【睇戲】親愛的房客

台湾巨匠傑作選」は一段落したが、この夏は気になる台湾映画がいくつも公開されるので、まだしばらくは台湾づくしとなりそうだ。この日は、『親愛的房客(邦:親愛なる君へ)』を観た。主演の莫子儀(モー・ズーイー)は日本ではそんなに多くの出演作品が公開されたわけでもないのに、けっこう人気がある。ま、あくまで台湾映画好きの中で、ということだが(笑)。小生が観た作品では、台湾の監督が「両岸三地(本土、香港、台湾)」の俳優を使って台湾で撮影した中国映画『夏天十九岁的肖像(邦:夏、19歳の肖像)』、「台湾巨匠傑作選2019」で上映された『相愛的七種設計(邦:台北セブンラブ)』くらいだな…。『台北飄雪(邦:台北に舞う雪)』は観てないしなぁ…。小生にはなじみの薄い役者って話なんだが、近頃は「台湾映画」というだけで、どんどん全国劇場公開されるからね。オモロなかったら怒るで、しかし(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

親愛的房客 邦題:親愛なる君へ

台題『親愛的房客』 英題『Dear Tenant』
邦題『親愛なる君へ』
公開年 2020年 製作地 台湾
言語:標準中国語、台湾語
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):鄭有傑(チェン・ヨウジエ)
編劇(脚本):鄭有傑
監製(監修):鄭有傑、楊雅喆(ヤン・ヤーチェ)

領銜主演(主演):莫子儀(モー・ズーイー) 、白潤音(パイ・ルンイン) 、陳淑芳(チェン・シューファン)
主演(出演):姚淳耀(ジャック・ヤオ)、是元介(ジェイ・シー) 、謝瓊煖(シエ・チョンシュアン)、吳朋奉(ウー・ポンフォン) 、沈威年(シェン・ウェイニエン)、王可元(ワン・カーユエン)

【作品概要】

老婦・シウユーの介護と、その孫のヨウユーの面倒をひとりで見る青年・ジエンイー。血のつながりもなく、ただの間借り人のはずのジエンイーがそこまで尽くすのは、ふたりが今は亡き同性パートナーの家族だからだ。彼が暮らした家で生活し、彼が愛した家族を愛することが、ジエンイーにとって彼を想い続け、自分の人生の中で彼が生き続ける唯一の方法であり、彼への何よりの弔いになると感じていたからだ。しかしある日、シウユーが急死してしまう。<引用:映画『親愛なる君へ』オフィシャルサイト

以下、ネタバレ御免にて候

同性婚、介護、相続、尊厳死…。いくつかのテーマを莫子儀(モー・ズーイー)演じる林健一(ジエンイー)を中心に描いていく。莫子儀は難しい役どころを上手にこなしていたのではないだろうか。納得の金馬獎最優秀主演男優賞である。

「房客」とは借家人、店子の意で、英題にも「Tenant」とある。今は亡き元カレの 王立維(リーウェイ-演:姚淳耀/ジャック・ヤオ)と妻の間の子、王悠宇(ヨウユー-演:白潤音/パイ・ルンイン)と元カレの母親、周秀玉(シウユー-演:陳淑芳/チェン・シューファン)の面倒を見ている。あくまで同居という形はとらず、「ただの間借り人」という立場を貫いている。「そこまでする必要ある?」ってところだが、健一にとっては、立維の家族に尽くすことで、立維の弔いになると感じている。その背景は、後半にわかる。

子役の白潤音は、台日ハーフの今年12歳。すでに映画、ドラマ、MVに引っ張りだこの売れっ子スター。ちょっと拗ねたところがある悠宇だが、感情の持って行き方をよく心得た演技で、このおじちゃんが涙でボロボロになったシーンもあったよ(笑)。

涙でボロボロになってしまったシーン。いや~、大変だった(笑)

元カレの母親役の陳淑芳は説明するまでもない台湾の代表的ベテラン女優。最初は「扱いにくいぁババァやな~」って思ってたが、実は健一の献身的介護をすごく感謝している。が、ために、自らの人生に終止符を打つ決意をするに至る…。ここもグッとくる場面。この死に健一はあらぬ疑いをかけられ、罪に問われることになる。それを画策したのが、元カレの弟で借金に苦しむ王立綱(リーガン-是元介/ジェイ・シー)である。こいつねぇ…。すっごくイヤな奴なんだわ。観たらわかる。観客を「いいいいいっーー!」てさせる。上手いねぇ、この俳優。初めて見た顔だけど。ちなみに陳淑芳は昨年の金馬獎では、本作で最優秀助演女優賞、『孤味(邦:弱くて強い⼥たち)』で最優秀主演女優賞とダブル受賞。

健一が悠宇の「拔巴二號(パパ2号)」に正式になった日。中央に陳淑芳演じる周秀玉。結果として、これが健一に疑いの目が及び、悠宇と引き裂かれることになってしまう…。世の中、うまくいかんもんだなぁ…

