【反送中】「撤回」も時すでに遅し & 8月のあれやこれや(2)「駅構内催涙弾」「扮装逮捕」「待ち受け逮捕」

アイキャッチ写真:モール内のテレビで、「撤回」の会見を見る香港市民。「何を今さら」という空気が伝わってくる。お子さんも腰に手を当てため息をついていることだろう(笑)(香港01)>

ようやく「撤回」の言も、時すでに遅し…

中華人民共和国香港特別行政区政府においては、9月5日、市民の間で反発の強かった「逃亡犯条例改正案」を正式に「撤回」すると、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官本人の口からテレビを通して、午後7時に発表があった。香港の何もかもを失ってしまったかのような3か月、「時すでに遅し」である。

民主活動を行う若い世代を中心に、市民からは「五大訴求=五大要求」が掲げられ、「缺一不可」、すなわちそのいずれも欠くことなく受け入れよ、と特区政府に強く要求を突きつけてきたが、そのうちの一つが受け入れられた形にはなった。しかし、逃亡犯条例自体は、6月15日にすでに「棚上げ」が発表されており、改正作業は完全に停止、改正案は来年7月に自動的に失効することになっており、小生は「疾うの昔に終わった話」という理解でいる。

五大訴求は、

<1> 撤回逃犯條例(逃亡犯条例の改正案の完全撤回の要求)
<2> 撤回612「暴動」定性(6月21日の衝突を暴動と定義したことの撤回を要求)
<3> 承諾必不追究反送中抗爭者(デモに参加による逮捕者の釈放や不起訴の要求)
<4> 成立獨立調查委員會,徹查警方濫權濫暴(独立調査委員会を設置し警察隊による暴力の追究を要求)
<5> 全面落實雙真普選(行政長官、立法会の全面普通選挙実施の要求)

<2>以下の要求に関しては、まあ無理だな。と言うか、「要求」ばっかで、「そのためには、市民はこういう面で協力する」とかってのが皆無だ。何様のつもりだ、まったく。林鄭のおばはんも<2>以下の要求については真正面から応じる気は毛頭ないようだ。もっとも、おばはんが応じたくても、中央が「そんなん絶対アカン!」と言ってるのだろうから、無理だ。

by “政府新聞處”

今、ここまで延々と「警民衝突」が続き、勇武派の行動が過激化の一途をたどり、少なからぬ市民も勇武派を後押ししているのは、「実質、終わった話」の逃亡犯条例でなく、vs警察の抗争だ。とくに<2><3><4>の要求実現を求める市民は少なくない。解決しない限り、衝突はさらに続き、週末の度に催涙弾が放たれるだろう。これで、10月1日の建国70周年記念の国慶節も、香港では無茶苦茶なことになるだろう。習近平のメンツ丸つぶれだ。それはそれで、面白いハナシなんだが(笑)。

とにかく「一国両制」なんて土台、無理なハナシなのだ。「50年不変」を待たずして破綻だ。中英交渉に香港人を入れなかったから、こうなったんだ。返還前に付け焼刃的に「民主化」を進めた英国にも責任の一端がある。今回の一件でも中国を一応非難はしているが、「お前が言うな!」「お前のせいじゃ!」ってところだ。


さてさて、8月のあれこれのまとめ第2弾に入ると致しまするかな。

今や警民衝突が日常、深水埗

8月10日(土)は、MTRのかつては「九廣鐵路=KCR」だった沿線を中心に、例の快閃游擊戰=フラッシュモブ作戦で警察を振り回して、ノリノリだった勇武派諸君。翌11日も各地に神出鬼没で、深水埗(Sham Shui Po=九龍)、銅鑼灣(Causeway Bay=香港島)、灣仔(Wan Chai=香港島)、紅磡(Hung Hom=九龍)、尖沙咀(Tsim Sha Tsui=九龍)、北角(North Point=香港島)、太古(Tai Koo=香港島)、西灣河(Sai Wan Ho=香港島)、沙田(Sha Tin=新界)、葵涌(Kwai Chung=新界)、葵芳(Kwai Fong=新界)など、至る所で警民衝突が発生した。まさにMTR路線を縦横無尽に移動し、その先々で衝突を引き起こした格好だ。

楓樹街遊樂場(Maple Street Playground)に続々集結する市民

この日は、深水埗港島東(香港島東部地区)でデモ行進が計画されていたが、警察が「反對通知書=不許可」を出し、公眾集會及遊行上訴委員會(Appeal Board on Public Meetings and Processions)への上訴でも棄却された。開催が認められたのはビクトリア公園の集会だけとなったが、深水埗では午後2時ごろ、デモ行進の起点に予定されていた楓樹街遊樂場(Maple Street Playground)に多数の市民が集まる。

ダメだと言われているのに、勝手にデモ行進を始める皆さん方。全員、不法な道路占拠の罪で逮捕しちゃってください!

