【睇戲】我的印度男友 <日本プレミア上映>

いよいよこの作品を以て、小生としては今年の大阪アジアン映画祭は終了。寝坊して一本見逃してしまったが、観たい作品はすべて観ることができた。「う~ん、これは…」という作品もあれば、「思ってた以上によかった!」という作品まで色々。毎年のことではあるが、やはり観てみないことにはわからない。これまた出会い、天の配剤ってやつ。さて、最後の鑑賞となった『我的印度男友』はどうだったか…。

特集企画《Special Focus on Hong Kong 2022》

我的印度男友 邦題:私のインド男友 <日本プレミア上映>

 「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題『我的印度男友』
英題『My Indian Boyfriend』

邦題『私のインド男友』
公開年 2021年 製作地 香港
言語:広東語、ヒンディー語

評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):Sri Kishore(シュリ・キショール)
編劇(脚本):Sri Kishore

主演(出演):成家宏(カラン・チョーリアー)、陳欣妍(シェリー・チャン)、張建聲(ジャスティン・ジョン)、楊卓娜(レナ・ヨン)、喬寶寶(Qボーボー)、岑珈其(カーキ・サム)、陳佩思(パンシー・チャン)、新德莉莉(ニュー・デリリー)、張沛樂(シャ―ロッテ・チャン)、馬錫忠(ランソン・マー)

<作品導入>

学も仕事もないクリシュナ(カラン・チョーリアー)が恋をした相手は、隣に越してきたジャスミン(シェリー・チャン)。少々チンピラ風情だがカネは持っているリチャード(ジャスティン・ジョン)との結婚を母から半ば強制されている。クリシュナの猛烈なアタックにジャスミンの気持ちが少しずつ傾いていくが、母親から圧を受けクリシュナと別れる決意をする。熱いキスを交わす2人は交通事故に遭ってしまう。目覚めたクリシュナはジャスミンの死を知り廃人のようになる。しかし実は…。<引用:「第17回大阪アジアン映画祭」作品紹介ページ

ポスターには「首部港産波里活電影」。すなわち「香港初のボリウッド映画」。なるほど、これは興味津々。ボリウッドは、インドのムンバイを拠点とするヒンディー語の映画産業の別名。小生、特に興味はなく、勝手な印象としては、歌やダンスのシーンが非常に多く、とにかくハッピーな映画って感じ。まあ、当たらずとも遠からじってところではないだろうか。そんなボリウッドも、近年はコンテンツ革新をすすめており、芸術的で独創的な面白い作品が増えているという。そんなわけで、小生はこの『我的印度男友』に「歌って踊ってハッピー、ハッピー!」ってのを期待していた。映画祭の最後を飾るにふさわしいではないか、と。

最初の方で、大勢で踊るシーンがあって「おお、こういうのを待ってたんですよ!」と喜んでいたんだが、「あれあれ?こうなってゆくの?」という展開に。そこは香港のインド人社会という背景を考えてみれば、当然とも言える流れなのかもしれないし、実はボリウッドってこういう映画なんですよ!ってとこかもしれないし。ところで、上の画像のような「唄って踊ってナマステ~!」みたいな唯一無二の場面で流れてた曲はこちら↓↓

香港首隻混合了印度風格音樂的廣東歌=香港初のインド式広東語曲」との謳い文句で、タイトルはずばり『印度咖喱因乜呢インドカレーなぜ?』ってww。旨呈(=鄺旨呈/アンディ・クォン)ってのが歌っている。

さて、先ほど「香港のインド人社会という背景」と記したが、香港のインド人社会というのは、一大勢力である。なぜに香港にそんなにも多くのインド人が住まうのかについては、一々説明するとそれだけで一冊の本が書けるほどなのでやめておくが(笑)。小生が香港で最初に住んだアパートの一帯はインド人が多かった。シンガポールのリトルインディアのような「いかにも」な風景ではないが、漂う匂いや住民を見ると香港のリトルインディアと言えるかもしれない。果たして今はどうなんだろう…。場所は時代廣場(Times Square)の裏手である。

