【上方芸能な日々 文楽】通し狂言 菅原伝授手習鑑~住大夫引退公演~<第1回目鑑賞>

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人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念 七世竹本住大夫引退公演
通し狂言 菅原伝授手習鑑

日本橋文楽劇場前の桜、年々開花が早くなっているような気がする。
去年は確か、4月公演に来たらもう散っていたような記憶があるが、今年はなんとか散らずにいてくれた初日。
国立文楽劇場開場30周年記念の幕開けにふさわしい、初日の桜花爛漫だが、今年のそいつは切ないねぇ…。

IMG_1157IMG_1160201404haiyaku_omote昼の部、夜の部ともに超満員の熱気あふれる文楽劇場。

久々の『菅原伝授手習鑑』の通し上演は、住大夫の大阪本公演における最後の舞台でもある。人が集まらないわけがない。

初日からメディアの取材数が驚くほど多いのが、今公演が「特別」なものであることを物語っている。

細かい芸談、芸評あれこれは、今回は通しで3回見物に行くので、すべて観終えた後に回すとして、なんと言っても、住さんとこの文楽劇場の空間を共有できる最後の公演を、存分にそして大切に過ごしたいと思っている。

住さんが脳梗塞から復帰した昨年の正月公演以来、以前にも増して住さんへの拍手声援が多くなっていた。まあ、そりゃそうだろう。一連の大阪市の補助金騒動を「善悪論」で語るなら、文楽を貶めた何某の市長とその一派及び支持者は悪玉で、それに抗いなながら病魔に侵されるも、執念のリハビリで舞台復帰した90歳間近の太夫は誰の目にも善玉である。そういう意味での拍手喝采も多かったのは間違いないし、それ自体、何の不思議でもない。

が、そういう復帰後の舞台を観るにつけ、「俺自身、住さんとの時間を大事に過ごしてきただろうか?」と自省することしきりなのであった。もっと住さんの浄瑠璃に寄り添うことができなかったのか? 本当に心の底から味わっていたんだろうか? 拙ブログでしょっちゅう「協会も劇場も座員も、もっと住さんを大事にしてほしい」なんて偉そうに言って来たけど、「お前はどないやねん?」と聞かれると、これはもう恥じ入るしかない…。あんなに一生懸命浄瑠璃聴かせてくれている住さんに、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうのだ…。

名残の公演、七世竹本住大夫を心底から味わいたい。文字大夫時代からこの人の浄瑠璃を聴いてきたわりには、文字さんそして住さんとの時間を大事に過ごして来なかった三流以下の見物人にできるのは、それっぽちのことになってしまった…。何してたんや、俺…。文楽好きを名乗るなよ、俺…。

昼飯前の幕間を利用して、各種表彰式が行われた。表彰者は次の通り。

<国立劇場文楽賞>
大賞 野澤錦糸
優秀賞 竹本千歳大夫、吉田玉志
奨励賞 吉田玉勢、鶴澤清丈
特別賞 竹本住大夫

<文楽協会賞>
大夫の部 豊竹靖大夫
三味線の部 鶴澤寛太郎
人形の部 吉田玉翔

この1年間、拙ブログで何度も名前の挙がった人たちが、ちゃんと評価されているのがうれしいし、そりゃもうそれに値する活躍ぶり成長ぶりだったのだから、受賞は当然でしょう!というもんだ。

今回の菅原は、珍しく「大序」からの上演。よって、開演10時30分、終演がほぼ21時という長丁場。観る方にも体力が求められる。あ、別に途中で白河夜船に陥っても、いいと思います。前にも言ったけど、「ココ!」という場面になると、居眠りなんてしてられないくらい、「これでもお前、寝るか?」ってくらい太夫は語るし、三味線は鳴らすし、人形は素晴らしい動きをしますから。

で、「大序」があることで、物語の中心となる人物について「あ、こういう人ね」というのがわかるし、後のストーリー展開で、「『大序』で言うてたあの事の答えはこれか!」みたいなのもちらりほらりと出てくるから、そりゃ親切な脚本でありますョ。だから、時代物は通しでやることに意味があるんだなというのが、よくわかる。

三段目「桜丸切腹の段」
今日のブログ、いきなりここへ飛ぶ。
住さんの引退狂言である。
床がくるり回って、住さん&錦糸さん登場で、怒濤のような拍手鳴り止まず。いつもより掛け声も多く、黒子が「東西」に入るタイミングをなかなかとらえられず、「え~、どうしよう…」と戸惑うような凄い拍手。もう、ここだけで涙腺決壊。アカン…。ようやく静けさを取り戻した場内、ご見物の視線が一斉に住さんに集まるが、住さんはいつものように床本を押し戴き、臨戦態勢。この瞬間がとても好き。

呑み込んで、奥へ行く

この最初の出だしで、引っこんでいた涙がまた出てくる。もうこないなったら、堂々と大泣きするしかない。とにもかくにも、まずは床に集中。

ところがだ。床に集中したいけど、色んなことが思い出されてしまって、集中できない。「あのとき、あの場面」と言葉にすれば、たったそれだけだけど、あまりにも多すぎる。文楽の場だけでない。新聞、雑誌や本などの活字、テレビ出演、DVD、講演会などなど…。「住さんとの時間を存分に、大切に過ごしたい」などと言いながら、全然できていない…。アホか、俺…。

さらには舞台の人形のメンバーの芸がまたすごい。文雀師匠、簑助師匠がそれぞれ女房八重と桜丸。この人間国宝二人の芸が舞台にご見物の目を釘付けにしてしまう。もっと住さんに集中を、とはなかなかいかなかったけど、やっぱりこの人と、この文楽劇場と言う空間で空気、時間を共有できることの、無上の幸福感はなんとも言えない。この時間が無くなってしまうのか…。千秋楽の桜丸切腹、ちゃんと聴けるんだろうか…。

さて、くわしい芸評などについては、最初に言ったように、あと2回の見物を終えてからということで、本日はここまで。

と言いながら、二つ。
・人形で梅王を遣った文司の動きがすごく印象深い。もともと実力者ではあったけど、なんか去年あたりからすごくスケールアップしてる感強い
・「寺子屋」切場、1時間近い大熱演だった嶋さん。満員の客席、涙、涙、涙。この浄瑠璃を千秋楽までやり通すんだから、その体力は驚異的!

以下、無用のことながら
第二部。横二つ目の席で、一部マニアの間で「麿」というニックネームで不思議な人気を誇る、NHKの登坂アナウンサーがご見物。もちろん、すぐにわかりますわな(笑)。終演後、ロビーで取材活動も。BKに転勤して金曜夜の『かんさい熱視線』を担当とのこと。なお、この日の取材はどの番組かは不明。

(平成26年4月5日 日本橋国立文楽劇場にて)


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