【香港!HONG KONG!2017 ロ】食べることについて<1>

早餐

モーニングセットのこと。茶餐廰(喫茶店のような大衆食堂のような)の定番メニューである。もっともポピュラーなものが「A餐」。日本人は矢沢永吉や中村鋭一を呼ぶときのように「え~ちゃん」と言う。果たしてその発音が正しいのかどうかは不明だが、聞き直された経験はないからこれでいいのであろう。小生の15年間の在住で、朝メシの実に7割はこの「え~ちゃん」であったと自慢しておく。駐在員家庭なら、奥さんが朝からご飯を用意してくれているはずだから、そういう人たちには無縁と言えるメニューだけど、小生のような一人もんには「え~ちゃん」は毎朝欠かせぬお友達なのである。

「A」と言うからには、B、C、D…もあるわけだが、それ以外を冒険する勇気もなく、結局、出勤日も休日も大型連休でさえも、毎日店を変えながら「え~ちゃん」行脚を続けていたのである。とにもかくにも、朝飯には「え~ちゃん」を。とりわけ、『蘋果日報』や『東方日報』で血まみれの殺人事件被害者の写真なんぞを見ながら、ゆったりと「鴛鴦」をズルズルすするのがよい。「鴛鴦」とはコーヒーと紅茶をブレンドした奇妙奇天烈なる飲み物だが、ひとたび口にすれば、その味わい深さの虜になること請け合いである。

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到着翌朝の2月11日、さっそくホテル近くの「新嘉美茶餐廰」で典型的な「A餐」を食す。トースト、目玉焼き、スープマカロニ、飲み物。この店はこれで〆てHK$32。小生が居住を開始した1995年のほぼ2倍のお値段には、びっくらこくしかない。ちなみに、13日の朝もここでこのまんまのセットを食った。(iPhone 6S Plusで。画像補正あり)

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翌12日そして15日はこれまたホテル近くの、叉焼メシがうまい「強記飯店」の「A餐」。こちらもHK$32。前日の新嘉美に比べると、食器にやや高級感があるが所詮はプラスチックである。それでこそ茶餐廰である。(iPhone 6S Plusで。画像補正あり)

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14日はちょっとバスで足を伸ばして香港仔(Aberdeen)の「金門餐廰」でA餐を食す。中心街でHK$32のセットも香港島南部へ来ればHK$31と日本円で約16円安くなる。ここはパンが絶品なのだが、マカロニはゆですぎてへにょへにょである。従来はこんな具合にへにょへにょだったのが、昨今は固ゆでの店が増えているのはなぜだろ?(iPhone 6s Plusで。画像補正あり)

紫菜墨魚丸河粉

総体として麺メニューは豊富である。麺の種類も豊富だが、一般の香港人は「出前一丁」が大好きで、例えば火鍋の〆に出前一丁の麺だけを投入なんてことはざらである。上述の茶餐廰でも出前一丁は必ずメニューにあるし、それこそ「え~ちゃん」のマカロニを出前一丁に差し替えてもらうこともOKなもんだから、朝っぱらから出前一丁を食ってる人が結構いる。まあ小生なんぞは「え~ちゃん」の虜だとは言え、いくらなんでも朝から出前一丁は無理だ。あれは土曜の午後、朝日放送の『道頓堀アワー』の漫才や落語を見て、ケラケラ笑いながら食ってこそ旨いもので、決して血まみれの死体の記事なんかを見ながら食って旨いものでもない、と思うのだが。

出前一丁はさておき、香港でぜひ食していただきたい麺をばひとつ紹介しておく。「紫菜墨魚丸河粉」がそれである。簡単に言うと「海苔載せのいか団子ホー」であるが、これはどこでも平均点と言うわけではなく、このメニューで店の身代が持っているようなところで食していただきたい。

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どの店が旨いかは意見の分かれるところだが、小生は銅鑼灣(Causeway Bay)や中環(Central)の「文輝」がお気に入り。さすがに「墨魚丸大王」と自ら名乗るだけのことはあって、いか団子の弾力性は抜群(iPhone 6s Plusで。画像補正あり)

「いか団子の弾力性」など、ほとんど周星馳(チャウ・シンチー)の『食神』の世界だが、これはいくつかの店を食べ比べて、自分なりの答えを見出すしかない。意外にも家の近所の何気ない店が旨かったりすることもあるからねえ。

