【睇戲】『君の心に刻んだ名前』(台題=刻在你心底的名字)<ワールドプレミア上映>

第15回大阪アジアン映画祭

この日の2本目は、台湾からの出来立てホヤホヤの作品。台湾での6月公開に先立ち、「世界初上映」の場は大阪アジアン映画祭となった『君の心に刻んだ名前』。この映画も、早くから話題を呼んでおり、「大阪アジアン映画祭でやってくれたらええのになぁ…」って、思っていたが、この日二本目の「やってくれはりますねん、これが(笑)」である。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

コンペティション部門|台湾:電影ルネッサンス2020
君の心に刻んだ名前
台題=刻在你心底的名字 <ワールドプレミア上映>

台題刻在你心底的名字
英題Your Name Engraved Herein
邦題君の心に刻んだ名前
公開年:2020年 製作地:台湾
言語:台湾語、標準中国語、英語
評価:★★★☆
導演(監督):柳廣輝(リウ・クァンフイ)
領銜主演(主演):陳昊森(エドワード・チェン)、曾敬驊(ツェン・ジンホア)、戴立忍(レオン・ダイ)、王識賢(ワン・シーシェン)
主演(出演):法比歐(ファビオ・グランジョン)、邵奕玫(ミミ・シャオ)

2019年にアジア初の同性婚が認可された台湾。まだまだ世の中の目は厳しいものがあるのだが、国民の間で議論が交わされるのは、よいこと。映画で言えば、こうした議論が活発化する以前から、台湾は同性愛をテーマにした作品、いわゆる「同志片」の宝庫だった。なんででしょうかね?去年のこの映画祭で上映された『先に愛した人(台=誰先愛上他的)』もそうだったし、過去に小生が観ただけでも『藍色夏恋(台=藍色大門)』だの『GF*BF(台=女朋友。男朋友)』だのと、いろいろある。繰り返すけど、なんででしょうかね?と、それはゆっくり考察するとして、『君の心に刻んだ名前』をあれこれと突っついていこう(笑)。

【あらすじ】

時は1988年、40年間にわたる戒厳令が解除された台湾。台中のミッション系男子校に通う阿漢(アハン)と柏德(バーディ)は、校内のブラスバンドで出会い、親友となる。やがて友情を超えた愛情に気づく二人だったが、学校が女子学生を受け入れることとなり、柏德が新入生の美少女・呉若非(バンバン)と付き合い始めるに至って、その微妙な関係が崩れていき…。<引用:第15回大阪アジアン映画祭「君の心に刻んだ名前」作品解説

まずタイトルがいいよな、原題も邦題も。『刻在你心底的名字』なんて字面みただけで、胸キュンキュンするわな、50代半ばのこんなおっさんでも(笑)。

戒厳令解除間近の台湾。まだ、男女共学ではなく、男子生徒はスポーツ刈りより長髪が厳禁の時代。ま、そんな女っ気のない日々だからか、男子が男子に恋をすることもないとは言えないな。と言うよりも、普通にあったのだろう。

やがて戒厳令が解かれ、男女共学が始まる。作中では「元男子校」が女子生徒受け入れにあたり、男女の境界を作り、金網で仕切るという、「それ、共学ちゃうがな!」っていう珍妙なシーンもあり、当時の現場の迷走ぶりがうかがわれて、興味深かった。

戒厳令解除から、ほどなくして蒋経国総統逝去。学校代表として主人公の男子生徒二人が、台北へ弔問に向かうシーン。総統の死にあたって、とにかく国民は「泣く」ことが良しとされていたので、二人もウソ泣きをしていたが、この辺は、当時を思い起こす台湾人も多いことだろう。そんころ、台湾にほとんど興味がなかった小生でさえ覚えているのだから。

蒋経国総統の逝去を悼んでウソ泣き、のシーン(笑)

