【毒書の時間】『ふるさと銀河線 軌道春秋』 髙田郁

アイキャッチ:ちほく高原鉄道「旧陸別駅」線路と跨線橋跡(photo AC)>


今年2冊目は「大阪ほんま本大賞」受賞作。同大賞は今回がちょうど10回目。1回目の受賞作がやはり高田郁銀二貫』。なんかぐるっと1周してきたという感じ(笑)。同大賞は、大阪の本屋、問屋が「ほんまに読んで楽しい一冊」を投票で選出するもので、販売収益の一部で、大阪の子供たちに本を寄贈する。なので、第1回目から毎回必ず購入している。子供たちには本をいっぱい読んで欲しいし、大阪が舞台になった小説をいっぱい読みたいし…。

『ふるさと銀河線 軌道春秋』 髙田郁

双葉文庫 660円

今や『みをつくし料理帖』シリーズ、『あきない世傳 金と銀』シリーズなど、ヒット作連発の時代小説作家の髙田郁だが、川富士立夏(かわふじ りっか)のペンネームで漫画の原作を書いていた時代があった。その原作の中でも評判が高く、小説化を希望する声が多かったのが本作で、10年前に文庫書下ろし小説として世に送り出された。以来、刷りを重ねること今回が17刷。まさに「読み継がれる」短編集である。

どの話も、寝る前にさくっと読み切れるほど良い量。ほんともうイヤ事だらけの日々が続くけど、そんな一日を一旦リセットしてくれる良作揃い。

リストラを家族に告げられない夫。妻、娘、息子は…。妻との列車でのお弁当シーンに目が潤む『お弁当ふたつ』。大阪が舞台の『車窓華族』、『ムシヤシナイ』は文字で追う大阪弁が言葉になって聞こえてきそうな、「大阪ほんま本大賞」らしい作品。特に『ムシヤシナイ』の舞台である「T駅の立ち食いうどん」ってのが「ああ、あそこのことかな」と、それと思われるうどん屋の光景に登場人物を置いて読んでいた。

とは言え、「大阪ほんま本大賞」のわりには、大阪を舞台にした作品がこの二編しかなかったのが、どうしたもんかとも思う。同賞の規定に《対象「大阪に由来のある著者、物語であること」「文庫であること」「著者が存命であること」の3条件を満たすもの》とある。まあ、ギリギリセーフってところなのかなぁ。そういう点では、意外な受賞でもあった。まして10年前に出た本でもあるわけだし…。いいえいな、せやから言うて髙田郁や本作がアカンわけではないですよ、いい作家さんだし、この本もすごくよかったわけでね…。

NHKの総合やBS1でちょいちょいやってる『沁みる夜汽車』なる15分程度の、それでいて中身の濃い番組がある。夜汽車の走行映像を映す番組じゃなくて、「夜のひととき、鉄道を舞台にした人間ドラマをお届けします」って感じの番組。この番組の人間ドラマをさらに濃く、深く書き上げたような作品群。「元鉄オタ」にとっては、大人の「元鉄オタ」の鉄道との接し方のひとつとして、こういう番組を見たり、こうした小説を読むというのもありだなと思った。

本作の作品名にもなっている『ふるさと銀河線』は、かつて北海道に実在していた。北海道ちほく高原鉄道ふるさと銀河線のことだが、残念ながら2006年4月に廃止された。本作の一編『ふるさと銀河線』からも、廃止か存続かという空気が感じ取られる。冒頭の写真は廃止後の陸別駅。現在は同駅を起点とする観光鉄道「ふるさと銀河線りくべつ鉄道」となって、運転体験できる施設として人気を呼んでいる。そういえば、先日の大寒波で陸別は日本でマイナス29.4度になっていたねぇ…。町のキャッチフレーズも「日本一寒い町」(笑)。

この『ふるさと銀河線』ともう一編『返信』が陸別の街、ふるさと銀河線を舞台にした作品となっている。

そう遠くない将来、自分にもそんな日が来るかもしれない『晩夏光』は胸にグッと来た。よい息子さんでよかったね、なつ乃さん…。

ほとんどの作品に「倹しい(つましい)」という表現が出てくる。「倹しい暮らし」「倹しい生活」「倹しい日々」…。そんな倹しい日々に、なんとなく「救い」を感じてどの物語も締めくくられている。だからこそ、寝る前に読んでリセットできるのかもね…。

最新作『駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ』も好評のようである。早く読んでみたい…。

(令和5年1月28日読了)

*価格はamazon.co.jpの1月14日時点の表示価格


←第1回「大阪ほんま本大賞」の『銀二貫』。当時は幻冬舎文庫からだったが、この度、ハルキ文庫から新装本が登場。もうねぇ、小生は涙、涙の連続でしたよ…。ぜひとも一家に一冊!

『銀二貫』 (ハルキ文庫) 髙田郁 ¥726 (amazon.co.jp)


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