【上方芸能な日々 歌舞伎】第33回 上方歌舞伎会


このところ歌舞伎とはとんとご無沙汰で、辛うじて年に1回だけこの「上方歌舞伎会」に顔を出しているだけである。なんとか縁をつないでいるという感じで、これじゃあかんとは重々承知なんだが、なんせ歌舞伎は木戸銭がお高い(笑)。安い目のお席もあるけど、耳が遠いから、松竹座の3階の後ろの席からではちゃんと聴きとれない。文楽みたいな「床本」があればいいけど、出し物のすべてが義太夫狂言というわけでもないので、それは無茶なお願いというもんだろうし…。なので「上方歌舞伎会」は非常に重要。今年は「勘平切腹」という物語中盤の大きなヤマ場を見せてくれるのでなおさらだ。

歌舞伎
第33回 上方歌舞伎会

数えて33回目の上方歌舞伎会は今年も2日間で4公演。千秋楽には我當丈、仁左衛門丈ら指導陣が並んでご挨拶もあり、チケット争奪は熾烈を極める。それでもなんとか千秋楽を押さえることができて、まずは一安心。後は舞台を存分に楽しむことに集中。

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仮名手本忠臣蔵 一幕三場
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監修:我當
指導:仁左衛門、鴈治郎、孝太郎、吉弥

国立劇場歌舞伎俳優研修修了者の桂太郎、福五郎が駕籠舁役で参加。上方の空気、やり方を目いっぱい感じて吸収してほしい。

ポスター、チラシの表には、上方絵師・芳瀧の芝居絵(国立劇場蔵)が使用されている。画は明治期に大坂角の芝居で上演された『仮名手本忠臣蔵』の舞台を描いたもので、勘平は4代(嵐)璃寛、おかるは初代(市川)右團次である。

ちなみに、どうでもいい情報だが、当代の右團次は小生と同い年である(笑)。若い時からカッコいい奴である…。

五段目「山崎街道鉄砲渡しの場」「同 二つ玉の場」

勘平に松十郎、千崎弥五郎に翫政。勘平は亡き主君・判官の石碑建立御用金の称した軍資金を工面して届けると約束するんだが…。ここ、いつも勘平の「焦り」のようなものを感じてしまう。落ち着け、勘平と。で、千崎弥五郎もいくら同じ塩谷家家臣の勘平とは言え、仇討ち計画を教えるんか、と。松十郎、翫政ともにいい芝居だった。特に翫政は弥五郎の振る舞いや言葉の運びで「忠義の人」ぶりをよく表現していた。さすが、小生の推しである!

斧定九郎を佑次郎。ワルをいい感じで見せていた。与市兵衛には千次郎。適役。与市兵衛と定九郎の死により、一気に運命が狂ってしまう勘平…。猪の「中の人」は、最後の全員そろっての舞台挨拶で、ニザさんから明かされる(笑)。

六段目「与市兵衛内勘平切腹の場」

松十郎がどんどん追い込まれてゆく勘平をしっかりと演じていたのは印象深い。

公演パンフによれば、勘平の造形については、代々の名優が創意工夫を凝らしてきた中で、三代目菊五郎の音羽屋型理詰め、写実で原作に即した上方の演じ方などが伝えられている。当代の仁左衛門は父親である先代から受け継いだ型に自分の工夫を加えているが、その型は音羽屋型の洗練された演出に勘平の心情に寄り添った演出が加味され、独自の型に練り上げられているという。

松十郎もまた、師であるニザさんの教えに従い仁左衛門の型を忠実に表現していたということだろう。

おかるの母親であるおかやを演じた當史弥もよかった。不幸が重なってゆく中での心情の乱れが良く伝わった。千次郎は与市兵衛と不破数右衛門の二役をこなす活躍。特に千崎弥五郎(翫政)との勘平への言葉に感動。りき彌のおかる、きれいやった。

例年、花道脇の席を取るのだが、今回はすべて埋まっていたので、こんなど真ん中の席になってしまった。普段、文楽は床直下、歌舞伎は花道脇なもんで、どうも落ち着かない、集中力を欠いてしまう…。

釣女 常磐津連中

 振付・指導:山村友五郎

太郎冠者の愛治郎が愛嬌たっぷりに好演。これほどニンに合った役どころはないだろう。大名の千次郎、上臈の千太郎、醜女の松四朗それぞれに存分に舞台を楽しみ、その楽しみが客席にもしっかり伝わる、よい雰囲気だった。エンディングが4月に観た文楽の『釣女』と違い、ハッピーエンド感があった。パンフにも「ジェンダー不平等もルッキズムも問題とされていなかった時代に作られたお話ですので、何卒鷹揚のご見物を~」と記されている。そんなこともあってか、醜女の顔も抑え気味だったように感じた。色々と難しい時代ですな…。

最後に、全員が舞台揃う。我當、仁左衛門、孝太郎、山村友五郎が並び、後列に出演者一同。我當丈は、これからも出演者、上方歌舞伎への支援をとの旨。不自由な御身ながらも情熱は衰えずで頼もしい存在。最後はご見物衆も交えて大阪締めでめでたく幕が引かれる。

毎年楽しみの「上方歌舞伎会」。今回はやや出演メンバーが少なかったが、その分、二役をこなす者もおり、各人、熱演の連続でとてもいい舞台に出来上がっていた。しかし、千太郎がずいぶん大人になったのは、歳月を感じる…。よその子の成長は早いし眩しいね(笑)。

(令和5年8月26日 国立文楽劇場 *第2部)


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