改正案の「撤回」発言があった後も、相変わらずな香港。催涙弾も通常稼働。9月8日は米国総領事館へ「トランプさん、香港を救ってちょーだい」デモ行進。そう言えば、日々発射される催涙弾は多くが米国製だとか。「人道的に」どーのこーのとカッコイイこと言いながら、香港へどんどん「武器輸出」している米国。いやもう、世の中の構図は複雑怪奇ですなぁ(笑)。

デモ後はお決まりの勇武派と警察の衝突。すぐに駅を封鎖したり衝突発生地点の最寄り駅を通過させたりするから、最近は「vs警察」に加え「vsMTR」の闘いも加わって、ますます「どーでもええわ」と思っている市民は大迷惑を被っている。もっとも、「闘い」と言っても、MTRはただただやられるがまま。多くの駅で券売機や自動改札が破壊されるわ、放火も頻発すわで、回復に相当な時間と費用がかかる模様。ま、いいでしょ。こうした費用はやがて運賃値上げというかたちで、市民が負担を強いられるのだから、好きにやっとけ、ってところだ。

と言うことで、8月の振り返りに。って、もうかれこれ1か月前のことなんだけど、そこは昨今のネタもからめつつ…。

伝統の宗教儀式から催涙弾に発展

旧暦7月14日にあたる8月15日は、「盂蘭節」。つまりはお盆である。旧暦の7月1日に地獄の門が開き、鬼=お化けがこの世に現れる。そして同7月30日に鬼たちが帰り、地獄の門が閉まる。盂蘭節には先祖の霊も戻って来るので、その供養が行われる。また、中国では古くから「盂蘭節には街の至るところに鬼がいて人間に悪さをする」と考えられており、道端に果物や線香を供え、あの世用の紙幣や紙の衣服なんぞを燃やして鬼たちを慰める風習がある。それを「燒街衣」と呼ぶ。

この時期、こんなことを道端でずらーッと並んでやるので、街はおのずと煙が充満する by “香港經済日報”

ってことで、ネット民の呼びかけにより、深水埗(Sham Shui Po)の街で、集団で行おうという「深水埗激光燒衣積陰德祈福晚會」が開催された。

香港では「宗教集会」については、警察への届けがなくても「集会」を開くことができる。そこに目を付けての要するに「反警察集会」というわけだ。色々と知恵を働かせはる(笑)。

宗教行事だから警察も遠巻きに見てるしかできない。でも、必ず起きるであろう衝突に備え、装備はそれなりに。クソ暑い中、まことにご苦労さんであります!

なぜ、わざわざ集団でこのような儀式を行うのか?その答えの一つに、前回記した「扮装逮捕」の一件がある。「盂蘭節には街の至るところに鬼がいて人間に悪さをする」という考えが、「デモ隊の中に『鬼』がいて悪さをする」ということにつながるわけだ。さらに、この前日、空港デモで二人の「疑わしい」大陸人をデモ隊は一時拘束した。あの二人もまた「悪さをする『鬼』」という見立てだ。「もうこれ以上『鬼』が悪さをしませんように」という祈りをみんなでやろうということらしいが、いつも言うが「見ている分には楽しい人たち」だ(笑)。

仏さんの慰霊だけしておればいものを、そこはやっぱり根底には「反警察」の思いがあっての「深水埗激光燒衣積陰德祈福晚會」だし、「激光」と謳っているから以前にご紹介した激光指示筆(レーザーポインター)を深水埗警察署に当てまくる。となると、あっという間に警察署包囲ということになって、これはもう立派な「不法な集結」であり「不法な道路占拠」だから、警察は排除に乗り出す。排除と言えば、そりゃもう催涙弾以外にないでしょ、このご時世(笑)。

これは深水埗という町の宿命かもしれないが、勇武派以上に街坊=町の衆のパワーがすごいので、「催涙弾やるよ!」と警察が「黒旗」を上げた瞬間に、ワーッと街坊は自分の家や脇道へ一時退避する。それを見越したのか、この日の催涙弾はそういう脇道へも容赦なく撃ち込まれた。上の写真は、普段は電機パーツなどを売る屋台が並んでいるような道だが、そんなところもご覧の通りだ。

