【睇戲】流水落花 <日本プレミア上映>

HONG KONG GALA SCREENING

大阪ジアン映画祭も後半に突入したが、長編はまだ1本しか観れてない。なかなか、こちらの都合には合わせてくれません(笑)。

さて、以前は「HONG KONG NIGHT」として開催され、舞台上に多い時は20人ほどの香港映画人が集ったものだが、コロナ以降はそんな賑やかなイベントはできなくなり、そもそもゲストの来日が叶わず、それでも「香港ナントカ~」の形だけはずっと残してくれていたのが、香港映画マニアとしては嬉しいところ。感染拡大防止のための規制も、一気に緩和され、今年は香港からもゲストがやって来る。とは言え、以前のように「一堂に会して」とはならず、上映に協力している香港特別行政区政府駐東京経済貿易代表部(香港経済貿易代表部)より歐慧心(ウィンサム・アウ)首席代行が挨拶し、この後上映される『流水落花』監督の賈勝楓(カー・シンフォン)と主演の陸駿光(アラン・ロク)が挨拶するのみに。もっとも、関係者のみでレセプションは行われたようだが…。まあそんな次第で、「GALA」と言う割には、まったくご陽気な賑々しさのない、誠に質素なものであった。ちなみに陸駿光は、2019年の大阪アジアン映画祭で上映された『G殺』に続き、2度目の来阪。あの時は「変態教師役でした(笑)」と上映前の舞台合挨拶で笑いを誘う(笑)。

歐慧心(ウィンサム・アウ)首席代行。この方も、やっぱりタフネゴシエーターという感じ
歐首席代行を挟んで向かって右に賈勝楓(カー・シンフォン)監督、左に主演の陸駿光(アラン・ロク)

ではでは、映画の話題に移りましょうか。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画《Special Focus on Hong Kong 2023》
流水落花 邦題:流水落花 
<日本プレミア上映>

港題『流水落花』
英題『Lost Love』
邦題『流水落花』
公開年 2022年 製作地 香港
言語:広東語
評価:★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):賈勝楓(カー・シンフォン)
編劇(脚本):羅金翡(ロー・キムフェイ)、賈勝楓
監製(プロデューサー):李嘉慧(キャサリン・リー)
配樂(音楽):江逸天(オリバー・コン)
美術指導(美術):蔡慧妍(チョイ・ワイイン)
摄影指導(撮影監督):司徒一雷(シト・ヤッロイ)

領銜主演(主演):鄭秀文(サミー・チェン)、陸駿光(アラン・ロク)
主演(出演):談善言(ヘドウィグ・タム)、黃梓樂(シーン・ウォン)、李昀蔚(ナナ・リー)、吳祉嶠(フィービィー・ン)、趙啓嵐(マット・チウ)、曾睿彤(マヤ・ツァン)、徐嘉謙(チョイ・カーヒン)、劉朝健(ゴードン・ラウ)、黃梓軒(ウォン・チーヒン)
特别演出(特別出演):谷祖琳(ジョー・コク)、黃慧君(アファ・ウォン)、梁雍婷(レイチェル・リョン)

《作品概要》

ティンメイ(鄭秀文/サミー・チェン)とバン(陸駿光/アラン・ロク)夫妻は、養育里親として様々な背景の子供たちを受け入れてきた。他人になかなか心を開かないサム、離婚した両親から育児放棄されたチェン、口蓋裂で自分に自信を持てずにいるファー、心優しいミン、大人を信じられなくなっているガーヘイとガーロンの姉弟、大学生になってもティンメイの家に留まりたいというチョンハン。里子たちと暮らす二人に少なからぬ試練が降りかかる。第三者が現れることで亀裂の入った夫婦の心が、事件と時を経て信頼を取り戻し、幼くして我が子を失くした深い悲しみに対峙し乗り越えていく……<引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ

お馴染みとなった、香港政府による新しいクリエイターの発掘・育成を目的としたプロジェクト「首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative)=オリジナル処女作支援プログラム」の入選作。すでにここで入選した作品のほぼすべてが、大阪アジアン映画祭を中心に、日本で上映されている。いずれも良作揃いで、香港映画の新しい時代を感じさせる作品ばかりである。

里子を引き取るにふさわしい環境かかどうかをチェックするソーシャルワーカーの莫姑娘(演:談善言/ヘドウィグ・タム)。天美と彬の夫婦は禁煙を勧められる

本作は、香港における「寄養家庭=里親」がテーマ。ノーギャラ、ほぼすっぴんの鄭秀文(サミー・チェン)の体当たり演技は迫真に迫っており、心を動かされる。里子と里親の間に立つソーシャルワーカー役の談善言(ヘドウィグ・タム)も、情と制度の間でもがく役どころを好演。香港では3月2日からロードショーが始まったばかりだが、まずまず好評のようである。

そもそもはアイドル歌手であり、今や実力派女優の一角をなす鄭秀文)、同じく実力派俳優の陸駿光(アラン・ロク)を主役に据え、人気沸騰中の談善言を準主演に配して、新進気鋭の賈勝楓(カー・シンフォン)監督、初の長編映画。この3人が好演だったのは言うまでもないが、里子としてやって来た子供たちを演じた子役たちが素晴らしかった。先日観た『白日青春』もそうだが、本作も子役がいい仕事をしている。

