【睇戲】『ギャングとオスカー、そして生ける屍』(台題=江湖無難事)<日本プレミア上映>

第15回大阪アジアン映画祭

今年の「大阪アジアン映画祭」もこの日が最終日。前日、3本観て頭の中が少々お疲れだが、朝からABCホールへ向かう。

こんなに短期集中的に映画をまとめて観ることなんて、この10日間だけ。贅沢な日々ではあるが、それなりにお財布にも厳しいし、頭も疲れるし、筋は混乱するしで、ここらで刺激的な一本が欲しいところ。それに応えてくれたのが、最終日1本目の『ギャングとオスカー、そして生ける屍』。ポスターも楽し気だし、中文タイトルと英題、邦題とのギャップもあるしで、「な~んかやらかしてくれそう」な期待…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画《台湾:電影ルネッサンス2020》
ギャングとオスカー、そして生ける屍
台題=江湖無難事 <日本プレミア上映>

台題『江湖無難事』
英題The Gangs, the Oscars, and the Walking Dead
邦題『ギャングとオスカー、そして生ける屍』
公開年:2019年 製作地:台湾
言語:標準中国語、日本語
評価:★★★★★
導演(監督):高炳權(ガオ・ピンチュアン)
領銜主演(主演):邱澤(ロイ・チウ)、黃迪揚(ホアン・ディーヤン)、龍劭華(ロン・シャオホア)、姚以緹(ヤオ・イーティ)
主演(出演):顏正國(イエン・ジンクォク)、阿喜(林育品=リン・ユーピン)、黃尚禾(ホアン・シャンホー)、吳震亞(チェン・ヤ・ウー)、梁赫群(リャン・ハオジュン)、陳漢典(チェン・ハンディエン)

監督は、昨年観た『淡水河の奇跡(台=鮮肉老爸)』でも監督を務めていた高炳權(ガオ・ピンチュアン)。もうそれだけで、期待大ってところ。主演が昨年の「大阪アジアン映画祭」で上映された『先に愛した人(台=誰先愛上他的)』で主演の邱澤(ロイ・チウ)、さらには、いまだに耳に残る不思議な旋律の主題歌『峇里島(=バリ島)』を歌った人気ラッパーの李英宏(DJ Didilong)が、今作でも主題歌『無經驗可』を作詞作曲ということで、見逃せない感満載である。

何より、タイトルに「江湖」とあるからには「黒社会もの」と思うが、ポスターの雰囲気からは「無厘頭=ギャグコメディ」の臭いがプンプン漂うし、映画祭公式HPでは、「ゾンビ映画」がどーしたこーしたとあるし…。いや~、これは相当楽しいぞ、とワクワクしてスクリーンに向き合う。

【あらすじ】

長年コンビを組んでいる監督の穩死(演:黃迪揚/ホアン・ディーヤン)とプロデューサーの豪洨(演:邱澤)は、新作ゾンビ映画『末日無難事』の制作準備中。ひょんなことから台湾マフィアのボス龍哥(演:龍劭華/ロン・シャオホア)から出資を受けることになるものの、それには「日本での撮影」と、彼の愛人である「香耐鵝(演:姚以緹/ヤオ・イーティ)をヒロインにする」という条件があった。もちろんOKする穩死と豪洨だったのだが、クランクイン直前のパーティーで事件は起こる。不慮の事故で香耐鵝が死んでしまったのだ……。<引用:第15回大阪アジアン映画祭「ギャングとオスカー、そして生ける屍」作品解説

いや~もう、期待以上の面白さ、バカバカしさで「娯楽の王道」としての映画を心行くまで堪能させてもらえた。「台湾版『カメラを止めるな!』」との声も多々あるが、小生、その肝心の『カメラを止めるな!』なる映画を観ていないので(笑)、先入観なくのめりこめた。

