【睇戲】死屍死時四十四 <ワールドプレミア上映>

いよいよこの作品を以て、今年の「大阪アジアン映画祭」観納めとなる。欲を言えば、 あと3~4本は観ておきたかったんだけど、まあ、そうそう自分中心に世の中は回らない(笑)。で、前回も申したように、香港映画を観て、小生的にはクロージングということになる。ほぼ同時間帯には、ABCホールで正真正銘のでクロージング作品『サイド バイ サイド 隣にいる人』が上映され、セレモニーも行われているというのに、そっちはほとんど興味はなく、この『死屍死時四十四』を観に来たというのだから、香港映画界にしたら冥利に尽きるというもんだろう(笑)、な~んも思ってないと思うけど(笑)。

スペシャル・オープニング <ワールドプレミア上映>

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題『死屍死時四十四』
英題『Over My Dead Body』

邦題『四十四にして死屍死す』
公開年 2023年4月4日公開予定 製作地 香港
言語:広東語

評価:★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):何爵天(ホー・チェクティン)
編劇(脚本):江皓昕(コン・ホーヤン)、錢小蕙(アンディ・チン)
監製(プロデューサー):錢小蕙
摄影指導(撮影監督):梁祐暢(リョン・ヤウチョン)

領銜主演(主演):毛舜筠(テレサ・モー)、鄭中基(ドナルド・チェン)、黃又南(ウォン・ヤウナム)、余香凝(ジェニファー・ユー)、呂爵安(イーダン・ルイ)、楊偉倫(ヨン・ワイルン)、劉江(ラウ・コン)、黃文慧(ボニー・ウォン)
主演(出演):柳應廷(ジャー・ラウ)、陳漢娜(ハンナ・チャン)、李尚正(リー・ションチン)、張滿源(ケネス・チュン)
特別介紹(イチオシ):胡麗英(ウー・ライイン)、劉映汝(ラウ・インユエ)

友情演出(友情出演):麥沛東(マク・プイ)、陳詠燊(サニー・チャン)、潘恆生(プーン・ハン)、莊韻澄(セリナ・チョン)、鄧麗英(アミー・タン)、蔡曉童(クリスティ・チョイ)、程人富(チン・ヤンフー)、關浩傑(ジェフリー・クワン)、朱柏熹(マイケル・チュウ)、姚澤汶(イウ・チャックマン)

出演者、とりわけ友情出演が多いのは、姊妹團兄弟團が出てくるからだろう。姊妹團と兄弟團は婚礼には欠かせない、花嫁側と花婿側の「煽り」の集団。ってことは、婚礼のシーンもあるのか?

《作品概要》

義母の住む高層マンションで、妻と娘、義兄と暮らすミンは、ある夜、玄関先で裸の男性の死体を発見し、家族と大騒動に。自分たちの部屋が“事故物件”となり、資産価値が暴落することを恐れ、義母の号令のもと死体を隣人の玄関先に移す。やがて同じ階に住む、余生を静かに過ごす老夫妻、禁止された犬を飼う女性とそのメイド、怒りっぽい父親と気難しい息子が、次々とこの騒動に巻き込まれていく。熱血警備員と監視カメラの目をかいくぐり、彼らは死体を運び出すことができるのか。そして死体はどこからやってきたのか? <引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ

監督の何爵天(ホー・チェクティン)は、昨年の超話題作『正義迴廊』で長編デビューし、本作が2作目。『正義迴廊』は香港の映画各賞で高く評価され、各賞総なめ状態で、何監督も主演の楊偉倫(ヨン・ワイルン)、麥沛東(マク・プイ)も多くの賞に輝く。来る香港電影金像獎でも多数の部門でノミネートされている。「あの『正義迴廊』の何監督の2作目で、楊偉倫、麥沛東も出演し、毛舜筠(テレサ・モー)、鄭中基(ドナルド・チェン)、黃又南(ウォン・ヤウナム)、余香凝(ジェニファー・ユー)ら安定のメンツが揃った上、例のMIRRORから呂爵安(イーダン・ルイ)と柳應廷(ジャー・ラウ)が出演!」ということで、香港では前評判は上々。そこで大阪アジアン映画祭は4月4日復活祭休日に現地公開予定の本作を、オープニング作品に持ってきた。偉い! ま、オープニング作品とは言え、映画祭初日に上映されるわけでなく、映画祭中日あたりの上映という、ちょっと調子の外れた「オープニング」だったわけだが…。そのオープニング作品の2回目の上映を千秋楽に観るというのも、これまた乙なものではある(笑)。

