この日観た『返校(邦:返校 言葉が消えた日)』、実は東宝系劇場で公開中に、うっかり見逃してしまい「まあ、ご縁がなかったってことやな」と思っていた矢先、ご親切なるシネマート心斎橋が追っかけ上映してくれるってことで、切れかけていたご縁復活(笑)。ま、そんな次第で、ホイホイとまだまだクソ暑い中、心斎橋まで行ってきた。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
返校 邦題:返校 言葉が消えた日
台題『返校』 英題『Detention』
邦題『返校 言葉が消えた日』
公開年 2020年 製作地 台湾
言語:標準中国語、台湾語
評価 ★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):徐漢強(ジョン・スー)
監製(プロデューサー):李烈(リー・リエ)、李耀華(アイリーン・リー)
原著(原作): 《返校》赤燭遊戲作品
編劇(脚本):徐漢強、傅凱羚(ライラ・フー)、簡士耕(チェン・シージェン)
主演(主演):王淨(ワン・ジン)、傅孟柏(フー・モンボー)、曾敬驊(ツォン・ジンファ)、蔡思韵(チョイ・シーファン)、朱宏章(チュー・ホンジャン)
特別演出(特別出演):張本渝(チャン・ペンユー)、夏靖庭(ハー・チンティン)、劉士民(リウ・ユエチー)、雲中岳(ユン・ジョンユエ)
【作品概要】
1962年、蒋介石率いる国民党の独裁政権下の台湾では、市民に相互監視と密告が強制されていた。翠華高校に通う女子高生のファン・レイシンが放課後の教室で眠りから目を覚ますと、何故か学校には誰もいなくなっていた。校内を一人さ迷うファンは、政府から禁じられた本を読む読書会メンバーで、秘かに彼女を慕う男子生徒のウェイ・ジョンティンと出会い、協力して学校からの脱出を試みるが、どうしても外に出ることができない。消えた同級生や先生を探す二人は悪夢のような恐怖が迫る中、学校で起こった政府による暴力的な迫害事件と、その原因を作った密告者の哀しい真相に近づいていく。<引用:「Filmarks」返校 言葉が消えた日>
昨今の金馬獎について
今年何本目だ?台湾映画を観るのは…。次々と探してきますな。やっぱり「中華民国建国110周年」を記念してとか?(笑)。冗談はさておき、恐らくは「金馬獎で多数の受賞、ノミネートに輝く!」ってのが日本公開の決め手なのかな? とすれば、これは少し問題だな。2019年の第56回から、中国映画の参加が無くなり、自ずと台湾作品にノミネート、受賞が集中してしまうことになった。つまり、強力なライバル作品が減ったのだ。
2018年の55回金馬獎で、2014年の「太陽花學運(ひまわり学生運動)」を取り上げたドキュメント映画『我們的青春,在台灣(邦:私たちの青春、台湾)』が「最優秀ドキュメント映画賞」を受賞した際、監督の傅榆(フー・ユー)が、「いつの日か我々の国が真に独立した存在としてみなされることが、一人の台湾人としての最大の願いだ」ってなスピーチをしたことが、中国映画人たちの反発を買ってしまう。そこは「ボイコット」とは明言せず、翌年から金馬獎と同日に、中国最大の映画賞「金雞百花電影節」をぶつけることで、自動的に中国からの金馬獎への参加はなくなってしまう。
ま、金馬獎そのものが、始まりは蒋介石の誕生日を祝す映画祭で、そのネーミングも「金門・馬祖」に由来するというもので、中国作品がそんな映画賞に参加しているというのも、不思議な話ではあったんだが。ちなみに、金門も馬祖も、ほとんど大陸にくっつくような位置にあって、それこそかつての「大陸反攻」の拠点。日本も中華人民共和国も一度も統治していない、まさに唯一無二の中華民国。そんな地名を使った映画賞は、なんとも挑戦的ではある。ま、そこはあくまで文化交流だからと黙認していたんだろうけど、大陸側は…。
巨大資本のサポートによる湯水のごとく湧き出る予算で、世界中の映画人、最先端の技術を結集して製作される中国作品に、少ない予算と行政府からの支援金を頼りに、知恵と才覚で作り上げる台湾映画では、まったく勝負にならなかったところ、幸か不幸か、中国からの参加が無くなったことで、一つの作品や人物が複数部門でノミネート、受賞という「珍現象」が、ここ2年の金馬獎で起きている。そんな中で、「金馬獎で10部門独占!」とか謳い文句にされても、ちょっとなぁ~ってところ。この『返校』も、「第56回金馬獎12部門ノミネート、最優秀新人監督賞を含む最多5部門受賞」と大々的に謳っているが、さてさて…。
