【睇戲】小曉 <日本プレミア上映>

大阪アジアン映画祭、今宵は久々の「TAIWAN NIGHT」。いつ以来かなぁ。別に何か趣向があるわけでなく、せいぜい台北駐大阪経済文化弁事処の処長さんが挨拶するくらいなんだが、それでも旬な人から重鎮までが揃うってな年もあり、マニアにはうれしいひとときには違いない。てわけで、この日は仕事を早退して、ABCホールへ馳せ参じた次第。

こんな感じでずらっと並ぶだけ(笑)

今年の「TAIWAN NIGHT」は、それぞれ一言コメントして手を振るだけ(笑)。魏徳聖(ウェイ・ダーション)も子役の子と来阪していたけど、1回目の上映が終わったらさっさと帰っちゃったのは残念。

一応、写真の人たちを紹介しておこう。左から、邦画の『走れない人の走り方蘇鈺淳監督、『馬語』プロデューサーのCeline Kao(セリーヌ・カオ)、藍憶慈(ラン・イーズ)監督、『莎莉(邦:サリー)』練建宏(リエン・ジエンホン)監督、『小曉(邦:トラブル・ガール』靳家驊(ジン・ジアフア)監督、『春行(邦題同じ)』王品文(ワン・ピンウェン)監督、彭紫惠(ポン・ズーフェイ)監督、『我可以暫時逃跑一下嗎?(ちょっとだけ逃げてもいい?)』吳季恩(ウー・ジーエン)監督。邦画の『走れない人の走り方』はさておき(なぜ、さておくのだ?ww)、『春行』、短編の『我可以暫時逃跑一下嗎?』が日時的に観られなかったのは無念…。この2本は、ここでしか観られない作品だったかもしれないのに、ご縁がなかったということだ。

で、「TAIWAN NIGHT」の上映作品は『小曉』。事前調査もなく、何の前知識もないままに観るだけに、何かと心配。終わってから「なんじゃ、これ?」とならないことを祈るばかり(笑)。

弱冠12歳にして「金馬影后(金馬獎最優秀主演女優賞)」に輝いた林品彤(オードリー・リン)。息詰まる演技で観る者を惹きつけてやまなかった

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

コンペティション部門 | 特集企画 台湾:電影ルネッサンス2024
小曉 邦題:トラブル・ガール <日本プレミア上映>

台題『小曉』 英題『Trouble Girl』
邦題『トラブル・ガール』
公開年 2023年 製作地 台湾
言語:標準中国語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):靳家驊(ジン・ジアフア)
監制(製作):葉如芬(イェ・ルーフェン)、王小茵(エヴァ・ワン)
編劇(脚本):靳家驊
配樂(音楽):福多瑪(トマ・フォゲンヌ)
攝影(撮影):陳麒文(チェン・チーウェン)
剪接(編集):賴秀雄(ライ・シユウション)、靳家驊

主演(主演):陳意涵(アイビー・チェン)、劉俊謙(テレンス・ラウ)、林品彤(オードリー・リン)
特別演出(特別出演):鄭志偉(チェン・チーウェイ)、劉冠廷(リウ・グァンティン)、蔡亘晏(サイ・ハナ)、朱芷瑩(チュウ・チーイン)、施名帥(シー・ミンシュアイ)

《作品概要》

小曉はADHDの少女。学校では孤立し、家でも母親とはうまくいかず、父親は仕事で不在がち。彼女を理解してくれるのは担任のポールだけだった。しかし、嵐の日、彼女は母親とポールの不倫を見てしまい…。<引用:第19回大阪アジアン映画祭公式サイト

主人公の小曉を演じた12歳の林品彤(オードリー・リン)は第60屆金馬獎で、見事に最佳女主角(最優秀主演女優賞)に輝く。60回に及ぶ金馬獎の歴史で歴代最年少受賞である。ちなみに対抗馬には香港作品で先日観た『填詞撚(後に填詞Lに改題)』の鍾雪瑩、昨年ここで上映された『本日公休』の陸小芬ら強敵ぞろい。その中で、堂々の受賞はあっぱれ!

