【上方芸能な日々 素浄瑠璃】第26回 文楽素浄瑠璃の会


はい、やってまいました。2年連続の遅刻です…。

去年は開演時刻を間違え、今年はあろうことか寝坊してしまい…。もうねぇ、完全にたるんでますわ。こんな自分が情けない、ほんまに…。まあ悔やんでいても仕方ない。開演20分前の12時40分、家を出ましたわいな。地下鉄がわりとスイスイ来てくれたおかげで、なんとか席に着いたのが13時20分。まあ「九郎助住家」の頃合いのええあたりの時間帯ですわ。しかしもう、ほんま織さん、すんまへん!

文楽素浄瑠璃
第26回 文楽素浄瑠璃の会

源平布引滝

「九郎助住家の段」
織 清志郎

昨年のこの会では、錣・藤蔵が勤めた。それをあえて、今年もやってみるという、織・清志郎の意気込みがよい。チャレンジャーである。織さんは今、ほんと充実しているなぁと感じる。織さん自身は、素浄瑠璃の会は3回目の出演。

上述のように、遅れて行ったため、途中から聴くことになったが、すでに周りのお客さん方は「出来上がって」いる。ちょうど、小まんが一瞬だけ生き返るあたりだったか。まあ、このあたりから物語は急展開していくんだが、本公演では前後に分けて語るこの段を(そう言えば4人でリレーしてたこともあったww)、約1時間たっぷりみっちり一人で語りぬくのは、相当な体力気力が必要。汗びっしょりになっての熱演に聴き惚れた。「瀬尾のモドリ」や、太郎吉のいたいけなさにグイっと引き込まれたのは、もちろんのこと、細部にも抜かりのない義太夫を聴かせてくれた。

今回のお席はど真ん中。もっと端っこの方で小さなって聴いていたかったんやがどういう風の吹き回しか「たまには真ん中いっとこ!」と(笑)。客入りは7割行くか行かんかくらい。なかなか素浄瑠璃では満員にはなりませんなぁ。

ひらかな盛衰記

「松右衛門内より逆櫓の段」
錣 藤蔵

素浄瑠璃の会でしか見られないこのコンビ。毎回、綿密に練り上げた舞台を披露してくれる。先ほどの「九郎助住家」同様、こちらも1時間を超す長丁場。息苦しささえ感じるお筆の「忠義」というか「強欲」。人形芝居で観るときよりも感情的に訴えてくるから不思議だ。そしてこれが錣さんの語りによくマッチする。なので、「松衛門内」は錣太夫の世界で進んでいく。一転して「逆櫓」は藤蔵の世界。船頭たちの「ヤッシッシ、ヤッシッシ」のかけ声、錣さんの声ではあるんだが、藤蔵の三味線が「ヤッシッシ、ヤッシッシ」と語っているようにも聴こえるから、あら不思議の世界である。そして脳内に再現される人形芝居の舞台風景。ここに素浄瑠璃の楽しみ方、面白さがあるんじゃないだろうか。ボケないためにも、ぜひ素浄瑠璃を聴こう!

卅三間堂棟由来

「平太郎住家より木遣り音頭の段」
千歳 富助

いわゆる「異類婚姻譚」。なんでそうなったのかは、前段の「鷹狩」を観ないと、ピンとこないが、もっぱら「平太郎住家」と「木遣音頭」しかやらない。一回だけ「鷹狩」を観たことあって、「ああ、やっぱりこうやって見せてくれるのが『親切』と言うもんだわな」と思った(笑)。

千歳、富助のおなじみのコンビにしては、かなり軽い演目。今回は時代物の「三段目」を並べたという劇場側のコメントがあったが、もはや『卅三間堂棟由来』として独立してしまっているので、この物語が『祗園女御九重錦』の三段目であることを認識して観ている人など、まずいないだろう。小生もそうだ。さっきまでの2演目が1時間を超す熱演だっただけに、小生の腰もかなり悲鳴を上げており、そういう点では丁度良い頃合いであった。千歳師も富助師ものびやかに、そしてしんみり来るところはしんみりと、紀州の山奥の物語を聴かせてくれた。締めくくりにはうってつけの演目だった。

素浄瑠璃は、お囃子などによる効果音は無いし、御簾内からのメリヤスも無い。もちろん人形もいない。ひたすら太夫の語りと三味線の音色に耳を傾け、じぶんで頭の中に物語の絵を描いてゆく「想像の芸能」である。やはりある程度、人形芝居の回数を踏んでおかないと、なかなかしんどいと思うが、5年ほど本公演に通ってからデビューすると、「あ、ここは!」ってなことがいっぱいあって、素浄瑠璃の面白さもわかってくるのでは。ぜひ一歩踏み出していただければと思う。と、偉そうに言ってるが、小生とて40過ぎてからよ、この面白さがわかり始めたのは、そりゃもう、最初はついて行くのが精いっぱいだったから(笑)。

(令和5年8月19日 国立文楽劇場)

NHKで昭和50年代前半に放送された人形浄瑠璃文楽の名作「ひらかな盛衰記」より源太勘当の段、松右衛門内から逆櫓の段、神崎揚屋の段を収録。人間国宝や今は亡き名人らの名演を収録した文楽の決定版。/竹本津大夫の豪快な語りによる三段目の「松右衛門内から逆櫓」、竹本越路大夫の優美な語りによる四段目の「神崎揚屋」、人形は吉田玉男(初代)の源太と松右衛門、吉田簑助のお筆と梅ヶ枝(千鳥)。これに二段目の「源太勘当」を加えた夢の組み合せにより構成する。


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