【睇戲】臥底的退隱生活 <ワールドプレミア上映>

今年の大阪アジアン映画祭も最終日となった。年々、観る本数は減っていくが、まあ、平日は仕事もしているわけだから、そんなにたくさん観れるわけでもない。そこで、例年ならこの週末に「一気見」するわけだが、今年は最終日に3本で終わり。香港作品が少ないからかな…。で、この日は香港2本、台湾1本で締めくくり。まずはこの映画祭が「ワールドプレミア」となった『臥底的退隱生活(邦:潜入捜査官の隠遁生活)』から。なんせ、出来たてホヤホヤにして、香港での劇場公開日が決まっていないという状況。ま、この日は本映画祭で2回目の上映だから、正真正銘の「世界初」ではなかったんやけどね(笑)。

20代の娘がいる役を引き受けてくれる女優が意外と少ないらしい。どうやら「まだ自分だって20代の役をこなせる」と思ってるみたいで(笑)。そこを引き受けた謝安琪(ケイ・ツェ)、偉いね~! ©am730

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特別注視部門 | 特集企画 Special Focus on Hong Kong 2024
臥底的退隱生活
邦題:潜入捜査官の隠遁生活 
<ワールドプレミア上映>

港題『臥底的退隱生活』
英題『Out of the Shadow』
邦題『潜入捜査官の隠遁生活』
公開年 2024年 製作地 香港 言語:広東語
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):高子彬(リッキー・コー)
監制(製作):伍健雄(ン・キンフン)
編劇(脚本):陳健鴻(ロナルド・チャン)、蘇莎朗(ソー・シャンロン)
攝影(撮影):譚家豪(カール・タム)
配樂(音楽):韋啟良(トミー・ワイ)

領銜主演(主演):謝安琪(ケイ・ツェ)、鄧月平(ラリーン・タン)、陳毅燊(アンソン・チャン/ Ansonbean)、唐詩詠(ナタリー・トン)、鄭丹瑞(ローレンス・チェン)
演出(出演):程仁富(リック・チン)、關浩傑(ジェフェリー・クワァン)
特別演出(特別出演):白只(マイケル・ニン)
友情演出(友情出演):陳煒(アリス・チャン)

《作品概要》

ある事件以降、小さな商店を営み娘を育ててきた女性。正義感の強い娘は、内緒で空手を習い、困った人を助けて”空手少女”と話題になるが、危険な薬物事件に巻き込まれてしまい…。<引用:第19回大阪アジアン映画祭公式サイト

さすがに、香港での公開日が未定なだけあって、ポスターもパイロット版?みたいな感じで、題名以外の文字表記はすべて英語。それにしても「アンソン・チャン」とは思い切った英文名やね(笑)。

《作品概要》にある「ある事件」から映画は始まる。回想シーンなんだが、その後の展開への大きな伏線が張られている。

それがきっかけなんだろうが、その当時「臥底」すなわち潜入捜査官だった杜娟英(=イン 演:謝安琪/ケイ・ツェ)は、香港島南側の端っこ、石澳(Shek O)で小さな士多(よろず屋)を営み、娘と暮らす。石澳はいいところ。ほんとうにのんびりしていて、空気が穏やか。台風接近時には、待ってましたとばかりにサーファーが繰り出すビーチも有名。BBQを楽しむ人も多い。そんな石澳だからこの親子ものんびり暮らしていると思いきや…。

©am730

謝安琪、久しぶりだなぁ…。と言っても、日本ではなじみがないと思うけど。結婚して出産もし、子育ても一段落ついたのだろ、去年『4拍4家族(日本未公開)』で10年ぶりにスクリーンに復活。これが復帰第2作目となる。旦那は、昨年ここで上映され、後に劇場公開にもなった『窄路微塵』で主役の張繼聰(ルイス・チャン)。いい夫婦ですよ、この二人は。

娘の朱寶(=ボウ 演:鄧月平/ラリーン・タン)は、「空手少女」と名乗って、ネットで困ってる人を募集しては、助けに行き、ちょっとヒロイン気取りになっている。空手上達のために、婦人警官の毛姑姑(演:唐詩詠/ナタリー・トン)が開いている道場にも通う。朱寶が自主稽古する石澳のビーチが美しい。思い出すことも色々。そう言えば、90年代に初めて訪れた時、MTRの筲箕湾(Shau Kei Wan)からここまでの今は無き中華巴士はボンネットバスだった…。

いい気になって悪に立ち向かっていたある夜、思わず窮地に追い込まれる事態に遭遇。間一髪のところを黒装束に救われる。小生はてっきり道場主の毛姑姑だと思っていたら…。後に正体は明らかになるけど、そりゃまあ、一番身近な人がかつては潜入捜査官のエースだったんだから、彼女が夜な夜な何してるかくらいお見通しだわな(笑)。

©am730

鄧月平って初めてお目にかかるねぇ、と思っていたら、『三夫(邦:三人の夫)』に出てたのか。あの映画は主役のおねーさんが強烈で他の役者を全部食ってしまってたからな…。印象には残りにくいよな。婦警にして空手道場主を演じた唐詩詠はもう20年選手だけど、日本公開作品は少ないね。最近では『阿索的故事(邦:人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~』に出演。

