【睇戲】『メイド・イン・ホンコン/香港製造』(港題=香港製造)

第13回大阪アジアン映画祭
特集企画《Special Focus on Hong Kong 2018》

『メイド・イン・ホンコン/香港製造』
(港題=香港製造)


2005年の年末、陳果(フルーツ・チャン)を訪ねて、九龍は太子(Prince Edward)の彼の事務所へ赴いた。2年後に返還10年を迎えるにあたって、「返還をまたいだ香港のこの10年」を監督の目、映画界を通じて振り返ってもらおうという趣旨のインタビューを行うためだ。今から12~13年前に陳監督から聞いた話の数々を、当時のインタビュー記事を読み返してみて、「それほどの変化もないやんか」と感じた一方で、恐らく「劇的に変化した、それも悪い方に」と結論付けたい人たちにとってみれば、それはやっぱり劇的な変化に見えてしまうのだろう。人の心、人の立ち位置というのは、おおよそこんな具合で幾通りにでも解釈の仕方を生むものである。小生が、香港返還の前と後の香港を、実際に現地で生きてみて、最も痛感したのは、このことだ。

ってわけで、その返還の年である1997年に発表された『メイド・イン・ホンコン』が、この度、4Kレストア・デジタルリマスター版として蘇った。4月からは大阪でも劇場公開が始まるので、その時に観ればいいや~、と思っていたら、陳果(フルーツ・チャン)が大阪アジアン映画祭での上映にあわせて来阪し、舞台挨拶があるというので、慌ててチケットを購入したという次第。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題 『香港製造』(4K修復版) 
英題 MADE IN HONG KONG』 [Digitally Remastered Version]
邦題 『メイド・イン・ホンコン/香港製造』[デジタル・リマスター版]
製作年 1997年
製作地 香港

言語 広東語

評価 (旧作に付き、評価はせず)

導演(監督):陳果(フルーツ・チャン)
監制(プロデューサー):劉徳華(アンディ・ラウ)

領銜主演(主演):李璨琛(サム・リー)*出演当時は李燦森、嚴栩慈(ネイキー・イム)、李棟全(ウェンダース・リー)、譚嘉荃(エイミー・タム)

手元に1998年に香港で購入したVCDがあるので、観ようと思えばいつでも気軽に観ることができるのだが、やはりシアターで観ると、感慨無量のものがある。

97年当時、小生は随分気楽に香港ライフを謳歌していた。返還もあったが、所詮は在住外国人の気楽な社会見学であった。週末は必ずと言っていいほど、蘭桂坊(Lan Kwai Fong)あたりで飲んだり踊ったりナンパしたりして遊びふけっていた時代である。自分史の中で、あれほど気楽な時代はなかったと思う。

そんな時代に世に出たこの作品は、電影金像奬でノミネート5部門、受賞3部門、台湾の金馬獎ではノミネート5部門、受賞2部門など、翌年の香港、台湾の主たる映画賞を席巻したのである。「これは観なアカン!」と購入したのが、今も手元にあるVCDである。

以来、「返還三部作」、「娼婦三部作」(これについては、日本では娼婦三部作となっているが、香港では実は三作目は未完成との解釈である)のVCD、DVDをその都度、購入していったのである。

上述のインタビューでは、「返還」「娼婦」に続き、五輪をテーマにした「体育三部作」、長江ダムで水没する村をテーマにした「三峡三部作」の構想もあったが、諸事情で諦めたとあった。出来上がっていれば、どんな「三部作」になっていたのか興味のあるところだ。

さて、『香港製造』であるが、上映後の監督のコメントでは「きれいに修復しないでくれ」とリクエストしたと言う。この作品は劉徳華(アンディ・ラウ)から譲り受けた4万フィートの35mmフィルム、それも様々なメーカーの、いわゆる「賞味期限切れ」のフィルムをいくつもつなぎ合わせて撮ったので、その味わいや質感を4Kレストア・デジタルリマスターすることで損ないたくなかったからだそうで、いや~、そうしてくれてよかったと思った。ただ、監督曰く「きれいすぎる」のだそうな(笑)。

あの独特のざらつき感に、97年当時の香港を感じることができるし、もし仮に、あの当時にデジタル技術があったとして、この物語があれほどの衝撃を世に与えることができただろうか?と思う。

97年当時の沙田(Sha Tin)の公営団地「瀝源邨(Lek Yuen Estate)」には、デジタルで作り出す映像美は似合わない。それではあの生々しく、行き場のない青春、その切なくも美しい終焉を描くことは叶わなかったと思う。

あと、観ていて感づいたのは、香港の「音」であった。あの音は、小生が当時住んでいた部屋から聞こえる音と同じだった。恐らく、離島にでも住まない限り、あの音と縁を切ることはできないだろう。車の洪水、人々のおしゃべりや叫び声、喧嘩、近所のカラオケ、真上を低空飛行するジェット機、銃声、世の中のあらゆる音が激しくぶつかり合い、束になってかかってくるというあの感覚…。

ヒットマンとしての出番を前に、ヘッドフォンで大音量の音楽を聞きながら踊る主人公の屠中秋を演じる李璨琛(サム・リー)が、やたらとカッコよく見える。一切の雑音をシャットアウトして、その時を待つ。

このように、香港ならではの音というのも、この作品の重要なポイントだという事に気づけたのは、やはり映画館で全身で音を感じながら観たからの結果だろう。家で観ていたって、ここには気づかない。よほどの大音量で観ない限りは。

小生は、事あるたびに香港人を「生き急ぐ香港人」と言っている。これは返還前も後も変わりはない。そんな生き急ぐ人たちに向け、この作品が放ったメッセージは、当然人それぞれの受け止め方があったと思うが、少なくとも小生は、「生き急がなくても訪れる時」が必ずある、ということだったのでは?と、改めて思った次第。ちょっとわかりにくいか?自分でもわからん(笑)。

ちなみに、李璨琛(サム・リー)とは陳果(フルーツ・チャン)と会った2年前に会っている。明るくて聡明で話し好きの青年だった。「スケボーで遊んでるところをスカウトされたんです」と、出演の経緯を教えてくれた。そんな彼が、劇中やたらと夢精を放つのだが、そこから漂ってくる臭いもまた、この映画の大きな魅力のひとつである「はじける若さ」の象徴だと思っている。そして、その都度洗濯するマメな主人公でもあった(笑)。

4月からインディ作品の撮影に入ると言う。その後、2、3作はインディ作品が続くだろうとも。「商業映画で稼いで自分の思うようなアート映画を作るという繰り返し。私が商業映画を撮ると、関係者に非難を浴びるんだけど」と笑う。まあ、しっかり稼いで、たまに「おお~!」ってなインディ系を撮って下さい、何をするにもとにもかくにも、ゼニがかかりますからね(笑)。

サイン会の時、「お久しぶりです! ホレ、あの時の俺です」と声をかけたら、「おおお! なんだお前、帰国してたのかよ!」って言ってた陳果監督だが、果たして本当に小生を覚えてくれていたのかどうか、真実は不明だ。ま、覚えてくれていたと思っておくほうが幸福ではあるが(笑)。

《香港製造》(4K修復版) 正式預告片

(平成30年3月15日 シネ・リーブル梅田)


メイド・イン・ホンコン/香港製造 4Kレストア・デジタルリマスター版 [DVD] ¥1,717 (Amazon.com)

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