誰がカネを出しているのかは知らないが、立派な防毒マスクを装着している勇武派と違って、無防備な一般市民は、こうやって催涙煙を吸わないようにするしか手がない。

メシ屋の中まで催涙煙はやってくるから、客はおちおちメシなど食ってられない。マクドも10時過ぎに早々と店じまい。住民からは警察に大ブーイングの嵐で、「粗口=スラング」を警察官に容赦なく浴びせかける。それにしても上の写真で煙そうにしているおっさん、どことなく阿牛(牛くん)こと、激進民主派区議会議員の曾健成、もしくは俳優の林雪(ラム・シュー)によく似ている(笑)。

西九龍中心(Dragon Centre)は、ショッピングモール内をジェットコースターが走ることで、わりと日本でも有名。そこへつながる歩道橋にも催涙弾が撃ちこまれ、一般市民も餌食に。「街坊はうろうろ出歩くな!」ってことか?

警官隊は催涙弾を撃てるだけ撃って、午後10半ごろには撤収。その後、再び住民たちは「燒街衣」を始めたというから、街坊は打たれ強い!

建制派「反暴力、救香港」集会に47万6千人!

中國人民政治協商會議全國委員會香港地區委員(=港區全國政協委員)や香港特別行政區全國人民代表大會代表(=港區人大代表)らが組織した「守護香港大聯盟」による「反デモ隊集会」とでも言うべき「反暴力、救香港」集会が8月17日午後5時から金鐘(Admiralty)の添馬公園(Tamar Park)で開催され、主催者の発表でなんとびっくりの47万6,000人(警察発表:10万8千人)が参集した。

by “中新社”

7月20日にも開催された同様の集会「守護香港」よりも31万人も多く集まったというから、「バイト料」も相当かかったんじゃないかと(笑)。港區全國政協委員港區人大代表、すなわち、香港から中央の政治にかかわるメンバーということだから、ひょっとしたら中央からの支援もあったのかな…。

建制派の集会といえば、6月の警察を支持する集会「撐警集會」には、ベテラン人気歌手で紅白歌合戦にも出場したことがある譚詠麟(アラン・タム)をはじめ、人気歌手で俳優の鍾鎮濤(ケニーB=B哥)らが壇上から「警察支持!」を訴えたほか、国際的俳優の梁家輝(レオン・カーフェイ)も会場に姿を見せるなどして、多くの香港市民を「失望」させた(笑)。翌日の返還記念日の200万人デモの沿道には、譚詠麟鍾鎮濤、二人が所属していた人気バンドThe Wynnersの「LP」が大量放棄されていたのを各メディアが報じていたが、LPは捨てても、CDは持っているんだろ(笑)。ちなみにB哥は今回も参加!

壇上で挨拶した人たちの顔ぶれを見れば、大財閥の偉い人ばかりなのでカネは豊富にある。スナック菓子や市民からの差し入れで食いつなぎながら警察と向き合う勇武派とはえらい違いだが、最後の最後は「お金」がものを言うのだと思うな。意外とこの騒ぎの落としどころは、カネかもしれないよ。だって香港だもの(笑)。そこは続々と「警察支持」「特区政府支持」の声を上げる多くの芸能人を見れば、わかるでしょ(笑)。700万人市場の香港よりも、14億人市場の大陸よ。

九龍倉集團(ワーフグループ)の吳光正(ピーター・ウー=右から二人目)ら錚々たる顔ぶれが揃う

香港経済を牛耳る面々が揃ったこの集会。とは言え、ビジネスの多くを大陸で展開している面々でもあり、そこはやっぱり上述の藝人世界と同様、お金ですわな(笑)。大陸ビジネスを失うわけにはいかないからねぇ…。「中央から圧力があって参加したんじゃない」とその面々は言う。もちろん直接的な圧力はなかっただろうけど、ビジネスのことを思うと、こっちの集会に来るのが道理というもの。

「香港では今、暴力の嵐が吹き荒れている。黙っていては更に暴力は拡大する。今こそ暴力反対の声を上げねばならない!」と、香港最大にして世界有数のデベロッパー集団、九龍倉集團(ワーフグループ)の吳光正(ピーター・ウー)前主席は語る。余談ながら、黒装束で勇武派やって警察と対峙している子たちも、結構な数がこのワーフのアパートメントに住んでいたり、グループ企業で働いていたりするわけですよ。

雨が降ろうが風が強く吹こうが、「中国支持」の人たち。案外、民主派デモにも参加している人も多いんじゃないかと(笑)

