【睇戲】黑的教育 <海外プレミア上映>

大阪アジアン映画祭」も、残すところ今日を入れて2日間。気力みなぎる頃なら、2日で7~8本一気に観ていただろうけど、最早そんな気力も体力もない。悲しいことだが、寄る年波には勝てないということだ(笑)。それでも残る気力を振り絞って、2日間で5本観る。この日も朝の10時半から最初の作品『黑的教育』を観るため、ABCホールへ向かう。昨年、うっかり朝寝坊をして、1本見逃してしまうという痛恨の事態となったので、今年はしっかりと早起きして上映に備えた。それでも着いたのは、結構ギリギリやったんやけどね(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること

コンペティション部門
黑的教育 題:黒の教育 <海外プレミア上映> 

台題『黑的教育』 英題『Bad Education』
邦題『黑の教育』
公開年 2022年 製作地 台湾

言語:標準中国語
評価:★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):柯震東(クー・チェンドン)
編劇(脚本):九把刀(ギデンズ・コー)
監製(プロデューサー):柯耀宗(クー・ヤオチョン)、盧維君(ルー・ウェイチュン)、九把刀、趙德胤(ミディ・ジー)
配樂(音楽):王建威(ウォン・キンワイ)
摄影指導(撮影監督):陳大璞(チェン・タープ)
剪輯(編集):解孟儒(シエ・モンジュ)、李蕙(リー・ホウェイ)

主演(出演):蔡凡熙(ケント・ツァイ)、朱軒洋(ベラント・チュウ)、宋柏緯(エディソン・ソン)、戴立忍(レオン・ダイ)、黃信堯(ホアン・シンヤオ)、春風(ダニエル・ホン)、張寗(ニン・チャン)、鄭志偉(チェン・ジーウェイ)、王自強(ジョニー・ワン)、劉主平(リウ・ジューピン)、大飛(フェイ・ウー)

いや~~、朝っぱらから、どえらい映画見せてくれましたわ! いっぺんに眠気覚めてしもたわ(笑)。「これよ、これ! 小生の求める映画の本道は!」ってくらいに、暴力、流血、ブラック ユーモアに富んだ作品。こういうのをどんどん観たい、見せてほしい。「台湾映画って停滞期なん?」とか、前の『本日公休』の際に記したけど、この作品を観る限りは、停滞どころか、めっちゃ頑張ってるやん、やる気満々やんか! ってことで、★5つ、満点付けましたですわ! 現地台湾でも3月3日から一般上映が始まったが、業績は好調のようだ。わかるわ~。

《作品概要》

やんちゃで、でもほどほどにマジメな、どこにでもいるような高校生男子三人組。卒業式の夜、雑居ビルの屋上で飲んだくれていた彼らは、永遠の友情を交わすべく「自ら犯した秘密の悪事」を告白し始める。それは、悪夢のような一夜の始まりだった……。<引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ

空き瓶に3人でおしっこ入れて、一気飲み!青春の一コマとは言え、なかなか過激ですな(笑) Ⓒ禾豐九路

監督の柯震東(クー・チェンドン)は、2011年公開の日本でもヒットした『那些年,我們一起追的女孩(邦:あの頃、君を追いかけた)』で大ブレークした俳優で、今作は監督デビュー作。『那些年~』の原作者で脚本と監督も務めた九把刀(ギデンズ・コー)が、本作でも脚本とプロデュースを担当、実父の柯耀宗(クー・ヤオチョン)もプロデューサーに名を連ねている。

これまでも多くの作品に製作者として携わってきた九把刀は言うまでもないが、柯震東というのは、なかなかセンスのある作品を作るなぁと、感心することしきり。そう、一見、バイオレンスのオンパレードみたいな映画だが、78分という長編作品としては短い上映時間に、「もうお腹いっぱいです!」ってくらいに色んな要素を詰め込んで、まったく飽きさせることなく、観る者をスクリーンに釘付けにしてくれた。

《作品概要》にもあるように、高校の卒業式の夜、いつも連れ立っている3人組が古びたビルの屋上で「最後の夜」を楽しんでいるシーンから始まるのだが、その70分後、作品の中で言えば翌朝に、3人にあのような夜明けが待ち受けていようとは…。

Ⓒ禾豐九路

とにかく、主役3人のキャラ設定が素晴らしく、監督の眼力の高さを感じる。起用された3人もそれに十分に応える演技を見せていた。

今回の上映に合わせて来阪した、王鴻全を演じたのが蔡凡熙(ケント・ツァイ)。こいつ、他の二人に、まんまとハメられてしまうのだが、他の二人が示し合わせていたのかどうかは、説明がなかったが、まあそんなのはどうでもいいよ(笑)。いずれわかるだろうし。どうでもいいとは言いながら、3人の会話からは、出来が良くて、いいとこの子である王鴻全への嫉妬のようなものを感じ取ることができる。

「悪事を告白しよう」ということにあり、まず、リーダー格の朱軒洋(ベラント・チュウ)が演じた張博偉が、王自強(ジョニー・ワン)演じる訓導主任(教頭とか?)の知的障害の娘だったか姪っ子だったか忘れたけど、とにかく肉親の女子をレイプしたという告白をする。

タピオカミルクティーでおびき寄せて… Ⓒ禾豐九路
そして、ヤッちゃう…。一連のシーンの展開には、個人的に激しい心の葛藤があったことを、台湾メディアのインタビューで語っている。てなことで、素顔はイイ奴です! Ⓒ禾豐九路

