【睇戲】放·逐

<安心と信頼、そして安定のキャストが揃う。しかし、こんな連中が家の前ウロウロしてたらヤバすぎるやろww>


杜琪峯(ジョニー・トー)の監督作として代表的な(このチョイスには様々な見解があるだろうけど)4作を、初めてDCP(デジタルシネマパッケージ)上映する「ジョニー・トー  漢の絆セレクション」なる企画もの上映が、各地のシアターで始まった。杜琪峯作品は硬軟取り合わせて、色々な作品を観てきた。もしかしたら、香港の監督で一番多く観ているのは、杜琪峯かもしれない。なんと言っても『阿郎的故事(邦:過ぎゆく時の中で)』(1991年公開)との出会いが衝撃。この、涙、涙、涙のラスト・シーンは思い出すだけで、また涙…。 張艾嘉(シルヴィア・チャン)、周潤發(チョウ・ユンファ)という小生の二大スターが出演しているからという理由で観たら、あなた、これがもうご存じのようなストーリーで…。それからだから、随分長い「付き合い」になる。そりゃ、一番観た数多くなるわな(笑)。

そして今回の4作。まあ「なんで今、杜琪峯なの?」というのはあるけど(笑)。そこは置いといて、<漢の絆>とやらを堪能いたしましょう!

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

放·逐 邦題:エグザイル 絆 

港題『放·逐』
英題『Exiled』 邦題『エグザイル 絆』
公開年 2006年 製作地 香港・中国
言語:広東語
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):杜琪峯(ジョニー・トー)
監制(製作):杜琪峯
出品人(製作総指揮):莊澄(ジョン・チョン)
動作指導(アクション指導):黃志偉(ウォン・チーワイ)、凌振幫(リン・チュンポン)
編劇(脚本):司徒錦源(セット・カムユェン)、葉天成(イップ・ティンシン)、銀河創作組(ミルキーウェイ創作部)
配樂(音楽):Dave Klotz、Guy Zerafa
攝影(撮影監督):陶鴻武(トー・ホンモウ)
剪接(編集):David Richardson

領銜主演(主演):黃秋生(アンソニー・ウォン)、吳鎮宇(フランシス・ン)、張家輝(ニック・チョン)、何超儀(ジョシー・ホー)、張耀揚(ロイ・チョン)、林雪(ラム・シュー)
主演(出演):林家棟(ラム・カートン)、張兆輝(エディ・チョン)、譚炳文(タム・ピンマン)、許紹雄(ホイ・シウホン)、陳雅倫(エレン・チャン)
特別演出(特別出演):任賢齊(リッチー・レン)
友情客串(友情ゲスト出演):任達華(サイモン・ヤム)

《作品概要》

かつて仲間だった5人だが、今は立場を違いていた。ボスを狙撃して逃亡していたウーを、ボスの命令で殺しに来たブレイズとファット。そのウーを守るために来たタイとキャット。再会は銃撃戦となり、運命の歯車が動き出す…。変わりゆく時代の策略にさらされる5人の絆。ラスト、男たちは約束を守るため、再び戻る…彼らのあの日へ。<引用「ジョニー・トー 漢の絆セレクション」公式サイト

*ご注意!この先、大いにネタバレあり!*

いやまあ、しかし。この出演メンバーよ。まさに「安心と信頼、そして安定」の方たちがずらっと揃う。「チーム杜琪峯」とでも言いますかね。キラキラのアイドルも、劉徳華も、梁朝偉も、この時代で言うならTWINSも出てないのに、顔ぶれ見ただけで「これ、観たい!」となるんだから、えらいもんですわな。そして皆さん、その期待に応える演技を見せてくれるんだから、たまりませんわ、ホンマ。

舞台は祖国回帰を3日後に控えたマカオ。張家輝(ニック・チョン)演じる和(ウー)とその妻、阿靜(シン=演:何超儀/ジョシー・ホー)の住む家が、いかにもマカオっぽくていい感じ。

マカオの返還は1999年の12月20日。このころ、マカオの治安はかなり悪化していた。カジノの利権をめぐって、黒社会の抗争が激化しており、銃撃戦が日常的に街中で発生するってな物騒な日々だった。市民からは「一刻も早く解放軍に来てほしい」という声も上がるほどだった。別に解放軍は黒社会抗争を取り締まりはしないんだけど…。そう言えば「14K」のドン、「歯欠けの駒」こと尹国駒なんて奴が世間を騒がせておりましたな、懐かしいねぇ…。

激しく撃ち合うから、最後は家の中メチャクチャですわ(笑) しかし、この「人間の配置」が杜琪峯(ジョニー・トー)は凄くよいのだ!
この張家輝もかなりカッコよかった!

