【睇戲】濁水漂流


昨年、大好評だった《香港映画祭2021》。しかしながら小生は結局1作品しか観ることができなかった。一番観たかった(って言うか、これだけでよかったんだがw)『點五歩』を観れなかったのは、いまだに悔やまれる。それでも、惠英紅(カラ・ワイ)がかつて大阪アジアン映画祭の開幕セレモニーで語っていた作品『幸運是我(邦:幸福な私)』を観ることができたのは、ラッキー。まさにタイトル通り。あれから早や1年。今年も《香港映画祭2022》が各地のミニシアターで開催される。ラインナップを見て「おお!」と思った作品が2本。あとは、まあ…(笑)。2本とも、インディペンデント色の強い作品ながら、いわゆる「メジャーどころ」の俳優がずらりと揃う。最近、香港映画はこういう作品が多いように思う。今年もこの時期は仕事がグワーッと立て込んでくるので、この2本に絞ることにした。まずは、呉鎮宇が熱演の『濁水漂流』を観た。

濁水漂流 邦題:香港の流れ者たち

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題『濁水漂流』 英題『Drifting』
邦題『香港の流れ者たち』
公開年 2021年 製作地 香港 言語:広東語
香港電影分級制度本片屬於第Ⅲ級,18歲以上人士收看(=18禁)

評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):李駿碩(ジュン・リー)
監制(プロデューサー):文佩卿(マン・プイヒン)
摄影(撮影監督):梁銘佳(レオン・ミンカイ)
配樂(音楽):黃衍仁(ウォン・ヒンヤン)

領銜主演(主演):吳鎮宇(フランシス・ン)
主演(出演):謝君豪(ツェ・クワンホウ)、李麗珍(ロレッタ・リー)、朱栢康(ジュー・パクホン)、寶珮如(ベイビー・ボー)
特別演出(特別出演):葉童(セシリア・イップ)
特別介紹(イチ推し):柯煒林(ウィル・オー)

《ストーリー》

刑務所を出た輝(吳鎮宇)は雑多で陰鬱な街・深水埗へ戻り、ベトナム難民の老爺(謝君豪)、皿洗いの陳(李麗珍)、薬物依存症の大勝(朱栢康)、半身不随の蘭(寶珮如)たちと再会する。ところが、行政機関がホームレスの住む一帯を撤去しにやってきたことで、輝たちは「家」を失う。新人ソーシャルワーカーのホー(蔡思韵)は、彼らのために裁判を起こし、政府に賠償と謝罪を求める。輝たちは失語症の若者、木(柯煒林)と出会い、力を合わせて小さな小屋を建てる。しかし高架下は平穏な場所ではなく…。<引用:『香港映画祭2022』公式サイト

小生の好きな街、深水埗(Sham Shui Po)を舞台に、ベテラン人気俳優からこれからの若手俳優が出演し、底辺層の人たちを描く作品だということで、香港での公開前から「日本で観れないかな~」と期待しつつも、一番、日本でやってくれそうにない作品。「今度里帰りの折にDVD買うリスト」に入っていた作品だったが、ついに!

「我が青春の李麗珍(ロレッタ・リー)」も皿洗いのバイト暮らし。元・娼婦という役どころを好演

主演の輝(ファイ)を演じた吳鎮宇(フランシス・ン)、ホームレス仲間の長老的存在を演じた謝君豪(ツェ・クワンホウ)というスターに加え、我が青春の李麗珍(ロレッタ・リー)と童(セシリア・イップ)、有望株として注目している柯煒林(ウィル・オー)と、なかなか豪華メンバーであるが、タイトルがすでに物語っているように、非常に陰鬱なそして「夢も希望もない」展開に、エンドロールとともにため息をつきたくなる映画。

10年前の12月2日の深水埗。映画を観て、あんまり変わってないのを確認(笑) (筆者撮影)

舞台となった深水埗は、九龍半島の中でも、低所得者が住まう旧タイプのビルが密集し、人口密度が高く、香港を「画に描いた」ようなエリア。また、あらゆる商業活動が非常に発達しており、小生もしょっちゅう行く。それこそ「パンツのゴムから億ション、さらには性産業」までありとあらゆる欲望を満たしてくれる街である。ただ、作中にも出てきたが、昨今は急激に超高層アパートメントが建設され、街の相貌も変わり始めた。

2010年代初頭、深水埗が都市再生計画の時期にあったとき、香港政府は底辺で暮らす人たちの「一掃」を開始する。気の毒な話ではあるが、人が増え過ぎた香港には古い町並みの再開発は不可欠であり、何事も「ずっとそのままで」というわけにはいかない現実がある。このあたりに関しては、巨大デベロッパーに首根っこを押さえられている香港政府なんで、デベロッパーの開発計画には逆らえない。香港市民の不満の根源はまさにここで、そこはもうひとえに、香港政府の不作為と言うか役立たずぶりと言うか…。

さて本作は、2012年に通州街(Tung Chau Street)高架下のホームレスが強制退去させられた事件をベースにしている。

刑務所から出所したばかりの吳鎮宇(フランシス・ン)演じる中年の露宿者(ホームレス)に焦点を当てる。出所後、行きつく先はやはり露宿者が集まる深水埗。このエリアの露宿者の長老的存在、謝君豪(ツェ・クワンホウ)演じる老爺から「出所祝いだ」と薬物をもらってさっそく注射という始末。ある日、食物環境衛生署(食環署)の署員に道路脇から露宿者たちが追い出され、ベッド、日用品、写真、挙句は香港身分証などの所持品をすべて強制的に破棄される。彼らは政府を訴え、補償と謝罪を要求。ストーリーは、訴訟の1年間の生活状況をリアリティたっぷりに描く。