小曉の担任、陳保羅(ポール)を演じたのは香港俳優の劉俊謙(テレンス・ラウ)。『梅艷芳』では若き日の張國榮を演じた

映画はプールで若い男が少女に水泳を教えるシーンから始まる。それをプールサイドから物憂げに眺める女性…。教師と生徒、その母親という関係だと気づくのにやや時間を要した小生は、ただのボンクラなのか(笑)。

場面転じて、3週間前の中学校の教室。台風接近につき、即時下校の校内放送で「わ~」っと家路につく生徒たち。ちょっとびっくりなのは、教科書とかそのまま机の上に放置して帰るのね(笑)。もちろん教師も生徒の下校を確認の後、帰宅する。小曉の担任、陳保羅(ポール 演:劉俊謙/テレンス・ラウ)をタクシーで追跡する小曉。小曉はこの時、自分の母親と担任が「不倫」の関係にあることを確認する。この時のタクシーの運転手は劉冠廷(リウ・グァンティン)。『消失的情人節(邦:1秒先の彼女)』のあいつだ。あとでじっくりキャスティング調べてわかったw。

まあでも、先述のように3人でプールに行ったりしてるんだから、大人の方は隠すつもりもないんだろう。えらいサバサバしてはるな(笑)。一方で、小曉は母と担任の関係に困惑しながらも、この複雑な状況に自分を適応させなければならなかっただけでなく、次第に自分と母親がそれぞれ説明のつかない無力感を抱えていることに気づいてゆくことになる…。

パンチングボールでうっぷん晴らしをする姿に『比悲傷更悲傷的故事』のイメージはまったくない

母親役は陳意涵(アイビー・チェン)。陳意涵と言えば、小生を散々泣かせた『比悲傷更悲傷的故事(邦:悲しみより、もっと悲しい物語)』での湿り気タップリの純真な瞳を思い出すが、今作ではあのイメージはまったくなく、もはや別人(笑)。いや、それだけ役者としての幅が広がったということだろう。

授業中もあれこれと嫌がらせを受けるので、どうしてもこういう目つきになってしまう

ADHDの小曉は、時に大人も手が付けられないほど荒れる。そのため学校ではかっこうのいじめの対象となる。担任のポールと母親が不倫関係にあるのは、ポールにはそんな小曉の味方になってほしいから、という理由もあるが、出張続きで小曉のことを妻に任せっきりの亭主との冷え切った夫婦関係の寂しさを紛らすためでもある。

こういう場面が何度も出てくる

優等生の曉珊(演:朱語晴)がたった一人、小曉の理解者として現れる。次第に二人の距離は縮まっていく。「ああ、この子は小曉の救世主になるんやな…」と思ったが、子供の世界はそうはいかない。

モップの絞り方を教えてくれる曉珊。ほとんど学校中の生徒が敵、みたいな状況にあって、唯一の「友達」だったはずなのに…

最初のころはすごく近しい関係で、徐々に小曉の心をほぐしていってくれるんだと期待してたら、実はそれはあくまでも担任に対する「点数稼ぎ」で、実際には他の子と何にも変わらない。いや、180度の豹変は常日頃から小曉を標的にしている子たちよりもきついものがある。実に「えげつない」のだ。

曉珊の表情の違いに注目! この子もなかなかの演技だった

この曉珊の変わり身について、監督の靳家驊(ジン・ジアフア)は上映後、次のように語った。「私たちが子供の頃とは違う友情の形になっていることを表現した」。いや~、ほんに怖いよ、今の子供たちは。「台湾では、曉珊について『態度の変化が早すぎる』という意見もあったが、9歳から16歳の子供たちからは、早いという意見は聞かれなかった」と。早いとか遅いとかよりも、こんな風にコロッと変われるもんなんだと、そっちの方がびっくりだわ…。

学校で飼育されているフクロウが唯一のお友達

学校のバードゲージではフクロウが飼育されていて、孤独に暮らしている。これは小曉の閉ざされた心、疎外、狭い空間でしか生きられないという姿を投影しているのかなって感じ。小曉はADHDのため、社会や学友の無関心と冷酷さに苦しんでいたはず。そんな中、担任のポールだけは彼女に優しくしてくれた。同時に、小曉の母親であり不倫相手でもある薇芳の心の隙間を埋めもした。

