(photo AC)
読み始めたのが1月6日。読み終えたのが2月28日というロングランになってしまった。
その理由、経緯については、【農暦新年ご挨拶 2026】に記した通りである。なんせドタバタとした「緊急入院」みたいなもんで、いったん帰宅して本を数冊持ってくる、なんてこともできなかった。で、退院してすぐに読了はしたものの、「あれ?どんな話やったかな?」ってな調子で、最初からランダムにページを開けては「ああ、そんなことあったね、そう言えば」みたいな感じを何度か繰り返すうちに、2月の最後の日を迎えてしまったのである。
§こっちも読んでね§
思いのほか長い入院生活となってしまったことで、あらためて本を読むことのありがたみを思い知った退屈極まりない1か月とちょいを過ごしたのあります。
で、伊坂幸太郎の『マイクロスパイ・アンサンブル』だが、単行本で出た時「随分薄い単行本やな。これはもしかしたら文庫にはならないパターンかも…」なんて油断してたが、売れっ子の伊坂幸太郎、油断大敵。しっかり文庫本で、それなりのボリュームで出てきた。こういうのってやっぱり編集者の腕の見せ所ですわな。
『マイクロスパイ・アンサンブル』 伊坂幸太郎
幻冬舎文庫 ¥792
令和7年8月10日 初版発行
カバーデザイン bookwail、カバーイラスト TOMOVSKY
令和8年2月28日読了
※価格は令和8年3月1日時点税込
幻冬舎文庫としては、『アイネクライネナハトムジーク』以来の伊坂幸太郎である。そう言えば、あちらも音楽。斉藤和義とのコラボだった。今作は、猪苗代湖畔で行われる音楽とアートのフェスティバル、第1回「オハラ☆ブレイク」のために書き下ろした短編が、出発点。7編+αに、文庫で追加収録した1編から成る。識者の「解説」ではなく、ライターの吉田大助が聞き手となった「著者インタビュー」が最後に収録されていて、執筆の背景なんかがわかって面白い。こういうのいいね。
TheピーズとTOMOVSKYの楽曲のワンフレーズが作中で色々と組み込まれていてる。これがあま、うまい具合にその場面にピタッとはまっているんだなぁ…。結構難しいと思うのだけど、そういうのをシュッとやってしまうからプロの作家なんだろな(笑)。どれもいい詞だなあと思う。が、すまない!どちらも存じ上げない(笑)。
去年は伊坂センセも作家デビュー25周年というわけで、記念のロゴマークが出版社に関係なく付いている。その帯にはこんなことが書いてある。でもこれじゃどんな話かわからないけど、伊坂ファンからすれば、この「現代版おとぎ話」というフレーズに、伊坂を強く感じてしまう。さらにカバーには、
付き合っていた彼女に振られた社会人一年生、どこにも居場所がないいじめられっ子、いつも謝ってばかりの頼りない上司……。でも、いま見えていることだけが世界の全てじゃない。知らないうちに誰かを助けていたり、誰かに助けられたり。残業中のオフィスで、事故現場で、フェス会場で、奇跡は起きる。優しさと驚きに満ちた現代版おとぎ話。
とあって、まあ読んだ後なら「そうそう、そういうこと」ってなるけど、読む前には「はてな?」である。まあ、カバーの「あらすじ」なんて大体はこういうもんなんだけど。単行本発行時には「(厚みが)薄い本やなぁ~」という印象しかなかったが、やっぱり本は厚みだけでは判断しちゃいけませんね(笑)。
音楽フェスのパンフに伊坂幸太郎の小説が載っているなんて、贅沢なパンフだなぁ。いい記念品になるよな、なんて思うのは伊坂好きとか、小説好きな来場者だけで、あとの人は果たして読むんだろうか?とかちょっと気になるが、何年も継続されたということは、結構な数の来場者がいつの間にか「楽しみ」の一つとなっていて、1年間、続きの物語が待ち遠しいという心持になってゆくんだろうな。
いやあ、いいねこういうの。
年に1回、去年のライブで意気投合した人たちとの再会を心待ちに…。ネットのない時代ってそうだったなぁ、と若かりし頃を思い出す。この連載小説もそういう「仲間」になっていったんだろうな。だから逆に、その「オハラ☆ブレイク」に行ったことがない小生が読んで、果たして面白いものなのか、若干心配ではあったけど、そこは伊坂幸太郎、「決して損はさせません!」という内容で、「ああ、色々と伊坂幸太郎やなぁ」と感じる作品に出来上がっていて、まさに「安心と信頼の伊坂幸太郎」であった。
タイトルが謎かけのようになっているのは、伊坂作品でよくあること。そして「マイクロスパイ」を最初は「マイクロスパイス」と読んでいたのも、小生ではよくあること(笑)。スパイと言うよりは、「秘密工作員」のような二人の世界は、どうもこちら側の世界とは別の世界のようだというのは、中盤以降に確信をもって読み進めることになる。「どこでもドア」みたいなドアを抜けることで、マイクロがこちら側のサイズに。それでもまだ、ちょっと小さいらしい(笑)。
帯にあった「現代版おとぎ話」という譬え、なるほどと思うストーリー。あり得ない話だけど、ほんの少し、心の片隅にこんな世界を信じる気持ちを持っていた方が、人生楽しいんじゃないかなと。でも、謝罪の専門職みたいな課長は嫌だな(笑)。と言いつつ、宝くじで一等の前後賞が当たるという強運だけは、おこぼれをいただきたい(笑)。おまけに全額寄付してしまうなんて、そりゃ課長さん、ある意味「奇行」ですぜと言いたいけど(笑)。
不倫相手だった上司のマグカップを使ってゴキブリ退治した先輩女性社員と、いい関係になってゆく松嶋君だが、かつて彼女さんに「エンジン積んでないよね」と言われたことがある。ああ、なんかそういう人、自分と同じ匂いがして友達になれそうやな(笑)。しかしあのゴキブリ退治の場面は面白かったな。
こういう現実世界の話と、エージェント・ハルトたちがスパイ活動する世界の話が並行して進んでゆく。実際にどちらの世界も経験したのは、ハルトとごく限られた者だけ。現実世界の人間との会話は一応成り立ってはいるが、どこかちょっとずれているが、実際に話が妙にずれてしまいイラつく相手ってのはいるわけで、これからはそういう人に遭遇した場合は、「秘密のドアを通って、別の世界から来た人なんやな」と思うこととしよう。気持ちが楽になるに違いない(笑)。
随所にククって微笑んでしまう場面が散りばめらていて、そこそこに楽しめる物語になっているけど、読んでいるうちに、「はてさて、最後はどんな綺麗な締めくくり方をしてくれるのかな?そもそも、綺麗に終わらせることができるのか?」なんて心配になって来る。伊坂流とでも言うべき、終盤の一気呵成の伏線回収をするようなストーリーでもないし、どうやるんだろう、と思っていたら…。2022年秋の「オハラ☆ブレイク」で配布された小冊子『猪苗代湖でまた会う話』が、ちょっと感動的で「おお、そう来たか」な締めなんだけど、この連載を毎年楽しみに待っていた参加者からすれば「ああ、これで終わりか…」とちょっぴり感傷的になってしまう締め方になっていたんじゃないだろうか。
何年も続く野外ライブに毎年来ていると、「去年一緒に盛り上がったあの人、今年もこの会場のどこかで盛り上がっていてくれたらいいなあ」なんて気持ちになることが往々にしてあるけど、そういうシーンを思い出すなあ…。
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今、売れているのは最新作のこちら。例により、文庫化を待つ(笑)。 |
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。