本作は、香港特区政府が出資する「香港電影發展基金(Film Development Fund)」からおよそHK$760万の融資を受けて製作された。前日に観た『過時·過節』も融資を受けているが、HK$325万だったことを思うと、かなりの高額融資である。

物語は、新界は大圍(Dai Wai)の高級アパートメントで繰り広げられる。色々と香港人というものが見えて興味深いし、懐かしい。在住時は時にウザかったのに(笑)。ちなみに、香港では「マンション」という呼称は無く、住居ビルは総じて「アパートメント」である。「豪園」や「庭園」「花園」だったり、ただの「大厦(ビル)」だったり、個々の呼称は様々。本作の舞台のアパートメントは「臨海峯」なる名称。公開日に向けて、期間限定で「住戸證」をプレゼントというプロモーションも展開。なかなか気合が入っている製作会社の「天下一電影」である(笑)。せっかくだから、大阪アジアン映画祭でも配ってくれたら嬉しかったな(笑)。あきませんか…。

このアパートメントに暮らす4家族が、突然見つかった「死体」をめぐって繰り広げる「黑色喜劇(ブラックコメディ)」。ま、結論を言うと、ブラック、というほどのブラックではなく、「ちょいと揶揄してみました~」って程度だったかな。その点は少しばかり肩透かし食らったけど、全体としては、ダレてしまう場面もなく、終始笑わせてくれたし、何よりも「香港映画観てる~」感に浸ることができたので、★は満点とした。2日続けて毛舜筠とMIRRORの呂爵安が主演する映画を観れるってのは、やっぱり映画祭ならではだわな。

家具職人の阿銘(ミン=演:黃又南/ウォン・ヤウナム)は帰宅するなり、元スッチーの妻(演:余香凝/ジェニファー・ユー)と踊り始めて、そのままベッドイン!

「あっちへ行ってなさい!」(笑)

「高級アパートメント」と言っても、そこは香港のことで、決して広いわけでもなく、そのイチャイチャを娘(演:劉映汝/ラウ・インユエ)に邪魔されてしまう(笑)。この家には、妻の母(演:毛舜筠)と妻の実弟(演:楊偉倫/ヨン・ワイルン)も住まう。毛舜筠は『過時·過節』ほどじゃなかったけど、やっぱりちょっとエキセントリックで、弟役の楊偉倫は一風変わった役どころ。まあ、平和ではないですわな、こういう組み合わせとなると。この夜もちょっと口論めいたことがあったりして、気晴らしがてらかなんだか忘れたけど(笑)、阿銘がごみを捨てに出たら、そこには全裸の男の「死体」が!というところから、本題に入ってゆく。

この死体役の人は、終始この表情のままラスト間近まで演じていたんだが、こりゃ相当難しいなぁ。演じていたのは、張滿源(ケネス・チュン)。さっき観た『深宵閃避球』にも出演していたとは、つゆ知らず…(笑)。

「ちょっと!これどうすんの!」と、エキサイトする毛舜筠

「せっかく購入した高級アパートメントで身元不明の死体が発見された、なんてことになったら、『凶宅』と言われて不動産価値が急落してしまう!」と、焦るのが香港人らしい。14Aの阿銘たち一家は、そっと14Bの老夫婦宅前に、死体を移動させようとするが、気づかれてしまい、14Cの独身女性(演:胡麗英/ウー・ライイン)宅の前に移動。これも失敗に終わり、次にタクシー運転手、ベアー(演:鄭中基/ドナルド・チェン)と息子の自称「大圍のメッシ」(演:呂爵安/イーダン・ルイ)の父子が住む14D前に移動させようとするも、気づかれてしまう。誰もが「うっとことは関係ないもん!」という考え。であるならば、みんなで協力して死体を外に運び出せばいいんだ!と、合意。難関は、住民に目を光らせる警備員のリー(演:李尚正/リー・ションチン)。この日も「スズメバチの巣がある」と各戸に注意を促して回っていた。これ、実はこの物語の大きな伏線だったのは、ラストでわかる。

ぬっと出てきたから、びっくりすねん(笑)。中年のおっさんのええ味を出していた鄭中基

各家自掃門前雪,休管他人瓦上霜」。「どの家も門前の雪を掻く、よその家の瓦の霜は関知しない」という、古いことわざを思い出す。まあ、香港人に限らず、人間ってそういうもんですな。まずは、最初に自分の利益先行で「死体処理」を考え、行動する。それが叶わないとなれば、今度は一致団結して、全裸死体の処理にまい進する。その間に垣間見る、各家庭の抱える問題もあって、社会の縮図が高層アパートメントの14階にある、という感じで、物語は進んで行く。

