【睇戲】梅艷芳 <日本プレミア上映>

第17回大阪アジアン映画祭は本日最終日。「今日は3本観るでぇ!」と意気込んでいたんだが…。

何と言うことでしょう!

目覚めたのは1本目上映開始の5分前(笑)。電影金像奬の主演男優賞最有力候補で御年85の謝賢(パトリック・ツェ―)が、小生の大好きな馮寶寶(フォン・ボーボー)と主演の『殺出個黃昏(邦:黄昏をぶっ殺せ)』を10:10からシネ・リーブル梅田で観るべく、チケット確保も着て行く服も(笑)万端整っていたんだが、情けなや~、実に情けなや~。春眠暁を覚えずとはよく言ったもんだ…。ってわけで、2本目を観るため、大急ぎでABCホールへ。これは見逃してしまうわけにはいかない!

コンペティション部門|特集企画《Special Focus on Hong Kong 2021

梅艷芳 邦:アニタ <日本プレミア上映>

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題『梅艷芳』 英題『Anita』
邦題『アニタ』
公開年 2021年 製作地 香港 言語:広東語
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):梁樂民(リョン・ロクマン)
編劇(脚本):梁樂民
監製(プロデューサー):江志強(ウィリアム・コン)、何韻明(ホー・ワンミン)、鄧維弼(タン・ワイバッ)
聲音設計(音響効果):杜篤之(ドゥー・ドゥージ)

領銜主演(主演):王丹妮(ルイーズ・ウォン)、劉俊謙(テランス・ラウ)、廖子妤(フィッシュ・ラウ)
特別友情演出(特別友情出演):古天樂(ルイス・クー)、林家棟(ラム・ガートン)、楊千嬅(ミリアム・ヨン)
特別演出(特別出演):楊祐寧(トニー・ヤン)
主演(出演):中島歩、李子雄(レイ・チーホン)、白只(バイ・ジー)、陳家樂(カルロス・チャン)、邵仲衡(デビット・シウ)、岩城滉一……etc.

梅艷芳』が大阪アジアン映画祭で上映されることになろうとは、夢にも思っていなかった。製作のスケールが他の作品とはあまりにも違う「大作」。直球ど真ん中の商業映画の王道をゆく作品である。COVID-19の感染拡大による映画館の一斉休業がなければ、香港映画史上最高の興行成績を生み出していたかもしれないと、小生が勝手に推測している作品。香港の知人友人が次々と「観たよ!」「泣いたよ!」「感動したよ!」などと一々知らせてくるのを見ながら、「日本で公開されるかな…」「梅艷芳と言っても日本じゃわからんよな…」「無理やな…」と諦めモード全開。例によって次回里帰りの際にDVD購入もしくは、お友達に頼んでDVDを送ってもらうか、ってところに落ちくんだろうと思っていたら、あら大変!なんと大阪アジアン映画祭でやるちゅーやないですか!今回はこれに尽きる!ってわけで、実はチケット確保は、まずこの作品を軸として押さえていったという次第。

<作品概要>

1980年~90年代、音楽・ファッション・映画etc… 香港ポップカルチャーのアイコンとして駆け抜け、文字通り「明星」となったアニタ・ムイ。彼女の40年の生涯を多才なキャストと時代に忠実な衣装とセットでドラマチックに描く話題作!<引用:「第17回大阪アジアン映画祭」作品紹介ページ

梅艷芳(アニタ・ムイ 1963~2003)は、小生と同い年。歌手として女優として、香港が一番楽しかった時代を彩ってきた一人である。多くの香港人はもとより、香港芸能愛好家(オタクではない!)の小生にとっても、忘れることのできない人物で、女性芸能人の評価に厳しい小生(笑)が文句なしに好きだった「香港女藝人」である。

そりゃもう、何と言っても年が一緒じゃないですか。単純な性格なんで、もうそれだけで「お!この子いいね!」である(笑)。もちろん、歌もいい。映画に出ても演技よし。性格もよし。慈善活動も実に模範的。姉御肌で後輩歌手の面倒見も非常に良かった、まさに「樂壇大姐大」である。

そんな彼女が2003年9月5日、「子宮頸がんを患っており、現在、投薬と放射線療法で治療を続けている」と公表した。ショックだった。実は小生、この年の5月にとある難病を患っていることが発覚していた。「難病」と言うからには完治は見込めず、死に至るまで上手に付き合っていきなさい、という宣言を受けたというわけである。「この先起こりうる様々な症状、痛み、そして死と上手く向き合え」と突然言われても、納得できるものではなく、不安や恐怖、ときに絶望と向き合う日々が始まったばかりだった。

そこへ「梅艷芳、子宮頸がん」とのニュースは、非常に堪えた。もともとスマートだった彼女だが、会見での姿はさらに痩せ、治療で脱毛があったのか深々とニット帽を被っている姿は、痛々しかった。だが、多くの藝人仲間に囲まれて話す彼女の言葉は力強かった。「這場仗我一定打贏!(この状況に必ず打ち勝ってみせる!)」と宣言した。強い人だなぁと思った。

