【睇戲】鬼才之道 <日本プレミア上映>


今年の大阪アジアン映画祭も本日で閉幕ということで、例年なら、3作品くらいは」イッキ観の日でもあるのだが、今年は家庭の一大事があり、チケット争奪戦に完全に乗り遅れ、この『鬼才の道』残すのみ。『鬼滅の刃』みたいなタイトル(笑)。果たして内容の方はどなん感じなんでしょうかな…。「Gemini」さんにも少しお手伝いしていただきながら、作品を振り返ってみよう!

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

特集企画<台湾:電影ルネッサンス2025>
鬼才之道 邦題:鬼才の道 <日本プレミア上映>

台題『鬼才之道』 英題『Dead Talents Society』
中國大陸『詭才之道』 英題『Talents Society』
邦題『鬼才の道』
公開年:2024年 製作地:台湾
言語:普通話 上映時間:110分
評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):徐漢強(ジョン・スー)
監製(製作):陳怡樺(アイビー・チェン)、李烈(リー・リエ)、李耀華(アイリーン・リー)
編劇(脚本):徐漢強、蔡坤霖(ツァイ・クェンリン)
攝影(撮影):周宜賢(パトリック・チョウ)
動作指導(アクション監督):黃泰維(テディ・レイ)
配樂(オリジナル楽曲):盧律銘(ルー・ルンミン)、林孝親(リン・シャオチン)、林思妤(リン・シーユー)
剪接(編集):解孟儒(シエ・モンジュ)、江翊寧(チェン・イーニン)
主題曲(主題歌):〈鬼才出道〉演唱:王若琳(ジョアンナ・ウォン)/作詞:陳虹任(チェン・ホンレン)/作曲:Joanna Wang

主演(出演):陳柏霖(チェン・ボーリン)、張榕容(チャン・ロンロン)、王淨(ワン・ジン)、姚以緹(ヤオ・イーティー)、百白(バイバイ)、曾威豪(=瘦瘦、ソーソー・チェン)、眼肉芽、林千聿(龍龍/ルンルン)

作品概要

若くして亡くなった、引っ込み思案で地味な女の子。幽霊となった彼女は、人間を怖がらせないと消滅してしまうと知り、恐怖の特訓を始める。チェン・ボーリンなど豪華なキャストで贈る、笑って泣けるオカルト・コメディ。<引用:第20回大阪アジアン映画祭公式サイト

いやー、もう!「こういうのを観たいんですよ!」ってのが凝縮された秀逸なる作品でおました! 小生の第20回大阪アジアン映画祭のトリとして、最高でしたな。霊界を描いているにもかかわらず、見終わってから、何とも言えない心地よさを感じたほどだった、と言うと、ちょいと持ち上げすぎか(笑)。陳柏霖(チェン・ボーリン)が色々とよかったね(笑)。

改めて、ざっくりとストーリー。結構「ネタバレあり」(笑)。

舞台は、「いわくつきの物件」、時代遅れのホテル「旺來溫泉大飯店」414号室。そこは、人々を怖がらせることを「生業」とする幽霊が暮らし、日夜「恐怖」をクリエイトする「職場」だ。しかし、彼らの悩みは深刻。SNSや動画配信が溢れる現代では、「お化けだぞ~」みたいな古典的な脅かし方では誰も見向きもしてくれない。

時代の流れに淘汰されないよう奮闘する時代遅れの女幽霊、キャサリン(演:張榕容/チャン・ロンロン)、霊界の芸能マネージャー、マコト(演:陳柏霖)だが、「怖がらせた人数」という名の業績(KPI)は低迷し、チームは解散、要するに「成仏」してしまうという危機に瀕している。まさに落ちこぼれ集団と化した彼らの前に、伝説的なな新人幽霊、ジェシカ(演:姚以緹/ヤオ・イーティー)が現れる。かつてはキャサリンを師と慕っていたジェシカが、いつの間にか自分のポジションを奪うことになるなんて…。

果たして、時代遅れのキャサリンは「売上目標」を達成し、自分たちの居場所を守れるのか? 幽霊たちの、笑いと涙と組織愛に満ちた奮闘コメディ!

っていうストーリーでよかった?

