そしてまた台湾映画でやんす。我が香港映画はどうしたんですかね…。色々品ぞろえは豊富なんだが、日本ではまったく見向きもされなくなってしまったのは、実に寂しい。まあでも、確かにこの夏公開されている台湾映画は、いずれも面白い。この日観た『怪胎(邦:恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~)』も、けっこう面白かった。全編iPoneで撮影というのも話題性がある。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
怪胎 邦題:恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~
台題『怪胎』
英題『i WEiRDO』
邦題『恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~』
公開年 2020年 製作地 台湾
言語:標準中国語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):廖明毅(リャオ・ミンイー)
編劇(脚本):廖明毅
攝影(撮影):廖明毅
剪輯(編集):廖明毅
主演(主演):林柏宏(オースティン・リン)、謝欣穎(ニッキー・シエ)
特別演出(特別出演):張少懷(チャン・シャオファイ)、鍾瑶(アビス・ジョン)
【作品概要】
重度の潔癖症である青年ボーチンは、一般的な社会生活を送ることができず疎外感を抱えていた。ある日、いつものように防塵服に手袋とマスクの完全武装で外出した彼は、電車内で同じような格好をした女性ジンを発見する。彼女も重度の潔癖症で、さらにスーパーマーケットで万引きを重ねる窃盗症まで抱えていた。運命の出会いを果たした2人は、他人から疎外される恐れのない安心感に満ちた関係を築いていく。しかし……<引用:映画.com 作品情報>
まず『怪胎』というタイトル。本来は「奇形児」と言う意味だが、日常的には「(良くも悪くも)他とは変わってる人」という意味で使う。一見、強烈な単語だが、相手をディスるというわけでもなく、変わり者とかオタクとかいう程度の言葉である。「他是電車怪胎=あいつは鉄おただ」って感じでカジュアルに使われる。ってわけで「変人」の映画かと言うと、これが結構深かったのだよ。しかし、本作も日本語タイトル、どうよこれ? それと内容スッカスカのパンフが、なんと800円とは! ええ加減にせえ! ってところだ。
さて、上述したように、全編iPhoneで撮影された作品。「それって画質どうなんやろ?」とまず想像する。いくらiPhoneの性能が上がったとは言え、あくまでスマホやPCで見たらのことやろ、と。大きな映画のスクリーンではそうはいかんやろ…。とね。いやまあ、舐めてたね、小生は。最後まで何も気にならなかった。iPhoneで撮ったと聞かなかったら、まったく気づかなかっただろう。むしろ、iPhoneだからこその強みが出ていた。
林柏宏(オースティン・リン)演じる男主人公の陳柏青(ボーチン)と、謝欣穎(ニッキー・シエ)演じる女主人公の陳靜(ジン)の運命的出会いから、ラブリーな関係が描かれている間は、画角がスクエア。「え?ずっとこのサイズで見せられるんかえ?」と思いきや。ある瞬間から、画角がフルサイズにグッと広がる。このサイズの移行が意味することは…。という具合で、これはiPhoneならではやな~と。まあ、普通に映画撮影用のカメラでもできるテクだと思うけど、左右(ほぼ)対称という「枠内」での平行した二人の動きなど、この画角だからこそという場面が多く、いかに二人が同じ強迫性障害≒強度の潔癖症という悩みを共有できているかを表現する撮影法が見事。「こんな台湾ないやろ~」と突っ込みたくなるくらい(笑)ビビッドな色使いも、それを一層際立たせている。
フルスクリーンになってからの二人がいたたまれない。潔癖症の世界に一人取り残されてしまったような靜がとくにつらい。前半の、イマドキの台湾映画によくある「ウキウキラブコメ」的展開から一変、後半は、けっこうシリアスなすれ違い物語に変じて行く。何かこっちまでポーンと突き放された感じがしてしまう。それでもまだ、靜が柏青が診察を受けていた医師(演:張少懷/チャン・シャオファイ)のもとに連れて行き、「元の潔癖症に戻してほしい」と無茶を言うシーンあたりまでは、なんとかラブコメの体を維持していたが、柏青が出版社から誘いを受け、ついに通勤生活を始めるに至って、二人の「調和」が完全に崩壊してしまう…。