「必ず打ち勝つ!」の言葉通り、彼女はその後も芸能活動を続け、11月6日からは通称・紅館こと香港體育館(香港コロシアム)でコンサート「梅艷芳經典金曲演唱」を8公演開催し、健在ぶりを世に示した。ただ、多くの人が感じたと思うが「梅姐、これが最後のコンサートかな…」と。紅館は映画の中で、鳴かず飛ばずだった張國榮(レスリー・チャン-演:劉俊謙/テランス・ラウ)を、すでに姉とともに天才少女歌手としてナイトクラブのスターだった梅艷芳が「いつか二人であの舞台に立とう!」と励ましていたシーンが印象的だ。昔も今も香港の歌手にとって、最高の檜舞台だ。

「紅館のステージ立つ」と夢を語り合うアニタとレスリー。随分と駆け足の作品だったが、レスリーとの絆は割とシーンを割いて描かれていたと思う
レスリーの出世作となった『胭脂扣(邦:ルージュ)』の一コマを模したポスター。監督の關錦鵬(スタンリー・クヮン)役でイケメン監督の黃進(ウォン・ジョン)

このコンサート、小生も行きたかったのだが、チケットはあたりまえだが瞬殺。「あ~あ」と思っていたら、年明け早々に追加公演をやるとの報。梅姐がそこまで回復したのかという安心と、コンサート行けるという喜びを感じていた矢先…。12月30日、朝のニュースは「梅姐逝去」の報を知らせていた…。

この年の4月には駆け出しのころからの朋友だった張國榮が自ら命を絶っている。二人の絆は世間の誰でも知っている。「梅姐まで…」と、いやが上にも悲しみは倍増する。2003年と言えば、前半はSARSに翻弄され、どん底に突き落とされた香港。そのさ中のレスリーの死はショックが大きすぎた。ようやく香港全体がSARSから癒えようとしていた時に、今度は梅艷芳の死。これはきっつい、あまりにもきつすぎる…。

映画では死の淵は描いていない。それでいい。コンサートのエンディング、宝塚歌劇のような大階段を昇り詰め、振り向きざまに「拝拝!(バイバイ!)」と叫ぶ彼女。もう、このシーンだけで十分だ。この先、何が必要と言うのか…。小生はスクリーンを直視できず、涙がこぼれないように顎を上げてスクリーンの上辺をじっと見つめるだけだった…。

スクリーンを直視できなかったシーン。アンコールラストは『夕陽之歌』

アンコールラスト曲は『夕陽之歌』。一時、恋愛関係にあったとされる近藤真彦のヒット曲『夕焼けの歌』のカバーで、彼女の代表曲の一つでもある。同年、陳慧嫻(プリシラ・チャン)が歌詞の違う『千千闋歌』として歌い、多くの賞を受賞している。アニタの『夕陽之歌』は、周潤發(チョウ・ユンファ)や時任三郎と彼女が共演した映画『英雄本色III夕陽之歌(邦:アゲイン/明日への誓い)』の主題曲だった。今こうして、この映画のこのシーンで聴くと、胸いっぱいになる。勿論、そこにはマッチとの成就できなかった恋愛関係が背景にちらつくことも影響しているが…。

マッチはさすがに実名での登場はなく、後藤夕輝なる日本の人気歌手と言う設定で登場。これを中島歩が演じている。マッチと言うよりも人気フォーク歌手って雰囲気だったけど(笑)。後藤の所属事務所社長を岩城滉一。ジャニー喜多川って雰囲気はまったくなく、商社の社長、銀行の頭取って雰囲気。どちらも敢えてそうしたのかな…。

アニタは度々来日し、後藤夕輝との密会を重ねるが…

なんか過去の思い出話と映画のことが混在してきたが(笑)、作品自体にも実際の映像をはさみながら進むのだから仕方ない。と言うことで、ここからはざっと映画について記しておこう。

Eddieとアニタの関係は、師弟関係と言えるものだったかもしれない

作中、ここぞという時に梅姐の背中を押し、バックアップしてきた一人が古天樂(ルイス・クー)が演じるファッションデザイナーのEddieである。言うまでもなく劉培基(エディ・ラウ)のことである。梅姐をはじめ羅文(ローマン)、張國榮、陳百强(ダニー・チャン)、汪明荃(リサ・ウォン)、許冠傑(サミュエル・ホイ)、郭富城(アーロン・クォック)…など香港のトップスターの舞台衣装を手掛ける。表に立たない人なので、人物像がいまひとつわからないのだが、梅姐にとっては良き相談相手であり心を打ち明けることができる人物だったのは、間違いないようだ。そこは映画の中、ぼかしながらも「ほぼ実名」になっているので、多分に脚色はされてはいたのだろうが…。最後のステージでのウェディングドレスも彼の手によるものだ。