登場する露宿者たちは、総じて負の歴史を持っている。吳鎮宇が演じた輝は、すでに高齢期を迎えつつあり、持病のため薬物をやめようと救済機関「戒毒處」への通院も試みる。灣仔(Wan Chai)の陸橋の横のビルにもあったが今もあるのかな。見るからに「ヤク中」の人がうろうろしてたね…。彼は、一方的に自分たちの「空間」を排除した食環署の行為に強い不満を持っており、政府からの謝罪を主張し、示談は受け入れないと強硬意見を通し、仲間も離れて行くことになる…。これまでとは全く違う路線の吳鎮宇を観ることができた。

謝君豪は『南海十三郎』に主演した当時のイケメンから露宿者の老人へと変貌を遂げた。彼の役者としての間口の広さを見せつける。露宿者の老爺に謝君豪を認識することはほとんど不可能。老爺は輝の古くからの友人という設定だが、性格は正反対でとても優しく、仲間から慕われ信頼もされている。しかし、色んな役をスイスイとこなす役者だなぁ…。

気の荒い大勝を演じた朱栢康(ジュー・パクホン)は以前観た『金都(私のプリンス・エドワード)』の男主人公。まったく違うイメージの役どころだったので、気づいたのは出演者一覧を見てからのこと(笑)。

露宿者たちの「団らん」のひととき

もう一人の主人公とでも言うべき、失語症の若者、木仔を演じたのが期待の新星、柯煒林(ウィル・オー)。いつもハーモニカで「グリーンスリーブス」を吹いている。あれはなんか意味があるのか…。最後まで分からん終いだったが、映画の雰囲気にはよくマッチしていた。高層アパートメントの建築現場に忍び込み、輝とともに深水埗の夜の街並みを見下ろすシーンが印象深い。気持ちの優しい奴で、身体の弱ってゆく輝に一番寄り添ってやったのは彼だろう。一方の輝も彼に娼婦をあてがってやり「大人の階段」をひとつ上らせてやったりと、いい関係を築きつつあった。実は木仔に亡くなった息子を投影していたのだったが、その死の詳細についてはほとんど語られていない。柯煒林は難しい役どころだったと思うが、非常に印象に残る演技を見せていた。

ちなみに、木仔の母親役で、もう一人の我が青春のスター、葉童(セシリア・イップ)が登場したが、ほんの一瞬だった(笑)。もっとセシリアを!

蔡思韵(チョイ・シーファン)演じるソーシャル ワーカーの何小姐は、露宿者を助けたいと熱望しており、彼らが政府相手に賠償と謝罪を求める訴訟を起こ手助けをしたり、メディアに紹介したりするなど、手を尽くす。これによって、一時的に世間の目が露宿者の窮状に向き、大学生らが「ホームレス体験」に訪れるなど、思わぬ「効果」を生んでしまうのに苦笑する。そういうもんだよな、世間って…。そしてあっという間に忘れる。

法廷で政府と対決する、何小姐、老爺、輝

当たり前だが、露宿者の一人一人には一言では言い表せない物語がある。特に老爺の人生はかなり複雑だ。彼はもともとベトナム難民である。「西側」へ逃れ、離れ離れになった息子と一目会いたい願う。その日が来るのを「生きがい」にしている。何小姐は執念でノルウェー在住の息子を探し出し、リモートでの再会を果たすことができたのだが、その翌日…。あれほど喜んでいたのに…。切なかった…。

そして輝も、非常にショッキングな最期を迎えたのだが、彼の場合は「和解金」よりも「謝罪」を政府に求め続けたが、叶うことがないとわかった時点での最期だった。まあ、たしかHK$2,000だったっけ、日本円で昨今のレートで2万円ちょっとだわな。もちろん金額の問題ではなく「謝罪」が欲しかったのだ。人間と言うのは生きるための目標や動機を必要とする生き物なんだなぁと、思った。二人ともそれを失った、あるいは達成した時点で、生きることをやめたのかなぁ…、などと思った次第。色々と考えさせられることが多い映画だった。

さて上映終了後、撮影監督の梁銘佳(レオン・ミンカイ)と、本映画祭キュレーターの林家威(リム・カーワイ)監督でのトークイベントが行われた。梁さんは香港、林さんはエストニア、その二人の会話を大阪は九条の映画館のスクリーンで見る、聞く。えらい時代ですな(笑)。超売れっ子で、これからの香港映画界で注視しておくべき人物の一人である梁銘佳。なかなか興味深い話を聞けたが、いつものごとく、映画館を出たらすっかり忘れてしまっていた(笑)。メモってる人たくさんいたから、きっとネットを探せばでてくるでしょう(笑)。

余談ながら、本作には薬物服用シーンや乱暴な言葉を使うシーンがあるため「三級片」指定。要するに18禁。謝君豪、蔡思韵、朱栢康、寶佩如、柯煒林の5人は「三級片」初出演ですってよ!

《濁水漂流》正式預告

《受賞》

■第15屆亞洲電影大獎
・2部門ノミネート

■第58屆金馬獎
・最優秀脚本賞:李駿碩
・他11部門ノミネート

■第15屆西寧First影展
・評議委員大賞:李駿碩
・観客賞:『濁水漂流』

■2022年 第28屆香港電影評論學會大獎
・推薦作品賞:『濁水漂流』
・他4部門ノミネート

■香港電影導演會2021年度獎項
・執行委員会特別賞:『濁水漂流』

■2021年度香港電影編劇家協會大奬
・推薦脚本賞:李駿碩

■第40屆香港電影金像獎
・11部門ノミネート

(令和4年11月26日 シネヌーヴォ)


←なんか面白いらしいっすよ!<読みたいリスト>には入れてるけどまだ手が回らない(笑)

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