【睇戲】怒火


思えば、これが今年最初の「睇戲=映画を観る」である。別に思わなくても実際にそうなんだが(笑)。

昨年末から全国東宝系で公開が始まった『怒火』だが、観に行かねば~っと思っているうちに上映終了していまい、「ああ、ご縁がなかったねぇ…」と諦めの境地。何度も言って恐縮だが、主演の甄子丹(ドニー・イェン)は小生とは生年月日がまるっきり同じ。さらには本作のアクション指導の谷垣健ちゃんは香港在住時以来の古い友人。それほどに縁の深い映画だと思うのだが、観る機会をことごとく逃していたという失態。ところがどっこい、深い縁(えにし)はそう簡単には切れないもんで、尼崎は阪急塚口駅前の名館、塚口サンサン劇場で1週間限定上映、そしてこの日が最終日ときたもんだ!ってわけで、塚口に向かったんやが、運悪く阪急神戸線は人身事故で運転再開の見込み立っておらずというではないか!そうならばとJR福知山線に乗るわけだが、こちらの塚口と阪急塚口は徒歩で30分弱の距離。結構ある。まあ、歩いたわけやけどね(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

怒火 邦題:レイジング・ファイア

港題『怒火』 中題『怒火·重案』
英題『Raging Fire』
邦題『レイジング・ファイア』
公開年 2021年 製作地 香港
言語:広東語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):陳木勝(ベニー・チャン)
編劇(脚本):陳木勝
監製(製作):陳木勝、甄子丹(ドニー・イェン)
動作導演指導(アクション指導):甄子丹
動作指導(アクション指導):李忠志(ニッキー・リー)、谷軒昭(ディーディー・クー)、谷垣健治

配樂(音楽):尼古拉斯·艾瑞拉(ニコラ・エレナ)

領銜主演(主演):甄子丹、謝霆鋒(ニコラス・チェ)、秦嵐(チン・ラン)
主演(出演):譚耀文(パトリック・タム)、黄德斌(ケニー・ウォン)、吳浩康(ディープ・ン)、何珮瑜(ジーナ・ホー)、楊天宇(アンガス・ヨン)、湯君慈(ブルース・トン)、麥亨利(ヘンリー・マック)、喻亢(ユー・カン)、張文傑(ジャーマン・チェン)、胡子彤(トニー・ウー)、郭政鴻(デレク・クォッ)
特別演出(特別出演):郭鋒(サミュエル・クォ)、呂良偉(レイ・ロイ)、任達華(サイモン・ヤム)、袁富華(ベン・ユエン)、林國斌(ベン・ラム)、盧惠光(ケン・ロー)、陳家樂(カルロス・チェン)、鄒凱光(マット・チョウ)、火火(ファイヤー・リー)、蒙為亮(モン・ワイロン)、梁雍婷(レイチェル・リョン)、周祉君(アーロン・チョウ)、強尼(ジョニー・ホイ)、麥長青(エバーグリーン・マック)、張國強(チャン・クォッキョン)、辛格·哈提汗·比托(ビットゥ)、陳振華(リッキー・チャン)、羅浩銘(ケン・ロウ)、李凱賢(ブライアン・リー)

永遠懷念陳木勝導演

2021年8月の香港公開のちょうど1年前の20年8月23日、本作の監督の陳木勝(ベニー・チャン)が上咽頭がんのため、亡くなった。享年58。陳木勝を初めて知ったのは、恐らく大方の人がそうであるように、小生もまた『天若有情/邦:天若有情(アンディ・ラウの逃避行)』だった。そこですっかり陳木勝の世界に惚れこんでしまった小生は、あろうことか、当時はイングリッシュネーム、ベニーを名乗っていた(笑)。まだ日本にいた頃だから、英文名を名乗る必要などまったくないのに(笑)。その後、香港に居を移すのだが、ベニーでいくつもりだったのに、あっさりレスリーに改名(笑)。当時の奉公先の香港人上司がダニー、同僚にファニーやらフェニーやらシェリーやらがいて、ベニーはあまりにもややこしいと思い、これまたあろうことか、レスリーに(笑)。