それにしても、あんなに激しくドンパチやったら、ご近所も黙ってないだろうと思うんだけど(笑)。結局、殺しに来た黃秋生(アンソニー・ウォン)の火(ブレイズ)、林雪(ラム・シュー)の肥佬(ファット)と、助けに来た吳鎮宇(フランシス・ン)の泰(タイ)、張耀揚(ロイ・チョン)の貓(キャット)、いきなり場面転換して、新しい家具を買ってきたり、銃弾で穴だらけになったドアなんぞを修理しているではないか(笑)。さらには、みんなで旨そうに飯まで食ってる(笑)。おまけに記念撮影までも(笑)。ま、これが「最後の晩餐」とでも言うか、この先、4人と阿靜、赤ちゃんまで、怒涛の展開が待っているのだから…。

そもそもは仲間だった5人。仲良く記念撮影。お靜さんが若干困惑気味な表情(笑)

「和を殺してまえ!」と指示出ししているのは、任達華(サイモン・ヤム)演じるフェイ(大飛)。任達華にぴったりの役。ネオン職人で優しい旦那さん役もよかったけど、やっぱり小生的にはこっちの任達華の方が好きだな、圧倒的に。

ひぇ~!こういう任達華、大好きだな!「おい!和はもう殺ったのかよ!あ~ん?」って感じで、黄秋生に詰め寄る。緊張感あるシーン!

悪事を斡旋する謝夫(ジェフ=演:張兆輝/エディ・チョン)から二つの仕事のうちどっちにする?と提案された5人。マカオの新興勢力のトップ、蛋捲強(キョン=演:林家棟/ラム・カートン)殺害か、金塊輸送車から金塊を強奪か…。5人が選んだのは…。その選択が間違っていたのかどうかは何とも言えないが、結局、殺害を企てる現場に和を狙う大飛も現れ、蛋捲強殺害は失敗に終わるどころか、和が深手を負ってしまう。和は「どうせ死ぬなら、妻と子に財産を残したい」と言うので、「それならば」と選んだ道なのに…。

闇医者(演:甄懋強/ロナルド・ヤン)で和の緊急手術が始まるも、またもや大飛がやはり傷を負ったために転がり込んで来て…。こういうやくざさん専門の闇医者って、本当に存在するのかな?かつての九龍城砦なんぞには存在していたっぽいけど…。

大飛の手下に窓から放り出され、その後、命途絶えてしまう和…。変わり果てた和の姿に、お靜さんは「この人でないどもめ!」とばかりに銃口を向け、乱射する。そりゃ怒るわな。身を隠しながらとは言え、親子3人、平穏に暮らしていたのに4人が現れたがために、一夜のうちに何もかもぶっ壊されてしまったのだから。そして銃を撃ちまくる何超儀が何とも言えずカッコいいのだ。結構稽古積んだんだろなぁ。しかし、マカオのドンパチを描く映画の女主役が、マカオを牛耳るおっさんの娘というのも、なんとも味わい深いキャスティングである…。この後、お靜さんはなんと部屋に火をつけ、和と家を燃やしてしまうという行動に。なんとも凄まじい…。彼女の気持ちは理解できるけど、これ、近所にも延焼しただろうから、大迷惑ですな。

見よ!この構えと表情を!

