【睇戲】凶徒(台題:狂徒)

台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督デビュー40周年記念
ホウ・シャオシェン大特集

今週末も「台湾巨匠傑作選2021」でシネ・ヌーヴォに。

すでに侯孝賢作品もバンバン上映されているが、あくまでマイペースで観て行くので、まだちょっと侯孝賢作品は出てきませんよ(笑)。この日も「江口洋子スペシャルセレクト」を2本観る。テーストの全く違う2作品なので、筋が入り乱れることもないから安心(笑)。まずは、台湾映画では珍しいアクション映画『凶徒(台:狂徒)』から。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

江口洋子スペシャルセレクト
凶徒 台題:狂徒

台題『狂徒』
英題『The Scoundrels』
邦題『凶徒』
公開年 2018年 製作地 台湾
言語:標準中国語、閩南語、広東語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):洪子烜(ホン・ズーシュアン)
動作指導(アクション指導):洪昰顥(ホン・シーハオ)

領銜主演(主演):吳慷仁(ウー・カンレン)、林哲熹(リン・ジャーシー)、謝欣穎(ニキキ・シェ)、李千娜(ナナ・リー)
主演(出演):高捷(ガオ・ジエ)、李洺中(リー・ミンジョン)、施名帥(シー・ミンシュアイ)

【作品概要】

台湾では珍しいサスペンス・アクションで、洪子烜監督の長編第一作。 かつてプロバスケットの選手だった文睿は、あるスキャンダルによりバスケ界を追放され、困窮の果てに車泥棒を働き警察に追われる身に…。<引用:「台湾巨匠傑作選2021」公式サイト

いつの間にか、年に何度かは顔を見るようになった吳慷仁(ウー・カンレン)。ってことは、台湾で今一番の売れっ子ということだろう。彼もまたレンジの広い役者で、前年に観た『河豚(台:河豚)』のようにミステリアスな顔を持つ男から、一昨年に観た『淡水河の奇跡(台題=鮮肉老爸)』のようなコミカルな役まで、様々な役どころを違和感なくこなしている。今回は初挑戦のアクション作品。生傷も絶えなかったであろう激しいアクションシーンは、スタントを一切使わなかったというから、立派なもんだ。本作での役どころは、雨の日に現金輸送車を襲う「雨衣大盜レインマン」。凶悪犯をどう演じるのか、じっくり観てみたいところ。

売れっ子の吳慷仁。今年もあと何回かは顔を見そうな気が…

もう一人の主役、林哲熹(リン・ジャーシー)は、オーディションによって起用が決まったのだと。洪子烜(ホン・ズーシュアン)監督は、「林哲熹は外見が個性的で、典型的なイケメンとは違うものを持っているし、オーディションでも色々アイデア出しもしていたので、彼に決めた」と言う。まあでも、特に個性的でもないかったと思う(笑)。独特の雰囲気はあったけど。試合中の暴力沙汰で追放となったプロバスケ選手で、今は自動車の廃車工場で働く。ただその仕事はヤバい。車に小型のGPSを取り付けては盗難するというもの。この悪徳会社の社長がマレーシアの俳優、李洺中(フレデリック・リー)。香港人という設定でレインマン(演:吳慷仁)と広東語で会話する場面があった。吳慷仁は香港映画『非分熟女(港:非分熟女)』に出た時に広東語覚えたのかな?

林哲熹のこのシーン、このファイティングポーズが印象深い

一方で女主役の二人、謝欣穎(ニキキ・シェ)と李千娜(ナナ・リー)。謝欣穎は、雨衣大盜レインマンの相棒なんだが、最初の展開ではそれはわからず、終盤になって正体がわかる。李千娜は林哲熹が演じる、元プロバスケ選手の文睿の女朋友。どちらも台湾の人気女優だが、まだ日本ではそれほど知られていないかな。謝欣穎は今映画祭で上映の『One Day いつか(台:有一天)』、8月公開の『恋の病 〜潔癖なふたりのビフォーアフター〜(台:怪胎)』でそれぞれ女主役。李千娜は『コードネームは孫中山(台:行動代號:孫中山)』、『百日告別(台:百日告別)』、『52Hzのラヴソング(台:52 Hz I Love You)』などに出演しているので、顔は観ているはずだが、、、ごめん、思い出せない。

流れ弾に中った妊婦、実は…という役を演じた謝欣穎
文睿の女朋友で理学療法士を演じた李千娜

レインマンとみなされてしまった文睿を追う警察チームは、台湾映画に欠かせない高捷(ガオ・ジエ)と、たまに見かける施名帥(シー・ミンシュアイ)の二人が好演。高捷はほんとよく見るね。今映画祭でも『憂鬱な楽園(台:南國再見,南國)』、『フラワーズ・オブ・シャンハイ(台:海上花)』に出ている。犯人に近づき、説得しながら自首させようとする施名帥演じる隊長、あくまで犯人をとっ捕まえることにこだわる高捷演じるたたき上げベテラン刑事の捜査、逮捕シーンでの対立も見ごたえがあった。

こちら警察チーム。前列左に施名帥、右が高捷

この作品、実際に台湾で起きた二つの事件を題材にしている。一つは雨の日の現金輸送車襲撃のレインマン事件、もう一つはGPSを取り付けて自動車を盗難するという事件。この二つの事件に、バスケ試合で暴力をふるってしまったことに、「償いたい、善人になる」ともがき続ける文睿、その文睿に向けてレインマンが言った「善行を積んでも無駄、前科者は永遠に犯罪者」という善悪が交錯する人間ドラマを絡めた筋立てとなっていたのが見どころか。

監督の洪子烜(ホン・ズーシュアン)はこれが長編デビュー作というから、恐れ入る。新人監督にありがちな「青臭さ」がなく、実績ある監督の作品のような落ち着きを感じた。一方で、銃撃シーンや爆発シーン連発ではない、本格的なクライムアクション作品を台湾に確立させてくれそうな期待も感じた。アクション以外にも観てみたいので、まずは色々と、ね。

台湾では数が少ないらしいアクション監督の洪昰顥(ホン・シーハオ)の存在も大きかったはずだ。冒頭に載せた写真のような大人数での格闘シーンは、さすがに成龍のワークショップで学んだというだけのことがある。

終盤からラストにかけて、目まぐるしく展開してグイグイと引っ張られてゆく流れ。「すっきりさわやか」な気持ちで席を立てる終わり方ではないが、その何とも言えない余韻が残るのが実にいい。「レインマンもここまでか…」っていう、あの余韻にもう一度浸りたいんだが、どっかネット配信やってるのかな…。と言うか、配給会社さん!劇場で是非!

【受賞など】

■2019年台北電影獎
・最優秀視覚効果賞:夢想動畫
・最優秀芸術貢献賞:洪昰顥(ホン・シーハオ)
・その他2部門でノミネート

■第56屆金馬獎
・最優秀撮影賞:陳克勤、陳志軒
・最優秀アクション賞:洪昰顥
・その他4部門でノミネート

《狂徒》The Scoundrels 正式預告

(令和3年7月3日 シネ・ヌーヴォ)



 

 


6件のコメント

コメントを残す