【毒書の時間】『広東語の世界』 飯田真紀

<広東語独特の響きの会話に小生が最初に出会った映画がこちら『半斤八兩(邦:Mr.Boo!ミスター・ブー)』。李小龍(ブルース・リー)の作品群には無かった広東語での会話の応酬、その響きに、すっかり魅了されたわけだが、これが香港との「腐れ縁」の始まりとは、当時は知る由もないww>


まあ読むよな、この本。香港と何らかのつながりがあれば、『広東語の世界』というタイトル、見逃さないわな。もちろん、小生もすぐさま飛びついたわけだが(笑)。堅いイメージのある中公新書にしては、珍しい一冊だなと思う。あ、断っておきますが、広東語を覚えるためのテキスト本ではありませんよ(笑)。

『広東語の世界 華南が育んだグローバル中国語 飯田真紀

中公新書 ¥990
2024年6月25日発行
令和6年7月11日読了
※価格は令和6
年7月13日時点税込

少しでも広東語に触れたことがある人間なら「ああ、確かに」とか「そう、そう、それ思ってた!」なことが、散りばめられていて、最初から最後まで面白く読むことができた。

拙ブログでは、映画評をアップする際、これまでいわゆる「北京語」の言語を「標準中国語」としてきたが、本書を読んで目から鱗、「そうだ、香港では広東語こそが『標準中国語』ではないか!」ということに、気づかされる。「遅い!」ちゅーねん! 何年香港で生活しててん、ちゅうハナシですわな(笑)。ってわけで、本書を手にして以降、映画評では「普通話」と表記することにした。

かくのごとく、中国語というのは非常に悩ましい。話し言葉は各地域で異なるのに、書き言葉は基本的には統一されている。完全広東語ワールドと言うべき香港でも、新聞や教科書は普通話で書かれている。香港人はそれを「広東語発音」で読むのだから、器用だ。

日本では「北京語」とされることが多い「普通話」だが、じゃ、北京でそのまんま話されているかと言えば、これも違う。北京、とりわけ古い世代は「純正北京語」(笑)を話す。小生は大学の第二外国語で中国語を選択したのだが、最初の先生に習った中国語は、結構昔の「北京語」の影響が強かったようで、その発音は職場の香港人スタッフ曰く「北京の老人みたいな普通話デスネ」ということらしい(笑)。「そんな発音や言い回しは『北京語』であって『中国語』じゃないです」とか言って笑われたことも(笑)。仕方ないやん、そない言えって最初に教えられてんもん(笑)。

ただ、そんな古風な「北京語」であっても、最初に中国語(普通話)の基礎を学習したことは、後に広東語社会に身を投じて、非常にプラスになった。まず、新聞が大方読める。テレビや映画の普通話字幕も、ざっくり理解できる。まったく中国語を理解できずに香港で働くことになった人よりも、これはかなり有利だった。著者も同じような経験をしたようで、最初に普通話の文章を頭に浮かべ、それを広東語に置き換えて、理解したり会話したりする。まずは、ここが小生の広東語社会へのスタートだった。

日本語の音読み→普通話の読み→広東語の読みに法則とまでは言えないものの、「なんかしら法則めいた」ものがあるような気がして、実生活で色々と試してみたりもしたもんだ。そんなようなことも書かれていて、「俺は間違えてなかったんだ!」と、ちょっと嬉しかったりしながら、読み進めた。

著者は実は相当な「香港オタク」ではないかと思う。例として引き出す映画が、上述のように70年代~90年代初頭の作品が実に多いのだ。それに対して、一々「やっぱりそうやんな!」だの「あんたもそう思ってた?俺も!」などと、同志を得た気分になるのだ(笑)。いや、別に小生が「香港オタク」ってわけじゃないですよ(笑)。

先般、大阪アジアン映画祭で『填詞L(邦:作詞家志望)』という映画を観たが、広東語曲の作詞すわち填詞の難しさを、改めて知ることができる作品だった。填詞、要するに「詞を曲に埋める」のが香港歌曲の作詞家=填詞家の仕事。そこには様々な法則があり、著者曰く「漢詩のような定型詩を作るのに似ている」。いや、ほんとそれ。何気に聴いている流行歌でもCDを買って、歌詞カードをじっくり眺めると、「うわ、きっちり押韻してるわ!」とびっくりすることが多々ある。これは新聞見出しなども同様で、特に「インテリ紙」と言われている『明報』などは、時に惚れ惚れする見出しを付けていることがある。最も、最近の『明報』はそうでもないけど(笑)。

こんな具合に、香港社会と広東語から広東語文化論、歴史、他の「方言」の話題など、広東語を軸とした「中国語」論が展開されていて、非常に面白い一冊となっている。ここまで「広東語」を熱く語った本は、これまでになかったのではないだだろうか。

余談ながら、永久居民の権利延長のため、3年に1回、帰港しているわけだが、タクシーや茶餐廳などで問題なく広東語会話できていることに、帰港のたびにほっとしている小生である。もっとも「今日は寒いね~」だの「●●路のドン突きを右折して電車の停留所の手前で降ろして」くらいの広東語だが(笑)。その程度が15年間の香港生活の「成果」とは、まったくトホホな話だ(笑)。

30年近い前の本ですが、これは名著です!広東語テキストとしても評価が高い本です。古書なので、<NO IMAGE>なのが残念ですが、広東語に興味があれば、「續集」と併せてぜひ一冊!


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