<鹿角の兜に輝くは六文銭! 真田の赤備えでビシッと決め込む今村センセ!「第13回大阪ほんま本大賞」の受賞で、益々ノリノリの作者であります! (中央公論新社特設サイト)>
普段は大抵、2、3冊を併読している。大して読書に充てる時間も無いのに…。4月から半年は野球シーズンだから余計に時間が無い。ホークス戦の無い日でも、セ・リーグの何の興味もないカードでも観ているのだから、そりゃ時間は無いわな(笑)。しかし、それでも併読しないと、積読の山は切り崩せないしね…。その上、次から次へと本を買うから、一向に積読は減らない。それどころか、山はどんどん高くなっていく。もはや、3冊くらいの併読では、まったく追いつかん(笑)。
この『幸村を討て』も、昨年の今頃に「大阪ほんま本大賞」を受賞したってことで、すぐに購入したのだが、読み終わったのはそれから1年後だから世話ないわな(笑)。と、言うてます内に、今年の「大阪ほんま本大賞」が選出されております(笑)。
ってことで、作者の今村翔吾は初読み作家さん。こんなに売れっ子さんなのに一度も読んだことがない。「縁がない」で片づけてしまえばそれまでの話だが、「こうしてご縁がつながったのだから、これからは読んでいこう!」と思うのは、きっとその瞬間だけなんだろうな(笑)。
『幸村を討て』 今村 翔吾
中公文庫 ¥1,100
2024年11月25日 初版発行
2025年7月25日 4刷発行
イラスト/茂本ヒデキチ
解説/大矢博子
令和8年8月21日読了
※価格は令和8年8月24日時点税込
【2022年時代小説ベスト10《単行本部門》1位】【第13回大阪ほんま本大賞受賞作】
「解説」も含めて581ページのそこそこ分厚い本なので、一瞬たじろぐけど、「大阪ほんま本大賞」は、第1回から欠かさず読んでいるので、今作も「分厚いからや~めた」というわけにはいかんでしょ(笑)。
「日本一の兵」との誉れ高き真田幸村は、大阪の人間にとっては、楠木正成と並ぶ英雄だ。大阪市内のあちこちに、幸村ゆかりの地があって、大河ドラマで『真田丸』やってた時なんざぁ、「今まで『真田ゆかりの地』なんて全然言うてなかったやん!」みたいな場所がいつの間にか「大坂の陣〇〇の戦の地」なんかになってて、その「量産体制」には苦笑すること幾たび(笑)。

小生はその『真田丸』は全然観なかったので、小生の中での幸村とくれば、子供の頃にNHKで夕方やってた人形劇『真田十勇士』に尽きる。真田幸村を中心に、十勇士が活躍する物語は、当時の子供たち(今は還暦世代)を夢中にさせたもんだ。ウチのおばあちゃんなぞは、講談の『難波戦記』を思い出してワクワクしながら観ていたね(笑)。そんな塩梅なわけで、小生にとっての真田幸村は、十勇士を従えたヒーローというイメージだった。原作はもちろん柴田錬三郎の同名の小説。
ところが、この作品には、いわゆる「真田十勇士」は出てこない。「草の者」と呼ばれる「忍び」というか超優秀なスパイが重要な役割を果たすけど、決して「十勇士」ではない。
この作品では、幸村自身を主人公にするのではなく、幸村と関わった、あるいは幸村を討とうとする武将たちの視点を通して、少しずつ幸村の姿が見えてくるという仕掛けで、これが実に巧いのだ。見事の一言に尽きる。
信之、幸村兄弟の幼き日々の章の次が、徳川家康の章。ここであっさり幸村は死んじゃう…。でもまあ、歴史ものは結末は読む前からわかってるしね。と言いながらも、「この先どうすんのよ」と思ってしまうんだが…。
それがアナタ! 段々、読むのが止まらなくなってくる面白さの連続となる。
織田有楽斎、南条元忠、後藤又兵衛、伊達政宗、毛利勝永と大坂の陣に関わる武将と幸村の関係が描かれてゆく。つまり、幸村という人物そのものを直接説明するのではなく、幸村を見た人間たちの反応によって、幸村の輪郭を描いていく。
