【睇戲】風櫃來的人(邦題:風櫃の少年)

台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督デビュー40周年記念
ホウ・シャオシェン大特集

南國再見,南國(邦:憂鬱な楽園)』に続いて観たのは、『風櫃來的人(邦:風櫃(フンクイ)の少年)』。『冬冬的假期(邦:冬冬の夏休み)』、『童年往事(邦:童年往事 時の流れ)』、『戀戀風塵(邦:恋恋風塵)』と共に、侯孝賢の半自伝的作品と呼ばれる4本のうちの1本。4本の中で最初の作品ということもあってか、いい意味で最も直球勝負で骨太感のある作品だと思う。日本では1985年、「ぴあフィルムフェスティバル」で『風櫃から来た人』(原題まんまやがなw)の邦題で上映され、1990年に『風櫃の少年』の邦題で劇場公開されている。妙竹林な邦題が多い中、これはすんなり来る邦題の付け方。もっとも最近は、風櫃と少年の間に(フンクイ)って挟むのね…。ピンインは<Fēngguì>ですけど…。まあええか。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

ホウ・シャオシェン監督作品
風櫃來的人 邦題:風櫃(フンクイ)の少年

台題『風櫃來的人』
英題『The Boys from Fengkuei』
邦題『風櫃(フンクイ)の少年)』
公開年 1983年 製作地 台湾
製作:萬年青影業公司 言語:標準中国語、閩南語
評価 ―

導演(監督):侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
編劇(脚本):朱天文(チュー・ティエンウェン)
監制(制作):陳坤厚(チェン・クンホウ)、張華坤(チャン・ホワクエン) 攝影(撮影):陳坤厚
剪輯(編集):廖慶松(リャオ・チンソン)

配樂(音楽):李宗盛(ジョナサン・リー)、蘇来(スー・ライ)

演員(出演): 鈕承澤(ニウ・チェンザー)、張世(チャン・シイ)、趙鵬舉(チャオ・パンジュ)、庹宗華(トゥオ・ツォンホア)、林秀玲(リン・シュウリン)、張純芳(ファニー・チャン)、侯孝賢、顏正國(イエン・ジンクォク)

【作品概要】

澎湖島の風櫃に住むアチンと彼の友人たちは悪戯や喧嘩をして日々を過ごしていた。ある日、対立するグループとの争いが警察沙汰となり、家に戻れなくなった彼らは高雄に行くことを決める。世界の映画作家に多大な影響を与えた一作。<引用:「台湾巨匠傑作選」公式サイト作品案内

1983年の作品だから、ずいぶんと遠い昔のことである。なにせ小生が大学1回生の時である(笑)。鈕承澤(ニウ・チェンザー)をはじめとする主役陣も、小生とは同年代だから当然若い。まだ少年の面影すら残す。それがこの作品の魅力でもある。そういう少年から大人になってゆく男子たちの頼りなげな日々が、胸にきゅんと刺さる。

きゅんとする眼差しの先に、彼は何を見たのか…

その鈕承澤は、昨年の「台湾巨匠傑作選」で観た『香蕉天堂(邦:バナナパラダイス)』での熱演も記憶に新しいが、その後も『艋舺(邦:モンガに散る)』では監督、俳優をこなし、『軍中樂園(邦:軍中楽園)』の監督など、台湾映画界に欠かせぬ顔となっている。まあ、最近はもっぱら映画製作中の女性スタッフへの性的暴力事件で注目を浴びているんだが…。

前半の舞台が風櫃。台湾海峡は澎湖諸島の中心地、馬公の漁村である。古き漁村のたたずまいと、のどかさは、まだ「少年」の域を脱しきれない阿清(アチン=演:鈕承澤)らを投影しているかのようでもある。本作の紹介で、必ずと言っていいほど使われる有名な場面のスチールからも、風櫃がいかなる土地かに思いを巡らせることができるだろう。毎日のようにバイクを乗り回し、ビリヤードに興じ、ケンカしたり、ジャンケンで一気飲みしたりと、バカバカしくも楽しい日々を送っていたわけである。

