【睇戲】『バナナパラダイス』(台題=香蕉天堂)

今回の「台湾巨匠傑作選」で一番の話題作を観た。ずいぶんと昔の映画(1989年)だが、日本での劇場公開は初めてのこと。昨今、台湾を好意的にとらえる人(それはほとんどブーム化している闇雲な反中の裏返し)が急激に増えているが、この作品が描く戦後台湾の歴史を知る人は、驚くほど少ない。と言うか、興味がないのだろう、恐らくは。「国共内戦?何、それ?」みたいな人があまりにも多いことに驚くことしばしば。ま、そんな人でも鼎泰豊の小龍包食ってデザートでタピオカも食えば、いっぱしの「台湾通」なんだから、お手軽な時代だ。そういう人たちには、この映画はチンプンカンプンでかなり退屈なものだと思うし、わざわざ観にこないよな(笑)。

バナナパラダイス 台題=香蕉天堂

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

台題『香蕉天堂』
英題『Banana Paradise』

邦題『バナナパラダイス』(デジタルリマスター版)
公開年 1989年 製作地 台湾
言語 標準中国語、台湾語

評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督): 王童(ワン・トン)
編劇(脚本): 王小棣(ワン・シャオディー)、宋紘(ソン・ホン)
制片(プロデューサー):徐國良(シュー・グオリャン)

聯合主演(主演):曾慶瑜(ゾン・チンユー)、鈕承澤(ニウ・チェンザー)、張世(チャン・シー)
演員(出演):李昆(リー・クン)、文英(ウェン・イン)、李欣(リー・シン)、方龍(フォン・ロン)、 丁也恬(ティン・イェティン)

【あらすじ】

1949年、幼馴染みのダーションを頼って国共内戦中の国民党軍に潜り込んだ青年メンシュアンは、寒風吹きすさぶ荒涼たる中国華北から、バナナが実る緑豊かな南国台湾へとたどり着く。そんなある日、その新天地で二人にスパイ容疑がかけられ、メンシュアンは命からがら部隊を逃げ出す。途中、ある男の臨終に出くわしたメンシュアンは、その妻ユエシャンに彼女の夫になりすまして仕事に就くことを持ち掛けられる。そして…。<引用:シネ・ヌーヴォ『台湾巨匠傑作選2020』特設サイト

監督は台湾ニューシネマを代表する巨匠の一人、王童(ワン・トン)。『村と爆弾(台:稻草人)』、『無言の丘(台:無言的山丘)』を以て王童の「台湾近代史三部作」とされる。本作は、国共内戦で敗色濃厚な国民党が、大陸から台湾へ逃れる中で翻弄された一人の男の人生を描いた。「外省人の漂流物語」とでもいうところか。

主役のメンシュアン(門栓、後に左富貴さらには李麒麟)を演じた鈕承澤(ニウ・チェンザー)は、『モンガに散る(台:艋舺)』では監督(出演もしていた)としても活躍しているので、名前はなんとなく聞いたことあったが、主役として映画に出演しているのを観るのは、これが初めて。冴えない情けない男がこれほど板についた役者もいないな、と感心するほどの、冴えない情けない男っぷりだった(笑)。子供も成長してけっこういい歳になってからを演じたのが、李昆(リー・クン)が輪をかけて冴えなくて、ひねくれたイヤな奴を好演していたが、ああいう奴は近くにいてほしくないね…。

台湾へ流れ着いた若き日のメンシュアン(右)とダーション。この先、二人は数奇な人生を歩むことになる…

そのメンシュアンと同じ部隊にいた、幼馴染にして兄貴分のダーション(李得勝、後に柳金元さらには李傳孝)を演じたのは、張世(チャン・シー)。ダーションもまた波乱万丈すぎる人生を送った。いきさつは置いておくとして、妻を娶り子供も持ち、一応は会社勤めをするまでになったメンシュアンとは違い、悲劇のような物語である。そんなダーションを年老いても面倒を見続けるメンシュアン夫婦は、大したもんだと思ったが、そこには「負い目」というものもあったのかもしれない。