陳木勝作品はその後も観続けており、監督作はもちろんプロデュース作品も、どれを観てもどこかに小生が共感したり、憧れたりする何かを見せてくれていた、お気に入りの監督だった。

今作は、1995年~97年に亞洲電視(ATV)で放映されていた『洪熙官』、『精武門』で監督、主演としてタッグを組んで以来のベニー&ドニーによる作品だった。ちなみにテレビっ子だったのでこの2作品はよく観ていた(笑)。よもや25年ぶりの「最強タッグ」が最後になろうとは…。『天若有情』が日本で映像ソフト化されたのも92年ごろのことだから、小生もまた30年ほどの「付き合い」になるわけで…。というわけで、遺作となった本作、居住まいを正してスクリーンと向き合いたいと、いつもとは違う心持で鑑賞したのである。

<作品導入>

今夜のデカいヤマを前に、東九龍警察本部のチョン警部(ドニー・イェン)は気を引き締めていた。何年も追ってきた凶悪犯のウォン・クワンが、ベトナムマフィアと大量の薬物を取引する現場に踏み込むのだ。出動まで待機するチョンに、上司から呼び出しの電話が入る。数日前に逮捕した若者が、有力者の息子で示談も成立したから調書を書き直せというのだ。どんな悪も許さないチョンは、断固としてはねのけるのだった。本部に戻ったチョンは愕然とする。上からの嫌がらせで、チョンが率いるチームが出動から外されていた。チョンとは兄弟同然のイウ警部のチームが、取引場所へと向かう。ところが、不気味な仮面をつけた5人のグループが、ベトナムマフィアとウォンを殺して薬物を奪い、駆けつけた刑事たちも襲撃する……<引用:映画『レイジング・ファイア』公式サイト

作品は「警匪片(警察もの)」の王道とも言うべき内容。大陸での公開条件の一つに「警察を悪く描いてはならない」というのがあるが、ギリギリの線でクリアしたというところか。それだけに、観る人によっては多少の物足りなさも感じたかもしれないが、小生は満足した。そこは英皇電影。大陸で手広く商売やっているだけにギリギリの線と香港人を飽きさせない線のさじ加減はわきまえているし、監督は安心と信頼の陳木勝だから下手は打たない。

人間関係は一目瞭然だし、筋書もな~んとなくわかる、よくできた相関図を発見したw

デビュー当時は、親の七光芸人の典型だった謝霆鋒(ニコラス・チェ)は、すっかり名優になったなぁ…。なにせ「宇宙最強の男」甄子丹(ドニー・イェン)と真っ向から対峙して貫禄負けしていないのだから大したもんだ。ニコラスに悪が憑依した時の表情なんて一朝一夕にできるもんではないだろう。そこはやっぱり血筋だな。復讐に燃える、ムショ帰りの元警察官として、これ以上ないキャスティングだった。思えば、いつの間にか陳木勝作品の常連になっていたことから、監督のお気に入りだったのだろう。若き日の劉德華(アンディ・ラウ)を感じていたのかもしれない。

一方の甄子丹。どうしても葉問のイメージが拭えないが、いやいやどうして、警匪片も難なくこなす。主人公の阿邦は正義感がちょっと重苦しく苦手な人物だが、これくらいでないとこの作品が面白くない。彼とニコラス演じる阿敖とその一派との決裂となった裁判の場面、阿邦の正義感にほんの少し隙間があれば、こんな事件にはならなかったろうにと思うも、それでは警察の正義は成り立たない…。要は、阿敖に犯人自白のための暴力を容認した袁富華(ベン・ユエン)演じる当時の警察高層部だった司徒傑がよくないのであって、奴が暴力容認したがための、阿敖とその一派の悲劇の物語と言ってもいいだろう。なんかでも、こういう「わかりきった」「単純な」筋書って陳木勝の大いに得意とするところだったなぁ…。だからこそ、グイグイ引き込まれていくのだよ…。しかし、茶果嶺(Cha Kwo Ling)は、あんなにも危なっかしい場所じゃないぜ(笑)。