秀玉が痛みに苦しむ姿を見かねて、裏ルートできっつい薬を入手する健一。相手はセフレだった尤士軒(エリック-演:王可元/ワン・カーユエン)。これがきっかで、けっこう激しいシーンにつながって、終始トーンを抑えていた健一の爆発的瞬間を見てしまったって感じ。ちょっとこの作品の中では異質なシーンではあったけど、「まあ、しゃーないよな」と理解できる場面でもあった。で、この王可元、小生のイチ推し。これから色々と出てくると予感している。

繊細かつ大胆な演技で目を引いた王可元。刑事役の吳朋奉(ウー・ポンフォン=右端)の早逝は返す返すも惜しまれる。なお「かわいい」の看板は、中華社会共通の「接待を伴う飲食店」にありがちな店名(笑)
こんなラブラブなシーン、あったけ???

健一が間借りするのは屋上。ここから見える基隆の街の風景が素晴らしい。何度か訪れたことがある都市だが、軍港というイメージが強い。実際に駅には兵隊さんの一群がいて、多分しばしの休暇で実家へ帰るのか、そんな風情だったり。後述のビデオクリップでの、健一と立維がじゃれ合う回想シーンの夕暮れの景色がいい。ラブラブな毎日だったのに…。立維の死の背景にあったのは、弟の多額の借金。港湾作業の重労働で疲労が蓄積してゆく。そんな折、二人は登山に行き、そこで体調に異変を起こした立維は命を落としてしまう…。

立綱役の是元介。彼の嫌味さもまた本作には欠かせない要素

基隆のちょっと古いアパートメント(日本式に言えばマンション)に健一たちが住んでいる。都市再開発で値が上がっているらしく、それを狙っているのが借金まみれの立綱である。自分への相続の正当性を証明したいのだ。悠宇にとっての拔巴二號(パパ2号)である健一の存在は邪魔以外の何でもない。母親の死に方に不信感を抱き、警察に徹底捜査を申し入れ、悠宇を自分で引き取ろうという…。まあねぇ、心底からの悪人ではないんだが、まず99%以上の観客は奴に嫌悪感を抱くよな。兎角、相続というのは人間の醜い姿を晒し出すものだなぁと思った。相続するものなんぞほとんどない家に生まれ育ってよかったよ、アタシは…(笑)。

結局、悠宇は立綱に上海へ連れられて行く。悠宇を自分の子として育て、家が売れた際にはその金で借金を返済しようという考えなんだろう。いかにも嫌な奴の典型だが、これを全面的に否定できない自分もいる…。一方で健一は、いわれなき容疑で法廷の場に。検察官(演:謝瓊煖/シエ・チョンシュアン)に対して言った言葉が、彼のすべてであった。ここは本作の肝でもあるので、ご自分の目と耳でお確かめを!(笑)

ラストの心温まるシーンにホッとするやら、また涙でボロボロになるやら…。ようやく容疑が晴れたらしい健一のもとに届いた上海からの小包。差出人は悠宇。中にはCD。かつて健一が作った曲に悠宇が自分で詞をつけてピアノを弾いていた。

あなたの所に飛んでいけたら… 家に帰れたら…

遠く離れていて、今は会うことは叶わないけど、いつかその日がという思いが伝わる。作中にもしばしば描かれているが、音楽は二人をつなぐ大切なツールのひとつだったのだ。いやまあしかし…。あかんわ~、もうこういうの、ホンマあかんわ~。この「親子」にどうか幸あれ!と祈るばかりの感動のラストだった。

なおこの曲は、インディーズバンドの法蘭黛樂團(Frandé)のリードボーカル、法蘭(ファラン)が担当したもので、金馬獎で最優秀オリジナル音楽賞を受賞した。下記はそのビデオクリップ。ここには本作にほとんど描かれていない健一と立維のラブリーな様子が収められている。

金馬獎では、後日観る予定の『消失的情人節(邦:1秒先の彼女)』と激しいデッドヒートの末、ほとんど持って行かれてしまった本作だが、配役もピタッとはまり、物語もしっかりとまとめらている。様々なテーマを突き付けてきている点では、硬派の社会派ドラマとして高い評価を受けてほしいものだと思った次第。

【受賞など】

■2020臺北電影獎
・最優秀主演男優賞:莫子儀(モー・ズーイー)
その他2部門ノミネート

■第57屆金馬獎
・最優秀主演男優賞:莫子儀
・最優秀助演女優賞:陳淑芳(チェン・シューファン)
・最優秀オリジナル音楽賞:法蘭(ファラン)
その他3部門ノミネート

■台灣影評人協會
・最優秀男優賞:莫子儀
その他4部門ノミネート

■青年電影手冊年度盛典
・ベスト10華語作品:『親愛的房客』
・男優賞:莫子儀
・演技賞:陳淑芳
その他3部門ノミネート

■アジア・フィルム・アワード
・最優秀主演男優賞:莫子儀<入選、2021年10月8日の結果待ち>

《親愛的房客》Dear Tenant 正式預告

(令和3年8月8日 シネマート心斎橋)



 


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