そんなある日、ほとんど家出同然で上の4人のうちの3人が、大都会・高雄へと向かう。「あ、大人の階段を一つ昇るのね」って感じ。高雄で頼りになるのは阿榮(演:張世/チャン・シイ)の姉(演:張純芳/ファニー・チャン)のみ。「高校中退で技術も無いあんたらが、どうすんの?」と呆れられるやら、ガツンと言われるやら…。ま、そこは姉貴風吹かしたってところか。ちなみにこのねーちゃんの男朋友役で監督の侯孝賢(ホウ・シャオシェン)。当たり前だが、彼も随分若い(笑)。そう言えば、張世(チャン・シイ)って聞いたことある名前って思ったら、『香蕉天堂』で鈕承澤の兄弟分役だった俳優か。

お暇なとき、現在の侯孝賢の画像を検索して比べてみて!失礼な話だが、笑ってしまうよw。さらに「かつては俳優志望だった」という設定が、もうねぇww。

なんだかんだ言っても優しいねーちゃん。「小遣いやるから、映画でも行っといで」と街へ出たのはいいが…。待っていたのは「カラーでワイドなスクリーン」(笑)。顛末は下の映像でどうぞ! ま、これも大人へのステップの一つだ(笑)。

住む場所もねーちゃんが決めてくれて、ほっと一息の3人。隣人はねーちゃんの知り合い黃錦和(演:庹宗華/トゥオ・ツォンホア)。彼も子役時代から息の長い俳優である。言うまでもなく、この時は若い!その黃錦和は連中と同年代ながらも、昼は工場勤務、夜は夜学へ通う。小杏(演:林秀玲/リン・シュウリン)という女朋友が出入りしているのが、気になる3人…。黃錦和の伝手で工場勤務が始まる3人だが…。

阿清(演:鈕承澤/ニウ・チェンザー)は、他の二人と違い、向上心が芽生え、日本語を学習したりしている一方で、小杏にほのかな恋心を抱くようになる。それでいて、黙って出てきた故郷の家族が気にもなる。そんな折、父の訃報が届く。過去に野球でボールの直撃を前頭部に受けて、廃人同然の身体になってしまった父。阿清が高雄に旅立つ日も、籐の椅子に座って出て行く阿清を見ていた父であった。あの場面が、すごく印象に残る…。何か言いたかったであろう父…。その後、恋焦がれていた小杏は去り、阿清は喪失感を味わうことになる。

元々、家に自分の居場所を見出すことができないでいた阿清だが、父の死はさらにそれを決定的なものとした…

他の二人はどうか。工場を辞め、海賊版カセットテープの屋台を始める。ある意味、阿清以上に現実路線を行っていると言える。

ラストは、父を喪い、思いを寄せていた女性に去られ、失意のまま高雄に戻った阿清。兵役に就くことになった阿榮(のはず)と郭仔(趙鵬舉/チャオ・パンジュ)の開く屋台に立ち寄り、様々な思いを絶つかのように威勢よく「兵役記念大安売り~!」と呼び込みを始める。いつまでも一緒におれるわけではない3人だが、それでも少しでも一緒の時間を過ごしたい。こうして少年から大人へとなってゆくわけだ。

ただ、今、彼らの置かれている場所は、危うくて、脆くて、先行きには不安しかない。その一瞬の日々を冷静な目で見つめている、そんな作品。これは、監督の侯孝賢の手腕はもちろんのこと、これが映画脚本2作目、侯孝賢作品最初の脚本となった朱天文(チュー・ティエンウェン)の手腕が冴えていたということでもある。これ以降、現時点での最新作『刺客 聶隱娘(邦:黒衣の刺客)』に至るまで、このコンビが続く。そんな記念すべき作品でもある。

返す返す、風櫃の海、漁村のたたずまいが素晴らしい。もう40年近い昔の作品だから、すっかり変わってしまっているのかもしれないが、ぜひとも訪れてみたい土地である。早く海外渡航が普通にできる日が戻ってほしいと、願うばかりである。

【受賞など】

■第6回ナント三大陸映画祭
・グランプリ:『風櫃來的人』

■第21届金馬獎
・最優秀監督賞など4部門にノミネート

■1985年アジア太平洋映画祭
・最優秀監督賞:俟孝賢(ホウ・シャオシェン)

(令和3年7月6日 シネ・ヌーヴォ)


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