阿邦の妻を演じたのは秦嵐(チン・ラン)。映画でお目にかかるのは始めただが、テレビでは時代劇『還珠格格3天上人間』で毎晩お目にかかっていた(笑)。そういう意味では、息長く、地道に頑張っている大陸女優の一人。卑劣な阿敖によって仕組まれた爆弾人質事件で、人質に捕らわれるのも警匪片のよくあるパターンだが、わかっていても手に汗握る。「怒」に「恨」が加わった阿敖は、いくらかつての同僚と言えども、もはや阿邦としては生かしておくわけにはいかない。一刻も早くとっ捕まえなければいけない「凶悪犯」である。そして終盤、息をもつかせぬアクションシーンの連続となる。

 

カーアクションと銃撃戦を李忠志(ニッキー・リー)、その後の教会でのトニーvsニコラス一騎打ちを我らが健ちゃんが担当。いや~、しかしまあ、真昼間の廣東道(Canton Road)であれだけの規模の撮影ができたもんだね~!なわけはなく、そっくりのそのままのセットを作ったというのだから、すごいわな。そしてまあ、死ぬのなんの、通行人が次々と巻き込まれて血まみれになってゆく…。これよ、これ!香港の警察ものに釘付けになるの理由は。いやいや、人が死ぬのを楽しんでるわけじゃなく、その迫力のすさまじさを「ほぉぉっ~!」っとため息つきながら観るってやつな。蒸留水ボトル一気に大爆発!なんてのは、ほんと迫力満点なんだぜ!

教会での格闘場面の末に、命果てる阿敖。美しいまでの最期だった。あれはやっぱり場所が教会だったってのが多分に効いてるな。

看板の3人以外も達者なところが揃う。泣く子も黙る甄家班の面々はじめ、呂良偉(レイ・ロイ)、任達華(サイモン・ヤム)、袁富華(ベン・ユエン)、林國斌(ベン・ラム)、盧惠光(ケン・ロー)、譚耀文(パトリック・タム)、黄德斌(ケニー・ウォン)、吳浩康(ディープ・ン)、胡子彤(トニー・ウー)、陳家樂(カルロス・チェン)…。大阪アジアン映画祭ではおなじみの監督、火火(ファイヤー・リー)もなるほどな役どころでチラッと出演していた。よくもまあ、揃えたなと。そこはやっぱり英皇電影作品。娯楽映画の何たるかをわかっているというところか。

阿邦が阿敖を取り調べするこのシーンが好きだな

久々に、香港らしい警察ものを観ることができて満足のゆく作品だった。だがもう、これだけのものを作り上げた陳木勝はいない…。

【受賞など】

(2021年)
■第34屆中國電影金雞獎
・1部門でノミネート

■第13回マカオ国際映画祭
・最優秀監督賞:陳木勝(ベニー・チャン)
・最優秀主演男優賞:謝霆鋒(ニコラス・チェ)
・他1部門でノミネート

(2022年)
■第28屆香港電影評論學會大獎
・最優秀監督賞:陳木勝
・推薦作品賞:『怒火』

■新時代国際電影節 金楊花奨
・百年百部優質電影:『怒火』

■2021年度香港電影編劇家協會大奬
・2部門でノミネート(2月末現在、結果待ち)

■第40屆香港電影金像獎
・最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀撮影賞、最優秀編集賞、最優秀アクション設計賞、最優秀音響効果賞、最優秀視覚効果賞、最優秀オリジナル主題歌賞でノミネート(2月末現在、結果発表待ち)

『怒火』ディレクターズカット予告

(令和4年天皇誕生日 塚口サンサン劇場)


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