主演の男子二人に恋が芽生えたのは、この「いつまで潜ってられるか」の水泳の授業。陳昊森(エドワード・チェン)演じる阿漢(アハン)が曾敬驊(ツェン・ジンホア)演じる柏德(バーディ)に淡い恋心を抱く。元々、阿漢が女子に興味が無かったというのは、男子高時代に夜な夜な寮を抜け出したブラバン部の面々が、「外の世界」の女子たちの前で演奏を披露する場面で、「ああ、そういう子なんや」というのはわかるが、柏德はその気は本来はなかったと思う。ただ、距離が近づくにつれて、柏德の方も満更ではなくなってきた…というところだったように思うが…。

新学年度から女子が通うことになり、二人の関係も微妙に揺れ動いてゆく。女子生徒・呉若非(バンバン・演:邵奕玫/ミミ・シャオ))の出現が、やがて来る「決別」の引き金となった…。

腐女子が思わず「ウヒャウヒャ」と大喜びしそうなシーンも何度かあったけど、やがて切ない思い出に…

やがて二人は大ゲンカに…。阿漢はブラバン部の顧問でもあった神父さん(演:法比歐/ファビオ・グランジョン)に、その思いをぶつけるのだが、後でわかるんだが、神父さんもまた阿漢と同じような苦悩を抱きながら生きてきた、というのが、なんともねぇ…。ちなみにこの神父さん役の法比歐って人、「やけに普通話上手やなぁ~」って思ってたら、台湾で活躍中のフランス人タレントだとか。

泣けるって言うか「これはつらいよな~」っと思ったのは、公衆電話から阿漢が柏德へ泣きながら電話する場面。「今までありがとうな…」とばかりに、柏德に聴かせるのは、自作の曲「君の心に刻んだ名前」。カセットテープというのが時代やけれど、まあしかし、あそこまで行くと、阿漢が可哀そうだし気の毒でならない。それに引き換え、柏德の本心がようわからん。「お前、どやねん?こんなにボロボロになってよるやんけ!」って話だ。

数十年がたち、大人になった二人が異国の地で再会するシーンは、ちょっとじわーっとするものがあった。ここは「伏線回収」の意味もあったけど、やっぱり阿漢の立場がつらいものを感じた。回収しきれないものがあるんじゃないかと。

ま、こんだけ色々書き殴っても、観てない人には「このおっさん、何言うてんねん」ってハナシやろけどね(笑)。

ところで、主役二人の男子、陳昊森(エドワード・チェン)と曾敬驊(ツェン・ジンホア)は、なかなかの熱演だった。特に昨年の『返校(日本未公開)』でデビューし、これが二作目の曾敬驊に注目していたが、彼はこれから大ブレイクしそうな予感。とりわけ目つきが野性的でよかった。昨年の第56屆金馬獎で「最優秀新人賞(作品は『返校』)にノミネートされただけのことはある。

この作品も、いずれ日本で公開になるとは思うが、この二人は上手く売り出してあげたいね。

そして中年になった二人を演じたのが、阿漢役に戴立忍(レオン・ダイ)、柏德役には王識賢(ワン・シーシェン)の渋いご両人。どちらも日本ではなじみがなく、小生も今回初めて観たんだけど、よかったねぇ。特に戴立忍からは熟年俳優の醸し出す哀愁とか、「人生の酸いも甘いもわきまえてますよー」的な空気が涌き立っていて、「こういう年の取り方したいもんだわな」と、いまさら遅いけど。なんと、ウチの弟と同い年とは!(笑)

大いに期待していた分、若干の肩透かしを食らった感はあった。ま、そんな次第で★は平凡な数に留めた。

《刻在你心底的名字Your Name Engraved Herein》超前導預告

(令和2年3月14日 ABCホール)



 


3件のコメント

  1. この映画、東京から大阪まで行って見てきましたよ。
    悲しいストーリーに泣きました。
    ラスト、歳をとった2人はどうするんでしょう。
    日本正式公開したら、もう一度見たい映画ですね。

    1. コメントありがとうございます。
      遠路はるばる見に来た甲斐があったようで何よりです。日本で劇場公開されることを期待しましょう!

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