シーンは村の教会に。神父の熊爺(=テディ 演:鄭丹瑞/ローレンス・チェン)は元は麻薬密売人。一人息子の敏俊(=マンジョン 演:陳毅燊/アンソン・チャン)も教会の仕事を手伝いつつ、将来は弁護士を目指して海外留学を間近に控えていた。まあ、こいつが「イケメン神父さん」ということで礼拝には、アイドルコンサートのように若いファンが押し掛ける。そう言えばこの陳毅燊って、先日観た『填詞L』にも出てたな。実際に今超売れっ子らしい。MIRRORERRORを生み出したViuTVの新人発掘番組シリーズ「全民造星III」で見出された。もはや流行はViuTVから生まれるのか。この方面では、すっかり影の薄くなった感の強いTVBである。そんなTVB華やかかりし頃に、司会などで活躍していたのが鄭丹瑞。

この息子と同様に、教会には使徒の若いあんちゃん二人がいる。上述の「小チンピラ」である。やるこことが前時代的で、聖書をくり抜き覚醒剤を詰めて希望者に配布するという「布教活動」で小遣い稼ぎをしている。なんか80~90年代の黒社会を舞台にした映画で、やっぱり「小チンピラ」がやっていそうなこと(笑)。これを息子が見抜いたことで、事件が始まるってことに…。

「私のアイドル」敏俊さんの危機に、自転車に飛び乗る朱寶。親子そろって自転車にまたがる姿が多かった。これも石澳ならではの光景。同じ香港島でも銅鑼灣や灣仔ではそうはいかない… ©am730

そこに絡んでくるのが、このところ日本の香港映画ファンの間で人気急上昇の白只(マイケル・ニン)である。彼が現れた背景には、朱寶が潜入捜査官を退いた事件があり、その現場には今は教会の神父に収まっている熊爺がいて、さらには…。と、様々な事実が浮かび上がってきて、ちょっと潜入捜査官モノらしくなってきた(笑)。とは言え、この白只演じる黒社会人士、なんか憎めない。というか、おもろい(笑)。「うりゃ~!」と怒鳴り散らしたり、銃を撃ちまくるってことはなく、下手に出てきて、熊爺に薬物売買の片棒を担いでいただけませんでしょうか、みたいな感じで「交渉」してくる。

『盜月者』では今を時めくMIRRORと主役陣に加わる白只 ©︎2023 One Cool Pictures Production Limited Local Production Limited All Rights Reserved

この人気上昇中の白只、小生がチケット取れなかった『盜月者』に出演していたこともあるからだろうが、林雪(ラム・シュー)二世という人までいる。まあ、わからんでもないが、いやいや、林雪は二人いらない。彼を認識したのは、2021年の大阪アジアン映画祭で上映された『手捲煙(邦:手巻き煙草)』での黒社会の手下役。『梅艷芳(邦:アニタ)』では作曲家の黎小田を演じた。特に『手捲煙』でのいかがわしさが味わい深く、「こいつは掘り出しもんだ!」と思った人も多かったのでは。そして今回の『盜月者』と本作である。

敏俊を人質にして、協力を迫る。ここから、「空手少女」の出番と相成るわけだが、母親は娘を引き留める。そこで初めて明かされる事実は…。という展開になるんだが、もちろん、最後はだれも傷つくことなくハッピーエンドを迎える。って、そんな潜入捜査官モノあるんかい!と、ちょっと文句も言いたくなるってもんだ(笑)。そもそも、女性がこれだけ主役陣を固める潜入捜査官モノって過去にあったっけ?俺は記憶にないなぁ…。

©am730

その辺、この日はゲスト登壇は無かったが、1回目の上映の際に監督の高子彬(リッキー・コー)「当初は女性の潜入捜査官を題材にするつもりではなく、母と娘の関係がテーマだったんです。でも普通に母と娘の関係を描くだけでは面白くない。母親が潜入捜査官で、やらかしてしまう娘を助ける話にしました」(引用:映画ナタリー)と語っていて、「あ、そういう映画なのね」と納得した次第(笑)。

全体的には、ちょっと古いタイプの割とユルユルした感じの香港映画ってところだろうか。駄作というわけでなく、「なんかこのズボン、ちょっと緩いねんわ~」って雰囲気…、わかってもらえます?

「世界初上映」ということで、香港側の劇評が全くないので、今後、香港でどんな評価を得るのか、気になるところ。ま、気長に待ちますかね。

ところで、監督の高子彬は、これまた小生が寝坊してしまい、チケットを取っていたにもかかわらず、二度寝の末に見逃してしまった2022年の本映画祭上映の『殺出個黃昏(邦:黄昏をぶっ殺せ)』が監督第一作。そしてこれが二作目。ただ、キャリアは相当なもんで、長らくTVBのドラマ制作をしていた。その時代のTVBドラマは小生もたくさん観ていたので、「付き合い」自体は古い。映画に転身後も、多くの作品に携わり、大阪アジアン映画祭で上映された作品も少なくない。そんなわけで、今後も注目していきたい監督の一人である。


(令和6年3月10日 ABCホール)

謝安琪(ケイ・ツェ)の出演作で国内でソフトが出ているのは、これくらいかな…。なかなか面白いので、一家に一枚、いかがでしょう?


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