全人代常務委員譚耀宗全国政協常務委員香港友好協進会会長唐英年(ヘンリー・タン)、九龍倉集団呉光正と息子の呉宗權(ダグラス・ウー)主席、大手デベロッパーの信和集團(Sino Group)の黄志祥(ロバート・ン)主席と息子の黄永光(ダリル・ン)副主席、香港ケーブルテレビなどを傘下に持つ有線寬頻(i-CABLE)主席にして大手デベロッパーの遠東發展集團(Far East Consortium)主席の邱達昌、多数の企業の経営者であり慈善家で香港富豪14位の朱李月華ら、香港全公務員のトップである林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官よりも「顔」の利くメンバーが揃うと圧巻である。結局世の中、お金ですな(笑)。

「光復紅土」、紅磡と土瓜灣に安らぎの日々を返せ!

この日は、本土派系のデモ「光復紅土,還我靜土」遊行、略して「光復紅土」も実施された。「紅土」とは、九龍地区の紅磡(Hung Hom)と土瓜灣(To Kwa Wan)を指す。なかなかこの辺りも、深水埗同様に下町風情が色濃く残るエリアで、やはり街坊のパワーもある土地だ。啓徳空港時代には、空港へ行くのにバスで必ず通るし、空港がなくなる直前にはしょっちゅう飛行機の写真を撮りに出かけたものだ。

このデモは一連の「反送中」とは少し毛色の違うデモで、特区政府に次の「三大訴求=三大要求」を突きつけている。

1・謝絕大陸團客,還我社區安寧
2・打擊違泊大巴,保障街坊安全
3・譴責議員無能,損害居民利益

近年、大陸旅団の大型観光バスが増え、香港では違法駐車や重大な交通渋滞、騒音、衛生問題、住民と旅団のトラブルが頻発し、香港各地で深刻な問題となっていた。ちなみに小生が長年居住していた香港島南部の田灣(Tin Wan)でも、同様のトラブルが頻発している。「守護黃埔安寧大聯盟」、「關注平價團擾民大聯盟」なる2団体が3月22日、「關注紅磡黃埔土瓜灣旅遊巴及旅客滋擾問題聯合居民大會=紅磡、黃埔、土瓜灣地区における観光バスと旅行客のトラブルにに関する住民大会」が開かれ、旅行業界に物申した。

しかし状況は一向に改善されず、観光バスによる住民の事故死も多発するなど、さらに深刻化してゆく。今回のデモは、一刻も早くこの状況を改善していただきたいと、特区政府に直接要求しようという趣旨で開催されたのだが、一方で「反送中」デモが毎回掲げる「五大訴求」も頭に置いて、ということなので、「地域特性に特化した『反送中』デモ」とでも言うところか。

デモの申請人である李軒朗(ティモシー・リー)は、25歳のいわゆる「90后(1990年代生まれ)」世代である。今、勇武派として警察と向き合う子らと同年代。中文大在学中には、かつては雨傘行動の中心的団体だった香港專上學生聯會(學聯)の秘書長を務めたが學聯では以降は秘書長は廃止しているので、彼が最後の秘書長である。現在は九龍落角(Synergy Kowloon)という地域ミニ政党の主席及び同党の土瓜灣南社區主任という立場である。九龍落角は、汎民主派と協調しながらも、本土派である。

9月14日には、Facebook上で11月の区議会選に立候補することを正式表明しているので、恐らくはこのデモもその足掛かりだったと思われる。ま、そんな背景があっての「無能議員を譴責する」という「訴求」だったのかもね(笑)。若い人もなかなかしたたかなもんだ。そこが香港らしい(笑)。

さて、デモ自体は主催者発表で約2千人(警察発表:3千人)と珍しく警察発表の方が多くなっているのが奇妙だが、とりあえずは衝突もなく、秩序を保って実施された。

ただ、決められたルートをちょいと外れると、色々とおいしい「ネタ」が転がっており、参加者にとっては、これがお楽しみである(笑)。

こちらは立法会の実質与党、民建聯の九龍城支部。デモを警戒して固く閉ざされたシャッターの前には無数の卵の殻。「旅客問題は一向に解決していない!民建聯には投票しないぞ!」との横断幕も貼り付けられ、「無能議員」への怒りが渦巻く。しかしながら、いくら卵が安いと言っても、食べ物をこうも粗末にしちゃいけませんな。