陳柏霖演じるマコトと張榕容演じるキャサリン

幽霊にも仕事がある」という視点がユニーク。通常、幽霊は恐ろしいもの、怖い存在として描かれがちだが、本作では幽霊が「人間を驚かせる」という職務に就き、そのパフォーマンスを競い合う。

基本的にはコメディ調で進行し、幽霊たちのドタバタ劇で笑わせる。なので、小生のような単細胞な人間は「あ~、おもしろかった!」で終わるんだが、いや待てよ、と。「『返校(邦:返校 言葉が消えた日)』の徐漢強(ジョン・スー)監督だぜ、何かあるやろ」と、よ~く考えると…。

「存在意義」のために幽霊のタレントコンテストに出場した同學(演:王淨/ワン・ジン)だったが…

幽霊たちが直面する「存在意義の喪失」というのが、実は大きなテーマだったんじゃないかと。人間を驚かせることができなくなった幽霊たちが、自分たちの存在価値を見出すために奮闘する姿に、現代社会で生きる人間たちの「承認欲求」にも通じるものがあるんじゃないか。そういうのが織り込まれているからこそ、観客は「泣き笑い」し、同時に、心にグサッと突き刺さるものを感じるのかもしれない。

この先は、例によってくどすぎる文章をつらつら綴っていくので、「もうええわ」って方は、ここで打ち止めていただければ幸い(笑)。

本作では、幽霊それぞれの人生の物語が描かれている。陳柏霖は時代遅の幽霊をマネジメントする「マコト」を演じる。実は人気のないアイドルだった生前のマコトは、いかにも90年代って感じの今となってはレトロな衣装て歌って踊る。その姿は他の幽霊には見せたくない過去、生前の姿だ。だってこれは恥ずかしいもんな(笑)。

これではあきませんね、売れませんね(笑)。一方で、シュッとした人、という陳柏霖のイメージを完全に覆す役作りがすごいじゃないですか!

面白いもんで、このマコトの歌う『愛的視線』が人気となって、実際に発売されることになるのだから、わからんもんやね(笑)。

CDのジャケットは見ている方が恥ずかしくなるww 「君の笑顔にメロメロさ」って、もうねぇwww

MVも完璧。ちゃんとSony Music Taiwanの制作。小生は上映終了後もしばらく♪愛的視線 苦辣酸甜~が脳内に渦巻いて離れなかったほど。インパクト絶大である(笑)。

そしてマコトはあることに気づく。キャサリンのような古いタイプの幽霊に欠けているものは何かと考えた時、SNSでのバズり方、恐怖体験に「物語性」を持たせること、ターゲット層の心理分析など、彼の現代的なマーケティング戦略が著しく欠けていると。この気づきがキャサリンの古い常識を打ち破るきっかけとなる。

新しい女王としてイケイケのジェシカは時代に合ったマーケティング術に長けている。メディアも自然と彼女になびく

そんなマコトにマネジメントされる張榕容演じるキャサリンは、全盛期を過ぎながらも、それを決して認めようとしない幽霊界の女王。この「認めようとしない、認めたくない」って姿は、結構痛ましいものがある。かつては自分を師と慕ってくれていたジェシカが、いつの間にか自分のポジションを奪うことになるなんて…。これは人間界でもよくある話で、ましてや霊界といえども「芸能界」のこと、いつかはそういう日がくる。ただ、キャサリンもそれをあっさり認めるわけにはいかず、ジェシカの追随を振り払うべく、精一杯の虚勢を張り、一層芸に磨きをかけるのだが…。

霊界の芸能ワイドショー「名鬼會客室」で火花を散らす新旧「霊界の女王」

窮地に立つキャサリンの再起を図るため、マネージャーのマコトは、超ダメな女幽霊、同學(演:王淨/ワン・ジン)に目を付ける。彼女を新星に育て上げ、霊界全体を巻き込んだセンセーショナルな試合で対戦相手と競わせようとするが…。

同學の友人幽霊、カミラ㊧も全面的に協力する。それにしても同學の自信なさげな表情よww

当の同學は、役立たずで世間知らずで向上心もない。見栄えからして冴えない彼女には、何一つセールスポイントがない。「うらめしや~」というセリフさえ滑稽に聞こえる。幽霊らしいメークをしても、逆に笑ってしまう。しかし、彼女の過去を振り返るシーンが織り込まれたことで、彼女の劣等感や臆病さも理解できる。このあたりは観客の心に突き刺さるはず。