で、作品はどうかと言えば…
結論から言えば、上記「評価」の星の数通り。そのうち95%は「白色恐怖(白色テロ)」の時代をこういう形で映像化した監督の心意気に献上、というところ。上映時間102分というのは、本来は頃よいところなんだが、本作は2倍にも3倍にも感じた。途中、何度かウトウトしてしまい「もうこのまま夢の中でもええで~」と思っていたら、時折「ビビらせ音」が響き、クリーチャーが出てきて、ドキッとさせられたが(笑)。
「白色テロがーー!」と声高に宣伝する割には、それ自体の恐ろしさや理不尽さ、時代感はそれほど伝わらず。同じ時代を描いた『悲情城市(邦:悲情城市)』や『牯嶺街少年殺人事件(邦:牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件)』と同列に語れるものではなかったし、この2作ほどの緊張感もなく、「白色テロ時代」を語る作品として後世に残ることはないだろう。NHKBS1の『国際報道2021』でも取り上げられていたが、「お!これは絶対観なければ!」という気にはならなかったなぁ…
ただ、日本の若人たちにとっては、台湾にこういう時代があったのを知らない人も相当数いるらしく、ネットでざっと感想を眺めてみると「初めて知る史実」として、驚きの声を上げているようで、この点はまあよかったんじゃなかろうか。そんなコメントの数々で時に気になったのが、共産党と国民党を混同しているのか?と思しきものが、少なからずあった点。当時の弾圧を共産党によるものと勘違い?して、「これだから中国は嫌い!」という結論になっていて、これも昨今の「反中、嫌中」の風潮ならでは、という感じでうんざりする。
本作は台湾のゲームメーカー「赤燭遊戲(Red Candle Games)」が開発した同名ホラーゲーム「返校-Detention」の実写映画化である。ゲームは、2017年にリリースされ大ヒットしたらしいが、小生は知らない(笑)。監督の徐漢強(ジョン・スー)は、ゲーマーでこのゲームも発売と同時にクリアし、「誰か映画化しないかな~」と業界人に呼びかけていたら、回りまわって自分にその役目が来たという。それまで短編VRを撮ってきた徐漢強にとって、本作は長編デビュー作。
ちなみに、全8話のテレビドラマ版も制作され、公共電視で放映時に最高視聴率70%を記録。Netflixで世界配信もされている。70%って、ちょとおぉ…。
という次第で、俳優に注目
そもそも小生はゲームには関心無いし、ホラー映画も興味ない。「じゃ、なんで観たんだよ!」と聞かれれば、男主演の魏仲廷(ウェイ・ジョンティン)を演じた曾敬驊(ツォン・ジンファ)目当てである。曾敬驊は昨年の第15回大阪アジアン映画祭で上映された『刻在你心底的名字(邦:君の心に刻んだ名前)』の主演が強く印象に残っている。その際に「デビュー作は『返校』」と聞いていたので、「その『返校』とやらも観てみたいなあ」と思っていたので、ようやくその機会に恵まれたというわけだ。もう、きっかけはそれだけってところ。要は、「役者目当て」。
『刻在你心底的名字』の時も感じていたが、瞳に独特の雰囲気を持った俳優。本作でも「眼が語る」みたいなものを感じたが、作風が作風だけに、余計にそう感じたのかもしれない。これからの活躍が大いに期待できる若手の一人だ。
女主役の方芮欣(ファン・レイシン)を演じたのは、王淨(ワン・ジン)。13歳でアメリカに留学し、15歳の時に、「菌菌」というペンネームで『芭樂愛情』という小説を出版した作家でもある。映画デビューは2017年の『痴情男子漢(日本未公開)』だが、女優としての地位を確固たるものとしたのは、本作となる。本作を観た限りでは、非常に雰囲気のある女優。これから色々と出演が増えると思われるので、その中には運よく、日本で公開されるものもあるだろう。他の役もぜひ見たいと思わせる、期待できる新鋭。
さて、現地版のポスターには名前がないが、懐かしい二人が出演していた。『囧男孩(邦:Orzボーイズ!)』で主演した子役二人、「騙子一號(うそつき1号)」と「騙子二號(うそつき2号)」である。まあ、二人とも立派になって(笑)。そりゃもう、13年前だもんな、大人になるよな…。
