【睇戲】『唐山大地震』(中題=唐山大地震)

『唐山大地震』
(中題=唐山大地震)

唐山地震とは、1976年7月28日3時42分(現地時間)に、中国河北省唐山市付近を震源に発生したマグニチュード7.5の直下型地震で、これによって唐山市は壊滅状態に追い込まれ、中共政府発表で死亡者数は約25万人とされている。ただし、米国地質調査所の推計では65.5万人となっている。どちらの数字にしろ、ここまで死者の数が増えたのは、当時の「文化大革命」が「自力更生」により国際援助を拒否したためである。文革は政治的迫害で命を奪われた人が後を絶たなかったのと同時に、自然災害でも助かるべき命を落とす人が多かったのは、心にとどめておくべきだろうと思う。

日本では、この作品は2011年3月26日に松竹系で公開されることになっていたが、あの中での公開は当然、見送られた。公開を待つ声はずっとあったが、だれもそれを声を大にして叫ぶことはできずにいた。しかしこの大作は、やはり日本でも公開されるべきであり、それは地震国・日本では、より多くの人の目に触れる必要があるのだ。間違いなく、この次の瞬間に起こりうる出来事なのだから。そのため、本来は字幕版のみでの公開予定だったのが、吹き替え版も公開されている。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

00136470中題 『唐山大地震』
英題
 『Aftershock』
邦題 『唐山大地震』
現地公開年 2010年
製作地 中国
言語 標準中国語、唐山方言

評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督): 馮小剛(フォン・シャオガン)

領銜主演(主演):徐帆(シュイ・ファン)、張靜初(チャン・チンチュー)、李晨(リー・チェ)

聯合主演(協力出演):張子楓(チャン・ツィフォン)、張家駿(チャン・ジアージュン)、陸毅(ルー・イー)、張国強(チャン・グォチアン)、王子文(ワン・ツィウェン)、楊立新(ヤン・リーシン)、呂中(リン・ジョン)、詠梅(ヨン・メイ)、劉莉莉(リウ・リーリー)

特別演出(特別出演):陳道明(チェン・ダオミン)、陳瑾(チェン・ジン)

張翎の小説『唐山大地震』(原題《余震》)を題材に、実際に1976年7月28日に発生した唐山地震で引き裂かれた家族のストーリーを描く。それゆえに、いたずらに恐怖をあおる内容ではなく、「心の復興」「被災家族のその後」を描くストーリー展開になっている。

「激震23秒、余震32年」。これがこの作品のテーマである。唐山大地震の激震時間が23秒。それにより引き裂かれてしまった家族が再会するまでに要した時間(=余震)が32年。「心の復興を描く」なんて書いたけど、実際にこの32年ぶりの再会で家族の心の復興が終わったかどうかはわからない。先の東日本大震災でも、常に「心の復興」が言われるが、まだたった4年である。そんな簡単な話ではないだろう。20年が経過した阪神淡路大震災でも、まだまだ「心の復興」の途上にある人が大半なのだから。

こういう話は、大災害や大事故の裏には山ほどあるんだろう。一方で、この作品のように「そんなうまいこといくか~?」という奇蹟的な、それこそ「映画や小説のような」再会の話もあるに違いない。いや、あってほしい。できるだけ多く。

唐山地震。前触れは映画の冒頭にある「トンボの大群の移動」。奇しくも、それは小生が中学1年の誕生日の出来事。唐山を大地震が襲ったのは、翌日の午前3時だった。しかしこの大惨事が、世界中に伝わったのは、その年の秋のことだった。最初にも書いたが、これこそが「文化大革命」の実態なのであった。そして離れてしまった家族の再会のきっかけが、2008年5月12日に発生した四川大地震だった。先の「唐山」では文革という政治体制が助けるべき多くの命を奪ったが、「四川」では文革後の急速な資本主義化による「腐敗」がずさんな学校建築を行った結果、多くの幼い命が奪われた。それでもいつの時も、被災者のために前線で救助活動を行うのは、人民解放軍兵士でもあった。ただ、「四川」では解放軍兵士に加え、一般市民の「ボランティア」も多数、現地に乗り込んでいた。その結果の「被災家族の再会」でもあった。ここに、「変わらない中国」と「大きく変わった中国」のふたつを見た。

地震に襲われる前の唐山の街は、懐かしい光景。いや、自分はそんな時代の唐山を知る由もないのだが、1990年代にはまだ地方へ行けば、「ここは人民公社だったんだろうな」と、一目でわかる古い建造物がいくつも残っていたし、当然のように「世界人民万歳」とか「偉大的毛主席万歳」のようなスローガンもあちこちに大書されていた。そういう建物や赤い文字を見ることで「ああ、大陸へ来た!」と思ったのだが、今はおそらく何も残っていないんだろうねぇ…。

出演陣は、大陸の人気実力トップクラスの俳優が並び、迫真の演技。子役も素晴らしかった。地震の様子もさすが「IMAX」。すさまじい迫力だった。

本当は「★5つ」にしたいところだが、そこは大陸映画。やはりどこかに「共産党への遠慮」や「その筋からの指導」が見え隠れしているような雰囲気もあって、その点を「☆」に減点してしまった。これは大陸でこの手の映画を作ることの難しさなんだろうけど。

月曜日の夜7時からの上映。観客は小生入れて二人。これはどうなんだ?何度も言うが、「この次の瞬間」、自分の身の上に起こりうる出来事なのである。観たらどうなるというハナシでもないけど、観ておくべき作品だとうは思うのだが…。実際、重くてきつい内容ではあるけども。そんなわけもあって、「甘口、辛口」の劇評は無し。

(平成27年3月30日 布施ラインシネマ)


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