映画が始まってから、出会い、同棲、異変ときて、ずっと「このハナシ、どうやってオチに持ってゆくんやろ…」と思っていたが、ますますわからなくなってしまう…。
柏青は「解き放たれた」世界で、勤務先の女性スタッフの美裕(演:鍾瑶/アビス・ジョン)と恋の予感。4時間以上外出すると発疹が出てしまう靜は、密かに勤務中の柏青の行動を観察。柏青が美裕と親し気にランチしている場を発見てしまい…。上の画像で靜の顔には湿疹が出ているのはそのためだ。二人の永遠と思えた「約束」というか「相互理解」というか、そういう結びつきがパチンと切れた瞬間だったのだ。
「で、どうやって終わらせるんよ?」と思っていたら、「これってホラー映画でしたっけ?」というシーンに至り、さらに「え!そうきたか!」という展開があって、いやはや、してやられた。ビビッドなのは前半の色使いだけでなく、監督の「映画頭脳」も相当ビビッドであったということだ。もうほんと、キレッキレですよ、このラスト!「お見事!」と喝采すると同時に、小生はこのラストでさらにポーンと突き放された気がした。でもそれは決して不愉快ではなく、むしろ爽快でさえあった。不思議なもんだねぇ(笑)。
日本語バージョンのチラシで、軽い気持ちで観た人多かったようで、この展開には、さぞ面食らったことでしょうな(笑)。
ところで、作中、林柏宏(オースティン・リン)はやたらとシャワーのシーンが出てくる。一見、優男(やさおとこ)風情だが、実はそこそこのマッチョで意外だった。彼は、第11回大阪アジアン映画祭での『缼角一族(邦:欠けてる一族)』で主演や、第9回大阪ジアン映画祭の『甜蜜殺機(邦:甘い殺意)』での主演刑事(演:蘇有朋/アレックス・スー)の甥っ子役で覚えているが、今や台湾の超売れっ子である。
女主役の謝欣穎(ニッキー・シエ)は先日観た『凶徒(邦:凶徒』、『有一天(邦:One Day いつか)』の女主役が記憶に新しい。こちらは過去に様々な賞に輝いている、人気、実力ともに台湾のトップクラスの女優である。こんな売れっ子二人が、ヘンテコな髪型で「怪胎」な人物をよく演じたなあと。逆に言えば、実力派だからこそできた役どころだったということか。
医師役の張少懷(チャン・シャオファイ)は、一昨年の「台北発メトロシリーズ=台北愛情捷運系列」で上映された『奉子不成婚(邦:振り向いたらそこに)』の主人公の印象が強く、先日観た『大佛普拉斯(大仏+)』に出ていたのは、すっかり見落としてしっまていた(笑)。
「全編iPoneで撮影」というのにまず興味があったことと、少なからず小生自身も「潔癖症な一面」があるので、どんなもんかなぁと観てみたら、案外と色々とぶつけてきたので、嚙み応えのある作品だった。ま、彼と彼女を見たら小生の「潔癖症な一面」なんて、ただの「ちょっと神経質なおっさん」でしかないわ(笑)。
【受賞など】
■第5回ロンドン東アジア映画祭(英)
・最優秀作品賞:《怪胎》
■第22回ウーディネ極東映画祭(伊)
・観客賞(水晶桑賞、紫桑賞 ダブル受賞):《怪胎》
■第24回富川国際ファンタスティック映画祭(韓)
・最優秀アジア映画賞:《怪胎》
■第19回ニューヨークアジア映画祭(米)
・審査員特別賞:《怪胎》
■2020ファンタジア映画祭(加)
・観客賞:《怪胎》
■第57屆金馬獎・6部門でノミネート
■第2屆台灣影評人協會・2部門でノミネート
■中華民國電影導演協會
・最優秀新人監督賞:廖明毅(リャオ・ミンイー)
■第12届青年電影手冊年度盛典(中)・5部門でノミネート
■臺北電影獎・3部門で結果待ち(2021年10月9日決定)
【怪胎】i WEiRDO正式預告
(令和3年8月23日 シネマート心斎橋)
『台湾 路地裏名建築さんぽ 』(エクスナレッジ)
鄭開翔 (著, イラスト), 杉浦佳代子 (翻訳)
こんな台湾、知らなかった!
台湾各地の名もなき名遺産100
日本統治時代の面影を残す家屋から、レンガの洋館建築、さらには街の片隅で時間が止まってしまったかのような廃屋まで、台湾の街なかにある、一見なんの変哲もない、だけどよく観察してみると、独特の魅力がある建物「街屋」100軒をイラストとともに紹介。
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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