この二人が年齢によって名前が変わってゆくところに、「乗り込んできた」のではなく、「流されてきた」国民党兵士の外省人の悲哀を感じる。

ダーションに共産スパイの嫌疑が持ち上がった時、メンシュアンは部隊を脱走する。逃走の中で出くわしたのが、曾慶瑜(ゾン・チンユー)演じる後に妻となるユエシャン(月香)。大吐血する夫を連れて助けを求めているところだった。見捨てられなかったメンシュアンは二人を助けるが、夫は間もなく息を引き取る。聡明なユエシャンはメンシュアンの態度に「理由アリ」を察し、亡くなったばかりの夫になりすまして、夫が就くはずだった仕事を始めるように勧める。そこからメンシュアンの人生が大きく変わる。

こうして仕事と妻子を手に入れ、名前を変えて「偽り」の人生が始まる。しかし、何の学歴も仕事の経験も資格も特技もないメンシュアンは、ほどなくその化けの皮がはがれようとすると、今度はダーションがいるとわかったバナナ農園へ…。

バナナ農園ので再会した二人。バナナなど食べたことも、見たことも、聞いたこともなかった華北の二人が、今はバナナ農家で重労働。一方で、厳しい拷問により、心がどんどんと破綻してゆくダーションは、すっかり別人のようになってしまう。

「冴えなくて情けない男」と思っていたメンシュアンだが、「偽りの人生」とは言え、学歴のないことを嘆きながらも、必死で生きていこうとする姿は、結構、胸を打つものがあった。そりゃもう、この世渡り下手っぷりときたら、まるで自分の合わせ鏡を見ているみたいで、「ああ、まあそうなるよな~」って感じ(笑)。さりとて、小生は学歴詐称も他人とすり替わったりもしてませんけどね(笑)。

まさに必死のパッチに生きるメンシュアンであった

何度も苦境に立たされるメンシュアンのケツを叩いてきたのが、妻のユエシャン。彼女は機転が利くし、頭もいいしで、メンシュアンとは正反対の性格。何よりも働き者である。農園の重労働も、メンシュアンの英訳の仕事の手伝い(って、ほとんど彼女がこないしていたw)も、この夫婦は彼女あってのものだった。なぜ、この冴えない男のためにそこまで…。ラスト間近、彼女が必死で生きざるを得なかった秘密が、彼女自身の口から明かされ、観客は「おお~!」とか「うううん…」ってなる。

何度もくじけそうになったメンシュアン…

バナナパラダイス』のタイトル通り、華北の青年二人は台湾にパラダイスを夢見て「敗走」してきたわけだが、待ち受けていたのは過酷でかつ滑稽な人生だった。監督の王童自身も、幼いころに国共内戦時に安徽省から台湾へ逃れてきた「第一次外省人」である。渡ってきた人たちが、名前を変えて身分を偽って生きていくというケースは、わりとよくあった話のようだ。彼らが台湾で経験したことは決して「パラダイス」ばかりではなかっただろうが、最後には、「台湾はパラダイスだった」と思える人生であってほしかったなあと…。そんなこんなんの色々がぎゅっと凝縮された、非常に濃いバナナジュースを飲んだような気分になる一作だった。

ちなみに、だ。今、台湾バナナが再び市場に出てきたが、高い! 「朝バナナに台湾バナナ」ってわけにいかない。小生がちびっこだった頃、バナナと言えば台湾バナナだったが、いつのころからからフィリピン産にとって代わられていた。わずかな記憶をたどると、台湾バナナの方が甘かったように思う…。いやいや、忘れたけど(笑)。

【受賞】
《第26届金馬獎》
最優秀助演男優賞張世

【ノミネート】
《第26届金馬獎》
最優秀作品賞、最優秀主演男優賞<鈕承澤>、最優秀オリジナル脚本賞、最優秀衣装デザイン賞、最優秀録音賞

(令和2年11月17日 シネ・ヌーヴォ)



 


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