【睇戲】『夏、19歳の肖像』(中題=夏天十九岁的肖像)

『夏、19歳の肖像』
(中題=夏天十九岁的肖像)

3月の『恋するシェフの最強レシピ』以来となる久々の映画。

この間も、観たい映画、見逃したら最後、みたいな作品は結構あったのだけど、タイミングがことごとく合わず。もっとも、そのうちの大半はDVDなり、香港時代に買い込んであったVCDなんかを持っているから、いつでも自宅で寝ころびながら観ることができるんだが、そこはそれ、パンフとかポスターとか買いたいじゃないですか…。わざわざ映画館で、小便辛抱しながら2時間じっと座っているのは、そういうのんのためでもあるんですよ。他の観客の様子もうかがいたいってのもあるし…。

で、今回選んだのは、島田荘司原作『夏、19歳の肖像』を 台湾の監督が、台湾、香港、大陸の俳優を使って、台湾で撮影した中国映画 という、なかなかややこしい作品(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

中題 『夏天十九岁的肖像
英題 『EDGE OF INNOCENCE』
邦題 『夏、19歳の肖像』
製作年 2017年

製作地 中国
言語 標準中国語

評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):張榮吉(チャン・ロンジー)
原作:島田荘司「夏、19歳の肖像」(文春文庫刊)
主題歌:『十九岁』黄子韜(ファン・ズータオ)

領銜主演(主演):黄子韜(ファン・ズータオ)、楊采鈺(ヤン・ツァイユー)
主演(出演):李梦(リー・モン)、杜天皓(カルビン・トゥ)、張國柱(チャン・グオチュウ)、馮淬帆(スタンリー・フォン)、柯淑勤(コー・シュウチン)、朱芷瑩(チュウ・チーイン)

島田荘司の『夏、19歳の肖像』って、小生が大学3回生のとき1985年の作品だったのか…。今回、映画化にあたってあらためて文春文庫から新装版が、全面改稿されて発刊されたという。島田センセイも張り切ってはるねんな。

いま、両岸三地(香港、台湾、大陸)は、2000年代に入ってから空前の日本のミステリ作品ブーム。その潮流の中、多くの「華文ミステリ」が生まれる。島田荘司は、新人作家の登竜門として台湾の大手出版社とタイアップし、「島田島田荘司推理小説賞」をスタートさせたのが2008年。受賞者の一人、香港作家の陳浩基が『13・67』を発表し、翻訳版が日本でも大ヒットするなど、「華文ミステリ」の波はじわりじわりと日本にも及び始めている。そんな中で、大御所の作品が気鋭の台湾の監督の手で、映画化されたのが、本作である。

監督の張榮吉(チャン・ロンジー)って、初めてかな? と思ってたら、過去に『共犯』(邦題同じ 2014・台湾)を観ている。あの作品は、なかなかセンセーショナルな内容で、印象深い。

観てないけど、その前作の『逆光飛翔』(邦題『光にふれる』2012・台湾)とは、まったくテイストの違う作品で、多才ぶりを発揮したとして、話題を呼んだ。1980年代の日本が舞台となる作品を、現代の若い台湾人監督がどう映像化するのか、ちょっと意地悪な目線で観てみたい。

男主役の黄子韜(ファン・ズータオ)は、青島生まれだが、韓流グループのEXOなる一派の”タオ”という名の構成員だったとのことだから、バリバリのアイドルなのである。中華アイドルは香港人よりも詳しいのに(笑)、韓流アイドルはまったく知らない(笑)。で、このタオ君、現在はソロ活動をしており、本作の主題歌「十九岁」も彼が歌う。なるほど、醸し出す空気が「西側諸国」的だった(笑)。

+以下、ネタバレがイヤな人は、スルーしてね+

【甘口評】
最初から最後まで、退屈しない作品。

ライナーノーツの監督インタビューで張榮吉(チャン・ロンジー)は「原作が描く1980年代の日本の話を、現代の中国置き換えることが重要なポイントだった」と語っているが、違和感なく「現代の中国の物語」として仕上がっていた(と、偉そうに言う小生だが、原作は読んだことないww)。そこは、恐らくは、原作者、スタッフ、キャストが多国籍にわたったことで、いい感じで「無国籍感」が出たからではないかと思う。

黄子韜(ファン・ズータオ)は、アイドルだけのことはあり、「きれいすぎる男主人公」というきらいも感じたが、女主役の楊采鈺(ヤン・ツァイユー)と、いいカップリングだった。役柄からそう感じたのだろうけど、楊采鈺は他人に見せたくない何らかの「秘め事」を持つ女性というところが魅力的だった。今後の活躍が期待される。

古くからの中華電影ファンに嬉しいのは、馮淬帆(スタンリー・フォン)、張國柱(チャン・グオチュウ)の両ベテラン。

馮淬帆はコメディから功夫ものに至るまで、70年代から香港映画の顔と一人として活躍してきた人。最近では『老笠』(邦題『クレイジー・ナイン』〈初回公開時・荒らし〉2015・香港)、『五個小孩的校長』(邦題『小さな園の大きな奇跡』2016・香港)で元気なところを見せていた。今作では、黄子韜演じる康喬(カンジャオ)の心に触れる言葉を投げかける老人役で、渋い演技を見せている。

張國柱は『牯嶺街少年殺人事件』であまりにも有名。『牯嶺街~』主演で、人気俳優の張震(チャン・チェン)の父親でもある。最近では『喜歡·你』(邦題『恋するシェフの最強レシピ』2017・中国、香港)にも出演していた。本作では楊采鈺演じる女主人公・夏頴頴(シア・インイン)の父親、その実は…で登場していたが、いずれの作品も父親役で、これは多分に『牯嶺街~』の影響だろうと思う。

全体的にスタイリッシュな画に出来上がっており、おしゃれな映画でもあった。英BBCの人気ドラマ『シャーロック』の撮影を担当したスティーブロウスを迎えた成果だろう。

【辛口評】
原作を読んでいない小生でさえ、最初から「真犯人」はわかっていた、みたいな展開に、かなり脇の甘さを感じた。まあ、それでも退屈しなかったから★3つにした。伏線回収での急展開が「そない急がんでもええやん」な展開だった。そのあたりは、監督や脚本の甘さなのか、島田荘司の甘さなのか? そこは原作ではどうなんだろう? と、読んでみたい思いもあるが、積読が多すぎて手が回らない(笑)。

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ヒッチコック『裏窓』がベースにあるのは言うまでもない作品。そんなわけで、超久々に『裏窓』を観たくなるという、思わぬ副産物を生み出してくれた。と、いうことは、結構マニア受けする作品なのかもしれない。

黄子韜「十九岁」MV

(平成30年8月31日 シネマート心斎橋)



 


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