ここにもどんどん生卵が投げつけられる。香港最大の労働組合で伝統的な親中派団体でもある香港工會聯合會(工聯會)の工人倶楽部(労働者クラブ)。まあ、標的にするにはうってつけですわな(笑)。

工聯會工人倶楽部ももちろんシャッターを下ろしているが、そこには「誰が暴徒か?」の張り紙が。1967年に起きた「香港暴動」の火付け役が工聯會だったことから、こういう張り紙が貼られたのだろう。当時、パイナップル(広東語で菠蘿)に形が似ていたため「土製菠蘿」と呼ばれた自家製爆弾を街に仕込んでいたから、こういうことをしたのだろう。当時の社会的状況は、昨年ヒットした華文ミステリ『16・67』(作・陳浩基)が描いている。この辺の香港人の「記憶」が興味深い。だからと言って、こうまで食べ物を粗末にしちゃいけませんね。ま、香港は果物がとても安い土地ではあるけどね(笑)。

デモ参加者の一部は、旺角(Mong Kok)に向かい、彌敦道(Nathan Road)を不法占拠し、警察と今宵も対峙。

警察と向かい合う勇武派。彼の手には金属製のボウルとプラスチック製の手桶。これが催涙弾の「消火」に役立つ
勇武派排除に動き出した警官隊に、沿道の市民が一斉に罵声を浴びせかける。どうやらこの人たちは、勇武派にもっと暴れてもらい、市民生活をズタズタにしてもらいたいようだ(笑)

この日は、布袋弾が1発撃たれたものの、珍しく催涙弾は使用されなかった。こういう日は衝突も過激化しないし、勇武派の撤収も早いから現地Liveも早く終わる。久々に土曜の夜に早寝ができて、よかった(笑)。

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市民同士が殴り合う時代へ…

さて、今、9月15日の夜。この日は当初、申請されていた民間人權陣線(民陣)のデモ行進が集会も含め、警察から許可が出ず。そういうことになれば、今や「不法集結」の常習犯と化した善良なる香港市民の皆さんが、法を犯して勝手にデモ行進を始めてしまうから、まったくよろしくない。罪の意識が皆無だ。

衝突現場へ出撃する水炮車(Water Cannon)

夕刻には、当たり前のように金鐘(Admiralty)の政府総合庁舎前で、勇武派が警察と衝突。催涙弾と水炮車(Water Cannon)で勇武派を排除したが、夜になって炮台山(Fortress Hill)、北角(North Point)がえらいことになっている。「だれがだれを」やっているのか、Now TVの現地Live「Now直播」を見ている限りでは定かではないが、市民同士の殴り合いが多発、多数が流血して救急搬送されいる。

北角は以前にも紹介したが、親中派の大票田であるとともに、福建系の黒社会集団「福建帮」の一大拠点でもあるから、特に物騒だ。第一報では「白衣人(黒社会人士)」が「黒衣人(勇武派などデモ隊)」を攻撃、というものだったが、実際の現地Liveでは、黒も白も青(親中派)も他の色も見境なく、ストリートファイトを展開しており、現場は混乱している。福建語や福建訛りの何言ってるかわからん広東語?も飛び交っているから、住民同士もやりあってるのかもしれないし、おばちゃん同士の罵り合いも起きている。これはカオスだな。

乱闘に記者も巻き込まれる

Liveを見ていて、いつも腹立たしいのが、世界中から集まった記者の存在である。連中の行動が常に警察の動きを阻んでおり、とにかく邪魔なのだ。「いい写真、いい映像を」という気持ちは理解できるが、デモ隊と警察の間に何百人と陣取って、警察のデモ隊排除行動を阻む形となっている。ネットでも「黑記暴徒」という言葉が目立ってきたくらいだ。「黑記」は主に親中系のメディアがよく使う語句で、「暴徒を美化する報道ばかり行うメディア、記者」のことだが、連中の偏向報道ばかりが世界に伝わり、勇武派の暴力行為、破壊行為はほとんど正しく伝わっていないという実情が腹立たしい。

で、北角だが、警察は数名を拘束、連行していたが、殴っていた数はあんなもんじゃなかった。まあ見てるといいよ。早晩、市民同士の殺し合いに発展するから。もう、ホントにダメになってしまったな、香港…。



 


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