せっかくの日曜日だというのに、安物衣料品の買い物客や電脳おたくであふれかえるはずの深水埗の街は、多くの店舗が臨時休業を余儀なくされる。そりゃそうだ。このご時世、いつ何時、大規模な衝突が起きるかわからない。催涙弾も飛んでくる。商売どころではない。しかしそこは「電脳の街」でもある深水埗勇武派が連絡を取り合うのに活用しているTelegramから情報を集め、何時ごろから「危険水域」に入るかを予測している店舗もあるというから、商売人はしたたかだ。

この日最初の衝突は、まずは深水埗から

ってわけで、いつものように、いつの間にやら黒装束のスポーツギア、ヘルメットに防毒マスクという万全の「ファッション」で身を包んだ勇武派が集結し、深水埗を貫く幹線道、長沙灣道(Cheung Sha Wan Road)を占拠。たちまち長沙灣警察署と深水埗警察署も包囲。当然のごとく警察は催涙弾を放って排除行動に出る。これが週末の香港、普通の光景になってしまった…。

深水埗から尖沙咀にデモ隊が大移動。こっち向いてカメラ目線の子、顔出してすまん!文句は『香港01』に言ってくれ!

深水埗エリアでのデモ隊排除行動は、午後6時ごろには完了したが、これはデモ隊が「参りました!」と言ったわけでなく、MTRに乗車した勇武派を中心とするデモ隊は次なる戦場、尖沙咀への移動を開始しただけのハナシだ。

尖沙咀のシンボル、イスラムモスク前を黒装束社中御一行が埋め尽くす!

移動してきた勇武派などのデモ隊は、あっという間に彌敦道(Nathan Road)を不法占拠する。そして午後7時には、彌敦道に面する尖沙咀警察署から催涙弾が連発されるに至る。

尖沙咀警察署から連発される催涙弾を「雨傘陣」で防御する勇武派。ここでは街頭のごみ箱を防御盾代わりに使用。この日で丸二か月になる警察との対峙に、色んな知恵がついてくるのは、非常に興味深いものがある by “South China Morning Post”

ここで不幸な事態が発生する。勇武派の女性に、多くの市民が曰く「警察の布袋弾(ビーンバック弾)が命中」し、女性の右目を直撃する惨事に。当初警察は、当日は布袋弾は使用していないと発表したが、後に訂正した。ただ、この女性の負傷の原因については、いまだ闇の中だ。親中派Facebookでは「女性は強力ゴム鉄砲を使用しており、運悪く自分の撃ったパチンコ球が自分の目に跳ね返ったんだ」と、奇想天外なことを言う。おもろい発想をする連中だ(笑)。

この写真を載せるかどうか迷ったが、一連の衝突を記録しておく意味で載せた

小生は女性が大量出血で苦しんでいる場面を、香港の複数のWEBメディアの現地LIVEで見ていたのだが、「こりゃ、ますます衝突は激化するな」と思った。案の定だ。翌日からの空港デモでは、多くの参加者が抗議の意味で、右目に眼帯をしていた。その空港での騒ぎは、既出の通りだ。

原因がどっちであるにせよ、衝突が継続する限り、こういう不幸な出来事はこれからも度々発生する。ただ、失明の危機にある女性には申し訳ないが、警察はご親切にも色分けした大きなゲーフラを掲げて、催涙弾やゴム弾、布袋弾などを発射する前には必ず「即刻立ち去れ。さもなくば撃つぞ!」との警告を出してくれる。要するに、「去らないなら、この先どうなっても知らないよ!」と警告しているわけで、デモ隊もそれを承知で対峙、攻撃しているはずだから、けがをしても文句は言えないだろう。何でもかんでも警察のせいにするのは簡単だが、勇武派自身にも「自戒の念」というものを持ち合わせてもらいたい。