最初の、ドローンを使った葬式の撮影でのオチで、がっつり心をつかまれた。「これは、おもろいで!」って感じで。

邱澤(ロイ・チウ)、黃迪揚(ホアン・ディーヤン)のコンビがまずよい。邱澤は台湾の超売れっ子イケメン俳優、片や黃迪揚はデビュー10年目にして初の主演級。このキャスティングが、作品をいっそう愉快なものにしていたんじゃないか。アイドルから脱却し(?)、今作では「台客(台湾式のダサカッコいい)」に徹したような邱澤はなかなか新鮮なものがあった。こんなのもできるようになったんやな、この子…。と思ってしまう、ってもう、おっさんですな、俺(笑)。

今作の舞台が、シュッとして大都会過ぎる台北ではなく、大都会ではあるけど、北回帰線より南に位置する年中温暖な高雄というのも、映画全体を台客風味一杯に仕上げていた大きな要因かもしれないな…。いやー、高雄は1回しか行ったことないけど、いい街ですよ、ホントに。

この二人と、高いバルコニーから酔いの勢いでプールに飛び込んで死んじゃった、黒社会の親分さんの愛人・香耐鵝と、香耐鵝の身代わりとなってドタバタ劇をやり回すドラッグクィーンの小青の二役を演じた姚以緹(ヤオ・イーティ)の「立ちション」までやっちゃう活躍ぶりが光る。納得の金馬獎ノミネート。ちなみに、男の声はタレントの陳家逵による吹替え。

この直後、香耐鵝に想定外のアクシデント発生で、窮地に追い込まれる穩死と豪洨の二人…

一方の「黒社会チーム」はどうか。これはもう、ボスの龍哥を演じたベテランの龍劭華(ロン・シャオホア)の熱演に尽きる。このフィリピンのドゥテルテ大統領を思わせる強面のおっさん、堂々の黒社会の大ボスかと思えば、上下ジャージで自分を主人公にした映画撮影に真剣に取り組んだりと、色んなことをやってくれる。きっと役の上だけでなく、実際の撮影も思いっきり楽しんでいたんだろうと思う。そんな雰囲気がバシバシ伝わってきて、いい感じだった。親分さん、映画製作への出資条件の一つ「日本ロケ」もあって、ご機嫌だった模様(笑)。

その日本ロケ及び、日本の極道の人たちは、ちゃんとした日本語のセリフだったが、日本人俳優なのか、在住邦人がエキストラ的に出演したのか、はたまた日本語堪能な台湾人なのか?極道にしては、けっこうチャラい感じだったけど(笑)。

裏切りを画策していた親分の懐刀を演じた顏正國(イエン・ジンクォク)、黃尚禾(ホアン・シャンホー)といった実力派の面々も、作品自体がシリアスものではないとわかって観ているからか、な~んかしらんが、おもしろかった。

ラストに、うじゃうじゃとゾンビが大量発生するが、あれをとらえての「台湾版『カメラを止めるな!』」との声だとすれば、それは違うな…。小生は、あの場面はもっと違うやり方があったと思うけど…。ましてや、『カメラを止めるな!』は、この作品の撮影が終わった時に公開されたというから、どっちもどっちの影響は受けていないというのが、実のところである。

観ながら強く感じたのは、90年代半ばまでは香港映画もこの手の作品が非常に多かったということ。もちろん「カス作品」も多かったけど、小生自身が香港映画を観るのが一番楽しかった時代でもあり、香港映画界も期待に応えてくれていた時代だった。「成熟した」と言えば、聞こえはいいが、こういう「無厘頭=ギャグコメディ」が年に何作かは公開され、「今すぐ香港へ観に行きたい!」と思わせる香港であってほしいと願うが…。

小生が香港映画に求めるものが、この作品にはあった。意外にも興行成績は伸び悩んだ模様だが…。

■第56屆金馬獎
「最優秀助演女優賞」姚以緹(ノミネート)
「最優秀デザイン賞」施筱柔(ノミネート)

【江湖無難事】終極預告

《無經驗可》-《江湖無難事》電影主題曲

(令和2年3月15日 ABCホール)



 


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