【上方芸能な日々 歌舞伎】第32回上方歌舞伎会


長引くCOVID-19の疫禍。感染拡大の夏ではあるが、手探りながらなんとなく世の中は元に戻っていきそうな気配も感じる。舞台公演も以前の形態に戻りつつある。今年も恒例の「上方歌舞伎会」が開催された。日ごろは脇から上方歌舞伎の舞台を支える面々が、大きなお役に挑む。何と言っても木戸銭がお安いのが嬉しい(笑)。今年は夏狂言の代表作『伊勢音頭恋寝刃』と常磐津舞踊『乗合船恵方万歳』を上演。

歌舞伎
国立文楽劇場歌舞伎俳優既成者研修発表会

第32回 上方歌舞伎会

伊勢音頭恋寝刃

古市油屋店先の場
同   奥庭の場

福岡貢を愛治郎、貢のイイ人、お紺をりき彌。文楽でもそうだが、貢の「辛抱立役」というのはなかなか難しい役どころ。これをいたぶるのが仲居の万野らでその万野を折乃助。まず、折乃助はさすがに吉弥門下だけあって、行き届いた演技を見せた。あえて言えば、もう一押し、万野の憎たらしさをセリフに滲ませてほしかった。この役がその後の貢の狂乱につながるポイントの一つだけに、そこのあと一押しがあれば、もっと客席を引き付けられたんではないだろうか。一方の愛治郎。こちらはパンフでも本人のTwitterでも「上方の役者になった時から勉強したいと思っておりました」と、意欲満々で臨んだ舞台。「辛抱立役」の心根をよく理解した舞台を見せていた。貢のもうひとつの見せどころ「ぴんとこな」がとても似合う若手である。こういう役者を若い時から目を付けておいて、成長を見守るのは楽しいものだ。

さて、小生お気に入り&推しである翫政は料理人の喜助を演じる。これがピッタリのはまり役だった。まあ確かに今回のメンバー見渡してみて、彼以外にはないよな…。

文楽と違い、貢の人斬りシーンはそれほど凄惨さは感じない。やってることは同じなのに。この辺が「人間の限界」と「人形の自在さ」の違いで面白し。エンディングも歌舞伎はハッピーエンドの色が濃い。どっちがいい悪いではなく、どっちも観てわかることは山ほどあるということだ。

どういうわけか(笑)、毎回同じような席になる。まあ、狙ってるわけですがね(笑)。花道での所作は前方で行われるので、前の方の席だと、見上げてしまうので所作全体がつかみにくい。この辺なら、所作がはっきりわかる。って、偉そうにわかったような講釈垂れてるが、ただ単に毎回チケット買うのが遅いだけのハナシですわ(笑)。

乗合船恵方万歳

乗合船恵方万歳』は、天保14年(1843)正月に江戸の市村座で上演された四段返しの舞踊『魁香橘いせ物語(かしらがきいせものがたり)』の一部が、後に独立してこの外題で上演されるようになったもの。初演時は常磐津、竹本、富本、長唄の掛け合い演奏だったが、後に常磐津のみとなる。

乗合船に乗る5人(女船頭、白酒売、大工、芸者、通人)に加え、萬歳の太夫と才蔵の7人が、それぞれ自己紹介の踊りを披露する。その様は宝船の乗り合わす七福神の姿に重ねている。白酒売の愛三郎、芸者の千太郎が昨年同様にかわゆい。もう一人の女方、女船頭の當史弥は貫禄の踊り。推しの片岡松太朗は大工で。大工らしく粋な踊りを見せてくれた。こういう舞踊ものは舞台もパッと明るくなって雰囲気がいい。役者がノリノリなほど客席もノリノリになるのは言うまでもないが、ノリノリ過ぎるのも観ていてしんどいもの。そういう点では、いい塩梅の舞台だった。

★★★

終演後は、監修の我當、指導の仁左衛門、孝太郎さん、吉弥さん、舞踊の指導の藤間豊宏さんがそれぞれ挨拶。ニザさんは「せっかくやから皆も一言ずつ挨拶しぃ」と後ろに並んだ出演者たちに促す。ホンマ一言ずつ(笑)。今回、運よく千秋楽第2部を取れたので、我當、仁左衛門の揃った姿を見ることができた。毎回、取れないのよね、この回が…。

ということで、めでたく今年の上方歌舞伎会の幕を下ろした。雲上の秀太郎丈も穏やかな笑顔で見守ってられたことだろう…。

(令和4年8月25日 日本橋国立文楽劇場)


上方のをんな 女方の歌舞伎譚片岡 秀太郎 (著)

名優の誉れ高い十三代目片岡仁左衛門の次男に生まれ、上方に生き、上方らしさに徹底的にこだわり続ける役者、片岡秀太郎が初めて語る女方の真髄!


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