香港俳優の劉俊謙(テレンス・ラウ)は、本作が台湾映画初出演。普通話は苦手だからか「英語で教えている」という設定になっている。でも、ほとんど英語で喋ってなかったような…。ま、それは置いておき、小曉、薇芳と距離感の取り方の難しい役どころを、見事に演じていた。

劉俊謙はこれからも台湾映画からお声がかかりそうなので、普通話のレベルアップを!(笑)

小曉はいつも彼女をからかう男子の一人を突き飛ばして、ケガさせてしまう。常々、小曉を問題視、敵視している他の母親たちは保護者会を開催し、小曉への厳重な措置を学校に要求する。要は「あんな問題児は退学させろ」と一斉に声を上げたのである。ADHDに対する世間一般の認識は、こういうもんだ。そりゃ、ケガさせた小曉が悪いんだけど、そこに至った経緯は全くと言っていいほどスルーされてしまう…。

名門進学校ってこんな感じなのかな?親たちはとにかく「自分の子」のことしか見えていない

退学ありきで進行していた「欠席裁判」のような保護者会に、母親の薇芳とともに小曉が現れる。事件のショックからから、首が曲がってしまっているのが痛々しい。

夫、小暁との関係に苦心する薇芳だが、やっぱり母親は強いな

「出張」が多く、ほとんど家にいない小暁の父親も、相当な有問題な存在だ。父親を演じたのは施名帥(シー・ミンシュアイ)。でもほとんど顔が見えないので、鑑賞中には気付かない。そういう存在だから、もちろん薇芳との夫婦関係は冷めきっている。超久し振りに帰宅したものの、すぐに夫婦の罵り合いとなってしまう。そこには小暁の存在は無いのが観ていて辛かった。もしかしたら、小暁の病気の原因は、この両親の関係にあるのではないかとも思う。いや、きっとそうだろう…。これでは子供はたまったもんじゃないよな…。

そこをうまく埋めているポール。3人でキャンプに出掛けたり、ほとんど同居状態になったりして、もう特に小暁に母親との関係を隠すつもりもない。そこまで入り込んでよいのかどうか…。

もはや夫婦気取りである(笑)

だが、この関係を学校が知ることになり、ポールは学校を離れなければならなくなる。この関係を知っているのは小暁だけ。ポールは思わず「お前が学校に告げたんだろ!」と叱責の言葉を投げかける。そして二人のもとを去って行く。

結局のところ、母と子は二人で生きてゆくことになるのだろうけど、そこに重く暗いものは感じさせず、この時点で最良とは言えないまでも、落ち着くところに落ち着いたのだと感じさせた。とにかく息詰まるよな場面の多かった映画で、最後の最後まで、ほっとさせてくれはしなかったが、「この母と子に幸あれ!」と思わせる、よい終わり方をしたとは思う。

このラストに、救われた気分になった人も多かったのでは?

上映後に舞台に登場した監督の靳家驊(ジン・ジアフア)は「台湾と大阪では笑いのツボに若干の違いを感じたけど、物語が進むにつれて、皆さんが深く物語に入ってくれているのがわかった」って言ってたけど、いやいや、笑う場面なんて小生には一瞬たりも無かったで。「重いラストやったと思うけど、重さをあまり心に残さずに、ある程度の希望もあると思うので、その暖かみを少しでも持ち帰ってもらえれば。大阪はまだまだ寒いことですし」って、いや~、重いわ…。初めての長編映画で、きっついの作ったな、あんた…。

《受賞など》

■第60屆金馬獎
・最優秀主演女優賞:林品彤(オードリー・リン)
他6部門でノミネート

■第17屆亞洲電影大獎
1部門でノミネート

■第5屆台灣影評人協會獎
2部門でノミネート ※3月17日時点で結果待ち

【小曉】Trouble Girl | 正式預告

(令和6年3月7日 ABCホール)

母親を熱演した陳意涵(アイビー・チェン)と言えば、小生を散々泣かせた『比悲傷更悲傷的故事(邦:悲しみより、もっと悲しい物語)』。これ観て、みんな泣こう!

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