ある人物から見れば、幸村は「恐るべき敵」。別の人物から見れば、「何を考えているのかわからない男」。そしてまた別の人物から見れば、「自分の人生を狂わせた存在」にもなる。これが、読んでいて非常に面白いのだ。
とにかくこの作品、幸村を単純な英雄として描いていないことで「幸村の物語」になっているという点が、巧妙だ。正攻法でいくなら、真田幸村を主人公にするなら、幼少期から始めて、真田家の事情があって、大坂の陣へ向かい……という具合に、幸村の人生を追っていく。ところが本作は、そこを少し外してくる。
「幸村を討て」
この言葉を軸にして、幸村と対峙する側の人間を描いていく。すると不思議なことに、幸村本人がそれほど前面に出てこないにもかかわらず、頭の中にはどんどん「幸村像」が出来上がっていく。しかも、その幸村像は人によって違う。この違いがまた面白い。敢えて真田幸村を描かないことで、幸村という人間が浮かび上がるのだ。このあたりは、常から真田愛に満ち溢れる作者だからこその、今村マジックととでも言うべきか。
そして、この作品で小生が特に引き込まれたのが、最終章「真田の戦」。なかでも、家康による幸村の兄、信之の詮議。ここは、もう緊張感あふれる、手に汗握るシーンの連続だった。
それまでの物語で描かれてきた「幸村を討て」という流れが、最後になって信之という男に突きつけられてくる。
幸村の兄である信之。徳川方に仕える信之に対して、家康は容赦なく問いを投げかける。読んでいるこちらも、「信之、ここをどう切り抜ける?」と、思わず身を乗り出してしまう。しかも、これは単純な「正解を答えれば助かる」という詮議ではない。一つ言葉を間違えれば、自分だけではなく、真田家の存亡にかかわってくる。かと言って、弟である幸村を守ろうとすれば、徳川に仕える自分自身の立場が揺らぐ。兄としての信之と、徳川家臣としての信之。その二つがぶつかるからこそ生まれる緊張感。
そして何より怖いのが、相手が徳川家康だということ。何を考えているのか?信之の言葉をどう受け止めているのか? 読者にもなかなか見せてくれない。じれったい。だから数ページ先をチラ見する(笑)。すると余計にわからん(笑)。
要するに、幸村が戦場で敵と戦う物語だと思っていたら、最後には信之が言葉を武器にして家康と対峙する戦いが待っていという展開。そう考えると、「真田の戦」という最終章のタイトルも、実に意味深い。
戦場で槍を交えるだけが「戦」ではない。家を守るため、弟を思うため、自分の立場を守るため、そして生き残るために、言葉を尽くして戦う。そこに、この作品の最後の見せ場があるように感じる。
そうか!「信繁」から「幸村」に改名したのは…。
この章、これまでに登場した武将たちのストーリーが、壮大な伏線になっていることがわかる。それを家康が次々と回収してゆく。ジワジワと追い詰められてゆく信之、ところが最後の最後に一気に形勢逆転する面白さ、痛快さ。
個人的には、幸村の華々しい戦い以上に、この信之と家康の詮議の場面が印象に残った。最後の最後まで、真田は「戦っている」。そんな読後感を残してくれる最終章だった。
あ、それといいなぁと思ったのは、武将たちとの物語の間に、幸村と兄の信之の成長譚とでも言うべき短いストーリー。章のタイトルは付かず、銭が増えてゆき、最後に「六文銭」が揃うというもの。この仕掛け、面白し。
もっとお話ししたいことはあるんだが、これ以上書いても皆さまご退屈。ということで、ひとまず筆を置きまする。とにかく、騙された思って、一編読んでみ。あっという間に引き込まれていくから…。
いずれ、関わった武将たちとの物語についても、記しておきたいね。いつになることやら(笑)。
|
★第14回大阪ほんま本大賞受賞作★ |
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
