【睇戲】風兒踢踏踩(邦題:風が踊る)

台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督デビュー40周年記念
ホウ・シャオシェン大特集

この『風兒踢踏踩(邦:風が踊る)』で、「台湾巨匠傑作選2021」の鑑賞も終わり。狙ったわけではないが、最後の最後に今特集企画で一番注目している作品である。侯孝賢の監督二作目で、多分?日本では初公開では? 当時の台湾及び中華圏でスーパーアイドルだった鳳飛飛(フォン・フェイフェイ)と、香港の人気歌手にして人気俳優の鍾鎮濤(ケニーB)、陳友(アンソニー・チェン)が主演という、旧正月映画らしいラインナップ。ケニーBもこのころは「阿B」と呼ばれてたけど、いつの間にか「B哥」と呼ばれるようになったなぁとか、飛飛は映画の中でもやっぱり帽子かぶってるなぁなどと思いながら、40年前の作品をじっくり観た。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

開催記念特別上映
風兒踢踏踩 邦題:風が踊る

台題『風兒踢踏踩』 英題『Cheerful Wind』
邦題『風が踊る』デジタルリマスター版
公開年 1981年 製作地 台湾
製作:金世紀影片公司(香港)
言語:標準中国語、台湾語
評価 ―

導演(監督):侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
編劇(脚本):侯孝賢
制片(プロデューサー):姚白雪(ヤオ・パイシュエ)、陳坤厚(チャン・クンホウ) 監製(製作):姚白雪
攝影(撮影):陳坤厚、頼成英(ライ・チェンイン)
剪輯(編集):廖慶松(リャオ・チンソン)
配樂(音楽):左宏元(ズオ・ホンユエン) 錄音(録音):忻江盛(シン・ジアンチェン)
原創電影歌曲(オリジナルサウンドトラック):林燦清(リン・ツァンチン)

領銜主演(主演):鳳飛飛(フォン・フェイフェイ)、鍾鎮濤(ケニーB)、陳友(アンソニー・チェン)
特別客串(特別ゲスト):石英(シー・イン)、三叔公(周萬生)、吳玲(ウー・リン)
主演(出演):梅芳(メイ・ファン)、謝自生(シェ・ツーショウ)、顏正國(イェン・チェンクオ)、林鴻棠(ケンピス・リム)、劉慶勲(リウ・チンシュン)、陳殷豪(チェン・インハオ)、黃靜子(ホアン・インチー)、廖宗興(リャオ・チョンシン)

【作品概要】

CMの撮影で澎湖島を訪れた女性カメラマン・シンホエは、事故で視力を失った青年チンタイと知り合う。その後ふたりは台北で偶然再会を果たすが…。1980年代初頭の、民主化へと向かいつつある戒厳令下の台湾社会を背景に、伝統的な家族観や結婚観と自由恋愛の間で揺れ動く自立した女性の心理を、澎湖島、台北、鹿谷(ルーク)を舞台にキャッチーな歌謡曲と共に、軽やかに描いた第2作『風が踊る』が今、デジタルリマスター版で蘇る!<引用:「台湾巨匠傑作選」公式サイト作品案内>

よいね!この溢れんばかりの1980年代が。1981年、当方、高校2年生(笑)。当たり前だけど、主演の鳳飛飛(フォン・フェイフェイ)も鍾鎮濤(ケニーB)も陳友(アンソニー・チェン)も若い!飛飛のトレードマークの帽子は、映画の中でも健在(笑)。寶玲が歌うタイトルソング『風兒踢踏踩』をはじめとした80年代台湾歌曲もすごくいい。あのリズム感が80年代。って言うか、まだまだ70年代の感覚でさえある。

♪風風兒吹呀吹 雲雲兒飛呀飛~=風は吹く吹く、雲は飛ぶ飛ぶ

戒厳令が解かれる7年前の作品だけど、もはやすっかり戒厳令解除後かのようなノリ。もうねえ、後の「台湾ニューシネマ」と呼ばれる作品群からは想像もつかない、明るくて、健康的で、前向きな作風。それでいて、澎湖の荒涼とした漁村の風景、わいわいとうるさく元気なガキんちょたち、それと対比的な大都会・台北の街とそこでの生活、という後の作品にも継承されていくものが描かれている。もしかしたら、この作品でそのスタイルが確立されたのかなとさえ思うほどに。

タイトルの文字あしらいに、時代を感じる

小生は残念ながら未だに観る機会を得ていないのだが、上述の主演3人は侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の監督1作目『就是溜溜的她(邦:ステキな彼女)』と同じ。その他にも石英(シー・イン)、梅芳(メイ・ファン)、顏正國(イェン・チェンクオ)ら侯孝賢作品のおなじみの顔が並ぶ。顏正國なんて子役にしてすっかりおなじみさんである(笑)。見逃せないのは、オープニングのタイトルが丸ゴシックでなく、特殊仕様の書体で風兒踢踏踩と出てくる点。スタッフや演者の名前は丸ゴシだけど(笑)。ああいう書体やあしらい方も、70年代~80年代初頭らしい。

主役の女性カメラマン・幸慧(シンホイ-演:鳳飛飛/フォン・フェイフェイ)と、CM監督・羅仔(ローザイ-演:陳友/アンソニー・チェン)は台北で同棲している恋人同士。羅仔は香港人ということで、訛った中国語を話している。そこは香港人の陳友が演じるということで配慮した役柄設定だったのかな。