梅艷芳の芸能界入り後も、支え続けた姉の梅愛芳を廖子妤が好演

姉で歌手だった梅愛芳(アン・ムイ-演:廖子妤/フィッシュ・ラウ)の存在ももちろん、大きい。幼いころから二人でナイトクラブのステージに上がって人気を博してきた。アニタの愛すべき姉、梅愛芳は2000年4月、40歳の若さで世を去った。奇しくも3年後に妹の命を奪った子宮頸がんによる死だった。支えてもらってきた姉を失い、失意のどん底に陥るアニタを描くシーンはとても痛々しく、観るのが辛かった…。

ちなみに、同じステージには若き日の鄭少秋(アダム・チェン-演:陳家樂/カルロス・チャン)。日本語で『上を向いて歩こう』を歌う。幼いアニタが「うわ!アダム兄ちゃん、日本語で歌えるんだ!」と目を輝かせる場面がある。アニタ姉妹や鄭少秋が歌っていたナイトクラブは、荔園という設定だった。荔園は小生以上の年代の香港人にとっては、香港唯一の遊園地として思い出深い場所。小生も行ったことがあるが、絶叫マシンの類はなく、百貨店の屋上の遊園地の上級版という風情だったと記憶する。70年代までは昼間は子供向けの遊園地、夜は大人向けのナイトクラブという場所だったということだろう。

CGで再現された荔園 by “香港01”

本作では荔園しかり、1960年代から80年代の香港の街が実写とCGを巧みに織り交ぜて再現されている。こうした懐かしいシーンの数々と同じように、梅艷芳という存在が間違いなく香港人の「集體回憶=集団の記憶」であることも確認できる。

道路中央にまで突き出したネオンが一番輝いていた1980年代の佐敦(Jordan)がよみがえる。最近、多くのネオンが老朽化を理由に撤去されている。惜しむ声も多いが、このころから大したメンテもしていないだろうから、撤去もやむなしだろう。とにかく危険だ by “香港01”
利舞臺(リーシアター)も香港の歌手にとっては憧れのステージ。ここに立って一人前と言われた時代。今はこの外観を生かしたショッピングビルになり、後方には時代廣場(タイムズスクエア)がそびえる

本当に駆け足出で梅艷芳の生涯を描いてきた本作だが、何と言ってもアニタを演じた主役の王丹妮(ルイーズ・ウォン)が素晴らしかった。全身でアニタになりきっていた。モデルとしてはすでに15年ものキャリアをもつ王丹妮だが、映画出演は今回初めて。演じるのが梅艷芳とあっては相当なプレッシャーがあったと思うが、堂々としたものだった、仕草、表情、発声、歌い方…。アニタになり切っていた。彼女なればこその感動作だったと思う。100点満点上々出来であった。

何度も「え?これ本人?」と見まがう場面があった

繰り返すが、駆け足の作品展開。2時間以内で収めようと思うと、どうしてもこうなってしまう。そこで!ってわけでもないんだろうが、「導演版=ディレクターズカット」が、5回に分けて「Disney+」で配信開始となった。日本では間もなく4月6日(水)16時より配信が開始される。今回上映の「劇場版」では入りきらなかった箇所も公開されるだろうから、これこそが「正本」。すぐに観たいけど…。もうしばらくは余韻に浸らせてほしい…ってのが正直なところだ。

何よりも、この作品が日本全国の劇場のスクリーンに映し出されるのを望む。そして少しだけでいいので、梅艷芳という輝く星、まさに「巨星」がいたことを知ってもらえれば。その生きざまを知ってもらえれば…。その死から20年になろうとする今もなお、梅艷芳は香港人の心の中に生きていることを知ってもらえれば…。その日が来るのを待ちたいと思う。よろしく!どっかの配給会社さん!

<受賞など>

■第28屆香港電影評論學會大獎
・推薦映画賞受賞:『梅艷芳』
・他1部門ノミネート

■2021年度香港電影編劇家協會大奬
・2部門ノミネート(3月31日時点、結果待ち)

■第40屆香港電影金像獎
・12部門ノミネート(3月31日時点、結果待ち)

■第17回大阪アジアン映画祭
・観客賞受賞:『梅艷芳』
・コンペティション部門スペシャル・メンション:『梅艷芳』

【梅艷芳Anita】正式預告

(令和4年3月20日 ABCホール)


☆彡『夕陽之歌』が主題歌!(ただし、「男たちの挽歌」Ⅰ、Ⅱとは関連性なし…。)

男たちの挽歌III アゲイン/明日への誓い <日本語吹替収録版>

【特典映像】
●撮影現場潜入 & チョウ・ユンファ インタビュー
●オリジナル予告編
●日本版予告編
*日本語吹替音声は、一部吹替の無い個所を字幕で対応しております。


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