【毒書の時間】『朧夜ノ桜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 24』 佐伯泰英

門前仲町の夜桜。居眠り磐音が活躍した時代、この夜桜の下を多くの屋根船や猪牙舟が行き交い賑わったのだろう (photo AC)


双葉文庫版の『居眠り磐音江戸双紙』シリーズを読み始めて、この年末で丁度8年になる。全52巻の長丁場、せいぜい中途挫折しないようにと思っていたら、この巻で24巻目となった。どうやら、物語はここから後半戦に突入するらしく、この先も磐音さんとの日々は続くのか(笑)。

『朧夜ノ桜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 24』 佐伯泰英

双葉文庫 品切れ重版未定
文春文庫 『朧夜ノ桜 居眠り磐音(二十四)決定版』 ¥803

まずは『居眠り磐音江戸双紙』シリーズについて、ざっくり触れておく。かなりの部分、4月2日付けの《【毒書の時間】『万両ノ雪 ─ 居眠り磐音江戸双紙 23』 佐伯泰英》と重複するが、そこはご容赦を。

❒居眠り磐音との出会い

最初の出会いはテレビドラマだった。それも香港在住中に遡る。2007年7月19日 – 10月11日にNHKワールドプレミアムで国内と同時放映されていた「木曜時代劇」の『陽炎の辻〜居眠り磐音 江戸双紙〜』である。毎週観ていたわけではないが、「で、次はどうなるんよ?」と、いつの間にか楽しみになっていた。それまではこの時間帯は現地TVBの連ドラ観ていたのに、いきなり時代劇かよ(笑)。その後、時代劇枠は「土曜時代劇」となり、『陽炎の辻2 〜居眠り磐音 江戸双紙〜』が2008年9月6日 – 11月22日に放映され、シリーズ1以上に楽しみな番組となる。2009年1月3日には「正月スペシャルドラマ」として特番が放映され、2009年4月18日 – 8月8日には「土曜時代劇」枠でシリーズ3が放映された。もちろん、遊びに出る日以外は全部観た。

❒居眠り磐音という男

主人公は、豊後関前藩(架空)をわけあって脱藩し、江戸で浪々の日々を送る坂崎磐音。江都に名を馳せる「直心影流佐々木玲圓道場」随一の腕前を誇る。直心影流の達人でありながら、磐音の剣は「縁側で日向ぼっこする猫のよう」な穏やかな動作。これがなんとも劇画チックで、テレビドラマにぴったり。文章として読んでも作者の佐伯泰英の筆運びが見事で、刃を交える場面が鮮やかに目に浮かぶ。ドラマの主演は山本耕史。NHK時代劇の「顔」と言っていい存在だが、磐音役にこれほどピタリとはまる役者は、小生の知る限りいないだろう。映画版では松坂桃李が演じたが、ピンとこないので観ていない。

江戸で浪々の日々ではあるが、鰻割き職人、江戸金融界の頂点に立つ両替商今津屋の用心棒、脱藩した旧藩のピンチを救う活躍などで、いつのまにか将軍家治も認める存在に。脱藩の「わけ」が引き起こした許嫁との悲恋、今津屋の奥を仕切る女衆で、「今小町」と呼ばれる深川のアイドル的存在、おこんとの恋バナ、長屋や深川の人たちとの交流など、ドラマを通じて磐音の人柄と剣術にどんどん引き込まれていったのである。「原作も読みたい」願望は募る一方であったが、「時代小説はどうもねぇ…」ってのがあって…。

でも「齢を重ねる」とはえらいもんで、50歳を過ぎたあたりから「時代小説」をちょいちょい読み始めるようになる。これが案外と面白い。そこでいよいよ、『居眠り磐音江戸双紙』に手を付けたのが、2015年の年末のことであった。

そして今、坂崎磐音は佐々木道場の跡継ぎとして佐々木玲圓、おえい夫婦の養子となり、おこんを嫁と迎え、佐々木磐音として新たなスタートを切ろうとしていた…。

❒で、24巻の感想などをひとつ

梅香漂い、江戸が小正月を迎える頃、佐々木磐音はおこんとともに麻布広尾村に出向いていた。御典医桂川国瑞と織田桜子の祝言への列席であったが…<引用:『朧夜ノ桜 ─ 居眠り磐音江戸双紙 24』表紙カバー>

磐音シリーズは、ここからが後半戦ということになるのかな。前の23巻では著者の長~~い「あとがき」があって、一段落という感じだったので、多分、ここから後半で間違いないでしょう。

ここで、4巻「雪華ノ里」で磐音が金沢で出会った三味芳の鶴吉が再登場。すっかり忘れていた存在だけど、磐音への恩義を強く感じており、旅先の修行の地で、なんか不穏な情報をあれこれと仕入れて来ており、磐音のために動き始める。どうやら城中の「タの字」のお方=田沼意次が、佐々木道場からバージョンアップした尚武館および磐音潰しに本格的に動き出した模様。後半はこのお話中心に展開すんだろうな。相手は超大物、磐音はどうする? それにしても鶴吉の再登場は嬉しい。こんな感じで、これから過去に磐音と親交のあった人たちが、再登場してくれればいいなぁ。

おこんさん、速水家へ養女に入る道中が深川挙げての見送りの様相。さすが今小町! いつの間にか物語の中に生きている気持ちになっていて、すっかり深川の住人になっている小生、胸いっぱいになるシーンである。

将軍家御典医の桂川国瑞と因幡鳥取藩家臣の息女、織田桜子の祝言に始まり、磐音とおこんの祝言で閉じるおめでたい巻となり、終盤は「オールスター総出演」の様相だった(笑)。一方で、「タの字」の企みがこれからの磐音とおこんの険しい道のりを予感させる。

1巻からここまで8年がかり。さて、これからまた8年かそれ以上、続けて読めるかな(笑)。そもそも生きてるかな(笑)。

(令和5年8月7日読了)
*価格はamazon.co.jpの8月8日時点の表示価格

こちらは文春文庫版。


コメントを残す