訓導主任が娘と産婦人科に入るのを見たと言う張博偉だが、「訓導主任が孕ませたんだよ」と主張する。

次の告白は宋柏緯(エディソン・ソン)演じる韓吉。こいつはリーダー格の張博偉にあこがれているクチかな。予備校の帰り道、橋の下で生活するホームレスを見かけた。衝動的にそのホームレスを石で…。血しぶき飛び散る凄惨なシーンである。きっと顔がめちゃくちゃになるくらいやってしまったんだろう…。

「じゃ、お前の番だ」と言われる王鴻全だが、彼にはそんな悪事はない、告白するのは、ちょっとしたいたずら程度のものばかり…。2人に詰め寄られ、たちまち窮地に追い込まれることに。

2人に追い詰められた王鴻全は、挑発してはいけない人を挑発してしまう。挑発シーンを柱の陰からにやけながらビデオ撮影する張博偉と韓吉。ここで二人は先ほどの「悪事の告白」はデタラメだったと確認し合う。そうとは知らずに、「悪事」の思い出づくりにありったけの勇気を振り絞る王鴻全…。そして挑発してはいけない人にペンキをぶっかけてしまう。あ~あ…。ここから、3人にはジェットコースターが谷底に高速で下って行くような悪夢の一夜が始まる。

へっぴり腰具合が、彼のキャラをよく表している Ⓒ禾豐九路

挑発した相手はやくざのリーダー格・泰哥(演:春風/ダニエル・ホン)で、すぐに手下を集めて3人を追う。逃げる3人。それぞれが「なんでこんなことに…」という思いを胸に。そして韓吉がまず最初に捕まってしまい、散々ボコられる。一方で王鴻全と張博偉はタクシーを奪って逃走。車中にはタクシー運転手がレイプしていた泥酔状態の女(演:張寗/ニン・チャン)。酒気帯び運転検問所の手前で叫ぶ女。すぐにパトカーが二人が奪ったタクシーを追い…。

逃走する二人を追い詰める中年警官と新米婦人警官 Ⓒ禾豐九路

パトカーには中年の警官(演:黃信堯/ホアン・シンヤオ)と新米婦人警官(演:劉主平/リウ・ジューピン)。中年警官が婦警に言う。

警官「善人と悪人の比率ってどれくらいだと思う?」
婦警「半々くらいですか?」
警官「善人1割、悪人1割。残りは半端な人間ばかり。時と場合によって善悪を変える。半端な善人は悪を見ないふりして生きている。」

このやり取りが、この作品のミソかな。ちなみに黃信堯は、2年前に観た『大佛+』の監督。

で、この警官が実は「時と場合によって善悪を変える」人間だった。つまりは、警官と言えども、一皮むけば「半端な善人」と言うことか。警官は王鴻全と張博偉をやくざに「売る」のである。そこにはパンツ一丁にされ、やくざ連中に懲らしめられる韓吉の姿が。

これは「ヒンズースクワット」の刑ですかね Ⓒ禾豐九路

3人揃ったところで、連れ込まれたのは海鮮レストラン。そこで待ち受けていたのがやくざの親玉、悪の親玉、戴立忍(レオン・ダイ)演じる興哥。いや~、この貫禄ったらもう。スクリーンが引き締まる。観ているこっちも気分が引き締まる(笑)。とにかく全身から狂気がみなぎっているのだ。この対面シーンだけで、その後の惨劇が想像される。しかし、賢い親分さんは、絶対に自分の手は汚さない。脂の乗ったサーモンを刺身にして、3人にご馳走するだけである。

台湾映画ではおなじみの名優・戴立忍(レオン・ダイ) Ⓒ禾豐九路

興哥は終始穏やかな口調と表情で、3人に「教育」してゆく。要するに「悪いことしたら、落とし前つけてもらわなあかんわな」ということである。これぞタイトルの「黑的教育」である。

張博偉と韓吉のやり合いを横目で眺める王鴻全 Ⓒ禾豐九路

この「落とし前」をつける順番を巡る3人の会話で、それぞれの本当の性格が浮き彫りにされる。思えば、映画の冒頭の屋上でのシーン、小生は出来の良い子である王鴻全に嫌悪感を抱いていたんだが、案の定、ずるい奴で、もっとも狂気に満ちた奴だった。とは言え、この極限状態では、それもまたアリかもな。そういう点では、最初に捕まってパンツ一丁にされた韓吉が一番男らしかったかな…。色々と、人間の本性が出るよな、この状況なら。「う~ん、そうかそうか」と3人それぞれの態度に感心したり納得したりのシーンだった。

「こいつを…」と韓吉の手を差し出そうとするリーダー格の張博偉(中央)。こいつは自己愛の塊だった Ⓒ禾豐九路

3人は体の一部を捧げることで「落とし前」を付ける。並べられた「体の一部」はグロいものではあるが、やくざの親分・興哥の「黑的教育」への授業料としては、安いものかもしれない、と思ってみたりして…。

解放された3人が海鮮レストランの外に出た時、夜明け間近となっていた。映画の尺では1時間ほど前、事件の時間推移では数時間前、卒業後も変わらぬ「友情」を確かめ合うために集った3人だったが、こんな結末が待っているとは…。3人がそれぞれ別の方向へ去って行ったのが印象的だった。

学校と違い、実社会では「ちょっとしたいたずら」であっても、その代償は大きい。そして何より、友達は選ばなあきませんな…。

照明や編集も含め、非常に優れた作品だった。俳優としても監督としても、これからの柯震東(クー・チェンドン)に注目していきたい。

上映後、舞台挨拶に登場した蔡凡熙(ケント・ツァイ)。なかなかの好青年でした!

《受賞など》

■第59屆金馬獎
・最優秀助演男優賞:朱軒洋(ベラント・チュウ)
・他3部門にノミネート

《黑的教育 Bad Education》正式預告

(令和5年3月18日 ABCホール)


柯震東(クー・チェンドン)監督の俳優としての出世作!

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