二人とも、本作のキモとなる「禁書読書会」のメンバーで、李冠毅(リー・グァンイー)が演じた黃文雄(ホアン・ウェンション)は、全体を見渡しながら会を運営する。潘親御(パン・チンユー)が演じた游聖傑(ヨウ・ションジエ)は、台湾古来の人形劇「布袋戲」に執心の内気な生徒。今は潘親御の方が圧倒的に売れているらしい。まあ、三枚目路線的で、こういうタイプは息が長いよな。
学校の備品室で、秘密裏に開かれている「禁書読書会」を組織するのは二人の若い教師。しかし、教え子を危険にさらすのは感心できないなぁ…。あちこちの学校であったんだろうけど。一人は、生活指導員で美術教師の張明暉(チャン・ミンホイ-演:傅孟柏/フー・モンボー)。けっこうイケメン。方芮欣とは師生戀(教師と生徒の恋)に堕ちかける、いや、堕ちたか(笑)。
もう一人は歴史の女性教師、殷翠涵(イン・ツイハンー演:蔡思韵/セシリア・チョイ)。昨年の「台湾巨匠傑作選」で上映された『盜命師(邦:盗命師)』に出演している。青春期の女子役だったが、今回は教師役なので、当然雰囲気が全然違う。彼女もこれからの人。王淨(ワン・ジン)同様、もっと作品を観てみたいと思わせる雰囲気を持っている。
この「読書会」のみならず、教員や生徒の中に国家転覆を企図する者はいないかと、国民党から憲兵が派遣されて、目を光らせている。憲兵の白國鋒(バイ教官)を演じた朱宏章(チュー・ホンジャン)は、見るからにイカツイ、冷酷非情な雰囲気。絶対笑わないんだろうな、って感じ。この人は初めて見る顔。これまでもいくつかの映画や舞台には出演しているようだが、現在の職である大学での演劇指導教員に重きを置いているようだ。
こうして監視の目が光る校内で、ちょっとでも疑わしい言動があると、たちまちしょっぴかれて行くことになる。映画の最初の方のシーン、全校生が校庭に整列して中華民国国旗である晴天白日満地紅旗の掲揚儀式の際、全員が注目したのは、憲兵隊に引きずられるように連行される教師。この教師を演じたのが、『親愛的房客(邦:親愛なる君へ)』で莫子儀(モー・ズーイー)演じる主人公の林健一(ジエンイー)のセフレ役で、二人の激しいシーンも披露した王可元(ワン・カーユエン)。台湾の劇評なんぞをネットで漁っていたところ、わかった次第(笑)。
終盤のこっぴどい拷問シーンから、魏仲廷(ウェイ・ジョンティン)と読書会主宰の張明暉(チャン・ミンホイ)先生の別れのシーンまでの数分間は、スクリーンに引き付けられたが、その後が…。果たしてあのシーンはあの展開でよかったのか…。魏仲廷は酷い拷問を受け、長い獄中生活を送りながらも、白色テロの時代を生き抜く。一方の方芮欣(ファン・レイシン)は…。ま、そこは観てください(笑)。
ゲームを映画化したためか、「長ったらしいねん!」「回り道しすぎやろ!」という印象しか残らなかったのは残念だ。製作、配給方面からは「もうちょっとちゃんと観てよ!」って叱られそうだが(笑)。
【受賞など】
■第56屆金馬獎
・最優秀新人監督賞:徐漢強(ジョン・スー)
・最優秀脚色賞:徐漢強、傅凱羚(ライラ・フー)、簡士耕(チェン・シージェン)
・最優秀視覚効果賞:郭憲聰(トミ・クォ)、再現影像製作股份有限公司
・最優秀美術設計賞:王誌成(ワン・チーチェン)
・最優秀主題歌賞:「光明之日」曲:盧律銘/ルー・ルーミン、詞曲唱:雷光夏/サマー・レイ
その他7部門でノミネート
■第39屆香港電影金像獎
1部門でノミネート
■2020年臺北電影獎
・100万ドル大賞:『返校』
・最優秀長編作品賞:『返校』
・最優秀主演女優賞:王淨(ワン・ジン)
・最優秀美術設計賞:王誌成
・最優秀視覚効果賞:郭憲聰、再現影像製作股份有限公司
・最優秀音響効果賞:曹源峰(デニス・ツァオ)、簡豐書(ブック・チェン)、湯湘竹(タン・シャンジュー)
その他7部門でノミネート
■第14回アジア・フィルム・アワード
・最優秀視覚効果賞:郭憲聰、再現影像製作股份有限公司
その他1部門でノミネート
電影【返校】Detention 正式預告
(令和3年9月15日 シネマート心斎橋)
←『返校 影集小説 』(角川ホラー文庫)
李則攸 (著), 巫尚益 (著), 公共電視 (監修),七海 有紀 (翻訳)
テレビドラマ版『返校』を完全ノベライズ!
映画とは違うストーリー展開。ゲーム、ドラマ・小説、映画。どれが一番面白いか!?
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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