上の写真はメーンのいか団子ホーと付け合せ野菜。これは好きな野菜を選べばよいが、この麺メニューには「腐乳通菜」が一番合うかと思う。あいにく、通菜(空芯菜)はいまは旬ではないのでまたの機会ということで、ゆでレタスのオイスターソースかけにした。飲み物はなぜかこの麺メニューにぴったり合う「豆漿」、すなわち豆乳である。

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香港市民の「出前一丁」信仰を象徴するイベントを旺角(Mong Kong)で開催していた。キャラクターグッズなどの臨時販売所が設けられていたのだが、店の前には「清仔」として香港で愛されている「出前坊や」の巨大フィギュアが出現、記念撮影する人、ひっきりなしの大盛況であった。(2月11日、旺角・登打士街/Dundas Street SONY α58, f/3.5, 1/30 sec, ISO-400, 18mm  画像補正あり)

下午茶

偉大なる大英帝国領だった香港には、アフタヌーンティーの習慣が残る(ということになっているw)。要するに「食い意地」が張っているだけのことではないかと小生は眺めている。今回の滞在中も下午茶を食した。パン類と飲み物のセットから、それこそ出前一丁に叉焼を載せた「もう晩飯それでええやん(笑)」みたいなボリュームのあるものまで様々で、この辺のバリエーションの多さは、いかに茶餐廰を幅広い職種、境遇、懐具合の人たちが愛好しているかがわかる。もちろん、遅くなってしまった昼飯をこれで代替する場合も多い。小生など丁稚だったころは、一日中外出していることも多かったので、下午茶を昼飯代わりにしたことは多々あった。その癖であろう、番頭に出世して、椅子に座って丁稚どもに叱咤激励飛ばせばいいだけの立場になっても、午後3時半から4時半の間に、ふらっと茶餐廰に出かけてしまったものである(笑)。

img_4427namae小生が一番好きなのは、「菠蘿飽」(香港スタイルのメロンパン)に、割と厚切りのバターをはさんだ「菠蘿油」である。店によって多少の当たり外れがあるが、基本的には「まずうて食えんわ!」ってほどのことはなく、安心の一品である。気の利く店は、15秒ほどレンジで温めてくれる。すると中のバターがほどよく溶け始めてパン生地になじんだ状態で客のもとに届くのである。これを押しつぶしながら食べるのが旨い。(2月11日、灣仔・雅園餐廰小厨 iPhone 6s Plusで。画像補正あり)

img_4795namaeこれもよくあるパターン。サンドイッチは種類が豊富だが、小生のような好き嫌いの激しい人間には、この「火腿蛋三明治」一般には「といだんじ~」と呼ぶ、ハムと卵焼きをはさんだ極めてシンプルなものがよい。写真の飲み物は「凍檸茶」といい、要するにアイスレモンティーなのだが、ご覧のとおり、厚切りのレモンが3、4切れ入っており、これをロングスプーンやストローで押しつぶしながら飲むのが香港式。(2月14日、長洲島 iPhone 6s Plusで。画像補正あり)

西多士

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忘れちゃならないのが「西多士」。「さいどーしぃ~」と呼ぶが日本風に「斎藤氏ぃ」で間違いなく通じる(はず)。モノはどうやらフレンチトーストのことらしいが、日本で供されるものとは似て非なる。一見、厚揚げのようだが、間にピーナッツバターたっぷり、上ではバターがとろけているという理想形。これにハチミツをたっぷりかけて食す。「下午茶」の中では、腹持ちの良いメニューのひとつである。(2月14日、灣仔・金記冰室 iPhone 6s Plusで。画像補正あり)

「下午茶」もご多分に漏れず、相当値上がりしている。今回紹介したセットは長洲の「腿蛋治」を除くとHK$30~35である。まあ、昔からそんなに物が安いという印象はなかった香港だが、ここまで値上がりしてしまった背景は、やっぱり不動産の高騰に尽きるだろう。家賃高騰が料理の値段に跳ね返ってくるのはまだましな方で、家賃が上がったために、泣く泣く閉店してしまった贔屓の茶餐廰も少なくはない。今営業している店が今度行ったときにやってる保障もどこにもない…。

「食べることについて」はまだまだネタがあるけど、ここらで一旦中入りと致しまする。



 


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