嫁姑ならぬ「婿姑」と小舅、老夫婦、ペット厳禁でもこっそり子犬を飼う独身女性、嫁に逃げられた父とその息子…。それぞれの問題をうまくクローズアップしていた。そこに目を光らせる警備員の身の上話も織り交ぜれられ、それぞれの背景がくっきりとする中での、死体搬出劇。そこには、香港映画らしいドタバタもあって、和んだり笑ったり…。

対立する父子だが、実は息子は父の背中を見ていた。ビールを煽りながらもタクシードライバーの勉強をする

搬出にあたっては、ある方法がとられる。ここで「大圍のメッシ」と「黄大仙のネイマール」(演:柳應廷/ジャー・ラウ)の対決もあって、MIRROR迷にはたまらんシーンとなる(笑)。これ、13Aに父と住む女子(演:陳漢娜/ハンナ・チャン)と黄大仙のネイマールの婚礼を利用して、死体を搬出しようという計画で、姊妹團兄弟團の駆け引きなんていう、香港の結婚式に欠かせない「儀式」もあって、在住中に実際に現場を見たことがある身としては、楽しめる。こういう「香港テースト」と言うか、香港人だから笑ったり共感したりする場面も作中に散見され、思わずニンマリできるので、そこはかなり楽しめる。

陳漢娜(ハンナ・チャン)と柳應廷(ジャー・ラウ)のカップル

とにかく、登場人物が多く、明確な主人公はいない。敢えて言えば、死体が主人公かな…。そんな中で印象深いのは、劉江(ラウ・コン)、黃文慧(ボニー・ウォン)による老夫婦。搬出ドタバタ中に、旦那さんは急死するのだが、亡くなった旦那さんを慈しむようなまなざしで見る奥さんが、胸にグッとくる。やっぱ、ここらのベテランは、たとえコメディと言えども、ちゃんと見せるなぁと感心。

一方で、若い「大圍のメッシ」を演じた呂爵安(イーダン・ルイ)は、前日観た『過時·過節』と同じく、怒れる青年で、トーンもほぼ同じだったが、まあ、これはこれでよかったのかな。酔いつぶれる呂爵安っても、レアではないだろうか…。

死体を搬出することに成功した4家族。いよいよ「土葬」という段で、各人が死体に向かって、香港社会への不満や「ここが嫌だよ香港人」的な言葉を投げかけて、土をかぶせて行く…。で、ここで! さてどうなったでしょうか(笑)。スズメバチの巣という伏線が、回収されるのであった。

みんな、こんな生活を夢見て豪宅を購入したんだから、全裸死体なんてとんでもないわな(笑)

非常に面白く、楽しい映画だったが、惜しむらくは、登場する4家族すべてが部屋のオーナーだったという点。ひと家族でも「店子(テナント)」の家庭が混ざっていたら、さらに「黑色喜劇(ブラックコメディ)」度合が増したんじゃないかなと思うが…。

登壇の予定はなかったが、上映終了後に急遽、何爵天(ホー・チェクティン)監督が来場し、「ABC賞」受賞の報告と謝意を述べた。ってことは、来年の2月ごろには、この作品を朝日放送で観られるってわけだ!

それにしてもだ、『死屍死時四十四』ってタイトル、もろに『西施死時四十四』のパロディやな(笑)。広東語の発音練習思い出すわ(笑)。これを広東や福建など南方の人間に標準中国語で発音させると、「すーすーすーすーすーすーすー」になってしまうねんで(笑)。

《死屍死時四十四》終極預告 4月4日 笑出希望

(令和5年3月19日 梅田ブルク7)


これにて、今年の「大阪アジアン映画祭」は終了。華語片の長編は全部観た。他の言語圏の作品も観ておくべきなんだが、実際、そこまで時間的余裕がない。ま、これで許したってぇな(笑)。ということで、個人的各賞選出。

■最優秀作品賞:『黑的教育』
■最優秀監督賞:柯震東(クー・チェンドン)『黑的教育』
■最優秀主演男優賞:曾皓澤(ツェン・ハオザー)『有了?!』
■最優秀主演女優賞:陸小芬(ルー・シャオフェン)『本日公休』
■最優秀助演男優賞:戴立忍(レオン・ダイ)『黑的教育』
■最優秀助演女優賞:黃文慧(ボニー・ウォン)『死屍死時四十四』
■新人俳優賞:林諾(サハル・ザマン)『白日青春』

『黑的教育』、強し!





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