香港のインド人社会にもカーストがあるのかどうかは知らないが、大富豪や手堅い商売をやってるインド人は多分ほんの一握りで、小生が住んでいた一帯のインド人家庭もそうだったが、低所得者層が多い。そんなこともあってか、香港ではインド人はしばしば差別を受けやすい。「阿差」とインド人やパキスタン人を蔑称で呼ぶことも少なくなかった。これは「小日本」「日本仔」よりも、もっとキツイ蔑称のように小生には聞こえたもんだ。本来は、英領時代に大量に雇用されたインド人警察官のことだったようで、広東語の俗称で警官を「差人」と言うが、「差人」の中でもインド人警官は一番下っ端と見下す感じで「阿」を付けて「阿差」と呼んだ、それが転じてインド人を指す蔑称になっていったというところかな。

実際本作のタイトルも当初は『我男友係好差(私のカレシはかなりヘン)』だったのを、香港のインド人タレント、星·哈提汗·別都(Singh Hartihan, Bitto)から「タイトルの中にある『差』と入っており『阿差』を想起させる」とクレームがついて、現在のタイトルに改められたという経緯がある。最近は「阿差」なんてめったに耳にしないけど、まあ、主人公もそれを演じた主役もインド人ってことで、「差」の一文字を入れたのはよくなかったな。そういう香港インド人社会というのが、少しだけでも頭の中にあれば、この作品の味わいもより濃密なものとなる。ちなみに、上の『インドカレー~』のMVも左のポスターのタイトルも修正以前の『我男友係好差』となっている。

男主人公のクリシュナ(演:成家宏/カラン・チョーリアー)は、まるでダメ男で画に描いたようなぐーたらな人間。隣に引っ越してきたジャスミン(演:陳欣妍/シェリー・チャン)に一目ぼれしたしたが、相手にしてもらえない。色んなアプローチをするんだがことごとく失敗。象徴的なのがバスの中での突然の告白。唯一の香港人の友人・コン(演:岑珈其(カーキ・サム)にも見守ってもらいながら、大勝負に出るも見事に「もう付きまとわないで!」とビシっと言われてしまう…。

う~ん、なんかやり方間違ってるよな、君…

そりゃねえ、ご近所さんもいっぱい乗り合わせているバスの中で、上の写真みたいなことされたら、された方が赤っ恥かくよな(笑)。そこに思いが至らないまっ直ぐすぎるのが彼の最大の欠点である。こうなるともう、「異文化の垣根を超えて」なんてやつのはるか以前の話だわな(笑)。

そしてさらに乗り越えなければならないのは、彼女の母親(演:楊卓娜/レナ・ヨン)と、母親が推奨する金持ちのボンボン、リチャード(演:張建聲/ジャスティン・ジョン)の存在。母親はとにかく娘の結婚後の安泰を願い、リチャードと結婚させることしか頭にない。一方のリチャードはかなりの遊び人。当のジャスミンも全く乗り気でない。そこへ現れたのがクリシュナなのだが、これまた食えない野郎…。

右は遊び人のリチャード。ジャスミンの母親は彼との結婚を強制するが、まあ絵柄としても、このカップルは成立しませんわなww

ところが人生とはわからんものである。いつの間にか、ジャスミンの心がクリシュナに傾いてゆき、やがて本物になってゆく…。クリシュナが友人のコンに連れて行ってもらった「打小人」の成果かもしれないが(笑)。

なぜかいつもインド人グループとつるんでいるコ―。岑珈其にうってつけの役どころだった

打小人は啓蟄の日に「憎いあいつ」の名前や顔を描いた紙を専任のおばちゃんにスリッパで叩いてもらうという、香港の伝統宗教行事なんだが、昨今はCOVID-19の感染拡大防止のため、この行事も中止になったと聞く。イヤな奴に一撃食らわすことができないず、悶々としたまま1年を過ごすことになるのか…。ヤダね~。