ちなみに女性側からは9月に入っても医療報告は提出されておらず、どこの誰かも不明だ。警察は、被害者は負傷の状態を明らかにするために医療報告を提供しなければならないと述べ、女性に報告するよう求めたが、その際、女性を逮捕しないと約束することは拒否している。

負傷した女性のものらしきゴーグルには、布袋弾が命中している。ただ、「去らないなら撃つよ」と親切にも警告してくれているところを、去らなかったのだから、こうなっても文句は言えないと思うが… by “Soc REC”
速龍小隊(Special Tactical Contingent)に逮捕される勇武派。手前に耐熱手袋があることから、彼は催涙弾を警察へ投げ返す役目だったんだろう
午後8時過ぎ、尖沙咀を撤退した勇武派は、ある者は銅鑼灣(Causeway Bay)へ、ある者は葵芳(Kwai Fong)へと向かった

尖沙咀で一暴れした勇武派は、MTRに乗り込んで新界の葵芳(Kwai Fong)へと向かった。葵芳という町は、ほとんど「表舞台」に出ることのない町で、公営団地の葵芳邨(Kwai Fong Estate)、海運都市香港の象徴たる葵青貨櫃碼頭(Kwai Tsing Container Terminal)に程近い、という程度の地味な町である。しかし快閃游擊=フラッシュモブはどこに出没するかはわからない。これに警察は手を焼いているのである。だから、排除行動もエスカレートする。

続々と勇武派がMTR葵芳駅に集結し、警察との対峙の時を待つ。だから~、待たなくっていいから、早く家に帰って、マミーの手料理食べてさっさと寝なさいって!一般市民は相当迷惑してるんだから!

まさかと思ったが、ついに「屋内」でも催涙弾がぶっ放される日が来た。

MTR葵芳駅で警察と対峙した勇武派は消火器などで警察を激しく攻撃。一旦は後退した警察側だったが、午後9時過ぎに、一気に勇武派排除行動に移行する。ここで警察は禁断とも言うべき、駅構内での催涙弾発射という行動を採った。

駅構内に逃げた勇武派へ催涙弾を発射する警察。こりゃほとんど戦争状態だ
by “South China Morning Post”

いやはや、えらい時代になったもんだ。もはや「何でもあり」だ。警察を翻弄するフラッシュモブもいずれは通用しなくなると思っていたが、ほぉ~、こういう手段に打って出たか…。これでまた警察への抗議は激化するだろうな…。駅を対峙、衝突の場に選ぶ勇武派も勇武派なら、そこで催涙弾ぶっ放す警察も警察だ。どっちも一般乗客のことなんぞ頭にないようだ。どっちにも一言、「アホですか?」と聞きたい。

港島東も集会からも激しい衝突へ

さて、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)や周庭(アグネス・チョウ)と同じ香港眾志(Demosistō)の一員、謝禮楠が主催したビクトリア公園の集会。こちらはいつも記すように、警察が許可した集会なので、平和的に事は進行する。警察が認めるということは、「衝突の心配なし、主催者が参加者の行動を安全にコントロールできる」ということだ。もし、想定外のことが起きたら、主催者は罰せられるから、参加者もそこはよくわきまえて行動する。その辺が、香港人のいいところなんだが…。

時に激しい口調で抗議の声を上げるが、平和的に進行したビクトリア公園の集会

やがて、うじゃうじゃと勇武派も参集し、ご一行さんは銅鑼灣のそごう前を占拠してしまう。まさにうじゃうじゃと現れる。どこに潜んでいたんだ? だから「曱甴」(ゴキブリ)扱いされるんだ(笑)。

そごうの壁面広告のおねーさんも、「何事が?」と驚いてるではないか(笑)

午後4時半ごろには、そごう前を埋め尽くした勇武派を中心とするデモ隊は、ある一群は九龍と香港を結ぶ海底トンネル「紅磡海底隧道紅隧」の封鎖に向かい、別の一群は灣仔(Wan Chai)方面に向けて軒尼詩道(Hennessy Road)を西進し、警察本部前付近で警察と衝突。警察は催涙弾で排除行動。

