【睇戲】『長江 愛の詩』(中題=長江圖)

『長江 愛の詩』
(中題=長江圖)

若かりし日の長江下りの思い出

今からちょうど20年前の話だが、長江三峡下りをした。死者1,320人を出した長江大洪水の直後だった。

三峡ダムは完成目前だったが、滑り込みセーフで、水没や移築する前の名所旧跡を回ることができたのは、今となっては非常に貴重な体験だった。加えて、その2週間ほど前には、上流の石鼓鎮で「長江第一灣」(長江、最初の大V字カーブ)も見てきた。

さらに貴重だったのは、小生が乗り込んだ三峡下りの観光船は、フランス人ツアー客の船で、なぜにそこに香港から来た日本人バックパッカーの小生が詰め込まれたかについては、出発点となった重慶の中国旅行社日本人デスクの兄ちゃんのアレンジの拙さ、もしくは巧みさがあったからなのだが、それを語り出すと、それだけでこの稿が終わってしまうので、そこはまたの機会にするとして、フランス人ツアー客の船だから、当然、ガイド氏は全編フランス語でガイドするので、何が何だか?って気分での名所旧跡巡りだったが、一応、基本的な普通話は理解するので、観光地では中国人ツアーのガイドの話しなんぞを聞き、「ああ、そうなのか!」などと最低限のことだけは頭に入れることはできた。

あの時、巡った名所旧跡は三峡ダム完成によってほとんどが水没を逃れるため、移築されたり、孤島と化してしまった。もちろん、その周囲に広がる村や町も水没してしまった。船で三峡を行くとき、ガイド氏がはるか上方を指さし、「ダムが出来たらあそこまで水かさが増します。この豊富な水量が、完成後の中国の発展の大きな原動力となるのです!」と誇らしげに語っていたのも、思い出す。―そこは仏語であってもおおよそのニュアンスはわかるし、仲良くなったフランス人家族の面々が、入れ代わり立ち代わり英語で通訳してくれたのだ。

そんな懐かしい日々に思いをはせることができたらうれしいな、って感じで、なんと!小生としては実に珍しい、公開初日にシネマート心斎橋へ走ったのである。さて、あの貴重で楽しかった2泊3日の三峡下りに思いをはせることができる作品だったのか…?

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

Mtime.com中題 『長江圖』(簡体『长江图)
英題 Crosscurrent
邦題 『長江 愛の詩』
製作年 2016年
製作地 中国
言語 標準中国語

評価 ★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演編劇(監督・脚本):楊超(ヤン・チャオ)
配音(音楽):安巍(アン・ウェイ)
撮影:李屏賓(リー・ピンビン)

主演(出演):秦昊(チン・ハオ)、辛芷蕾(シン・ジーレイ)、譚凱(タン・カイ)、鄔立朋(ウー・リーポン)、江化霖(チャン・ホワリン)、王宏偉(ワン・ホンウェイ)

◆以下、ネタバレの可能性大いにアリ。気に入らない人はスルー願いたし!◆

【甘口評】
画面の色合いや人物のアングルに既視感バリバリだったのは、李屏賓(リー・ピンビン)の仕事だからだろう。古くは『童年往時』『恋恋風塵』に始まり、『女人、四十。』『フラワーズ・オブ・シャンハイ』『花様年華』などヒット作を多数手掛けてきたのだから当然のことだろう。彼の持ち味が余すところなく発揮され、それはまた、この映画を作りたかった監督の楊超(ヤン・チャオ)の要望を十分に満たした画になっていたというわけで、納得の第53回金馬奨「最優秀撮影賞」である。
観光客がやる長江下りとは反対に、長江を上りながら物語が進展してゆく。この手法が意味するところは、いくつかの解釈ができるんだろうけど、そこは観てのお楽しみってことでよろしく(笑)。
出演陣は、主役の秦昊(チン・ハオ)、辛芷蕾(シン・ジーレイ)がやはり際立っていた。秦昊は昨年、『ブラインド・マッサージ』で観たが、あの作品では盲人役の役作りのため、半目状態で出演していたので、いまひとつ表情が伝わりにくかったが、今回は表情がよくわかって「上手い役者だな~」という印象を受けた。長江を遡るごとに生気がみなぎってきた辛芷蕾もミステリアスな雰囲気で、この作品のテーマを体現するかのような演技が光った。また、江化霖(チャン・ホワリン)の味わいのある老水夫も良かった。
秦昊演じるガオが、辛芷蕾演じるアン・ルーに「長江は変わった。君も変わった」と話したこの一言が、印象深い。

【辛口評】
典型的な小生が苦手とする分野の作品(笑)。こんなことなら、ミーハー気分で『マンハント』や『空海』行っとけばよかった(笑)。好きな人は、大好きで何度も観たいと思うんだろうな…。小生は中盤まで、睡魔との戦いの連続だった(笑)。場面転換のない静寂のシーンが長く続くので、つい船を漕いでしまう。とにかく草臥れることこの上なし。わずかに、三峡ダムの「見せ場」のひとつ、船舶用エレベーターを通過する場面に、身を乗り出したにとどまった。小生には、いささか難しすぎる作品だったようだ。

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結局、昔の三峡下りの日々に思いをはせることができないまま、エンドロールの時間を迎えてしまった。思い出は、アルバムのや記憶の片隅に存在しているのがいいのかもしれない…。

(平成30年3月4日 シネマート心斎橋)



 


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