澎湖島の荒涼とした漁村。羅仔のクルー一行は洗剤のCM撮影でここへ来たのである。主題歌が終わったところで、地元のガキんちょたち登場。牛のクソに爆竹を仕込んで、クソまみれになった大人のシャツを洗剤で洗えば「あ~ら、こんなにきれいに!」という段取りのはずが、爆竹は不発。ガキんちょたちが「あれ?」と近づいたらクソ爆弾が爆発し、ガキんちょたちのシャツを洗剤で洗うことに…。と、これはCMのストーリー。

一方でカメラマンの幸慧は牛車の荷台でハーモニカを吹く青年に興味を抱く。CMの別カットを撮影中、カメラを凝視して縦笛を吹くその青年、目が見えないとのこと。「いっそ、CMに参加してもらおうか」となって、幸慧、羅仔と盲目の青年、金台(チンタイ-演:鍾鎮濤/ケニーB)の運命が一斉に動き始める…。一見、三角関係の泥沼が始まりそうだけど、あの主題歌にそれは似合わないし、そうだったら侯孝賢はこの作品で、大きく値打を落とすことになっていただろう。まして旧正月の娯楽大作。家族みんなで映画を楽しむ時代である。そんな展開になるはずはなく…(笑)。

彼女の視線、二つのレンズの先にあるのは…

CM撮影終了後、台北で偶然、金台と再会する幸慧。元はエリート医師だった金台の失明の原因は、救急車を運転していた時の事故によるもので、角膜移植を受ければ治るという。意外にも、そのチャンスは早くやって来る。視力回復後、初めて幸慧の顔を見た金台は、「こんな美人だったのか!」と(笑)。このくだり、まるで文楽の『壺阪観音霊験記』みたいで微笑ましい。このへんはお決まりの展開だが、二人は恋に陥る。

物語の舞台は台北から南投県西南部の鹿谷へ。台湾烏龍茶として有名な「凍頂烏龍茶」の産地で、幸慧の故郷である。小学校の教師をやっている弟がしばらく留守になるため、代わりに教壇に立つことに。

ここでも子供たちが「土着性」をいかんなく発揮していて、とてもかわいい。何と言っても、素直で純朴で人懐っこいのがいい。鹿谷の街も人も、心惹かれるものがある。「子供による土着性の表現」という、侯孝賢作品の一つのスタイルは、ここにすでにその礎が築かれていたようである。

やがて、自ら望んで鹿谷での僻地医療の職を得た金台もやって来て、子供たちとも打ち解ける。そして金台はついにプロポーズを…。こんな幸福な日々だが、何分にも代用教師という立場なので、終わりも来る。台湾のフルーツや食べ物を並べた、「仰げば尊し」の替え歌がいい。

子供たちに国民党スローガンを書かせるべきところ、「好きな絵を描いていいよ」と指導して、校長にお小言を言われる幸慧であった。子供たちの笑顔が印象深い

展開からして、最後には金台と幸慧は結ばれるんじゃないか…。そう感じるのだが、そうはいかないラストシーン。幸慧は香港人CMディレクターの羅仔と欧州に旅立つ。しかし、イコール結婚ではない。あくまで、憧れのスペインの町を訪れることが第一の目的である。台湾に戻ったらどうするか…。旅立ち前に、彼女が金台に送った手紙がその答えのような気もするが…。

私を信じて下さい。もしあなたが空港に来なければ、私はヨーロッパには行きませんから…

二人の旅立ちを見送りに来ることで、金台もまた、「信じてください」に対する答えを出したということだろうな。うん、めでたしめでたし。旧正月映画萬歳!というラストシーンだ。

このシーンの静止画で映画は終わる。その後を物語るかのような、幸せそうな二人の表情に旧正月らしく恭禧發財が重なるというベタな手法もやってたんだ、侯孝賢は!

さて、「帽子の歌姫」こと鳳飛飛(フォン・フェイフェイ)だが、残念ながら2012年1月、肺がんのため、58歳の若さで世を去った。息を引き取ったのは、この作品ほか多くで共演した鍾鎮濤(ケニーB)、陳友(アンソニー・チェン)がいる香港だったというのも、縁を感じる。中華圏、とりわけ標準語圏では鄧麗君(テレサ・テン)と人気を二分する超ビッグスターで、歌手としてはもちろん、女優、司会と映画、テレビで彼女を見ない日はないほどだったという。第11回大阪アジアン映画祭で観たシンガポール映画『想入飛飛(邦:3688)』は、陳子謙(ロイストン・タン)監督の鳳飛飛への思いがいっぱい詰まった作品。上映後のトークでも、フェイフェイへの熱い思いを語っていたのを思い出す。

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これで「台湾巨匠傑作選2021」の全予定終了。結局、観なかった&観られなかったのは『珈琲時光』、『悲情城市』、『HHH:侯孝賢』、『ナイルの娘』の4作。またの機会にということで。ああ、しんどかった(笑)。

《風兒踢踏踩》2018數位修復版預告片

(令和3年7月22日 シネ・ヌーヴォ)


侯孝賢監督 風が踊る<デジタルリマスター版> [DVD]


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