すでに慣れたもんで、消火器を持ち歩いて催涙弾を「消火」する奴も出現。それにしてもメディアは勇武派が「かっこよく」見えるアングルでしか写真を撮らない。そして勇武派の狼藉の現場は、メディアにほとんど露出させない。非常にアンフェアだ by “端傳媒”

夜には、親中派の牙城、北角(North Point)で、親中派と思われる市民に黒装束の若者が襲われる事件が発生。北角では、ビクトリア公園で集会が行われている時間帯から、親中派市民や黒社会風の人士に不穏な動きがあり、警察もマークしていた。

MTR北角駅に集結した勇武派一行
勇武派と対決するためか、もしく勇武派に助太刀して親中派、黒社会と対決するためか、北角の住民が続々と集まって、一触即発の危険なムードが漂う

勇武派の多くが、銅鑼灣に戻り始めたころ、封鎖中のそごう前の軒尼詩道(Hennessy Road)で大捕物。小生はLiveで見ていたのだが、なにやら黒装束が黒装束を道路にぶん投げて袈裟固めに仕留めているではないか。「何事?」と思ったがすぐに謎は解けた。勇武派に扮装した多くの警察官が、勇武派を次々と捕えていたのだ。「警察、GJ!」というところだ。

Live映像から逮捕された勇武派の声が聞こえる。「お、お前、警察やったんか…」。まんまとひっかた勇武派多数。このやり方に世間は「なんと汚い手口!」と批判するが、そんなもん、どこの国の警察でも普通にやることやろ?客の振りして売春宿に乗り込んで、おねーちゃんらを一斉摘発するのと同じじゃないか? 批判される筋合いのもんではないはずだ。

簡単に仲間を信じちゃいけませんよ(笑)

銅鑼灣、形勢不利と見たのか勇武派はMTRで東へ移動。鰂魚涌(Quarry Bay)駅で改札をバリケードにして、警官隊と対峙。衝突や催涙弾の発射には至らなかったが、駅はもちろん封鎖され、列車も通過。この時間にMTRで移動したかった人には、迷惑以外の何物でもない。今はまだ、多くの市民は勇武派を後押ししているが、こういうことが積み重なるうちに、支持を得られなくなってしまうぞ…。

さらに東の太古(Tai Koo)でまたもや大捕物。到着して地上に向かう勇武派を待ち構えていた警察が速龍小隊を筆頭に一斉に突撃。ちょうどエスカレーターを上がって来た勇武派一行は、大パニックに。至近距離からの胡椒弾の発射もあったようだが、とにかくエスカレーターから「逆将棋倒し」のように滑り落ちる勇武派を、警察部隊は「一人も逃すものか」と自らももんどり打って落ちながら、次々と逮捕してゆく。これもLiveで見ていたが、こういう場面では、やっぱり訓練を受けている警察官と、そうでない市民=勇武派の差が出てしまう。「ああ、かわいそうに…」と思ったが仕方ない。この日彼らが取った行動のほとんどが、違法行為なのだから。

いつも勇武派と行動を共にし、英国旗を振っていた王おばあさんも、逮捕された…。相手は年寄り、ここまでひっくり返すこともないだろうに…

その後も深夜まで、MTR港島線沿線の西灣河(Sai Wan Ho)、筲箕灣(Shau Kei Wan)で街坊=町の衆と警察の対峙が続き、「紅旗」(これ以上騒ぐと、武力行使するよ!との警告)を掲げる一幕もあった。

翌日の各紙は、この日の「警察三大問題行為」を批判する内容であふれた。

駅構内での催涙弾使用
扮装しての逮捕劇
太古駅での奇襲逮捕における至近距離からの胡椒弾発射

が批判の俎上に上がったわけだが、「そこまでやるんかえ?」という場面も確かにあったものの、世はすでにそういう段階に入っているのである。中央政府が、特区政府が、林鄭行政長官が、警察が、勇武派が、市民が、黒社会が、親中派が、旧来の汎民主派が…。みんなで寄ってたかって、香港をそこまで追い詰めてしまったのである。誰がどうこの「動乱」の火消しをするのか? 誰もいないだろう。

香港の何もかもが崩壊し、狂ってしまったのだ。大好きな香港のこの姿を見るに、ただただ虚しいだけである…。

しかしまあ、香港人は真夜中まで皆元気やねぇ~(笑)。



 


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