超ダメな女幽霊ってのが一目瞭然の同學㊨。これじゃ、全然怖くないどころか笑ってしまうww

『返校』のイメージから大転換の王淨。同一人物には思えない。すっぴんに銀縁マル眼鏡、極度の自信喪失っぷり、やつれ感と疎外感を熱演し、芸域の広さを披露した。

「辛亥三姐妹」なるバックダンサー?を従えて、ブイブイ言わせるジェシカ

対するジェシカは、確かに高い才能の持ち主。しかし、彼女のやり方はワンパターンで、チームワークを無視したスタンドプレーが目立つ。従えていた「辛亥三姐妹」さえも裏切ってしまうほど。当初はジェシカの華々しい「業績」に圧倒されていたキャサリン、マコト、同學のチームだったが、マコトのマネジメントのもと、自分たちの個性を活かした「チームプレー」に活路を見出してゆく。一人一人の力は弱くても、それぞれの「才能」を組み合わせることで、ジェシカ一人の力を凌駕する、壮大で複合的な恐怖体験をクリエイトすることに成功する。

ジェシカに挑むキャサリンたち

物語のクライマックス、チームは存続を賭けて、ライブ配信を行う人気インフルエンサーたちを怖がらせるという最終ミッションに挑む。

いくつもの恐怖体験の現場を乗り越えてきたインフルエンサーたちは、今回も余裕綽々で挑んだが…

マコトが仕組んだ「脚本」のもと、幽霊たちはそれぞれの持ち味を最大限に発揮。緻密に計算されたタイミングで怪奇現象を連発し、インフルエンサーたちを本気でパニックに陥れる。それはもはや単なる脅かしではなく、観客も巻き込んだ壮大な「イマーシブ・ホラーショー=体験型ホラーショー」となる、ってちょっとほめ過ぎたか(笑)。

「なんで私は何をやってもうまくいかなんだ…。うらめしや~」状態の同學。これがバズリまくる

このライブ配信はネットで神回としてバズりまくる。同學がなぜこんな姿になったかは、映画を観てのお楽しみってことで(笑)。

ところで、本作は大陸でのタイトルは『詭才之道』となっている。大陸での英題も『Talents Society』で、「Dead」が抜けている。例によって、「非科学的な」作品は認めないというやつだろう。本作で言えば、幽霊は非科学的なので、その存在を認めないってわけだ。もっとも、大陸バージョンを観ていないので何とも言えないけど、多分中身はそのまんまだろうな(笑)。公開時期も台湾では2024年の鬼節(盂蘭節、お盆)だが、大陸では25年の旧正月になっている。しかしまあ、非科学的だという理由で改題させたり、中身をいじらせたりする方が、よっぽど「非科学的」だと思うけどね(笑)。色々と無理があるってもんだ(笑)。とにかく滑稽でしかないねぇ…。

終始ゲラゲラ笑っていたけど、台湾の芸能界の「小ネタ」なども散らばっていて、台湾人ならもっと笑えただろう。とは言え、ただ面白いだけでなく、明日からの仕事や人間関係が少し楽しみになるような、ポジティブなエネルギーを感じさせてくれるのがいい。日本での公開が期待されるが、さてどうだろう。

■ 受賞など ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

○第61屆金馬獎
・最優秀視覚効果賞:郭憲聰、邱俊毅
・最優秀美術設計賞:王誌成、梁碩麟
・最優秀衣裳デザイン&メイク賞:施筱柔
・最優秀アクション指導賞:黃泰維
・最優秀オリジナル主題歌賞:《鬼才出道》歌/王若琳
他6部門にノミネート

○第6屆台灣影評人協會獎
・最優秀監督賞:徐漢強
他3部門にノミネート

○第43屆香港電影金像獎
1部門にノミネート

※5月15日更新
○第27屆台北電影獎
14部門にノミネート

■ 正式預告 ━━━━━━━━━━━━━・・・・・

※恒例の私的アワードは今年は無し。

(令和7年3月23日 ABCホール)

徐漢強(ジョン・スー)監督のヒット作『返校』


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