「マカオにこんな荒野あるか?」と突っ込みたい気持ちを抑えながら(笑)、4人の逃亡&放浪を観る。これが西部劇みたいで、なかなか良いのだ。そして光やシルエットの使い方が絶妙。「杜琪峯マジック」とでも言うべきか。

これまた人間の並べ方が絶妙なシーン

選ばなかった方の仕事が偶然にも目の前に現れたではないか! 別の組織が輸送車を襲撃しているが、4人は静観。警護の警官たちが次々と銃弾に倒れる中、孤軍奮闘の隊員、任賢齊(リッチー・レン)演じる陳(チャン)に加勢する4人。警察官が銃を乱射して、現金輸送車を警護する仲間の警官たちを皆殺しにして、現ナマをモノにしようと企む。

マカオ警察の制服がやたら似合っていた任賢齊。そもそもは台湾の人気歌手だが、このころから香港映画でよく使われるようになっていく

この映画、このシーンだけでも相当な数の銃弾が飛び交っているが、この「一体何発撃つねん!」みたいなのが、いわゆる「香港ノワール」映画の特徴でもある。この作品が果たして「香港ノワール」なのかどうかは、一考の余地あるところだが、かつて周潤發(チョウ・ユンファ)や李修賢(ダニー・リー)あたりが活躍した「香港ノワール」とは、ちょいと趣が異なるように思うんだが。ま、「ハードボイルド」という点では、同一線上にはあるよな。

とにかく展開が「やるせない」のである。この「やるせなさ」に、小生なんぞはイカレてしまうのである。やるせない日々を送っているからだと思うけど(笑)。「やるせなさ」という点で言えば、やっぱり「香港ノワール」なのかな、この作品も。と、ちょっと支離滅裂、強引な自論の展開(笑)。

ラスト、さらに銃は撃ちまくられる。そして「これだけ撃たれても、なかなか死なない」登場人物たち(笑)。ま、そこは突っ込まない(笑)。

死を覚悟した4人、プリクラで遊んで大飛をやたら挑発する。このプリクラのシーン、好きだなあ。あのはしゃぎぶり、これまた「やるせない」のである。泣けてくるほどに。

ラストシーンでぱらっと床に落ちる一枚のプリクラ写真。このシーン、ととても切ない…

レッドブルの缶を撃って開始される壮絶な銃撃戦は見もの。まさに「一体、何発撃ちまくるねん!」「なんで即死ちゃうねん!」の連発となる。いや~、もう日ごろのストレスが一気に解消されるね、こういう展開は。何百発と銃弾が飛び交う。それも屋外ではない。せせこましいホテルのロビーである。それ故の迫力あるシーンが続く。血も相当流れる。そして最期、華と散る4人。これぞ「漢の絆!」というわけだ。こういうシーンに弱いのよ、俺…。

全体として、チームワークの良さがうかがわれる。杜琪峯率いる銀河創作組(ミルキーウェイ創作部)の仕事ぶりと、俳優陣の上手さ。「杜琪峯の映画やな~」というところ。映画に「娯楽」を求める向きには、うってつけの作品だが、映画から何かを吸収しようという人には、おススメはしない(笑)。最近の香港映画はそういう作品が多いから。

俳優陣で言えば、定年目前でややこしい事件にはかかわりたくない刑事役の許紹雄(ホイ・シウホン)が印象深い。かかわりたくないのに、どうしうわけか、連中のいざこざの場面に出くわしてしまう運の悪さが、表情に出ていて、おもしろい存在だった。林雪が超スケベな目線で追う、娼婦役の陳雅倫(エレン・チャン)も、チョイ役の割には、最後に金塊を手にする運の良さが、許紹雄の刑事とは対照的だった。地味と言えば、地味だけど、外れのない役者がずらっと揃って、それぞれが味のある演技で魅せてくれた。

いい作品で、各映画賞の評価もすこぶるよいのだが、なぜか地元香港での興行成績は芳しくはなかった。なんでやろね……??

《受賞》

■第63回ヴェネツィア国際映画祭
金獅子賞でノミネート

■第43屆金馬獎
・最優秀アクション設計賞: 凌振幫、黃志偉
・観客賞
その他3部門でノミネート

■第13屆香港電影評論學會大獎
・最優秀監督賞:杜琪峯
・推薦映画
その他2部門でノミネート

■第1屆亞洲電影大獎
2部門でノミネート

■第26屆香港電影金像獎
4部門でノミネート

■第12屆香港電影金紫荊獎
・最優秀作品賞
・最優秀監督賞:杜琪峯
その他1部門でノミネート

(令和6年2月3日 シネマート心斎橋)

初期の杜琪峯の傑作といえば、これに尽きるんじゃないですか!
ラストシーンは、涙、涙、涙…。涙無くして観られない!

 

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