【上方芸能な日々 文楽】霜月その4*旧ブログ

早いとこ書いてしまわなアカンと思いつつも、なんだかんだと忙しい師走でございまして、いまごろになって11月の話題です。

お国では、記録的猛暑がウソのような寒さになってきたようで、冬は冬。何よりです。こちら香港は湿気こそ感じなくなったものの、まだ日中は25度近くまでいきます。ま、これも大体そんなもんです。

では、11月帰国時の「上方芸能な日々」の第4弾。今回は文楽です。

幼い頃、おばあはんが「今日は“にんぎょじょろり(人形浄瑠璃)”行ってくる」言うて、よう文楽に行ってましたので、子供の頃からわりとなじみがありまして、自分で観に行き始めてからも、もう20年以上になりますかな…。浄瑠璃がいまだに何言うてはるかわからん場面もありますが、人形見てたら、「ああ、かわいそうに」とか「そんなむごいことしたらアカン!」とか、そういうのは誰が見ても大体わかりますよ。

 

【上方芸能な日々 その4】「平成19年11月文楽公演」 11月25日(日)国立文楽劇場

人形遣いの人間国宝・吉田玉男さんが亡くなられて1年が過ぎました。今公演は一周忌追善で午前の部に『近江源氏先陣館』、夜の部で『曽根崎心中』がかかりました。楽日に『曽根崎』と『源平布引滝』を鑑賞。

 

今公演中、文楽は二つの大きな事件に見舞われました。大夫の竹本貴大夫師の自殺、そして親睦組織の積立金5000万円を流用したとして、切り場語り大夫・豊竹十九大夫師の廃業、そして告訴。文楽ファンとしては、残念な事件が相次ぎました。

 

そんな文楽を応援しようというわけか、はたまた、人気狂言『曽根崎』だからなのか、今年最後の本公演となる文楽劇場は補助椅子も出る大盛況。小生も後ろから2列目の二等席をギリギリセーフで確保しました。ここまで超満員の文楽劇場を見たのは久々のことでした。生前、玉男さんは「東京は切符の取り合いやのに、大阪はなあ~」と言っておられました。たしかに夜の部(と言っても4時半~8時半)の入りは芳しくありませんでした。4時半から誰が見に行けますか? せめて6時半開演、もっと言えば7時開演11時終演とか…。「国立」やから公務員はそんな時間まで働かん、というこですかいな。

 

そんな状況が続く中での超満員。舞台も床も大熱演でした。おそらくは、イメージダウンにつながるような事件が相次ぐ中、三業の技芸員全員が全身全霊の舞台を勤めることで「文楽をよろしゅうに」と訴えかけていたのかもわかりません、いやいや、きっとそうでしょう。

さて『曽根崎』。

後ろの席の外人さんご一行が、最後の心中の場面でボロボロ泣いてはりました。「イヤホンガイド」で英語の解説聞きながら見てはったんでしょうけど、多分、そんな解説なしで見てても、泣きはったでしょうな。何年か前、人形遣いの吉田文吾師匠に海外公演の話しなどをお聞かせいただいたんですけど「そりゃなあ、『情』ちゅうもんは、世界中どこ行っても同じやわ。日本でもフランスでもドイツでも、お客さんが泣きはる場面はみんな一緒や」と。

 

『曽根崎』は何回も観てますが、なんか今回は格別でした。玉男さんのこと、事件のこと、なによりも渾身の舞台からすごいうねりのようなものが押し寄せてきましたから。その外人さんらが泣いてる場面なんて、椅子から身ぃ乗り出して観てましたもん、アタシ。ああいう場面の人形の顔って、怖いです。近くの席でかぶりつきで見たいと思う一方で、『情』が極まったときの人形の顔が怖いんで、遠くの席でよかったと思ったり…。

 

今回、徳兵衛を玉男さんの愛弟子・玉女師が遣い、お初を蓑助師匠の愛弟子・勘十郎師が遣う。玉女、勘十郎という好敵手、名コンビによる『曽根崎』。これからこのお二人が人形を、文楽を引っ張って行くのは間違いありません。息の合った名演技と言えばそうなのですが、まだまだ研ぎ澄まされてゆくことでしょう。また数年後にこのお二方によるお初と徳兵衛を見たいと思わせる、此度の『曽根崎』でした。

P1000021

 


コメントを残す