愛息との死別の苦しみを経験した天美、彬の夫婦は、里親の道を歩み始める。

面倒を見る子供たちの境遇は過酷なものばかりだが、突然、里親と里子の関係が終わり、また別の子が居るという展開は、「いくらなんでも早すぎるのでは?」と疑問を抱く。スクリーンの上では、それぞれ概ね10分の「親子関係」に終わっていたのが、甚だ残念。もう少し、里子側の境遇に入っていってもよかったのでは?と思う。では、どんな子たちが夫婦のもとにやって来たのか。記憶と香港メディアの複数のリポートを手掛かりに振り返ってみる。

①張文森(サム 演:黃梓樂/シーン・ウォン)
・母親が薬物中毒。なかかな心を開かなかったが、ようやく夫婦と心が通い始めた所へ、養育先を知らないはずの実の母親がやって来て…。

②菁菁(チェン 演:李昀蔚/ナナ・リー)
・確か、里子の中では最年少だったか?両親は離婚し、母親(演:梁雍婷/レイチェル・リョン)が育児放棄。母への眼差しが印象深い。

③小花(ファー 演:吳祉嶠/フィービィー・ン)
・口蓋裂の少女。そのため、自分に自信が持てないが、夫婦の励ましで、徐々に自信を持って行動するようになる。運動会のシーンが感動的。

④譚俊明(ミン 演:趙啓嵐/マット・チウ)
・穏やかで優しい性格の少年。逆に里子に出されることに慣れているんじゃないかとも思わされる。天美夫婦の衝突に心を痛める。

⑤李家希(ガーヘイ 演:曾睿彤/マヤ・ツァン)、李家朗(ガーロン 徐嘉謙/チョイ・カーヒン)
・大人不信、大人を舐めてる姉弟。学校サボって冒険に出るが、嵐に見舞われ一時は行方不明に。必死で探す天美夫婦…。

⑥仲恆(チョンハン 演:劉朝健/ゴードン・ラウ)
・大学進学前の男子。6組の里子の中では最年長かな。「大学生になってもおばさんの所で過ごしたい」という言葉から、境遇が察せられる…。

里子勢ぞろい。実際にはこの子らが重なることはない

という具合に入れ代わり立ち代わり、里子がやって来るのだが、先述の通り、その関係は突然終わってしまう。この間、天美は「養子縁組」についても考え、ソーシャルワーカーの莫姑娘に相談する。しかし、この作品での里親は、報酬を受け取り、正式な引取先が決まるまで一時的に預かる、というものなので、「養子縁組は非常に難しい」と説く。彼女は彼女で、里子たちの幸福を願っているが、様々な制約の中で苦しんでいるのであった。

天美が里子養育に熱を入れ過ぎているためか、彬との間にちょっとしたすきま風が吹く瞬間も…。これを「浮気」と言ってしまうと、男の立場としては「ちょっと待ってください!」と言いたいが、他の女性に心が動いてしまったのは事実だから、申し開きはできない…。その「夫婦間の事件」の巻き添えを食ってしまうことになったミンは、かわいそうだった。きっと思い出したくないことを思い出してしまったのだろう。明るくふるまう少年なのにベッドでシクシク泣いていた…。

このミンを演じた趙啓嵐は、よく見かける子役。さすがに子役の中では慣れてる感じが一番だった。大阪アジアン映画祭も「常連」で、『淪落人』『G殺』『狂舞派3』に出演。何の役だったかは今となっては「?」だけど(笑)。また、ガーヘイを演じた曾睿彤は『少年たちの時代革命』に出演。チョンハン役の劉朝健は甄子丹(ドニー・イエン)主演の『大師兄』で、歌手を目指す生徒役で出演していたので覚えている。

このあたりのキャリアを積んでいる子役には、この先も映画、テレビに継続的に出演機会を与えて、大きく育てていってほしいものである。

また、士多(駄菓子屋)の女主人を、今を時めくアイドルグループ「MIRROR」の辣腕マネージャー、花姐こと黃慧君(アファ・ウォン)が演じているのも注目。このキャスティングについては、上映後に客席から質問があったが、監督曰く「そのまんまだから」と(笑)。たしかにね!

物語の結末は、悲しいものとなった。「犬を飼いたい」と言っていた彬は、大きな犬を散歩に連れていた。

さて、物語の舞台となったのは、まだまだ「田舎」の雰囲気を残す新界の錦田(Kam Tin)。先日の香港里帰りで散策した粉嶺(Fanling)もそうだったが、新界にはまだまだ「香港が香港でなかった時代」の名残があちこちに残っている。本作のFBにロケ地のMapがあったので、下記に転載しておくので、「ロケ地巡礼」にご活用を!

切り口やテーマが良かっただけに、駆け足になっていたのは残念だが、将来性を感じる新しい監督出現に、香港映画の未来を感じた作品だった。

上映後、Q&Aの時間があったが、席を立った瞬間に忘れてしまったのは、毎度のこと(笑)。写真だけ載せておく。

《流水落花》正式官方預告

《受賞など》
*2023年3月16日時点

■第29屆香港電影評論學會大獎
・推薦作品:『流水落花』
・最優秀女優:鄭秀文(サミー・チェン)
・他3部門にノミネート

■2022年度香港電影導演會年度大獎
・最優秀主演女優:鄭秀文(サミー・チェン)

■第41屆香港電影金像獎 *結果待ち
・3部門にノミネート

(令和5年3月16日 ABCホール)





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