で、またもや「人生って…」な出来事が起きる。二人が乗り合わせていたタクシーが事故って、クリシュナは助かるがジャスミンは死んでしまう…。が、どんでん返しが…。という流れで最後は笑ってエンディングという流れになる。しかし、どうにも一旦ジャスミンを「死」としてしまった、ジャスミンの母とクリシュナの父親(演:喬寶寶/Qボーボー)の選択と言うか、合意が後味悪い。こえは二人があまりにも可哀そう。恐らく、出番は少なかったけどジャスミンの伯母さん(演:陳佩思/パンシー・チャン)の説得があったんじゃないかと思う。母親にブレーキかけるとしたら、この人しかおらんな、って思ってもん…。

人種差別、文化の違い、階級の違い、その他の困難を克服して、二人はめでたくゴールインしました!って作品。香港、香港のインド人社会という舞台設定があって成り立つ作品。こういうのは他民族都市、国家ならではのものだろうな。

監督のシュリ・キショールも香港在住15年目になるインド人。自身の国際結婚での体験をベースした。男主役のカラン・チョーリアーは、香港生まれ香港育ちのインド系香港市民。芝居を勉強中だがダンスは初体験。作中、『印度咖喱因乜呢』の総踊り以外にも、何度か彼のダンスを見せるシーンがあったが、ダンス自体はこれが初めてだとか。うまいこと踊ってたけどなぁ。これからどんな芸能生活を歩むんだろうか。名前を憶えておきたい。

女主役の陳欣妍(シェリー・チャン)は今やViuTVの売れっ子スターである。『阿媽有咗第二個』でMIRRORのことに触れた時も記したが、ViuTVのタレントが次々と生まれて、映画でも主役を張る時代になった。「TVB一強時代」は終わったということか。リチャード役の張建聲(ジャスティン・ジョン)も基本的にはViuTVのタレントとみなしていいだろう。あと「かわゆいやん!」と思ったのは、クリシュナの妹役、新德莉莉(ニュー・デリー)。若干、おデブちゃんなんだが、あれくらいの子の方がサリーが似合う。プロフィールがよくわからないのが残念。しかし名前が「ニュー・デリリー」ってww。

終わってみれば、小生が思い描いていたボリウッドとは少し違ったけど、香港インド人社会にスポットをあて、香港人とのかかわりの難しさや、それを乗り越えるのにそれぞれがどんな苦悩を抱えているかなどを描いたという点で、意義のある作品だった。次の「港産波里活電影」に期待したい。

首部港產Bollywood電影《我的印度男友》 正式預告片

(令和4年3月20日 梅田ブルク7)

♪・*:.。. .。.:*・♪゚・*:.。. .。.:*・♪゚・*:.。. .。.:*・♪゚・*:.。. .。.:*・♪

というわけで、寝坊で1本見逃してしまったが、予定の作品の鑑賞が終了。例年通り、タイトルは全部中国語だった(笑)。どうしてもこうなうよな、香港映画から始まった人間だから。

で、これまた例年通り、勝手に各賞選出とまいりましょう。

■最優秀作品賞:『梅艷芳』
■最優秀監督賞:彭秀慧(キーレン・パン)『阿媽有咗第二個』
■最優秀主演男優賞:岑珈其(カーキ・サム)『緣路山旮旯』
■最優秀主演女優賞:余香凝(ジェニファー・ユー)『緣路山旮旯』
■最優秀助演男優賞:納豆(ナードウ)『不想一個人』
■最優秀助演女優賞:廖子妤(フィッシュ・ラウ)『梅艷芳』
■新人俳優賞:王丹妮(ルイーズ・ウォン)『梅艷芳』

寝坊で見逃してしまった『殺出個黃昏』を予定通り観ることができていたら、違う結果になっていたでしょうな…。朝が弱いのはどうにもいけませんなあ(笑)。これも例年言ってるけど、やっぱりあと3本くらいは観ておきたかったね…。


香港 旅の雑学ノート 単行本』 山口文憲 (著)

★1970年代、ユニオンジャックはためく香港を★
豊富な図解と文章で徹底分析した
★幻の香港ガイド 完全復刻★

巻末に、復刊によせての著者あとがき、角田光代さんによるスペシャル解説エッセイを増補!

 


コメントを残す