【チャコの失踪物語】*旧ブログ

そろそろ悲しみも癒えてきたので、『チャコの失踪物語』をしたためます。
実家には2匹の犬がいました。去年の8月のお盆のころまで。
どちらも柴系の雑種で、長居公園で拾ってきた犬です。
お姉ちゃんが「チャコ」16年目。弟が「ラッキー」12年目(だったかな?)。
どちらも人懐っこくって、近所の人たちにも凄くかわいがられていました。

チャコは2年位前から足腰が弱って、玄関の上がり框から土間に下りるのも困難になっていました。見かねて抱きかかえて下ろしてやると、それはもううれしそうな瞳でぼくを見つめて、ちぎれるんじゃないかと思うくらい精一杯尻尾を振ってくれました。
でももう、目はほとんど見えていないし、耳もほとんど聞こえていない状態だったのです。
それでもチャコは、ぼくが帰国する日に母が「今日は兄ちゃん帰ってくるで」と言えば、ぼくが帰り着くまでは朝から餌も食べずに玄関で「お座り」の姿勢で待ち続けてくれていたんです。だからぼくはチャコがほんと、心底から可愛くってなりませんでした。

くそ暑い大阪の夏を、弱った身体で老犬はなんとか2回乗り切りました。
このところは帰国のたびに、チャコが生きていることを確認し、思いっきり抱きしめてやっていました。去年の夏8月もそうでした。
「今年の夏も暑いけど、がんばって乗り切りやぁ」と、何回チャコに語りかけたことでしょうか。

そして、11月。
帰国したとき、出迎えてくれたのは弟のラッキーだけでした。
両親に「チャコ、やっぱりあかんかったか?」
と聞くと、
「いや、お前が8月に香港に帰って直後に行方不明になったんよ」
と。父と弟は、区内だけでなく大阪市南部、堺市、松原市、八尾市など路地裏まで徹底的に捜索し、警察や保険所にも保護願いを出したが、結局、見つからなかったと。

弟の長女、すなわちぼくの姪っ子は、チャコが拾われてきたときは恐らく1歳でしたかね。だからすごくチャコと相性が合って、とても可愛がっていたんですが、大変なショックだったんでしょう、失踪直後は毎晩のように父に電話で
「じいちゃん、なんとかチャコ助けたって!」
と泣きながら電話してきたと言います。
チャコの失踪と、姪っ子の電話の話を聞いて、ぼくも涙腺が緩んでしまい、頬を涙が流れてゆきました。

思い出したのは、高校生のときのこと。
近所で飼われていたスピッツの「シロ」がある晩、自ら鎖をちぎって行方をくらましたのです。シロもぼくが物心つくかつかないかのころに、このお家にやってきました。だから、ぼくと成長をともにしてきたわけで、姪っ子の嘆き悲しみが痛いほどわかるんです。

そして。
鉄製の門扉で、がちっと鍵がかかっているのに老衰のチャコはどうやって外に出て行っていまったんだろう?
同じように老衰のシロはどうやって自分で鎖をちぎったんだろう?
どちらもまったくの謎ですが、おそらく、チャコもシロもお世話になった家族に自分の死に際を見せたくなかったんじゃないだろうか? 死んでからの世話をさせたくなかったんじゃないだろうか?
なんて思っています。
それを思うとますますシロとチャコのことが愛しくってなりません。

捨てられていたチャコを長居公園で発見した「トミー」は、やはり老衰でよろよろでしたが、ある日、出かけようとするぼくのところへ必死でやってきて何度もぼくのひざに顔を摺り寄せていました。なんだか笑ってるみたいな表情でした。
トミーが亡くなったのはそれから15分後のことだったんです。用事で帰宅した父を見つけて軽く尻尾振って、父の足元まで必死で歩いてきて、泡を吹いて倒れたと…。
トミーはそうやって、限界まで家族とのひとときを楽しみながら死んでゆきました。一方のチャコは、死に様を家族に見せることを拒否するかのごとく、姿をくらましました。チャコが生きているとは思いません、きっとどこかの草むらで静かに息を引き取って土に返ったのでしょう。

家族として扱ってきた動物との死別は悲しいです。
でも、それぞれに犬なりの「死に方の美学」があるということを、チャコ、トミー、そしてシロの最期で知りました。3匹とも10数年ともに暮らしてきた我々家族への思いを見せて死んでいったんでしょう、胸がいっぱいになります。

生きものを飼っている皆さんへ。
どうか、最期まで責任もって育ててやってください。決して捨てることなく。
長い年月の末に、飼い主や家族への思いを胸に旅立って行く彼、彼女をやさしく見送ってやってください。彼、彼女はぼくたちが想像している以上に、ぼくたちを愛してくれています…。

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COMMENT:
AUTHOR: アムゼルくん
DATE: 02/05/2009 00:11:01
ふううむ、うまい言葉がみつかりません。犬に関してはひとつ人には言えないことがあって、それが自分の中で解決を見つけていないせいです。
それ以来、わたしは生き物を飼うことはやめています。
レスリーさんに出会えて犬たちは幸福だったことでしょう。レスリーさんがいつかまた彼らとちがった生の場で出会えることを祈っています。
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COMMENT:
AUTHOR: leslieyoshi
DATE: 02/05/2009 10:51:13
To アムゼルくんさん
いやもう。
悲しい物語なんですが、それでも犬を飼いたい気持ちは変わらずです。
今のアパートは犬猫はもちろん、小鳥さえ飼わせてもらえないんです。
>レスリーさんに出会えて犬たちは幸福だったことでしょう。
そう言って頂くと、救われた思いです。


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